守護少女の狂想曲 ~すべてを失って、それでも少女は抗い続ける~

かわいいドールによる人形劇です。 どうぞお楽しみください。

零章 

プロローグ

 月明かりが照らす閑静な住宅街。まだ所々に、窓から暖かい光が漏れる家も見受けられる。辺りに人影はなく、静まり返った夜空は、街灯に群がる虫の羽音が耳に障る。  残暑が残る日中と違い、さすがに少々肌寒い。昼間と同じ服装で出て来たのは失敗だったかもしれない。  会社を辞めて数週間、何の面白みも無い自分の人生を振り返って、新道創真(しんどうそうま)は溜め息を漏らした。右手に持っている、弁当の入ったコンビニ袋がやたらと重く感じるのは、気が滅入っているからだろうか。 「何やってんだろうな……俺は」  大学を卒業して三年。一流企業とまではいかないものの、それなりに名の知れたところで働いていた。給料も悪くはなかったし、ブラックだったわけでもない。それでも創真が仕事を辞めたのは、代わり映えの無い日常が退屈で仕方なかったからだ。  どうしてこうなった? 学生時代は、勉強も運動も真面目に取り組んだし、人並み以上には出来てたはずだ。就職してからだって、同期の奴らと比べても、仕事は出来る方だった。それなのに、どうしてこんなにも毎日が憂鬱なのだろうか。  親、上司、同僚、後輩。それぞれの期待に応えようと、周りに気を使って社会の流れに歩幅を合わせる日々。だから、辞表を提出したときはみんな驚いていたし、引き止められもした。でも、もううんざりだった。  そんなことを考えていると、あっという間に自宅についた。  築浅で家賃が安いという理由だけで選んだワンルームのアパート。住宅街の奥まった場所で立地条件はあまり良くないが、そこそこ綺麗な建物だし、トイレと風呂が別なので文句は言うまい。  創真は、コンビニ弁当をレンジにぶち込み、パソコンの電源を入れて動画サイトを開く。お気に入りのチャンネルを再生し、温め終わった弁当とお茶をセッティングする。ふとスマホの時計を確認すると、深夜一時を回っていた。動画サイトはテレビと違い、どの時間帯でも好きなモノを見られるので重宝している。  最近はずっとこんな生活をしている。外に出るのは食料の買い出しくらいで、後はずっと引きこもりだ。退屈といえば退屈だが、悪くはない毎日だ。  今まで、最低限の生活費以外は特にお金を使ってこなかったので、それなりに貯蓄はあった。とは言っても――。 「そろそろ次を考えないとな……」  テーブルの端に置いてあった求人誌を一瞥する。溜め息を漏らしつつ、弁当を頬張った。  パソコンの画面には、大量に購入したお菓子をどこまで積み上げられるかという、くだらない企画の動画が流れている。こんな動画でも、再生数は余裕で百万回を超えていた。こういうのを見ていると、今まで真面目に働いていたのが馬鹿らしく思えてくる。子供の将来なりたい職業ランキングの上位になっているのも納得してしまう。  そんなことを考えながら、ペットボトルのお茶に手を付けようとしたとき、唐突にインターフォンが鳴った。 「なっ!? こんな時間になんだ?」  うるさくし過ぎて、隣の住人が苦情でも言いに来たかと思ったが、動画の音量はそんなに大きくは設定していないし、大きな物音を立てていた記憶もない。思い当たる節がなくなると、急に恐怖心が襲ってくる。  時計は、午前二時を示していた。 「まさかな……」  心霊現象を信じているわけではないが、こんな時間に自宅のインターフォンが鳴れば嫌でも心拍数が上がる。  恐る恐る室内に設置されているモニター画面を覗くが、誰かがいる気配はない。 「悪戯か?」  ひとまず胸をなでおろしたが、このまま無かったことにするのは、なんとなく気持ち悪い気がして、外を確かめてみることにした。  人間とは不思議なもので、一度気になってしまうと、どんなに恐怖を感じていても確かめずにはいられないのだ。今なら、ホラー映画の主人公の気持ちがわかる気がした。  とはいえ、いざ玄関のドアノブに手をかけると少し躊躇(ためら)ってしまう。背筋にひやりとしたものを感じて唾を呑み込む。  小さく深呼吸をしてから、創真は思い切って扉を開け放った。  辺りは静まり返っている。いつもと変わらぬ風景だ。 「なんだ、やっぱり何もいないじゃないか――えっ?」  ほっと呼気を吐きだした創真の視界に、高級そうな革製のトランクケースが映った。トランクケースの上には、無造作にメッセージカードが置かれていた。創真はそれを手に取って、書かれていた文字に目を通す。  そこには『新道創真様、あなたは選ばれました。キーコード、ミシェル・シミラー』とだけ記されていた。 「なんで俺の名前が」  もう一度辺りを見渡すが、やはり誰もいなかった。 「――で、思わず持ち込んでしまったわけだが、どうするか……」  外で中身を確認するのも気が引けたので、とりあえず家の中まで持ち運んだ。なかなかの重さだったので、中身が気になっていたが、開けるのは躊躇(ちゅうちょ)していた。 「んー、このまま放置しておくってわけにもいかんよな。ひとまず開けてみるか」  しばらく悩んだが、結局中身を確認してみることにした。名指しのメッセージまで添えてあったのだから、自分宛ての物なのは間違いないだろう。こんな不気味な物、さっさと捨ててしまおうとも思ったが、中身を見ないままゴミに出すのもちょっと違う気がした。  やたらと高級感のあるデザインだったので、もしかしたら凄くいいものが入っているかもしれないという、ささやかな期待もあったことは否定しない。どちらの選択が正しいかは、開けてからのお楽しみだ。まあ、こんなことに正解も不正解もないと思うが。  創真が、ゆっくりとトランクケースを開けると目に飛び込んできたのは、想像していた以上に予想外の()()だった。  膝を抱えるようにして横たわるブロンド髪の少女。いや、少女と呼称するには些か小さ過ぎるようにも感じる。 「女の子!? いや、人形……なのか?」  ロリータファッションというやつだろうか、純白の可愛らしいワンピースタイプの衣装に身を包んでいる。最初に頭に浮かんだのは、フランス人形だった。だが、そう考えると大き過ぎる気がするし、あまりに美しすぎる。今にも動き出しそうなほどに繊細に作られている。そして、次に思い浮かんだのはラブドー……いや、やめておこう。 「やわらかい……」  軽く頬を突いてみると、人肌のように程よい弾力がある。こうなってくると、紳士として確かめなくてはいけないことがある。創真は、そっとスカートの裾を捲り上げる。 「あっ……ちゃんと履いてるんだ」  少し罪悪感を覚えたが、これはあくまで紳士としての責務を果たしただけで、決して(よこしま)な思いがあったわけではないと自分に言い聞かせる。と言っても、()()()()()()しか使い道が思いつかない。  このまま眺めていても仕方ないので、取り敢えずケースから出してみることにした。腰の辺りを掴み、抱き上げる。思いのほか軽く、簡単に持ち上がった。足を伸ばした状態でも、全長は八十センチ程度だ。  ――実用性を考えると、もう少し大きい方が……ってなに考えてんだ俺は。  創真は、頭を振って妄想を払い退けた。 「それにしても、よく出来てるな。――そういえば、『あなたは選ばれました』って、どういう意味だったんだ? それに『キーコード』って――」 『キーコードを受け付けます』 「うわっ」  突然発せられた音声に、思わず人形を放り投げて尻餅をついた。すると、トランクケースの中から発光する球状の物体が出てきて、床に横たわった人形の上をくるくる旋回し始めた。 「いっ、てて……なんだ?」 『キーコードを受け付けます』 「キーコードって、カードに書いてあったやつか? 受け付けるったって、どうやって入力するんだよ」 『キーコードを受け付けます』  同じ言葉を繰り返すアナウンスに困惑しつつ、メッセージカードを確認する。 「えっと……キーコード、ミシェル・シミラー」 『キーコードを受け付けました』  言うだけでいいんかい! と思ったが、それは口に出さずにおいた。 『システムアクティベート。――70%、80%、90%、セットアップが完了しました』  白い光が、人形を包み込む。あまりの眩しさに左手を光避けにして目を逸らす。  次に視界が開けたとき、澄んだブルーの双瞳が創真を見つめていた。

