私の行く先々で事件が起こる件について

遭遇

2章 正義への目覚め 部屋を出て、大きく伸びをするアリサ。 「うーん、よし! あの怖い顔のオーナーが言っていた 遊戯室に行ってみようっと」 ホテルのパンフレットを見る。 「10階にあるのね」 まずは、エレベーターに向かう事に。歩いていると 身長が180位の大柄な老人が腕を後ろに組み(たたず)んでいた。 体は無駄なく鍛え抜かれた筋肉質。 60は超えているであろうが腰は曲がっておらず ピンとした背筋。髪型は辮髪(べんぱつ)で、完全に白髪ではあるが 剃っているだけで禿げてはいない様だ。 双眸(そうぼう)は力強さの中に優しさが隠れていて 風格すら感じられる。服装は、青い拳法着を着ていて 右胸に銀色の竜の刺繍が施されている。 顎鬚(あごひげ)は異様に長く、もみあげから繋がっていて 180あるにも関らず、地面に付いている程の長さだ。 ひょっとして、髭の長さで偉さが決まる部族の長なのか? 歩いている時に誤って踏んでしまったりしないのか? 色々な疑問が浮かんでくる。 そのただならぬ雰囲気の老人が、アリサに声を掛ける。 「おや? お嬢ちゃん、一人で来たのかえ?」 「知らない人とは絶対に話さないもんねー」 両目を閉じ舌を出し 学校の先生に言われた事を堅実に守る模範生徒なアリサ。 (無視せずに、話しておるじゃないか)  老人は思う。 「これは失礼した、わしの名は、ロウ・ガイじゃ。 決して怪しい男ではないぞい。かつて このホテルの厨房で総合料理長をしておった者じゃ」 「総合料理長?」 そうじゃ和、洋、中の料理の指揮を執る事が出来る 偉ーい料理長じゃ。1000を超えるレシピを 頭に叩き込んである」 「へえー、格闘家みたいに強そうなのに料理人なんだあ」 「料理をするにも体が資本じゃて、常に鍛えておる。 じゃが今は、ただの格闘じじいじゃ・・食中毒が起こり ホテル側はそれをわしに擦り付けおった。 おかげで責任を取りクビになったのじゃよ。 運悪く、取材に来とった新聞記者が 食中毒になってしまったのじゃ。 そこの新聞で、記事を書かれてしもうてな。 大騒ぎになったのう。 久しぶりにこのホテルに客として来て 弟子どもはこのロウ・ガイズムをしっかり継いでいるのか このように長い付け髭で変装して来て見たのじゃ」 髭以外は変装していない様だ。 これでばれないと思ったのか? 謎の多い老人である。 「老害じじい?」 「ふぉっふぉっふぉっ。惜しいのう 大体合っておるのじゃが違うぞい。  わしの名は、ロウ・ガイじゃ。漢字では(おおかみ)(いのしし)じゃ。 そして、ロウ・ガイズムとはわしの料理の技術の事じゃな 中国から来た好々爺(こうこうや)じゃよ。 弟にキチ・ガイと言うのがおるよ」 聞いてもいない事を喋るロウ・ガイ。 「自分で好々爺言うか。まあそれっぽいから信じるわ で、ロウが苗字で、ガイが名前でしょ?  何で弟の苗字が違うの?」 「鋭いのぅ、弟は喜知という苗字の娘の所へ 婿入りしたのじゃ。そして、ロウ・ガイから キチ・ガイになった訳じゃ」 「え? 中国って夫婦別姓で結婚しても 変わらないんじゃなかった? あれ? 記憶違いかなあ?」 妙な事に詳しいアリサ。 「ほほぅ知っておったのか。そう、そうなのじゃが その嫁さんが、かなりの日本マニアでのう。 日本の風習である夫婦同姓を取り入れてしまったのじゃ」 「え? 何故? それは日本の風習って言うか・・ 民法750条じゃないっけ?  確か・・え? でも中国でそんな事が許されるの?」 何故かこんな事は知っているアリサ。 「キチ家は、相当な富豪での。 特例で許されたのだそうじゃよ」 よりによって日本マニアの嫁がキチという名字で、 結婚したら夫婦同姓を取り入れ、ロウ・ガイから キチ・ガイに変わってしまったというのだ。 運が無い弟である。 否、金持ちの家に婿養子でも入れるだけ幸せである。 それに中国では、キチガイという日本語は 通じない筈であるから何の問題もないであろう。 「そこまでしてキチ・ガイにしたかった という事なのかしら? そういえば兄弟なのに、名前は同じガイなの?」 「そうじゃ、父親がガイという響きが好きでの。 