限界令嬢聖地巡礼紀行

第四話 Café de KABO

「おなかペコペコポンですわ~」  目当ての勇者グッズを買い、聖地巡礼もあらかた終えたピピルカお嬢様は蚊の鳴くような情けない声を上げた。  直後に見事なおなかの音が鳴る。 「…………そうですね、ランチにしましょうか」  と、辺りを見回してみるも、邪悪な風体の店ばかり。 「そうだ。イビルベルトからいただいた魔法のコンパスを使ってみましょう。お嬢様、食べたいモノはありますか?」 「パンケーキ!」  無垢な子供のようにお嬢様は大きな声で言った。 「わかりました。では……」  胡散臭いデビルからもらった星形のコンパスを取り出す。曰く、ガイアガルタの行きたい場所を告げると、コンパスの針が道を指し示してくれるらしい……。 「おいしいパンケーキ屋さんを教えてください」  私の言葉を聞くや否や、コンパスの針は凄まじい勢いで回り出した。 「ぐるぐるですわ!」  そして、ぴたっと止まる。 「この先を辿っていけば、おいしいパンケーキ屋さんにつくのでしょうか」      ★  ★  ★  疑心暗鬼でコンパスの針の通りに進んでみると、ガイアガルタにしては珍しく明るく健全な雰囲気の飲食店街に辿り着いた。破廉恥なお店もないので安心だ。 「ここですわ!」  コンパスの針が差すお店を発見し、お嬢様は嬉々とした声を張り上げた。  アンティークな外観の小洒落た喫茶店。  Café(カフェ) de() KABO(カボ) 「変なお店ではなさそうですね」 「おなか空きすぎて目からビームが出そうですわー!」 「どういう状況ですか、それ」  ツッコミを入れつつも、お嬢様の目からビームが出ても困るので喫茶店に早速足を踏み入れた。 「いらっしゃいませ」  やたら渋い声のマスターに案内され、窓際の特等席に腰を下ろす。隠れ家的なお店のため、人の入りが少なくてとても落ち着いた雰囲気だ。店内に流れる勇者音楽・ジャズの音色も心地が良い。   「ご注文はお決まりでしょうか」  改めて、渋い声のマスターの顔を確認すると……頭がカボチャでできていた。被り物ではなく、頭部が丸ごとパンプキン。植物妖精(ドライアド)……いや、カボチャの魔法生物だろうか。 「オススメのパンケーキとお飲み物を二人分お願いしますわ!」 「かしこまりました。少々、お待ちくださいませ」  カボチャ頭のマスターが去っていくのを見送り、改めて店内を見渡した。マスターの頭以外は至って普通、地上にあっても何ら不思議ではない王道な喫茶店だ。色物まみれのガイアガルタの都市において、オアシスのように感じてしまう。  これで料理がヤバかったらどうしよう……と、魔法のコンパスをギュッと握り締めた。 「は~! 何度見ても美しく、妖艶で、最の高ですわ~!」  ゴブリンの露店で購入した木箱をウットリと眺めながら、お嬢様は感嘆の声を漏らす。 「これが一千万モニアだなんて、実質無料ですわ!」  百五十年前の魔王城ツアー限定で販売されたスペシャル勇者グッズで、箱の中には特別なイラストの勇者様カードが入っているそうだが……。 「開封しないのですか?」 「お悩み中なのですわ!」    そう言ってお嬢様は木箱を大きく掲げた。 「開封していない完品としての状態で飾りたい気もしますし、開封して特別仕様の勇者様カードを拝見したい気もするのです! ああ、なんて贅沢なジレンマ!」  オタクというのは難しい生き物だ、とお嬢様を見ていて常々思う。  しかし、いや、だからこそオタクというのは楽しいのかもしれない。  なんて、勝手な想像を繰り広げていると、カボチャ頭のマスターが注文を持ってやってきた。 「お待たせいたしました。こちら、ベル火山から産地直送のマグマローズを使った、溶岩紅茶でございます。ポカポカと体の芯から温まり、疲労回復の効果があります」  グツグツと煮え滾る紅茶が注がれたティーポットとカップがテーブルに置かれる。 「そして、こちら、ヴォルカニックジャムをふんだんに塗ったパンケーキでございます。溶岩紅茶とヴォルカニックジャムパンケーキのセット、題してバーニングモーニングでございます」  バーニングモーニング……。ネーミングセンスはともかく、とても美味しそうなパンケーキセットだ。お嬢様のおなかの音も先程からずっと鳴りっぱなしなほどに。 「ヴォルカニックジャムはアツアツで、少しピリ辛……けれど、ほど良い甘さの魔法のジャムでございます」 「早速いただきますわー!」 「おっと、お待ちくださいませ」  涎ダラダラのお嬢様を軽く制し、カボチャ頭のマスターは穏やかな所作で頭を下げる。 「当店、オススメのセットが二点ございまして。もう一セットご用意いたしました。是非是非、食べ比べてくださいませ。まずは、こちら、パンプキンパンケーキのチョコミント添えでございます」  爽やかなチョコミントアイスクリームが添えられたフワフワのパンケーキ、これまた美味しそうな一品だ。いよいよ、お嬢様のおなかの音が猛獣の唸り声のように激しくなってきたではないか。 「そして、こちらが当店で特にオススメのコーヒーでございます」  そう言ってテーブルに並べられたのは、至って普通のコーヒーだった。 「特殊な魔法で淹れた、メタモルコーヒー。奇妙にして奇跡の味、ご堪能くださいませ」  説明を終えてマスターが去っていくと、お嬢様は目にも止まらぬ速さでパンケーキにかぶりついた。ムシャムシャ、ガツガツ、と見ていて気持ちがいい食べっぷりだ。 「アツアツでスパイシースイート! 更にこっちはフワフワとろとろ爽やかキュンキュン! どれもこれも最高のパンケーキですわ! おいしグフっ! の、喉に詰まりましたわ……」 「お嬢様、お飲み物を!」  私に促され、お嬢様はメタモルコーヒーを一気にすすった。  と同時に、お嬢様の丸っこい目がパチッと大きく開かれる。 「お嬢様?」 「メグリム……」  信じられない、という風にお嬢様はメタモルコーヒーを一瞥する。 「このコーヒー、とんこつラーメンの味がしますわ!」  このコーヒー、とんこつラーメンの味がしますわ。  何を言っているのだ、このお嬢様は。  とんこつラーメンの味がするコーヒーなどあるわけがないでしょうが、と私はメタモルコーヒーに口をつけた。 「……」 「メグリム?」 「このコーヒー、とんこつラーメンの味がします」  そんなバカな。 「フフフ、その通り」  渋い声でマスターが笑う。 「メタモルコーヒーはコーヒーでありながら、まったく別の料理の味に変化する魔法のコーヒー。今日の一杯はとんこつラーメンの味なのさ」  な、なんだと……。  私達はパンケーキの相方にとんこつラーメンの味のコーヒーを出されたというのか。  このカボチャ頭め……磨り潰してパンプキンパイにしてやろうか。

