指先から伝わる恋

読了目安時間:3分

エピソード:1 / 16

第一章

はじまりの朝

まずい、非常にまずいことになった。 頭の内側から無遠慮に響く痛みと目の前に広がる信じられない光景を前に、国木要はベッドの上で小さく呻いた。 頭の痛みは二日酔いだと経験からわかる。目の前の光景の答えも経験から弾き出されるが、あってはならないことだと拒否を試みる代わりとでも言うように、頭痛がより激しくなる。 喉が渇いて仕方なかったが、迂闊に動いて隣で気持ちよさそうに寝ている相手を起こしてしまっては大事だ。頭が働いていない状態で相手を起こすなど愚の骨頂と言える。 少しでも落ち着こうと深く呼吸する。何度か繰り返しているうちに、昨日の出来事がゆっくりと蘇る。 大口の仕事が決まり、部署内で飲み会が行われた。金曜日であることも手伝って、飲み会はいつも以上に盛り上がり、どのテーブルも楽しそうな笑顔で溢れていた。 積極的に会話に入れるタイプではないが、酒の席で見られるメンバーの違う一面に触れるのが楽しくて、なんやかんやとペースを早めてしまった。 酔いを醒まそうと席を立ったところまでは覚えているが、そこから先が抜け落ちている。 記憶が飛ぶほど飲んだ事実に居たたまれなくなる。社会人として働き始めて五年。新人に飲みすぎるなと注意している側にも関わらず、職場の飲み会で記憶をなくすなど恥ずかしいにも程がある。 その代償が現在の状況と考えると情けないことこの上ないが、異性でないこととが唯一の救いだと結論付けて、意を決して大きな身体を横たえている部下の身体を揺する。 「大谷。起きられるか」 「う……ん」 呼びかけると大谷直幸の瞼がそっと持ち上がった。ぼんやりとした瞳でしばらく見つめられたと思うと、次の瞬間には目を見開いて飛び起きた。 「お、おはようございます!」 「あー、うん。おはよう」 寝起きの一声とは思えないほどの声量に、頭痛がより一層酷くなる。 顔に出さないように何とか体裁を取り繕って挨拶を返すと、大谷がこれまた寝起きとは思えない爽やかな笑顔で応えるように頷く。 若さ溢れる表情に差し込む朝日以上の眩しさを感じて目を細めながら、国木は慎重に話を振る。 「昨日は迷惑をかけたみたいで悪かったな。家まで送ってくれてありがとう」 「いえ、そんなことお安い御用ですよ。ご自宅に関してしっかりお答えくださったので、何の問題もなくお連れすることができました。迷惑なんて思っていません」 ぶんぶんと擬音が聞こえてきそうなほど、大谷が大きく手と首を振る。 酒に失敗する頼りない上司だとしても、明け透けに迷惑だった点を挙げるわけにもいかないだろう。気を遣わせてしまったかと次にかける言葉が詰まる。 「あの、図々しくベッドにご一緒してすみません。寝相悪くて夜中に起きたりしませんでしたか?」 「今の今までぐっすり寝ていたから、その点は全く問題ない。大方俺が引っ張ったんだろう。狭苦しい男のベッドに引きずり込んで悪かった」 「え、いやいや。国木さんは悪くないですよ! 遠慮せずに居座ったのは俺なんで!」 頭を下げると大谷が先ほどよりも大きく首を振った。 引きずり込んだのはやはり事実かと冷や汗をかくも、大谷のいちいち大きい挙動が面白くて荒れる思考とは別に表情が緩む。 国木が微笑んだことで、どこか緊張感の漂っていた空気が緩んだ。相好を崩す国木を前に大谷はどこか呆けたような顔をした後、視線を外した。 「あ、の」 言い淀む大谷の姿に首を傾げる。 言いにくそうに口をぱくぱくしている様子に、これは盛大に何かやらかしたかと、緩んだ空気をきゅっと引き締める。

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  • ひよこ剣士

    こまき

    ♡500pt 2022年1月25日 4時12分

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    これは期待

    こまき

    2022年1月25日 4時12分

    ひよこ剣士
  • 女魔法使い

    智恵利みこ

    2022年1月25日 11時43分

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    ゆっくりしていってね!

    智恵利みこ

    2022年1月25日 11時43分

    女魔法使い
  • 女魔法使い

    LUCA

    ビビッと 2022年1月21日 3時28分

    《記憶が飛ぶほど飲んだ事実に居たたまれなくなる。社会人として働き始めて五年。新人に飲みすぎるなと注意している側にも関わらず、職場の飲み会で記憶をなくすなど恥ずかしいにも程がある。》にビビッとしました!

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    LUCA

    2022年1月21日 3時28分

    女魔法使い
  • 女魔法使い

    智恵利みこ

    2022年1月21日 15時56分

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    ありがとうです

    智恵利みこ

    2022年1月21日 15時56分

    女魔法使い

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