ゲートキーパーズ・アパート ~異界対策部のお仕事~

読了目安時間:5分

第十四章 ヨウコソ、ワガヤヘ

ヨウコソ、ワガヤヘ 1

「ショータロー、お願い!」 「よしきた!」  マリーの声に応え、祥太郎(しょうたろう)は意識を集中させる。すると、結界に阻まれ、動きを止めていた水が一気に消滅した。  『ゲートルーム』の一角。そこにはアクアブルーにゆらめく空間が広がっている。大小さまざまな色の魚影(ぎょえい)が行きかう様子は、巨大な水族館に迷い込んでしまったかのような錯覚を、見る者たちにもたらした。 「また来るわ!」  バラバラに泳いでいた魚の動きが、示し合わせたかのように止まる。サメに似た魚たちは、こちらへと向かい一斉に口を開いた。  再びマリーの結界がそれを防ぎ、祥太郎が能力で押し戻す。先ほどから一進一退の攻防が続いていた。 「リサ、まだなの!」 「ごめん! お待たせ!」  言ってずっと()を練っていた理沙(りさ)が、両手を広げる。 「マリーちゃん、祥太郎さん、よろしくお願いします!」  そして彼女の手から金色の光が放たれた。  それは解除された結界の一部をすり抜け、祥太郎の能力によって加速する。 「『ライトニング手のひら.net』!」  空間を覆う網となった光は、あわてて逃げようとする魚たちを根こそぎ捕らえた。あれほど沢山あった魚影は、はるか彼方へと飛ばされ、見えなくなっていく。  それから少しの間を置き、『コンダクター』が華やかな音を奏でた。浮かぶ"Complete!!!"の文字を見て、三人はこの『ゲート』での攻防戦が終わったことを知る。 「お疲れ様でした! あたしたちの必殺技、ばっちり決まりましたね!」 「ちょっと待って、ドットコムにわたしを巻き込まないでくれる?」 「マリーちゃん、ドットコムじゃなく、『ドットネット』だよ! 網とネットをかけた、いいネーミングだと思わない?」 「全く思わない」 「そんなー! ――祥太郎さんはどう思います?」 「あー。えーっと……そ、それより、(さい)の方はどうなってるのかな」  話を振られないように大人しくしていたものの、キラキラとした瞳を向けられてしまい、祥太郎は急いで話題を変えた。 「また徹夜したって言ってましたね。才さん、ここのところずっとテストルームに寝泊まりしてるみたいです」 「ちょっと行けば自分の部屋があるのになぁ」 「それはもっともな意見だけれど、少しの兆候(ちょうこう) も見逃したくないんじゃないかしら。ショータローみたいに一瞬で移動できるわけでもないし」  テストルームには、先日『魔王』の研究をした際に使っていた機材などがそのまま置かれている。アーヴァーから持ち帰った渾櫂石(こんかいせき)のことを調べるのには都合が良かった。 「ねぇ、このままテストルームに寄ってみない? 何か進展があるかもしれないし。わたしも時々アドバイスをして欲しいって頼まれてるの」 「メンバーの中だと、魔術に関してはマリーちゃんが一番詳しいもんね。あたしは構わないけど、祥太郎さんはどうですか?」 「僕もいいよ。今回は終わるの早かったから、そんな疲れてないし」 「ショータローもすっかり仕事に慣れたわよね。……あ、すぐだから、歩いていきましょ」  それから少し雑談をしながら向かったテストルーム。 「うわぁっ! ――なんだ才か。ビックリした」  ノックをし、しばらく経っても返事がないためドアを開けようとしたところ、目の下にくっきりとクマを作った才が無言で出てきた。 「サイ、大丈夫なの?」 「ちゃんと寝ないと体に毒ですよ」 「寝てるっちゃ寝てるんだが……まあ入れよ」  (うなが) されて中へと入ると、入り口近くにテーブルやパイプ椅子、寝具などがごちゃっと置いてある。大き目の機材は脇へとどけられ、テーブルの上にはノートPCと渾櫂石、ペットボトルや食事の残骸などが載っているだけだった。  祥太郎たちも隅に立てかけてあったパイプ椅子を持ってきて、思い思いの場所で座る。『魔王』を調べていた時とは違って部屋のだだっ広さが目立ってしまい、何だか落ち着かない。 「それで、何か進展はあった?」 「んー……」  マリーがたずねると、才は眠そうにうなりながらPCのキーをポチポチと叩いた。それから渾櫂石をつまみ上げて眺める。 「この石さ、色々と手を尽くして調べてみたんだが……」 「分からなかったのか?」 「いや、そうじゃなく――これって、ほぼほぼ『賢者の石』なんだよ」 「賢者の石!? あの伝説に出てくる!? そんなのアーヴァーにゴロゴロあんの!?」 「ちげーよ。『賢者の石』って商品があんの」 「マジックアイテムを作る時の媒体(ばいたい) にするのよ。教材としてもよく使われてるわ」 「(まぎ) らわしいわそのネーミング! っていうかアリなのかよ?」 「確か蒲田(かまた)にも工場があるんだよな」 「……僕なんかが口を挟んで悪かったよ。そういう夢のない情報はいいから、さっさと次に行ってくれ」 「ということはつまり、儀式か何かを行わないと、渾櫂石は力を発揮しないってことよね?」 「ああ、恐らくな。俺が今んとこ調べられる限りじゃそうなる。となると、石に特別な力があるっつーよりは儀式とか、アーヴァーの環境そのものの方が大事なんかなって」 「それならルフェールディーズさんたちに、詳しいこと聞いてみたらどうでしょうか?」  吐きだされた溜め息に、理沙が明るい声で返す。 「だけど、儀式のことを教えてくれたとしても、それって『魔王』や『天使』の力を借りるためのものなのよね。わたしたちが召喚術師(しょうかんじゅつし) のオーディションをしたのも、異世界から人を召喚できる能力を欲したのであって、色々と事情がわかった今となっては、召渾士(しょうこんし)の技術で遠子(とおこ)を呼び戻せるとは、あまり思えないかも」 「そうなんだよなー……ま、何かのヒントにでもなるかもしんねーし、聞いてみるのもアリかもしんねーけどな」  そうして少し重くなった空気を破ったのは、またしても理沙だった。 「……あのー、みんなで食堂にご飯食べに行きません? おいしいもの食べたら元気が出て、いいアイディアも浮かぶかも!」 「いいね! 僕もそろそろ何か食べたいなーって思ってた」 「そうよね。さっきお仕事終わったばかりだものね」  皆の視線が才へと集まる。彼も少し笑ってうなずいた。 「だな。俺もここんとこちゃんとしたもん食ってねーし。……ちょっとここ、(かた) してくから、三人は先に行っててくれよ」 「分かりました! 先に何か注文しておきますか?」 「でも早苗(さなえ)さんの料理、速攻出てくるじゃん。理沙ちゃんたちは俺を待たずに食ってていいからさ」 「はーい!」 「じゃ、先行ってるな」  三人とも部屋を出て、一番後ろにいたマリーがドアを閉める。  そこでふと思い出したことがあり、再びドアを開けた。 「ねぇサイ、もしアーヴァーに行くなら渡航申請(とこうしんせい) ――あら?」  勘違いかと思い、部屋の中へと足を踏み入れる。 「サイ?」  照明もテーブルの上のPCも電源が入ったまま。背後のだだっ広い空間にも、変化は見られない。  才の姿は、跡形(あとかた) もなく消えていた。

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