「お姉さま……私達が漫画化するそうですが、私の出番はちゃんとあるのでしょうか?」 「いや……そりゃああるでしょう。Tシャツ着て、告知絵に載ってたじゃないですか」 とあるアパートの一室にて……居候のステラのその発言に野辺良 花子……もといノベラは呆れたように嘆息する。 その答えで満足するかと思ったが、彼女は神妙な面持ちで言葉を続ける。 「いえ、正確に言いましょうか。私は極銀河系アイドルとして出番はあるのでしょうか」 「それは無いと思います。えぇ、確実に無いです」 「そんな!?」 「だって、あなた無職の居候じゃないですか。アイドル活動してないでしょ別に」 彼女に突き付けたのは端的に事実を表しているのだが、ステラは絶望したような表情を浮かべて顔を青くし、そのままアパートに膝から崩れ落ちる。 どこをどう考えれば『極銀河系アイドル』として出番があると考えたのだろうか。 いいところ、無職の居候としてTシャツ着て『お姉さま~……ご飯まだですか~……』とかそんな風に自堕落にしている場面が描かれるくらいだろうとノベラは考えていた。 「それじゃあ何のための漫画化なんですか!? 普通に考えてアイドルの私が主役でしょう?!」 「いや、どう考えても主役は私でしょう。この物語の女神。ノベラちゃんさんが主役のハートフルで夢いっぱいなストーリーを……」 「こんな築40年のクーラーも無いアパートに住んでる自称女神が主役?! 夢も希望もありませんよ!!」 「なんだとこのステ公!! あなたのアイドルだって自称でしょうが!! 私の女神は本職です!! サイトにちゃんと書いてるんですから!!」 「物語の女神ぃ? ツイッターでは饂飩の女神として認識されてるお姉さまが物語の女神ぃぃぃぃ?」 非常にウザい笑顔をノベラに向けるステラである。 そのウザさは思わず全力で殴りつけたくなるほどにウザい。ウザい系アイドルである。 ただ、ノベラはプルプルと震えながらもその顔に余裕の笑みを忘れない。多少引きつってても、あくまでも余裕の笑みである。 余裕ったら、余裕である。 「いやぁ……CV設定も無いあなたに言われてもねぇ……? ほら、私ちゃぁんとCV設定ありますから。アニメ化、Vチューバー化いつでもいけますから?」 「言っちゃいけないこと言った!! 一人だけCV付いてるからって!! それは卑怯ですお姉さま!!」 「あーっはっはっは、悔しかったら可愛いCVが付いてから文句を言うのですねぇ!!」 負けずにウザい……ステラ以上にウザーい笑顔を浮かべながら「今どんな気持ち?」と言わんばかりに顔を近づける。 ここに白百合さんと黒百合さんがいたら、きっとキャアキャア言うんじゃないかってくらいに顔を近づけているが、今度はステラが悔しさでプルプルと震えていた。 「うぅぅぅぅぅ!! 管理人さんにお姉さまがCV付いてないってバカにしてましたよって告げ口してやるぅ!!」 「ちょっと!! 管理人さん出すのは卑怯ですよ!!」 そのまま二人はプルプルと震えながら……お互いを睨み合う。 どこからか……澄んだ「カーン」と言う名のゴングの音が聞こえてきた気がする。 そして、二人の非常にくだらない喧嘩がドッタンバッタン大騒ぎと言わんばかりに開始された。 その喧嘩の音は築40年のアパートには非常に良く響いて……あまりのうるささに笑顔の管理人さんが止めに来るほどだ。 まぁ……笑顔の管理人さんがアパートの扉を開けて「あら~? 喧嘩? 私も……混ぜてくれる?」と言った瞬間にその喧嘩は収まったが……。 そして管理人さんが「あんまりうるさくしちゃダメよー」と言って去っていった後……ステラはまたしても膝から崩れ落ちる。 「ちくしょー!! 何の努力もしないで漫画化できてラッキー!! これでメディアミックス化してアイドルとしてウッハウッハの左団扇生活ができると思ってたのにー!!」 「ステ公……そんな最低なことを考えてたのですか……」 この世のありとあらゆる絶望を込めた様に、非常に最低なことを全力で叫ぶステラである。 そんなステラを心底ゴミを見るような目で見下すノベラだったが、二人とも、クーラーも無いアパートで暴れたものだから暑くて汗びっしょりの状態で……とりあえずステラはそのまま放っておくことにした。 そして……この部屋にある唯一の癒し……扇風機君のスイッチを押すと、タオルで汗を拭きながらその扇風機君の前を陣取った。 崩れ落ちた状態のステラはそのまま動かないのだが……やがてボソリと呟いた。 「お姉さま……」 「なんですか? ステラ……」 「私、語尾に『マホ』って付けて、お姉さまの事『ノベッキー』って呼ぶべきでしょうか? そうすればCVも……!!」 「漫画化してくれる作者さんの作品のパクリは止めなさい!!」 「だってあの作者さんの作品って割と全部繋がってるっぽいじゃないですか!! その作品に私達も組み込んでもらえれば!!」 「漫画化はノベプラの宣伝とかの為であなたの個人的な欲望を満たすためじゃないのです!! だいたいそんなにアイドルになりたいなら動画投稿でもすればいいじゃないですか!!」 そう、ステラはアイドルを自称しておきながらそう言った活動を一切していない。 ただただノベラの部屋に居候して、日々時間を持て余し、たまに来るメイドさんと喧嘩して、ノベラが苦手だと言っているのに蕎麦をすすり、ソシャゲに一切の課金をせずに遊んでいる……。 その姿は、どんな個性的な女性もアイドルにしようとする某アイドルゲームですら匙を投げかねない勢いである。 そしてノベラの至極もっともなその言葉に……ステラは絞り出すように……心の底からの本音をぶち上げる……。 「努力……したくねぇです~……」 「えぇ~……?」 あまりにも最低であるが、心からのその言葉に……さすがのノベラも何も言えなくなってしまうのだった。
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南方 華(みなかた はる)
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南方 華(みなかた はる)
2020年8月16日 19時19分
尿路結石
2020年8月16日 21時13分
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尿路結石
2020年8月16日 21時13分
奈乃
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奈乃
2020年8月16日 18時37分
尿路結石
2020年8月16日 21時13分
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尿路結石
2020年8月16日 21時13分
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