守護少女の狂想曲 ~すべてを失って、それでも少女は抗い続ける~

一章 少女と契約

守護少女

 いつもと変わらない筈の自分の部屋で、創真は困惑していた。  その原因は、目の前で佇んでいる人形だ。美しい艶のあるブロンドのロングヘアーで、思わず息を吞んでしまうほどの可愛らしい容姿。吸い込まれそうな澄んだ瞳で、こちらをジッと見つめている。  金縛りにでもかかったかのように創真が動けずにいると、そいつは一歩距離を縮めてきた。 「う、動いた!?」  創真は、逃げ出そうとしたが、テーブルに足を引っかけて転んでしまう。 「痛った……」  振り返ると、人形は黙ってこちらに歩いてくる。 「こ、こっち来るな」  自分でも情けなくなるような弱々しい声を上げてしまった。急いで立ち上がろうとしたが、力が入らない。どうやら不覚にも腰を抜かしてしまったようだ。  ――こ、このままだと殺される。  そんなことを思ったのは、殺人鬼の魂が宿った人形が次々と人を殺していく、そんなホラー映画を見た記憶があったからだ。創真は、這うように後ずさったが、ここはワンルームの部屋だ。そんなささやかな抵抗は、すぐに壁に阻まれる。どうにかしなくてはと、思考を巡らせるがパニックを起こした頭では役に立たなかった。  その間にも、そいつはとてとてと、こちらに歩み寄ってくる。 「くそっ! や、やめろ!」  こちらの声が届いたのか、そいつは目の前で立ち止まった。  ――刹那。バシンッ! という音と共に、右頬に激痛を感じる。一瞬、何が起きたのか分からなかった。 「うあああああああああぁぁぁぁぁ!!」  叫びながら咄嗟に目の前の人形を突き飛ばす。痛みを感じた頬に手を当ててみるが、どうやらビンタされただけだったようだ。いや、ビンタって……。拍子抜けして、少し冷静さを取り戻す。  突き飛ばされた人形は、むくっと起き上がるとパンパンと埃を払うように自身の身を包む衣装を叩いている。 「全く、いきなりレディの身体を触れまわすなんて……やっぱり人間のオスは想像以上に下劣ね。その上、放り投げたと思ったら、あまつさえ突き飛ばして……下劣な上に野蛮だなんて、ホント最低だわ」 「しゃ、しゃべった……」  というか、この言い分だと、こいつが目覚める前のこちらの行動は全て筒抜けだったようだ。さっきからこいつが頬を赤らめているのは、それが原因だろう。思い当たる節が多すぎて、こっちまで恥ずかしくなる。今更ながら、激しく後悔した。 「私の名は、ミシェル・シミラー。王国を護る、誇り高き守護少女(ガーディアンドール)。そして、聖天騎士団(せいてんきしだん)の第七部隊を統べる者」  創真がポカンと呆気に取られていると、ミシェルはこちらのことなどお構いなしに話を続ける。 「あなた、名は?」 「えっ? そ、創真……新道創真」 「そう。美しくない名ね」 「なっ!? 失礼な奴め」  新しい道を創る(まこと)だぞ! 美しいかどうかはさておき、それなりに気に入っているし、整った名前だと思うのだが。  ――というか、どういう仕組みなんだこれ、普通に会話したよな?  世の中に広まっているAIは表面的なもので、裏ではもっと研究が進んでいるなんて話を聞いたことはある。ただ、それを考慮しても、目の前のこいつはあまりにも人間味があり過ぎる。動きも話し方も。  それなら、呪い人形みたいな霊的なモノだろうか。いや、それも否だ。最初こそ驚いたが、冷静になって見ると殺意や悪意の類は感じない。  そもそも、こんな可愛い幽霊がいてたまるか。こいつに襲われても、B級ホラー映画にもなりゃしない。 「さっそくだけど人間、今からあなたは私の下僕(げぼく)になるわけだけど――」 「は? 下僕ってなんだよ!」  創真は、唐突に放たれた理不尽に思わず立ち上がって抗議した。 「そんなことも知らないの? 下僕というのは、オスの召し使いのことよ」 「知っとるわ! んなことを聞いてんじゃねーっての!」 「うるさい下僕ね。そんなに大声を出さなくても聞こえてるわよ。ふぅ、これは躾けるのに苦労しそうね」 「選択権無しか! ってか、勝手に下僕認定するな!」  前言撤回、全然可愛くない。なんだこの生意気な人形は。 「まぁいいわ。先に契約を済ませましょう」 「だから、勝手に話を進めるなよ! それに、契約ってなんなんだよ。まさか、後で高額な請求書とか送って来るんじゃねーだろうな」 「――守護少女(ガーディアンドール)との契約は、命を結ぶことよ」 「は? 命って……」  自分の喉が鳴る音が聞こえた。やっぱり呪い人形なのか? 大事な命だ、こんな奴になんかくれてやるもんか。創真は、思わず身構えた。 「私の糧となって、その身を尽くすのよ。光栄でしょ?」 「――断るって言ったら?」 「それは無理な相談ね。だって、私をアクティベートしたのは、あなたでしょう?」 「あ、あんなの不可抗力だろ! 事故みたいなもんだ。メッセージカードまでよこして、誘ってきたのはそっちだろ!」  咄嗟に浮気の言い訳みたいなことを口走ってしまった。なぜだろうか、自分で言っておいてアレだが、凄く切なくなってきた。 「私だって不本意なのよ。こんな下劣で野蛮なオスが契約相手だなんて。こちらが譲歩してあげているのだから、あなたも諦めなさい」 「そんなめちゃくちゃな言い分が通るか! 好き放題言いやがって、呪い人形なんかに俺の命は絶対やらねーからな!」 「呪い人形……」  禁句だったのだろうか。ミシェルは、今にも泣きだしそうな、悲哀に満ちた表情を見せる。  ズルいだろ、そういうのは。そんな顔されたらこっちが悪者みたいじゃないか。この現場だけ見たら、どう見ても大人が幼女を泣かせている様にしか見えない。  それでも、命をくれてやろうとは思わないが。 「悪かったよ、呪い人形はちょっと言い過ぎだったかもしれん」 「……いいえ、私()()少女(ドール)が呪い人形というのも、あながち間違えではないかもしれないわ」 「どういう意味だよ」 「そのままの意味よ。私たち少女(ドール)は、人類を一度滅亡させているのだから」 「人類が……滅亡?」  言っている意味が分からなかった。  ――人類が滅亡ってなんだ? 遠い未来でAIが反乱して、人類が滅亡。そして、こいつは未来からやって来たアンドロイドかなんかってことか?  確か、そういう映画も見たことがあるような気がする。まぁ、その映画のアンドロイドは、ガチムキのおっさんだったが。それに比べたら、相棒が女の子なだけマシかもしれない。  そんな下らないことを考えていると、ミシェルが何かの気配に気がついたかのように、表情を引き締めた。 「ゆっくり話をしている暇もないようね。このままだと、あなた死ぬわよ」 「え……」  いやいや、待ってくれ。さっきの映画の話は、ほんの冗談のつもりだったのだが。本当に未来から、アンドロイドが襲いに来たとでもいうのだろうか。  次の瞬間、世界から色が消えた。いや、正確には、自分とミシェル以外が白黒の世界になったと言うべきか。 「なんだ? どうなってんだよこれ!」 「随分とせっかちな子がいるようね」  ミシェルは焦っている様には見えないので、恐らくこの現象の原因を知っているのだろう。とはいえ、表情は未だに険しく鋭い目つきで神経を研ぎ澄ませているようだ。 「おい! 何か知ってるなら説明して――」  創真の言葉は、ガジャン! という大きな音にかき消された。  気が付くと、部屋の窓ガラスが粉々に飛散していた。

