限界令嬢聖地巡礼紀行

第三章 水と風の都 オラージュシティ

第一話 ミストラル公園

「清々しいですわー!」  照りつける太陽の下、麦わら帽子をかぶったピピルカお嬢様はぐぐーっと勢いよく伸びをした。  空の青さと海の青さが映える、純白の建物が等間隔で整然と立ち並ぶ街並み。  潮騒をバックに、ハーピィの楽団が陽気に歌う。  多くの芸術家と行商人、そして観光客で賑わう水と風の都。  マーレリア王国が誇る水上都市、オラージュシティ。 「聖・地・巡・礼!」  先程スイーツショップで購入したペロペロキャンディーを片手にお嬢様は高らかに声を上げた。 「お嬢様、食べながら歩くのは危険なのでおやめください」 「なーにを言っていますの! これは片手で持ちやすく、優雅に観光をしながら食べられるように作られているキャンディーですわ! 危険なわけありませんわー!」  お嬢様は満面の笑みで言い切ると共に、噴水の縁に躓いて盛大に転んだ。 「お嬢様!」  すごい勢いで転んだのにかすり傷一つないのは、流石ハーフオーガと称えるべきか。 「メグリム~! ペロペロキャンディー落っことしてしまいましたわ~!」 「だから言ったでしょう! まったく……」  落ちたペロペロキャンディーを掃除し、泣きべそをかいているお嬢様の口に無理やりマシュマロを数個放り込んでおく。 「これでも食べておとなしくてください」 「もぎゅもぎゅ、あまくて美味しいですわ~!」  ぱぁ~っとお嬢様は笑顔の花を咲かせた。相変わらず、喜怒哀楽の変化が激しい人だ。見ていて飽きることがない。気の休まる時もないが。 「しかし、綺麗な都ですね」  煌びやかな虹を作る魔法の噴水、彩り豊かな花時計、勇者と女神を象った彫刻など、ミストラル公園は数多の芸術作品で飾られている。散歩しているだけで、いや、ベンチで休憩しているだけで癒される最高の場所だ。  荒々しい炎の街や、悪趣味な地下都市とはえらい違いだ……と心の中で深く思った。 「メグリム! もぎゅもぎゅ、大変ですわ!」 「マシュマロ頬張りながら喋らないでください」 「もぎゅもぎゅもぎゅ……ごっくん! ぷえー、おいしかったですわ!」 「それは何よりです」  頭の中からっぽなんじゃないかと思うほどのアホな笑顔を浮かべるお嬢様を見つめ、私は頬を緩めた。お嬢様のアホ面の癒し効果はミストラル公園の数多の芸術品にも負けてはいない。 「で、何が大変なのですか?」 「どこからともなくキレイな音楽が聞こえてくるのですわ! ハーピィの歌声とは違う……なんだか妙に儚い音色ですのよ!」 「それは、泡沫(うたかた)のオルガンですね」  静かに、たおやかに、美しく奏でられるメロディに耳を澄ませて。 「オラージュシティには海に繋がる無数の水路があり、それらはミストラル公園にも連なっています」  公園の隅や、噴水に繋がる水路を差して私は続ける。 「その水路には、水の流れに伴ってメロディが奏でられる仕組みが施されているのです。それが、このたおやかなオルガンの音色。……この都そのものが大きな楽器と言っても過言ではないかもしれませんね」 「都そのものが大きな楽器! なんて美しいアート! 素晴らしいですわ!」  目をキラキラ輝かせてお嬢様は嬉しそうに飛び跳ねた。  なんだか、今回はすごくまともな観光をしている気がする。お嬢様が奇行に走っていないし…………。  あ、フラグを建ててしまった。 「ぷえー! 見つけましたわ! 見つけてしまいましたわ!」  ぴょんぴょん飛び跳ねたことで何かを発見したお嬢様は一際高いテンションで声を荒げた。 「メグリム! あの壁に貼ってあるポスター! 勇者様ですわ!」  お嬢様の視線には、セーラー服の金髪美少女――陽キャ勇者の美麗なイラストが描かれたポスターがあった。 「これは……何という! 勇者様らしい明るいイラスト! しかし、それでいて、扇情的な表情を浮かべておりますわ!」  お嬢様が扇情的という難しい言葉を知っていたことに驚きが隠せない。 「勇者様のイラストはニコニコ笑顔というのが定番ですが……このイラストにはセクシーさがこめられていますわ! こんな解釈があったなんて目から鰻ですわ!」  目から鰻じゃなくて、鱗です。 「絵師様のお名前を控えておかなくては! なになに、デスレロさん……メモメモ」  鼻息を荒くしてポスターを下から舐めるように見回すお嬢様の姿は、控えめに言って変質者そのものだった。他人のフリをしたい。 「勇者様に蔑まれる感覚! 新感覚ですわ! たまりませんわ! ブヒブヒ!」  泡沫のオルガンのたおやかなメロディを台無しにする、お嬢様のブヒブヒ。  ああ、癒しの旅が一瞬にして瓦解してしまった。 「お嬢様、人目がありますのでもう少し落ち着いて――」 「落ち着いてなんかいられませんわ!」  爛々と目を輝かせ、お嬢様は拳を青空に突き上げる。 「何故ならば!」  そして、都の中央にある巨大な時計塔を指さした。 「今夜は一年に一度の勇者様フェスが開催されますのよ!」  勇者フェス。  それは、世界各地の音楽家や詩人や演劇家が集って行われるオラージュシティの一大イベント。皆が皆、勇者の伝説を称える音楽を奏でるのだ。フェス……つまり、勇者がもたらした音楽パーティである。 「フェスに向けて、テンションを! 愛のボルテージを! 最高潮にしておくのですわ!」  今が最高潮じゃないんですか。  どうなってしまうんですか……。 「夜まではまだまだ時間がありますわ! ガンガン聖地巡礼しますわよー!」  呆けている私の手を取り、お嬢様は意気揚々と走り出した。

