ブライト王国の王城を脱出して8日、あと2日ほどで国境を越えられると思ったときだった。 林道を歩いていると大きな気配を察知した。 周りを見ると、前の街から近いだけあって人がいる。歩いている人が5人で中の3人が冒険者パーティー風。馬車が二台。 つい、いい人ぶってしまった。 「私は冒険者です。森の中から魔物が来るから逃げて下さい」 「え?」 「はいっ」 「わわわ!」 馬車と一般人のような2人は駆け出した。だけど、冒険者3人は逃げるどころか、こっちを睨み付けてきた。 「おい姉ちゃん、何にも来てねえぞ」 「100メートルくらい森に入ったとこに、大きな気配があるわ」 「おいマイク、何か分かるか?」 「いや、俺の探知には引っ掛かってない」 「姉ちゃん、ランクは?」 「・・Eランク」 「へへへっ、俺らCランクだ。低ランクのざれことに惑わされないぜ」 「薄汚ねえが、顔は悪かねえ。詫びに次の街で酒に付き合え」 「もちろん夜もな」 Eランクを明かしたのは失敗だ。160センチでボロボロの服を着た私、きれいな装備をまとった大男3人になめられてる。 だけど間違いなく、私は何かを感知している。 この8日間は初日にブライト王城で、人を100人くらい「沼」を使って死なせた。旅の中で魔物も沼に沈めた。 その経験値はきっと私にも入っている。 レベル4にしては能力が上がりすぎている。 もしかしたら、このCランク冒険者の3人よりもレベルが上かも知れない。 どこかのギルドで調べたい。 「おい、何とか言えよ」 「もう、その辺の林の中に連れ込まねえか?」 「ん、待て。何かいきなり近づいてきた」 ガアアアア! 「熊よ。かなり大きい!3メートルくらいある」 「げ、シルバーベアだ。ヤバい」 「女に構ってる場合じゃねえ、どうすんだ」 「私、警告したよね。だから逃げろって言ったじゃん。じゃあね」 「おいこら。てめえ、俺らに押し付ける気か」 「魔物が来るって言ったのに、信じなかったのはあんた達の方よ」 「まずい、もう逃げられねえ」 「じゃあね」 森の方に入ってやり過ごし、シルバーベアが私を追って来るなら「沼」を使って倒せばいい。 実は2日前、グリーンウルフ3頭と遭遇した。以前の私なら助からないとこだけど、沼を2つ出して簡単に捕らえて沈めた。 「沼」は強い。 ウルフはまだ生きてるみたいだけど、私が出さない限り死亡確定だ。 「うおおおおお!」 「がルルルル!」 「え?」 なんとあいつら、戦わず熊を引き連れて私の方に走ってきた。最低だ。Eランクと馬鹿にした上に犯そうとした私に、シルバーベアを押し付ける気だ。 腹は決まった。 もう少し森の奥に入ると振り返った。 「観念したか、底辺女」 「俺らの代わりに、熊に食われろ」 いい響きだ。これなら、ためらわず男達を殺れる。 とぷんっ。 沼を出すと、右手で操作して男3人の足を捕らえる。 「なんだ、沈んだぞ」 「湿地帯か、やべえ」 「うそだろ、おい」 「熊の方に行け!」 「うおおおお!」 足をとらわれたクズ3人を「沼」で、シルバーベアの目の前に動かしてやった。 ゴアアアアア! 「ぎゃああああ!」 「ぐげっ!」 「くるなあああ!」 3人が致命傷を負ったころ、シルバーベアの右足も沼に入れた。 とぷん。 「ゴア?」 さすがに強い魔物は慌てない。私との距離は5メートル。 フュイイイン。 「え、何かしてる」 しゅぱん!ぶしゅっ! 飛んで逃れたが風魔法だ。太ももを少し切られた。 これが一つ目の弱点。 私の「沼」は10メートルが射程距離。この熊のような魔法か飛び道具で、足をとらえたあとも反撃される。 「くそっ。もう次の魔法撃ちそう。こうしてやる!」 沼を左右に振って、魔法に集中できないようにしてやった。沼を使えば、熊の巨体でもブンブン振り回せる。 「ごがああがああああああぁ・・・・」 とぽんっ。 「やっと沈んでくれた。ふうっ。シルバーベアをEランク一人で倒せるなんておかしいけどね・・」 思い直して、辺りを見回した。誰にも見られてない。 二つ目の弱点は人前で使えないことだ。 生きた人間でも飲み込むのだ。最初の兵士達のように、見るものからすれば恐怖だ。 そしてブルル伯爵のように、何人か尋問して「沼」の中のことを聞いたが、例外なく中の様子が見えていた。 そう、一緒に入れていた人間の死体なんかもみんな見られていた。 間違って、知り合った人を「沼」に入れてしまったら。 出してあげられるけど、避けられるのは目に見えている。 本当に残念だ。 孤児で底辺冒険者でスキルもショボいから、冒険者仲間はいなかった。 8日前に強力スキルを手に入れて、強い冒険者になれば仲間ができると思った。 だけとこの「沼」スキル。秘密にしないと私の身が危ない。 前みたいにひもじい思いはしなくなったけど、ソロ冒険者を継続するしかない悲しい匂いがプンプンする。 私はクズ冒険者3人の死体を沼の底から出して、めぼしい物を剥ぎ取った。 そして、痛む太ももの傷にボーションをかけて国境に向かって歩き出しだ。
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