いかがでしたでしょうか? まだ冒頭の部分ですが、楽しんでいただけると幸いです。

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿


  • ステラ

    りゅりゅ(琉斗・リュート)

    〇50pt 2020年2月13日 23時05分

    等身大の人形が歩いてきたらそれは怖いですよね(´;ω;`) 強気で呪い人形と言われて肯定しちゃうのいいです(ΦωΦ) そして、過去か未来かわからないけど人類に何があったんでしょうか。楽しみです(∩´∀`)∩

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    りゅりゅ(琉斗・リュート)

    2020年2月13日 23時05分

    ステラ
  • 女魔法使い

    千咲 零音

    2020年2月14日 2時03分

    いつもありがとうございます!等身大と言っても、80cmくらいなので、幼稚園児より少し低いくらいですね!といっても、フランス人形と比べるとかなり大きいので怖いのは怖いですが(笑)人類に何があったかはもう少し先で語られる予定ですのでお楽しみに(´っ・ω・)っ

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    千咲 零音

    2020年2月14日 2時03分

    女魔法使い
  • 殻ひよこ

    秋真

    ♡100pt 〇5pt 2020年2月20日 12時18分

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    応援しています

    秋真

    2020年2月20日 12時18分

    殻ひよこ
  • 女魔法使い

    千咲 零音

    2020年2月20日 16時43分

    ポイント、応援ありがとうございます!どうぞ、これからも良しなに(*'▽')

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    千咲 零音

    2020年2月20日 16時43分

    女魔法使い
  • 探偵

    島村春穂

    ♡1,000pt 2020年2月20日 5時07分

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    応援しています

    島村春穂

    2020年2月20日 5時07分

    探偵
  • 女魔法使い

    千咲 零音

    2020年2月20日 16時44分

    たくさんのポイントありがとうございます!感謝です( ;∀;)どうぞ、これからも良しなに(*'▽')

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    千咲 零音

    2020年2月20日 16時44分

    女魔法使い
  • ひよこ(重)

    ガトー

    ♡1,000pt 2020年2月13日 22時57分

    深まってゆく謎。得体の知れないものに、現実が壊されていく感じがよいですね!

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    ガトー

    2020年2月13日 22時57分

    ひよこ(重)
  • 女魔法使い

    千咲 零音

    2020年2月14日 2時09分

    たくさんのポイントありがとうございます!若干入れたホラーテイストが伝わってくれたみたいでよかったです(*'▽')今後とも、かわいいドールによる人形劇を楽しんでいただけると嬉しいです(´っ・ω・)っ

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    千咲 零音

    2020年2月14日 2時09分

    女魔法使い
  • みりたりステラ

    憂鬱太郎

    ♡500pt 2020年4月1日 16時55分

    同族の匂いがしますね……|д゚)チラッ応援だぜ(っ`・ω・´)っ

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    憂鬱太郎

    2020年4月1日 16時55分

    みりたりステラ
  • 女魔法使い

    千咲 零音

    2020年4月1日 23時39分

    真琴さんのところから来て頂いた方ですね! 同族?同士頑張りましょ(*'▽') ちなみに、真琴さんには文章力をべた褒めして頂きましたが、ただ単に複雑で難しい文章を書く技術がないから結果的に読みやすく見えてるだけです(笑)

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    千咲 零音

    2020年4月1日 23時39分

    女魔法使い