わしがイノシシの亥、で 弟が害虫とか公害に使われる害なのじゃ」 「なんかややこしいねー。それに 弟さんの名前の漢字が酷い気がするわ。いじめなの?  じゃあ、お父さんは二人揃っている時 どういう風に呼んでいたの?」 よせばいいのに首を突っ込もうとするアリサ。 「おいそこのお前、と指差しして呼ぶのじゃよ。 父と二人の時はおい、お前じゃ。 ガイ、と呼ばれた事なぞ一度も無いぞい」  「それってお父さん本当にガイって響き好きなのかなぁ? ところでお父さんとお母さんの名前はなんて言うの?」 聞かなくてもいい事を聞いてしまうアリサ。 「当然、父が(ロウ) (ガイ)と母が魯兎(ろう) (ガイ) じゃよ?」 衝撃の告白。 「家族全員揃って同じ言い方なの!? 奇跡じゃん  この家族、本当に老害とキチガイしかいないじゃない・・ じゃあアリサは、遊戯室に行ってみるのでじゃあね」 「そうかアリサというのか、いい名前じゃの  だがまあ、ガイという美しい響きには到底及ばぬがな」 その一方的な押し付けに少しムッとしながらも 「ハイハイソウダネー」 と適当に返し、走り去るアリサ。 「遊戯室か、いつの間にかここにも 面白そうな物が出来てるようじゃのう。  わしも後で行って見るかのう」 ロウ・ガイの最後の言葉はアリサには届かなかった。 遊戯室に到着。 「やっと着いた、こんにちわー」 恐る恐る中に入ってみる。 広さは、10階のフロアを全て使っていてかなりの広さ BGMは静かなクラシックが流れている。 中には数人先客がいて、あのインパクトのあるオーナーも ポーカーを楽しんでいた。 中には色々な物が置いてあった。 ビリヤード、ダーツ、ポーカーのテーブルや スロットマシン、ルーレット ゴルフのパット練習用のグリーン  小さいボウリングレーン。ボールも用意されている。 室内で遊べる物が一通り揃っていた。 「そうだ。まず隠れユッキーとやらを探してみるかな? 多分ここにありそうな気がする」 至る所を探すアリサ。そしてダーツの的に注目して見る すると、的の上に2つの黒い団子の様な物が はみ出ているのを気づく。 もしやと思い、椅子を持って来てその的をずらして見る。 すると・・・ついに初めての隠れユッキーとやらを ダーツの的の裏に発見する。 「きゃあ!!!!」 コロン 椅子から落ち、おしりを強打する。 「あいたたたた・・何だ・・これは?」 少し椅子を離し、至近距離で見ない様にしながら もう一度見てみる。そこにあったのは ボウリング玉位のオーナーのリアルな笑顔の写真。 その頭の上には、二つの的からはみ出していた 黒い耳の様な物がついた生物だった。 まさかこんな物が的の裏に隠れているとは 夢にも思わなかったであろう。 「くっ」 ずうん 脳みそに何か重い物がのしかかる様な感覚を覚える。 至近距離で見たユッキーに脳を攻撃されたのか? だが、アリサがフラついたのも当然である。 例えるなら頭の傍で携帯電話を充電して そのまま寝ている様な物である。 ご存知の通り携帯電源をオフにしていても 充電している時は電磁波を発している。 それをダイレクトで受てしまう為頭はおかしくなる。 自律神経失調症の原因の一つでもある。 オーナーは恐ろしい物を生み出したものである。 彼は勿論これに耐性がある。だから一般人も大丈夫と 思い込んでしまっているのだ。スカンクが自分のガスで 倒れないと同様である。しかしこの隠れユッキーとやら まるで、東京ディスティニーランドの ワッキーマウスのデザインを模した生物。 そういえばそこでも 隠れワッキーが至る所にある事も思い出すアリサ。 「何かしら今の・・なんかフラフラする・・それにしても ヴォルド・ディスティニーに怒られるんじゃないの?  これ・・」 当然見つかれば怒られるだろうが オーナーにはそんな概念がなかった。 むしろ、怒られたとしても 「そっ。ちが真。似し、て来たのでし。ょう?」  と言いがかりを付けかねない。 「ま、まあいいや撮影してっと。しかし、この化け物 何でユッキーって名前なんだろう?」 パシャリ ふと、ここでアリサは思う。 (私の様に心臓に毛の生えた神の子だったから ショック死せずに エクスクラメーションマーク4つ程度で済んだ。 だが、こんな物を凡夫が見たらショック死してしまう・・ そんな事になったら寝覚めが悪い・・) 人であるならば、当然に浮かんでくる考え。 本家の隠れワッキーなら、苦労して見つけ出した時 心の底から嬉しくなるものである。 自分だけが見つけたワッキー。 SNSにシェアして褒められるのもよし 自分だけの携帯に入れて大切に保存しておくもよし 見つけたその瞬間優越感に浸れるものである。 しかし、このユッキーと言う物体は、見つけた瞬間 「やった! 嬉しい!」 ではなく、仕方ねえ割り引いてくれるから 撮っておくか程度で嫌々携帯に保存する。 それだけの存在。 受付に見せて割引が完了した瞬間に消去される。 全く正反対である。 デザインも醜悪だし、直視が続けば 脳に深刻な傷を刻まれてしまう。 幾つも見ていく内にダメージは当然蓄積され 命にも危険が迫ってくる。 そんな殺人兵器を意図していないとしても このホテルは、ホテルぐるみで濫造してしまっている。 この『見る毒薬』を、探させて下手すれば 心臓の弱い客をショック死させてしまうと言う 危険な行為をさせている訳だ。 そう、隠れワッキーは愛嬌があるが 隠れユッキーは悪影響しかない。   PCをイヤホンをしてネットサーフィンをしている時 あるサイトをクリックしたら、突然色白で、瞳孔が開き 口から一筋血を流した女性のアップの画像が現れ 同時に女性の悲鳴が大音量で響けば 何も知らない人がそれを見てしまったら 心臓は止まりかねない。実際に存在する 精神的ブラクラと言う物であるが 仕掛け人は悪戯心(いたずらごころ)でやったとしても やられた方は驚いてイヤホンを咄嗟に外そうとした時 力が入りすぎて耳たぶを引きちぎって病院に行ったと言う 22ちゃんねるの書き込みもある。 正義の心に目覚めたばかりのアリサが こんな事を許す訳にはいかない。アリサは考える。 「そうだ! マジックはどこかにないかなあ? 油性の」 椅子から降り、辺りを見回すアリサ。 一体何をするつもりなのだろう? すると、壁に連絡用のホワイトボードが掛けてあり そこに水性のマジックが2本置いてあった。 (あ、あったわ。水性だけどまあ仕方ないわね。 これを1本拝借して・・と) アリサは、再び椅子に上り、的をずらし あまり直視しないようにしながら マジックでその顔を丁寧に塗り潰した。 「♪ぬりぬりぬりぬりぬりさちゃーん♪ーってか? そういえば幼稚園の頃、ぬりえ得意だったからなあ私 あの頃は若かったわ。 ぬりえの達人ぬりさちゃんってあだ名が付いてたっけw あの頃より腕は鈍ってるけど、早く勘を取り戻さなきゃ」 まだ幼女だと言うのに昔話を語り始めるアリサ。 鼻歌交じりでなんとも暢気である。 しかし、勝手に壁を塗り潰す行為。いけない事とは 何となく理屈では分かっているが、手が止まらないのだ。 ならば仕方がない。思う存分に塗り潰せば良い。 しかし、この塗り潰すと言う行為。 実はとても効率が良い事なのだ。  もしも、ここにユッキーがある事を アリサ以外の誰かが見つけそうになった時 この恐ろしさを知っているアリサが 「危険だから開けちゃ駄目だよ」 と、言ったところで 割引してくれる物をみすみす諦める客はいないだろう。 一度思い知らなければ気付かないのだから。 だが一般人は数回見るだけであの世行きであろう。 だから、黒くして見る事が出来ない様にするしかない。  一瞬で最適解を導き出したアリサ。 お見事と言うしかない。私なら、見つけた時点で気絶し その恐怖から二度と見る気にはなれない。 その事に関して再び考えたくない そいつの姿を頭で思い浮かべるだけで 気分が悪くなるのだから。 それをアリサは、一度ダメージを受けて尚 脳は正常に働き打開策を一瞬で導き実行した!  この時点で2回もそれを見たのだ。なんという胆力!  そう、隠れユッキーを消す事は彼女にしか出来ない。 彼女は選ばれし者なのだ。そして その能力を持ちながら、こいつを消したいと言う気持ちも 併せ持っている。 これが如何に大切な事かお分かりだろうか? 