世界に響かせたい音があるから

読了目安時間:2分

エピソード:2 / 4

Stage 2, Go On

 あたしは音楽以外で自分が誰かのためになれると思ったことがない。  勉強は特別得意ではないし、好きな教科もない。運動もできない。  今まで生きていて同じような価値観の人に出会ったことがなかったから、高校に入って杏美(あみ)に出会ったとき、運命の出会いというのは本当にあるのだと思った。  杏美は、口ずさみながら曲を書く。  曲を書いている時に、そのメロディを隣で覚えながら、あたしは適当な英語を当てて歌詞を付けて歌った。 「真琴(まこ)ちゃん、音に言葉を乗せるの上手いね」  杏美は楽譜に音符を書き留めながら、「真琴ちゃんみたいな人がいると楽しいな」と言った。あたしも、綺麗なメロディやかっこいい音を次々に生み出す杏美の隣にいるのが好きだった。  この世には、巡りあわせっていうのがあるらしい。  あたしたちは人より周りに馴染めない。杏美とあたしは10代後半になるまで出会えて来なかったから、集団の中で常に疎外感を感じていたんだと思う。  だから、あたしは高校時代に初めて自分のことが好きになれた。  杏美の音楽を歌える自分が、この世で最高に格好いいと思えるようになった。  紗枝(さえ)優梨愛(ゆりあ)は杏美の音楽に心酔している。だから紗枝は杏美の音楽のために練習を欠かさないし、優梨愛は技術を磨くためにギターの先生のところに通っていた。  この音を奏でたいと心から願うと、チームワークなんかなくたってバンドは形になる。  大好きなものを最高の音で表現したいという純粋な気持ちは、あたしたちの技術向上の大きな原動力になった。  高校の軽音楽部でありながら、プロ並みの音。  そう言われるようになったあたしたちが天狗にならなかったのも、当たり前のことだ。  杏美の音を誰にも渡したくない。  杏美の音楽を誰よりも格好よく鳴らしたい。  だから、あたしたちは常に危機感を持っていた。  誰よりも上手くなりたくて、杏美の音だけは誰よりも理解して表現したい。  他のバンドがどうだとか、ライバルがどうだとかは全く気にしていなかった。  あたしの敵はあたししかいなかったし、ほかのメンバーにしても同じだ。  杏美の音だけは、間違っちゃいけない。

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  • チョウチンアンコウ

    冴木黒

    ♡500pt 2022年8月7日 9時50分

    バンドができたきっかけは杏美ちゃんとの出会いだったのですね、本当に運命の出会いという感じ。そして集まった他のメンバーもまた出会うべくしてという気がしますね。作曲できる人もすごいし、そこに歌詞をつけるっていうのも本当すごい。

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    冴木黒

    2022年8月7日 9時50分

    チョウチンアンコウ
  • 大正むすめ

    碧井夢夏/勉強中

    2022年8月7日 10時22分

    ありがとうございます!音楽も出会いの要素が大きいなあと思うのです。その時に欲しかった音楽や人との出会いで世界が一気にぶわーっと変わって行く感じがあって・・知ってしまったら戻れない。人はそれを運命と呼ぶのかもしれませんね・・🌟

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    読了目安時間:20時間40分

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