ゲートキーパーズ・アパート ~異界対策部のお仕事~

読了目安時間:8分

召喚術師と召渾士 4

「えええっ!?」  ナレージャはそれを聞き、大きな声を出した。 「い――イヤですよぅ! 皆さんにご迷惑をおかけしたばっかりじゃないですか! それに、私がアーヴァーに帰るのと、『魔王』を呼び出すのには、全然関係が……」 「ナレージャ、ちょっと考えてみて」  マリーは彼女の言葉をさえぎり、(さと)すように言う。 「わたしたちも今のままじゃ、あなたを元の世界にどうやって帰してあげたらいいのか、さっぱり分からないの。だけど、あなたが『魔王』を呼び出せるってことは、この世界と渾界(こんかい)はつながってるってことでしょう?」 「あっ……た、確かに」 「だから、まずはそっちから攻めてみようと思うの」 「だ、だけどですね、やっぱりまた皆さんを危険な目に遭わせちゃうのは、ちょっと気が引けるというか、心の準備が……」 「そこのあたりは、こうやってきちんと対策を立ててるから大丈夫。不意をつかれたあの時とは違うから」  示された方向には、光の柱。部屋に入ってきた時も圧倒されたそれを見ていると、大丈夫そうな気はしてくる。 「……わ、わかりました。ありがとうございます。やってみます!」  ナレージャは自らを奮い立たせるように大きく何度かうなずくと、柱が囲む中心へと歩みを進めた。 「こ、ここで呼び出せばいいですか……?」 「ええ。――ショータローは、ナレージャが眠ったらすぐこっちへ連れ出してね」 「ああ、分かった」 「じゃあ……行きますね」  彼女は召渾士(しょうこんし)の杖を握りしめ、一つ大きく呼吸をする。  そして、その言葉を発した。 「グロウザの火よ。深淵(しんえん)(のぞ)く目よ。――来たれ、『魔王』」 「『観察者の小箱(オブザーバーズ・キャスケット)』!!」  そこへ、マリーの『綻びの言葉(ヒドゥン・スレッド)』がぶつかる。  一つの柱から、隣の柱へと橋渡しをするように、光が押し出されていく。それは次の柱へ、次の柱へと、猛スピードでつながっていき、赤く光った石から『魔王』がはっきりと姿を現した頃には、巨大な多角形の光の箱とでもいうべきものが出来上がっていた。 「祥太郎(しょうたろう)君、ナレージャ君を!」 「了解です!」  マスターの指示と同時に、待機していた祥太郎がナレージャを救出する。その間にも、『魔王』の姿は立ち上る噴煙(ふんえん)のように『箱』の中へと広がっていく。 「ナレージャちゃんOKだな! よし祥太郎、分析のためにデータ取るから、『魔王』の周りを適当に飛び回ってくれ」 「……いや飛び回れって言ったって、転移したあと普通に落ちるんだけど」 「落ちる前にまた飛びゃーいいだろ」 「落ちそうな時は、理沙(りさ)君がサポートしてくれるから大丈夫だよ。いざとなれば私と雨稜(うりょう)さんも居るしね」 「うわぁ、メチャクチャ言うなぁ」  だが、文句を言っているひまはなさそうだ。祥太郎はすぐに意識を集中させた。  景色は一瞬にして変わる。すでに二人の体はドーム状になった天井近く、『魔王』の真上に浮かんでいた。 才が小型のカメラでデータを取る間、祥太郎はこまめな転移を繰り返す。 「よし! 次」  次は斜め後方から。マスターによって強化され、分厚い色ガラスのようになった結界の中、『魔王』が動いている様子が見える。  まだ気力体力にも余裕があったが、続けていけば観察する余裕もなくなるかもしれない。一番高い所から作業を始めたのもそのためだ。 「それで、この後どうするの? マリーちゃん、何か思い当たることがあるって言ってたよね?」  一方の地上。  理沙は飛んでいる二人から目を離し、結界の維持をしている彼女の背中へと問いかけた。その際に()を送り込み、エネルギーをチャージするのも忘れない。 「ええ。――時間よ」  マリーは背中を向けたままで答える。 「ここは召渾士(しょうこんし)たちのいる世界じゃない。この世界での『魔王』の活動は制限されるんだと思うの。だから、消えてくれるまでしばらく耐える。その間に出来るだけのデータを取っておきたいわね」 「なるほどー!」  理沙も言って、『魔王』の方に視線を向けた。『箱』の中で拡がる黒々としたものは、見ている者の不安を(あお)るかのようにうごめく。  うごめく。  うごめく。  うごめく。  30分経っても、1時間経ってもうごめき続ける。 「……あら?」  流石(さすが)に違うんじゃないだろうかという空気が、皆の中に漂い始めた。  結界には、みっしりと『魔王』が詰まり、すでに向こう側が見えなくなっている。さながら巨大な一本の黒い柱が、部屋のど真ん中にそびえ立つかのようだった。 「て、適材適所おそるべし……」  そして転移を繰り返しまくった祥太郎は、片隅でぐったりとしている。 「マリーちゃん、あのね……」 「わかってるわリサ。わたしの仮説が間違っていたのよ」 「そうじゃなくて――いや、そうかもしれないんだけど、あたし、ひとつ気づいちゃったことがあって」  理沙の視線は、寝息を立て無邪気に寝ているナレージャへと向かう。 