如何にやる気があっても その衝撃に耐えうる力がなければ意味がない 犬死である。逆に力があっても 「そんな汚いもの何度も見たくない」 とやる気が起こらなければ 当然消される事は無いであろう。 勇気、耐性を兼ね備えた スーパーヒロインがここに誕生したのだ。  しかし 椅子に乗って壁に何か書いている怪しげな幼女。 目立ってしまわないか心配であったが 幸運にもみんな自分の遊びに夢中になっていた為 大丈夫だった。それとも?  神が見えないヴェールをアリサの周りに施し この行為の妨害から守ったのであろうか? 私は、これだけの大人がいる中で 気付かれないと言うのはあまりに不自然と感じたため 後者の方が正しいように思えてしまう。 「はぁはぁ、手強い相手だったわ」 汗を腕で拭い、満足げな表情のアリサ。 爽やかな幼女の笑顔。とても絵になる。 これで、意気揚々とダーツの的の裏をめくりこれを見た 宿泊客がショック死してしまう事は無くなるに違いない。 このユッキーを撮影出来たのはアリサ一人だけになる。 当然割引もアリサ以外の人はこの黒塗りの物体を 撮影したところで割り引いてもらえない事になる。 少しアリサが得をしているのではないか?  とお考えのあなた。  まあ、確かに隠れユッキーを撮影して 割引をして貰う事は出来ないだろうし 見つけたアリサのみに恩恵がある。 だがここでよく考えてほしい。 アリサはユッキーに耐性があるとはいえ 未知の生物が隠れている物を自分から開け その衝撃を一番目に受け止めてくれているのだ。 そのダメージは計り知れない。 一番初めに何かをする事の難しさは 皆さんも当然知っていると思う。 そして、耐性がある=死なないではなく 『死ににくい』 なのである。 その意味をよく考えてほしい。 限度を超えればアリサの命も・・ そして、見つければ割引される。 だが12つでは雀の涙程度である。沢山見つければ それだけ割引してもらえると言うルール。 これは最悪のシステムなのだ・・そう 人の欲望は尽きない。限界まで見つけて 沢山割引してもらいたいと思うのは ごく普通の考えではないだろうか?  したがって各地に隠されているそれを 自分から進んで見つけ何回も見る事になるであろう。 必要以上にホテルを歩き回り、体力を消耗し 疲れきったその体に例え 12回程度では大丈夫であったとしても 回数を重ねればそれだけ宿泊客の命は 徐々に削られ、最後には帰らぬ人となる。 そう、こんな事で自分の大切な命を 天秤に懸ける程ではないのだ。 目先の小さな利益に目が眩んで 本当に大切な物を失っては話にならない。 そこまで考えアリサは完璧な黒に塗り潰す。 少しでもあのこげ茶色の皮膚を塗り残してはいけない。 その結果、芸術品といっても良い程の吸い込まれる様な 闇の深淵をイメージした黒い真円。 それを初めてながら完遂出来、満足げな表情をする。 年齢は11歳であるが 大人にも負けない位に配慮の出来る子なのだ。  そう、これに気付いた係の者が この悪戯とは思えない程芸術的な塗り潰し術を見て 彼女の言葉なき『本気』の意見を受け入れ この写真ではいけない。 だから、こんな風に完璧に塗り潰されたのだ。 と察して、こんな汚らしい写真を壁に貼り付ける 犯罪行為を止めようと、もう少し可愛い物にしなくては また塗り潰されてしまうから オーナーを模したキャラではなく 全く別のデザインに変更しないといけないなと 試行錯誤する機会を与えたのだ。 これでこのホテルも安泰だろう。 「これでよし、これで死人は出ないであろう。 まだ他にもある筈だから 全て見つけて1匹残らず完全に塗り潰してやる!!」 素晴らしき使命に目覚めるアリサ。 このホテルの至る所に隠れていると言う殺人ユッキーを 宿泊客よりも先に消す使命を与えられた聖戦士アリサ 誕生の瞬間である。頑張ってくれ。しかし 同様に彼女のスタミナも無限ではない。 一気に見てしまい回復し切らないまま 次のユッキーを見るなどして命を落とさない様 適度の睡眠や食事を取り命を回復させつつ 消去行動をして欲しいものである。

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