いかがでしたでしょうか? 感想など頂けると幸いです(´っ・ω・)っ

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  • ひよこ(重)

    ガトー

    ♡300pt 〇100pt 2020年2月13日 9時17分

    若干ブラックな風味のあらすじ……からの〝前書き〟が、さらに不穏な雰囲気を出していて、とてもカッコ良いですね。主人公の感情も、とても自然で違和感が無く、スッと入り込めました! 続きが楽しみです!

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    ガトー

    2020年2月13日 9時17分

    ひよこ(重)
  • 女魔法使い

    千咲 零音

    2020年2月13日 11時08分

    おぉ!貴重なポイントまでありがとうございます(*´▽`*)こちらの意図も伝わったようで嬉しい限りです!期待に応えられるよう頑張ります!

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    千咲 零音

    2020年2月13日 11時08分

    女魔法使い
  • エルフアーチャー

    緋雁✿ひかり

    ♡100pt 〇10pt 2020年4月8日 17時00分

    ドールとのファーストコンタクト。 得体の知れない物体に対するドキドキや警戒心がじっくり書かれていて没入感が凄い♪ このあと、ドールとどんなコミュニケーションが待っているんだろう(,,Ծ‸Ծ,,)ムムム

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    緋雁✿ひかり

    2020年4月8日 17時00分

    エルフアーチャー
  • みりたりステラ

    kikazu

    ♡100pt 〇2pt 2020年2月23日 10時30分

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    所見です よろしくお願いします

    kikazu

    2020年2月23日 10時30分

    みりたりステラ
  • 女魔法使い

    千咲 零音

    2020年2月23日 16時45分

    初見様、、いらっしゃいませ!ノベラポイントまでありがとうございます(*´ω`*) どうぞ今後とも良しなに(*'▽')

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    千咲 零音

    2020年2月23日 16時45分

    女魔法使い
  • アマビエペンギンさん

    緋いろのそら

    ♡5,000pt 2020年3月12日 21時22分

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    これは興味深い

    緋いろのそら

    2020年3月12日 21時22分

    アマビエペンギンさん
  • 女魔法使い

    千咲 零音

    2020年3月13日 5時46分

    5000!? こんなにたくさんのポイントありがとうございます( ;∀;) 過去最高です(*´ω`*) またお暇な時にでもお立ち寄りください(´っ・ω・)っ どうぞ今後とも良しなに(*'▽')

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    千咲 零音

    2020年3月13日 5時46分

    女魔法使い
  • シド(アニスと不機嫌な魔法使い)

    渡会 宏

    ♡3,000pt 2020年3月25日 23時03分

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    応援しています

    渡会 宏

    2020年3月25日 23時03分

    シド(アニスと不機嫌な魔法使い)

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