下総の犬~玉響~

読了目安時間:2分

エピソード:20 / 100

裏切り ②

 三浦一族(みうら いちぞく)とは、三浦為継(みうら ためつぐ)が後三年の役にて功を立て、一族の発展の礎を築いたとされている。  三浦義村(みうら よしむら)が、和田義盛(わだ よしもり)との起請文(きしょうもん)反故(ほご)にした言葉にあった、先祖の恩祿(おんろく)――。  これは、つまり後三年の役より源義家(みなもとの よしいえ)から賜った、恩のことを指していた。  源頼朝(みなもとの よりとも)が挙兵した折、泣いて源氏の再興を喜んだ三浦義明(みうら よしあき)は、三浦義村(みうら よしむら)の祖父にあたる。これは、和田義盛(わだ よしもり)の祖父でもあった。  三浦義明(みうら よしあき)嫡男(ちゃくなん)義宗(よしむね)和田義盛(わだ よしもり)の父であり、次男・義澄(よしずみ)義村(よしむら)の父である。  つまり、和田義盛(わだ よしもり)三浦義村(みうら よしむら)は従兄弟同士なのだ。 裏切り  ②の挿絵1  しかし、嫡男の倅である義盛(よしもり)が『和田(わだ)』  次男の倅である義村(よしむら)が『三浦(みうら)』  何故、三浦家(みうらけ)の当主が義村(よしむら)なのか――?これには、訳があった。  元々、三浦義明(みうら よしあき)の家督は嫡男・義宗(よしむね)が継いでいたのだが、戦の矢傷が祟り若くして死んだ。  残されたのは、まだ年若い義盛(よしもり)を筆頭に幼子のみ。  死因が矢傷――。  これで分かるように、とてもじゃないが年若い者が継げる家ではなかったのだ。そこで跡を継いだのが、次男・義澄(よしずみ)だった。  義盛(よしもり)は、三浦郡(みうらぐん)和田郷(わだごう)に拠点を構えたことから『和田(わだ)』を名乗ることとなる。  ◆◆◆◆  千葉介胤綱(ちばのすけ たねつな)の言葉が、意外だったのか三浦義村(みうら よしむら)は目を見開いた。  それもその筈、知りたくても聞くのが(はば)かられる内容なのだ。 「何故?今、何故裏切ったのかと問うたのか?」 「そうじゃ、何故裏切ったのじゃ」 「知りたいのか?」 「知りとうて堪らぬ」 「……呆れたわ、そなたは阿呆なのか?肝が座っておるのか?」 「阿呆でも何でもよいわ、本音が聞きたいのじゃ。本音を言わぬなら用はない」 「ほぅ、面白いのう。天罰は信じぬか?」 「信じるわけがなかろう」 「それもそうじゃな、それでは忠義はどうじゃ?」 「カビの生えた八幡太郎(源義家)の話などいらぬ」 「ほぅ、困ったのう」  義村(よしむら)は、ニヤニヤと唇を緩ませると胤綱(たねつな)を眺め回す。それは面白い者を見つけたと嬉々とする(おもて)だ。 「千葉介(ちばのすけ)、1つ答えよ。そなたは何故、和田義盛(わだ よしもり)を慕う?歳を考えれば顔見知りと言うても、チラリと会った程度ではないか?」 「顔を見たのがチラリでも、源平の戦話の和田(わだ)様は、目の前に居るかのような存在である。憧れて何が悪い、そのような方が……この千葉介(ちばのすけ)に弓を教えてくださると約束して下さったのだ。何も役に立たぬ童を相手に――!和田(わだ)様は誰にも負けぬ!鎌倉の侍所別当(さむらいどころべっとう)である!」 「……それよ」  義村(よしむら)の言葉が不意に放たれた。  それは地を這うような低いものであり、義村(よしむら)の目を見据えていた胤綱(たねつな)は、放たれた声色と同時に(まなこ)まで、暗く沈んだ様に見えた。  本当の理由を口にしそうな三浦義村(みうら よしむら)に、千葉胤綱(ちば たねつな)は生唾を呑み込んだ。そして問うた。 「それ?……それとは?」 「侍所別当(さむらいどころべっとう)」 「ま、まさか!! お前も別当になりたかったのか!!」  胤綱(たねつな)は、仰天した。  思わぬ答えだったのだ。そして又もや、無礼な物言いをした。 『欲しゅうて、欲しゅうて堪らなかった』  執権(しっけん) 北条義時(ほうじょう よしとき)はそう言った。  胤綱(たねつな)は、二の句が継げず呆然と立ち尽くす。その姿を眺める三浦義村(みうら よしむら)は、ゆるゆると唇を引き上げた――。

●後三年の役 清原氏が滅亡し、奥州藤原氏が勝利した戦い。 ●起請文 約束を決して違えないと神に誓う物。

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