ゲートキーパーズ・アパート ~異界対策部のお仕事~

読了目安時間:5分

ヨウコソ、ワガヤヘ 2

「マリーちゃん、どうしたの?」  理沙(りさ)の声が背後でし、我に返る。ドアのところからこちらを見る二人へ、マリーは急いで手招きをした。 「サイが居なくなっちゃったの!」 「いなくなったってどういう――あれ? ほんとだ、いないね」 「どっかに隠れてるとかじゃないのか? って、そんなことする意味ないか。倒れてたら……分かるよなぁ」  祥太郎(しょうたろう)は言って、置かれていたブランケットをまくってみるが、当然何も出てこない。 「だってPCもつけっぱなしなのよ? わたしは部屋を出てすぐに戻ったから、その間にドアから出ていくのは不可能だし、この見通しの良い部屋じゃ、どこかにいればすぐ分かるでしょう?」 「じゃあこれって、いわゆる密室ってやつなのかな? 出ていくのは不可能なのに、消えちゃって――あっ」  そこで理沙は小さく声をあげ、祥太郎を見た。 「ん? ――いやいや違う違う、僕は飛ばしてないから」 「でもこの前もあなた、うっかり花瓶をどこかに飛ばしてたでしょ? ボーっとするとそういうことあるもの」 「マリーまで……だって考えてもみてよ。才は僕の視界にはいなかったじゃないか。さすがにボーっとした状態じゃそれは無理だから。あとそんなに僕、ボーっとしてないから」 「なるほど。ここはまず、祥太郎さんがほんとにボーっとしてなかったかの検証から始めるべきなのかも」 「理沙ちゃんひどくない!?」 「ひとまずショータローはボーっとしてなかったということで話を進めるわ。何かサイが消えるきっかけになったものとか、証拠になるようなものがあるかもしれない。探してみましょう」  それから三人は、テストルームの中をくまなく探し始める。  その結果、分かったことがひとつ。 「渾櫂石(こんかいせき)がなくなってるの、怪しいよね……」 「『魔王』が中に入ってるみたいにさ、才も中に閉じ込められちゃったとか?」 「そうね……」  マリーは二人の意見へと曖昧に答えてから、少し考えをめぐらせた。 「サイの分析が正しいならば、渾櫂石自体にサイを閉じ込める力はないと思うの。仮に秘められた力があって、そういうことが起こったのだとしても、渾櫂石も一緒になくなっているのは違和感があるわ」 「確かにそうかもなぁ。じゃあ渾櫂石が光って、一緒になって才を消しちゃったとか?」 「祥太郎さん、それだと部屋のものが全部残ってるのって、ちょっと変じゃないですか?」 「あ。そっか」 「ただ、その力が限定的なら、サイだけが消えるってことはあるのかもしれない。たとえばこう――ビームみたいに魔法の光が出てサイを狙ったとか、サイ自身がちょうど渾櫂石を手に持っていたとか」  そこで彼女はひとつ、息を吐く。 「でもやっぱり、サイの分析がそこまで的外れだとも思えないのよね。わたし自身がアーヴァーで見聞きしたことを考慮しても。となると、もう一つの大きな可能性の方になるんだけれど……」 「それって――ああ」 「やっぱそれかぁ」  理沙も祥太郎も、言わんとするところをすぐに理解した。 「そう――『ゲート』よ。けれど問題は、そんな気配は一切なかったってこと」 「才さんも何も言ってなかったし、大体はまずコントロールルームの監視システムに引っかかるもんね」  理沙は言って、もう一度テストルームの中を見回す。 「何も感じなかったし、あたしたちのあとにマリーちゃんがこの部屋を出て、それから戻って……本当にちょっとの間だよね。そんな『ゲート』ってあるのかな?」 「わたしの記憶にはないけれど……」 「この前、知らないうちに侵略されてたのを考えると、何でもアリって感じはするよなぁ」  祥太郎の言葉で、『悪夢を招く者(ファントム・ブリンガー)』の記憶が、皆の中によみがえった。  マリーはそれを振り払うかのように軽く身震いをすると、腕につけた『コンダクター』に触れる。 「とにかく、もうわたしたちだけの手には負えないわ。マスターに報告して、判断をあおぎましょう」 「それがいいね、じゃあマリーちゃんお願いします! ――祥太郎さん、その間あたしたちで、もう少しだけ現状を再確認しておきません?」 「そうだね、何か見つかれば追加で報告できるし」  それから異変に気づいたのは、すぐのことだった。当然聞こえるはずのものが、聞こえなかったからだ。 「マリーちゃ――」  二人は同時に振り返る。そこにマリーは、居なかった。 「は? ――えっ? なんでマリーまでいなくなってんの!?」 「ドアは――閉まってますね。ごめんなさい、あたしが余計なこと言わなければ……」 「いや、でもあんな一瞬の間にいなくなるなんて、僕も思ってなかったし」 「報告するって言ってから、マリーちゃんの声、全くしなかったですよね……? 通信をつなげる前に消えちゃったのかも」  理沙は自らの『コンダクター』を見る。通信が入った痕跡(こんせき)はない。祥太郎も確認するが、同じだった。 「確かに、何か変な通信記録があれば、僕らの方に連絡来てもおかしくないよな。――よし、直接コントロールルームに行こう。もしマスターが居なくても、スタッフの誰かはいるはずだから」  それから返事を待たず、転移を開始する。  景色はぐにゃりと歪み――すぐにまた通常へと戻った。しかし普段とは違い、着地の際に少しバランスを崩してしまう。 「うわっと。……あれ? みんなは?」 「祥太郎さん! ここ、テストルームですよ!」 「マジだ。なんで?」  その問いに答えられる者はいない。改めて見まわしても、向きが変わっただけで、先ほどと同じ部屋の中にいる。 「もう一度――いや、やめた方がいいのか」  原因は何であれ、何か妙な力に邪魔をされているのは間違いなさそうだ。祥太郎は少し迷ったあと、部屋のドアを指差した。 「理沙ちゃん、普通に走っていこう」 「そうですね。はぐれないように気をつけた方がいいのかも。才さんもマリーちゃんも、誰も見てない時に消えてますから」 「そうだな。――あっ」    理沙は祥太郎の手を取り、少し戸惑う彼を引っ張りながら外へと向かう。ノブに手をかけ、扉を開いた。  ――そこには、ぽっかりと口を開けた闇が待っていた。