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  • キューコ(デンドロ)

    s.h.n

    ビビッと ♡400pt 〇200pt 2020年11月23日 14時52分

    《「その水路には、水の流れに伴ってメロディが奏でられる仕組みが施されているのです。それが、このたおやかなオルガンの音色。……この都そのものが大きな楽器と言っても過言ではないかもしれませんね」》にビビッとしました!

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    s.h.n

    2020年11月23日 14時52分

    キューコ(デンドロ)
  • うどん

    Yuiz

    2020年11月23日 23時30分

    s.h.n様、ありがとうございます!  ヨーロッパのなんか良い感じの街並みをモチーフに今回の舞台を作ってみました! 美しく爽やかな水と風の都での物語、是非是非ご期待くださいませ!

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    Yuiz

    2020年11月23日 23時30分

    うどん
  • 男戦士

    ギャラクシーごみぶくろ

    ♡1,169pt 2020年11月23日 16時34分

    ・ブヒブヒ周辺の破壊力がえげつないです。 ・それはそうと、空の描写がいい仕事してますね。拳を突き上げる一枚絵が脳内再生されました。

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    ギャラクシーごみぶくろ

    2020年11月23日 16時34分

    男戦士
  • うどん

    Yuiz

    2020年11月23日 23時34分

    宇宙ゴミ袋様、ありがとうございます! 描写お褒めいただけて嬉しいです! 今回はヨーロッパモチーフで美しい街並みを想像して作ってみました。ブヒブヒ 第三章オラージュシティ編、新たな出逢いがあるかもなんで、是非是非ご期待くださいませ!

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    Yuiz

    2020年11月23日 23時34分

    うどん
  • エリナ(QB)

    小日向

    ♡1,000pt 2020年11月23日 8時41分

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    見事なお点前で

    小日向

    2020年11月23日 8時41分

    エリナ(QB)
  • うどん

    Yuiz

    2020年11月23日 23時26分

    小日向様、ありがとうございます!  お褒めいただけて嬉しいです!  第三章オラージュシティ編、是非ご堪能くださいませ!

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    Yuiz

    2020年11月23日 23時26分

    うどん
  • ひよこ剣士

    晴羽照尊

    ♡500pt 2020年12月4日 20時57分

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    いいぞ、もっとやれ!

    晴羽照尊

    2020年12月4日 20時57分

    ひよこ剣士
  • うどん

    Yuiz

    2020年12月6日 2時09分

    晴羽照尊様、ありがとうございます!  水と風の都オラージュシティ編開幕です!  底都とは打って変わって美しく爽やかな街並み。そこでのお嬢様の限界突破、是非是非ご期待くださいませ!

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    Yuiz

    2020年12月6日 2時09分

    うどん
  • 女魔法使い

    紀美野ねこ

    ♡500pt 2020年11月24日 12時36分

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    くっ!早く続きを書け!

    紀美野ねこ

    2020年11月24日 12時36分

    女魔法使い
  • うどん

    Yuiz

    2020年11月24日 18時16分

    紀美野ねこ様、ありがとうございます!  第三章オラージュシティ編、第二章の地下都市とはまた異なる魅力あふれた街並みを描いて参ります! ご期待くださいませ!

    ※ 注意!この返信には
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    Yuiz

    2020年11月24日 18時16分

    うどん

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