指先から伝わる恋

読了目安時間:3分

エピソード:11 / 16

冷たい指先の熱

視線が合わないまま答えが返ってきた。予想外の内容に言葉が継げず、黙って耳を傾ける。 先程から聞こえていた周りの声がやけにうるさい。決してマナー違反ではない範囲の食事処での雑音だ。実際に今の今まで気にならなかったにも関わらず、ここに来てやたら気にかかる。 大谷の話を聞きたい。気持ちを汲み取りたい。 そう思っている自分に気付くと、次は雑音とは違う別の音が耳に障った。これは、自身の呼吸音だ。短い間隔で酸素を取り入れようと喘いでいる。 緊張からか、興奮からか、アルコールによる影響か、国木にはすぐには判断ができない。今できることは、ただ必死に大谷の話に耳を傾けることだった。 「そんな国木さんだから――好きになりました」 その言葉が届いた瞬間、音が消えた。耳が拾っていた雑音が一気に遠ざかり、告げられた言葉だけが耳に残って離れない。 自身の首元を擦る仕草から、こちらを意識していることが十分に伝わってきて、その言葉に嘘がないことをまざまざと突きつけられる。 顔を背けているせいで、大谷の頬に赤みが差しているのがよく見える。まっすぐな言葉とわかりやすい態度に、引っ張られるように自身の体温も上がる。 「あー、ご丁寧にどうも……?」 「えっと、どういたしまして……?」 よくわからないやり取りが交わされた後に流れる空気は、なんとも気恥ずかしいものだった。大谷といるとたびたび感じるむず痒い感覚が、国木の身体をじわじわ支配していく。 目の前に座る大谷とは未だに目が合わない。なぜ自分なんだと問いかける前に向けられた柔らかい瞳は、はっきりと言葉になった今、変化しているのだろうか。 その瞳は、より深い愛情に染まっているのか。 その瞳は、渇きに似た劣情を抱いているのか。 その瞳は、後悔と不安の波に呑まれているのか。   ――こっちを見ろ。 無意識にそう願ったら最後、気付いたら大谷に手を伸ばしていた。 赤みのかかった頬に指が軽く触れた瞬間、大谷が短く声を上げて身体を撥ねさせた。その拍子にようやく視線が合わさる。その瞳が映していたのは、国木自身だった。 自身の像がゆらりと揺れる。それを認めた瞬間、支配されていたむず痒い感覚が形を変えた。 甘さと微かな熱を伴って国木の全身を巡っていく。今度は無意識ではなく意図的に手を伸ばして大谷の手に触れる。 びくりとした反応はあるも、先程のように大きく撥ねることはなかった。逃げられなかったことをこれ幸いと、指先へと手を滑らせる。 「冷たいな」 大谷の指先は予想に反して冷たかった。僅かに震えているのは緊張からだろう。 「伝わった。話してくれてありがとう」 まっすぐに届いた気持ちを、同じくまっすぐ受け取る。同じ会社で働く同性の上司に気持ちを吐き出すのは、思った以上に気力がいることだろう。 言わせてしまった手前、少しでも温かくしようと触れている指先を軽く握る。 国木の体温が移ったかのように、冷たい指先がほんのりと熱を帯びた。温もりを感じて短い息を吐く。 大谷の指先が動いて、国木の指先の上に重なる。自身が行ったことと同じ形であるにも関わらず、される側になった途端に羞恥が沸き起こる。 手を引っ込めようとするも、大谷はそれを許さなかった。国木が握ったときよりも強い力で指先を掴まれる。 痛みを感じる強さではない。けれど、冷たかったはずの指先の熱に触れられると、逃げ出すことはできなかった。 「言えて良かったです」 呟きに似た小さな声だったが、取りこぼすことはなかった。一気に心音が早くなり、息苦しさを覚えるほどだった。 「お、大谷」 離してほしいと続ける前に、するりと指先の熱が去っていった。テーブルの上に残った自身の手が妙に間抜けに見える。 わざとらしくない程度に手を引っ込めると、大谷と目が合った。その瞳に映しているものが何か認識する前に、国木は赤い顔を背けた。 「今日は解散だな。明日遅刻するなよ」 「はい、ご馳走様でした」 笑いが混ざったお礼の言葉に、それは煽っているのかと問い質したい気持ちをグッと抑えて伝票を掴んだ。

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