下総の犬~玉響~

読了目安時間:2分

エピソード:4 / 100

謀反の露呈

 時として1年は、早く感じるものである。  それが、1日1日を長く感じてもだ。  和田一族(わだ いちぞく)の滅亡から、既に6年の歳月が経っていた。  この年の正月も将軍 源実朝(みなもとのさねとも)への挨拶の為、御家人(ごけにん)達が鎌倉へ集まり御所(ごしょ)大賑(おおにぎ)わいであった。 「それにしても、よく降るのぅ」 「寒くてかなわぬなぁ」  警護の者達がコソコソと愚痴を吐くのを尻目に通り過ぎるのは、下総(しもうさ)千葉胤綱(ちば たねつな)。  幼い頃、憧れてやまなかった和田義盛(わだ よしもり)のいない御所(ごしょ)を唇をへの字に曲げ、何処(どこ)か冷めた目付きで流し見ていた。  回廊(かいろう)を進む視界に入ってくるのは、誰もが(なご)やかに言葉を交わしている様子であり、外を眺めると白銀(はくぎん)の風景に思わず笑みが溢れそうになるのだが、グッと唇を引き結ぶ。笑ってたまるか!と。  胤綱(たねつな)は、思う。  あの頃には 分からなかった事が 今ではよく分かる――と。  (わらべ)の頃には知り()なかった、北条(ほうじょう)和田(わだ)の確執も元服(げんぷく)し、家督(かとく)()いだ今では、周りが教えてくれるのだ。 『一緒に挙兵(きょへい)した者達は 数多く滅んでしまった』  そう言って何処か悲しげに呟いた和田義盛(わだ よしもり)の顔は、今にして思えば疲れきった表情だったと胤綱(たねつな)は思う。  次々に、目の上のタンコブのような者を滅ぼし、着々と名実ともに鎌倉の実権を握りだした北条義時(ほうじょう よしとき)にとって、侍所別当(さむらいどころべっとう)和田義盛(わだ よしもり)は邪魔であったのだろう。  これまでの北条(ほうじょう)の手口からすれば、何か仕掛けていたことは想像に固くない。それでも度重(たびかさ)なる挑発に乗らない和田義盛(わだ よしもり)に、とんでもない事が起こった。  義盛(よしもり)の子息、甥に謀反(むほん)嫌疑(けんぎ)が掛けられたのだ。  胤綱(たねつな)は、何年も経ったのち聞かされた話である為、何処までが(まこと)か分からない。  ただ、誰もが否定しないということは その通りなのだろう。  事の発端とされるのは  建暦(けんりゃく)3年 (1213年)に(さかのぼ)る。  この年の2月 泉親衡(いずみちかひら)の使者が、千葉成胤(ちば なりたね)を訪ねてきた。  千葉成胤(なりたね)――、胤綱(たねつな)の父である。使者はとんでもないことを告げた。  2代将軍、源頼家(みなもとのよりいえ)遺児(いじ)千寿(せんじゅ)を将軍に擁立(ようりつ)し、北条義時(ほうじょう よしとき)()つ――と。  驚いたのは、企みを打ち明けられた胤綱(たねつな)の父・千葉成胤(ちば なりたね)である。  直ぐ様、その使者を縛り上げ北条義時(ほうじょう よしとき)に突き出した。  これは、致し方なし――と胤綱(たねつな)は理解している。  捕縛(ほばく)された者は、自白(じはく)した。  それは大規模な謀反(むほん)であったが、そこに名を連ねたのが、和田義盛(わだ よしもり)(せがれ)である和田義直(わだ よしなお)和田義重(わだ よししげ)。その他にも甥にあたる和田胤長(わだ たねなが)ら、一族十数人。  北条義時(ほうじょう よしとき)の動きは早かった。  加担した和田(わだ)家の者達を、直ぐ様引っ捕らえたのだ。更に運が悪いことに、和田義盛(わだ よしもり)上総国(かずさのくに)自領(じりょう)へ戻っていたのである。 (偶然だろうか?)  胤綱(たねつな)は、思う。  わざと和田義盛(わだ よしもり)が鎌倉を留守にしている時を狙ったのではないか?  本当のことは分からない。ただそう思ってしまう程、北条(ほうじょう)手際(てぎわ)が良かったのだ。

●源頼家(みなもとの よりいえ) 源頼朝と北条政子の長男であり、鎌倉2代将軍。 北条家により出家させられた後、殺害された。 吾妻鏡 1213年2月15日 千葉介成胤が安念法師を捕らえ、北条義時に突きだす。 2月16日 安念法師自白。首謀者130人余人、一味は200人に及ぶ。

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