コメント

コメント投稿

スタンプ投稿


このエピソードには、
まだコメントがありません。

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 蒼空世界のメカ娘~レミエと神とあの空の話

    生意気最強メカ娘と往く空中都市の冒険譚

    773,761

    3,693


    2021年6月20日更新

    機械の四肢で空を駆けるメカ娘『奉姫』が人を支える空中世界『カエルム』 空の底、野盗に捕えられた奉姫商社の一人娘『アリエム・レイラプス』を助けたのは奇妙なAIと奉姫のコンビだった。 『奉姫の神』を名乗るタブレット、カミ。 『第一世代』と呼ばれた戦艦級パワーの奉姫、レミエ。 陰謀により肉体を失ったというカミに『今』を案内する契約から、アリエムの冒険が始まる。 カエルムと奉姫のルーツ、第一世代の奉姫とは? 欲する心が世界の秘密を露わにする、蒼空世界の冒険譚。 ・強いて言えばSFですが、頭にハードはつきません。むしろSF(スカイファンタジー) ・メカ娘を率いて進む冒険バトル、合間に日常もの。味方はチート、敵も大概チート。基本は相性、機転の勝負。 ・基本まったり進行ですが、味方の犠牲も出る時は出ます ・手足武装はよく飛びますが、大体メカ娘だ。メカバレで問題ない。 ※2020.3.14 たのの様(https://twitter.com/tanonosan)に表紙およびキャラクターデザインを依頼・作成いただきました。この場を借りて感謝申し上げます ※2020.8.19 takaegusanta様(https://twitter.com/tkegsanta)にメカニックデザイン(小型飛空艇)を依頼・作成いただきました。この場を借りて感謝申し上げます

    • 暴力描写あり

    読了目安時間:21時間8分

    この作品を読む

  • クロの戦記 異世界転移した僕が最強なのはベッドの上だけのようです

    5月1日第6巻発売です!!

    3,585,651

    52,130


    2021年5月1日更新

    ケフェウス帝国の貴族であるクロノ・クロフォードには秘密があった。 それは異世界――現代日本からやって来たことだった。 現代日本の価値観と知識を武器に目指せ! ハーレムキング! まずは千人の部下を率いて、一万の大軍を打ち破るべし! なお、第2部中盤まで内政メインでストーリーが進行します。 ◆連絡◆ 2021年05月01日 HJ文庫様より「クロの戦記6 異世界転移した僕が最強なのはベッドの上だけのようです」発売 2020年08月01日 HJ文庫様より「クロの戦記4 異世界転移した僕が最強なのはベッドの上だけのようです」発売 2020年07月03日 少年エースplus様にてコミカライズ開始 2020年04月01日 HJ文庫様より「クロの戦記3 異世界転移した僕が最強なのはベッドの上だけのようです」発売 2019年11月30日 HJ文庫様より「クロの戦記2 異世界転移した僕が最強なのはベッドの上だけのようです」発売 2019年08月31日 HJ文庫様より「クロの戦記1 異世界転移した僕が最強なのはベッドの上だけのようです」発売 2019年07月23日 HJ文庫様よりリブート決定、リブートに伴いタイトルを変更しました。 2019年05月17日 ノベルアップ+様に投稿開始しました。レイアウト修正中。 ◆備考◆ オーバーラップノベルス版『クロの戦記Ⅰ~Ⅲ』発売中。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:65時間29分

    この作品を読む