指先から伝わる恋

読了目安時間:3分

エピソード:13 / 16

栗原から連絡が入ったのは、お風呂上がりの火照った身体を夜風に晒しているときだった。お願いした当日での返答と、仕事の早い部下に感謝しながら届いたメッセージを確認する。 おすすめスポット三選と題された内容は、簡潔かつ興味を惹かれるものだった。どんなスポットであるかの説明だけでなく、アクセス良さ、混雑状況、おすすめの時間帯といった補足の情報とともに、公式ホームページのURLの添付がされていた。 至れり尽くせりの内容に唸る。栗原が職場で見せるプレゼン能力の高さは、プライベートでも存分に適用されているらしい。 勉強になる提案方法に感心しかけて、頬を軽く叩いて本来の目的を思い出す。 目的は大谷を誘うこと。二週間あまり進展がなかった分、情報収集を行っておきたい。 幸いというか残念というか、週末は特に予定も入っていない。大谷の予定次第ではあるが、栗原のお陰で誘う場所については決めることができた。 大谷を誘う前に栗原にお礼を伝えようとメッセージを打ち込んでいると、タイミング良く追加のメッセージが届いた。 『国木主任の恋が素敵なものでありますように!』 「は?」 栗原からのメッセージに素で声が漏れた。あまりに馴染みのない単語をまじまじと見つめる。言葉の意味はもちろん知っているが、自分とは縁遠い言葉に混乱する。 「恋……」 言葉に出してみるも、やはり何もしっくり来ない。送られた言葉の意味にしばらく悩んでいた後、唐突に思い当たる。 「栗原、もし良かったら年下を誘うときにおすすめの場所教えてもらっても良いか?」 あのとき確かにそうお願いした。その前に彼氏の話を振ったので、国木が年下の相手を誘いたいのだと予想したのだろう。自身の言葉足らずが原因の誤解に溜息を吐く。 どう誤解を解こうか頭を抱えたところで、ふと大谷の顔が浮かぶ。 お付き合いの挨拶をされたこと。 次の約束を遠慮がちにされたこと。 楽しみですと耳元で囁かれたこと。 優しい表情で見つめられたこと。 対面で好きだと伝えられたこと。 触れた指先に熱を感じたこと。 自分と結び付かなかった恋の文字が、大谷を通じて色濃く形作られていく。 夜風のお陰で収まってきた火照りが、思い出したようにじわじわと国木を蝕む。大した意味はないと知りながら、顔をぱたぱたと仰ぐ。 いずれ告げなければならない回答を、国木はまだ持ち合わせていない。自身で答えを出すために大谷を知りたいと動いていたが、それは大谷の想いに触れることと同義だ。 その事実を頭では理解しているつもりだったが、一歩踏み出したことで大谷との距離が縮まった分、より実感を伴って時折苦しくなる。 好きだと伝えてくれた大谷だが、積極的にこちらに踏み込んでこようとはしない。人の機微に敏感なので、国木の戸惑いを感じ取って、あえて距離を取っている可能性はある。 無理を強いることがないのは有り難いが、その代わり国木が動かないことにはなかなか進展はない。 現在の状況は、全て自身が招いたことだとわかっていても、どうしても苛立ちを覚えてしまう。もっと大谷からも動いてほしいと思うのは、やはり我儘なのだろうか。 大谷の真意がわからない。食事を一緒に取っても、連絡先を交換しても、好きだと告げられても、触れてみても、その先に何を求めているのかは見えないままだ。 気付いたらまた手に視線を落としていた。大谷の真意が書かれているわけでもないのに、大谷のことで悩んだり迷ったりすると、つい癖で見てしまうようになった。ふるっと手を振って力なく下す。 窓枠に身体を預けて空を見上げるも、雲が厚いせいで星一つ見つからない。 気分転換にもならない闇をただじっと見つめていると、どんどん思考が後ろ向きになりそうで慌てて窓とカーテンを閉める。 国木は悩んだ末に、中途半端に打ち込んでいた栗原へお礼のメッセ―ジを送って携帯を締まった。

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