「ナレージャさんの杖、たぶん結界の中に置きっぱなしだと思うんだけど、それって関係あるんじゃない?」 「えっ?」  マリーも振り向き、ナレージャの近辺を確認する。確かに、召渾士(しょうこんし)の杖が見当たらない。急いで祥太郎の方を見ると、やっちまったという表情が返ってくる。 「関係、あるかも……」  前回は、こちらが結界に入る側だった。それにより、『魔王』と渾櫂石(こんかいせき)は分断された状態となったはずだ。 「よしドジっ子太郎。今すぐ取り出せ」  才が祥太郎を見ながら、結界の方を指差す。 「でも、中なんにも見えないし……」 「んじゃ、中に入って探してこい」 「そんな~! ――ってまさかマジで言ってる?」 「マジなわけないでしょ、死んじゃうわよ。それに、結界も強化したから、簡単には出入りできないし」 「だけど、このままだとヤバいよなぁ……ごめん。ナレージャ起こすのはどうかな?」 「そうですよ! まずはやってみましょう!」  理沙が元気よく言って、ナレージャの近くへと歩み寄った。 「ナレージャさーん! 起きてください! 朝ですよ! ごはんですよ! お菓子もありますよ!」  呼びかけながら、最初は優しく、徐々に強めに体をゆすってみるが、目を覚ます気配は全くない。 「ダメかぁ……ちゃんと『気』を込めたんだけどな。師匠はどうですか?」 「うーん、私も同じタイプだからねぇ。マスターさんも。他のみんなだって、そういうの得意じゃないだろうし」 「トーコなら、簡単に起こせたかもね」  ふとこぼれた言葉で、少しだけ、しんみりとした空気になる。 「まあ、とにかく、別のことも試してみようじゃないか。――才君、何か『()え』ないだろうか」  マスターに言われてうなずき、才は宙に目を向けた。 「そっか……あれ、俺の勘違いじゃなかったんか」  そして、答えはすぐに返ってくる。  彼は振り返り、皆の背後にいる人物へと指を突き付けた。 「カリニお前、何とかしろ」 「な、何とかしろとは、どういうことだ」  矛先が急に自分へと向き、戸惑いを隠せないカリニに、才は指をぐいっと近づける。 「トボけてもムダだかんな。前の『魔王』騒動の時も、お前が何かやって収まったってのはバレてんだよ」 「だから、その何かというのは何なのだ」 「それは……俺が知るかよ! さっさとやれバカ!」 「才君、ひとまず落ち着いて」 「ってかマスターも、気づいてたフシがあるよなぁ?」 「まぁ、あの時も才君がカリニ君のことを気にしてたしね。一つの仮説としては考えていたよ」 「それなら早く言ってくださればいいのに……お人が悪い」 「いや、でもね。他の仮説も検証してみなければ分からなかったからね」  才とマリーに(にら)まれて引きつった笑みを浮かべつつ、マスターは話を続ける。 「カリニ君自身に全く覚えがないならば、この前の行動を再現してみよう。そうすることで、同様に『魔王』が消えるかもしれない」 「じゃあ、早速やってみましょう! もう結界がパンパンですし」  理沙の言うように、もうはち切れて破れるんじゃないかというくらいに、結界は膨れ上がっていた。 「見た目よりは大丈夫だよ。こうなるのを見越して、結界も広がるような仕掛けを施したんだ。いっぱい食べ過ぎた時でも、ゴムが伸びるズボンだと安心だろう?」 「相変わらず説明がすごくないけど師匠すごーい!」 「いいからさっさとやろうぜ! ――まず、カリニは寝たフリしてたな」 「あれは……瞑想だ」 「何でもいいから、そこ横になれ」  才に言われ、カリニはしぶしぶ横になった。 「わたしはあの時も、結界の維持をしてたわね」 「えっと、あたしとマスターと師匠と祥太郎さんは、ナレージャさんを起こしたらどうかって話し合ってましたね」 「その後マスターが、何か視えないかって俺に言ってきて……はい! カリニがどーん!」 「……?」 「何やってんだよ! ほらもっかい立ちあがって、決め台詞どーんだよ!」  カリニはしばらく考えていたが、小さな声でぶつぶつと言葉を繰り返し始めた。  それから咳払いをし、がばりと起き上がる。 「ふはははは! 我の力を欲するか!」  その急なやる気に反して、静まるテストルーム内。  呆気に取られている才に、カリニは何度も目配せをする。 「へ? ――ああ、そっか。えーと……そうそう。あれ何とかしてくれ」 「…………事態の解決を我が許す。よきにはからえ」  立ちあがった彼が、再び横になってしばらく。 「本当に『魔王』が消えてくわ!」  結界と対峙していたマリーが真っ先に声をあげる。  それからはあっという間だった。あれだけ存在感を示していた黒い色は跡形もなく消え去り、金色に輝く半透明の『箱』が残る。その中には、ナレージャの杖が落ちているのも見えた。 「へぇ、あれカリニが消しちゃったのか。すごいな」 「いや、違うぞ祥太郎」  いつの間にか才は、カメラを起動させていた。  その先には、この騒動の中でも眠りこける無防備な姿。 「消したのは、ナレージャちゃんだ」

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