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  • エルフアーチャー

    s.h.n

    ビビッと ♡300pt 〇200pt 2020年11月20日 7時39分

    《このカボチャ頭め……磨り潰してパンプキンパイにしてやろうか。》にビビッとしました!

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    s.h.n

    2020年11月20日 7時39分

    エルフアーチャー
  • うどん

    Yuiz

    2020年11月20日 21時59分

    s.h.n様、ビビッとありがとうございます!  とんこつラーメン味のコーヒーを飲まされたら殺意を抱いてもしかたないですね……(´・ω・)

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    Yuiz

    2020年11月20日 21時59分

    うどん
  • 土偶

    kimukou

    ♡3,000pt 2020年12月19日 0時55分

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    筆文字「その発想はなかった」

    kimukou

    2020年12月19日 0時55分

    土偶
  • うどん

    Yuiz

    2020年12月20日 0時06分

    とんこつラーメン味のコーヒー……流石は混沌の地下都市でしたね。 メグリム毎回酷い目に合ってる気がします(笑)  次回はガイアガルタ、ラスト! 何やら物語のキーアイテムが登場する予感……ご期待くださいませ!

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    Yuiz

    2020年12月20日 0時06分

    うどん
  • 男戦士

    ギャラクシーごみぶくろ

    ♡1,111pt 2020年11月19日 8時22分

    コイツぁヤベえ! 気を抜くと17連ビビしそう。ポイント持っていかれないように気をつけなければ…

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    ギャラクシーごみぶくろ

    2020年11月19日 8時22分

    男戦士
  • うどん

    Yuiz

    2020年11月19日 21時35分

    宇宙ゴミ袋様、沢山ビビッとありがとうございます!  とんこつラーメン味のコーヒーを堪能したところで、次回は第二章ラスト! 小さなお店でお嬢様の夢の手がかりが――みつかるかもしれません!

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    Yuiz

    2020年11月19日 21時35分

    うどん
  • ひよこ剣士

    晴羽照尊

    ♡1,000pt 2020年12月3日 21時14分

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    いいぞ、もっとやれ!

    晴羽照尊

    2020年12月3日 21時14分

    ひよこ剣士
  • うどん

    Yuiz

    2020年12月4日 1時08分

    晴羽照尊様、ありがとうございます!  とんこつラーメン味のコーヒー……しんどいですね(´・ω・)  メグリム中々の頻度で酷い目に合ってる気がします……

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    Yuiz

    2020年12月4日 1時08分

    うどん
  • エリナ(QB)

    小日向

    ♡1,000pt 2020年11月19日 19時55分

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    これは興味深い

    小日向

    2020年11月19日 19時55分

    エリナ(QB)
  • うどん

    Yuiz

    2020年11月20日 0時28分

    小日向様、ありがとうございます!  とんこつラーメン味のコーヒーというわけのわからないモノをお出しされるカオス回でした。混沌の地下都市らしいお店ですね……。 次回は第二章ラスト! ご期待くださいませ!

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    Yuiz

    2020年11月20日 0時28分

    うどん

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