指先から伝わる恋

読了目安時間:3分

エピソード:5 / 16

学生みたいなお昼時

「屋上での昼なんて学生以来だわー」 結局悶々としたまま過ごした休日を終えての月曜日。丸川に取り付けた約束を果たすべく訪れたのは社内の屋上だった。 コンビニで買ってきたお弁当を引っ提げて、屋上に出た丸川の問いに頷いて同意する。 色々と迷ったが、お昼の短い時間を加味して、人がいたらすぐにわかる見通しが良い場所といったら屋上しか思い至らなかった。 夏も近いこの時期に申し訳ない気持ちを抱えながらも、絶対に誰の耳にも入れられないことを優先させた結果だった。 「悪いな。こんなところに呼び出して」 「いいよ。聞かれたくない話なんだろう?」 察しの良い丸川がありがたい。甘える形でそのまま屋上に設置されたベンチに腰掛ける。 日差しが高いこの時間はやはり暑さが伴うが、天気が良くて気持ちが良い。大谷の件で勝手に感じている閉塞感を紛らわせようと大きく息をつく。 「なに? もしかして大谷関連?」 「そんなにわかりやすかったか……?」 極力態度に出ないように意識していたが、丸川の前では無意味に等しかったらしい。 今朝、大谷とも顔を合わせて軽く挨拶をしたが、お互いに変な態度は取っていないはずだ。 付き合いが長い丸川だからこそ気付けたのだと思うが、もしかしたらあからさまにおかしな態度を取っていた可能性を考えると冷や汗が浮かぶ。 「いや、見る限りお互い態度はいつも通り。全く普通。ただ、大谷が国木を送った翌日の朝に時間が欲しいって連絡貰ったら、誰だって大谷関連だと察しがつくだろ」 傍目から見ても特に不自然な態度は取っていなかったらしい。その点さえクリアになっていれば、社内でのトラブルは避けられるだろう。 プライベートの出来事を仕事に持ち込まない大谷に感謝だ。 「大したことではないけどな。散々お世話になったにも関わらず、大谷のこと知らないことに気付いたから、同じチームのお前から話聞きたいと思って」 わざわざ人気のない屋上に呼び出す時点で、大したことではないとの言葉は疑わしいものではあるが、丸川は深く詮索することなく「大谷についてね」と首を捻った。 察しが良すぎてどんな予測が立てられているのか考えると少しだけ怖くなってくるが、ここで変に取り繕っても丸川の前ではあまり意味はないだろう。 ここまで来たら情報収集に徹しようと、大谷の直属の上司である丸川の話に耳を傾ける。 「新卒の中でも仕事できる方だよ。教育係からも報連相ができているから指導しやすいって報告を受けている。視野が広いから周りへのフォローが上手い。素直なかわいい将来有望な後輩だよ」 チームが違うので直接一緒に仕事をした訳ではないが、いつも笑顔で過ごしている印象はある。 丸川が気に入っているように、周りに可愛がられるタイプなのだろう。フォロー力の高さは先日身をもって体験済みだ。 「ま、後はあれだ。この点に関しては認めるのはちと悔しいが、やっぱ目が行くよな。あれはモテるタイプだ」 言葉通り悔しさを滲ませる丸川を見て、どこで部下と張り合っているのかと呆れる。 呆れはするものの言っていることは納得がいった。 大谷は顔立ちや性格は派手ではないが、百八十センチは超えているであろう長身は立っているだけでも目立つ。 人によってはその存在感が威圧的に感じられてしまうことがあるかもしれないが、表情や物腰が柔らかいこともあり、大谷からはそれは感じられない。 スタイルの良さと人当たりの良さ、人への気遣い方を考慮すれば人に好かれるであろうことは容易に想像がつく。 「お前とはまた違った形で目立っている奴だよ。モテる同期で手一杯なのに、部下までなんて勘弁してくれよな」 「俺は見てくれが多少良いだけだ。お前や大谷の方がよっぽど好かれているだろう」 「……お前の場合は嫌味じゃないから扱いにくい。俺は慣れたから良いけど、慣れてない奴に天然ストレート放つのは止めろよな。抵抗力がない奴が浴びるには危険過ぎる」 「わかっている」 「いや真面目に頷くんかい。もうこの時点で不安しかないわ」 入社してそんなに日が経たない内から、丸川に忠告されていたことだ。 言われた当初は何を言っているのか全くわからなかったが、今は何となく理解している。

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