ゲートキーパーズ・アパート ~異界対策部のお仕事~

読了目安時間:5分

襲来 2

「はぁ……」 「ショータロー、もういい加減覚悟を決めなさいよ、うっとうしい」  『ゲートルーム』へと向かいながら吐かれる、何度目になるかわからない溜め息に、マリーがこらえかねて言った。 「溜め息ばっかりついてると、オバケが寄ってくるらしいですよ」 「幸せが逃げる、じゃなくて?」 「え、そうなの? 地域差かなぁ」  自分を置き去りにして話題が広がるのを尻目に、祥太郎はまた溜め息をつく。  結局流されるまま、やることになってしまった。先日の攻防戦が思い出され、 暗澹(あんたん)たる気持ちになる。  そんなことがありながらも最初の部屋に到着した三人は、『コンダクター』と呼ばれる腕時計を確認しながら、『B1-146』の扉へと向かった。  下からのぞかれるのは嫌だから先に行けと祥太郎にせっつくマリーは、今日も高そうなドレスを着ている。 「ここがミリソーニルっていう扉?」 「はい、カワイイですよね!」  やがてたどり着いた大きなパステルカラーの扉は、全体的に丸みを帯び、おもちゃの家のドアのようだった。よく見るとハートや星のマークもついている。 「はいはい、下がって下がって」  隣でパネルを操作していたマリーが扇を振る。二人が下がると、扉はぽこん、と音を立てて手前に開いた。 「デザインだけじゃなく、開き方も違うのか」  中へと進んでみると、テラスのようになっているのは同じのようだったが、こちらもおもちゃの家のバルコニーといった雰囲気が漂っている。アルテス・ミラと比べて広く、立っていても安定感があった。  光の球は、今回は左方向。   金平糖(こんぺいとう)のような形で、アルテス・ミラの時には薄暗いだけだった空間にも、同じようにカラフルな星が沢山見える。  何故こんなに様子が違うのか祥太郎には理解できなかったが、殺風景なだけよりは和むし、一人きりではないということもあって、段々と気持ちに余裕も生まれてきた。  二人がどうやって侵略者に対処するのかという、純粋な興味も湧いてくる。 「今回は30体って言ってたよな。三人もいるし、楽勝かな?」 「あのね、数の問題じゃないの。アルテス・ミラの住人よりも、ミリソーニルのほうが高度なのよ。わたしたちにかかれば楽勝というのに異論はないけれど、それでも油断は禁物」 「そろそろ来ますよ!」  理沙が言って指差した方からは、金平糖の星と同じ色をした、カラフルな物体が徐々に近づいてくるところだった。  小さく丸っこい象のように見える姿で、小さな羽根を生やしている。まるで、ゆるキャラのようだ。 「あ、なんか癒される」 「見た目に騙されちゃダメ」  マリーは再度釘を刺してから、踊るように扇を動かす。そこから生み出された光の風は三人を優しく包み込んだ。 「祥太郎さんは、出来るだけ相手が遠くにいるうちに飛ばしてください! こっちに来たのはあたしがなんとかしますから」 「了解」  ということは、向こうも何か攻撃を仕掛けてくるのだろうか。そう思いながら、祥太郎は意識を集中させる。  一体――二体。小さな体を視覚が捕捉次第、転送装置へと飛ばしていく。あちら側から、鳴き声のようなざわめきが起こるのがわかった。  特に抵抗されることもなく、順調に進んでいると思ったその時――。 「うわっ」  突然何かが目前へと迫ってきた。慌てて身をよじると、バルコニーの手すりに紐状のものが巻きついている。それは、長い鼻だった。 「来た。――でもさせないっ!」  理沙はそれを掴んで引き剥がし、転送装置に向かって投げ飛ばす。  今のは速く、意識の集中が間に合わなかった。確かに油断をしていると足をすくわれそうだ。  祥太郎が改めて気を引き締め、前方を見やると、今度は何か丸いものがふわふわと漂ってくるところだった。  ――泡だ。シャボン玉のようなそれは、異世界人の鼻先から生み出され、その数をどんどん増やしていく。 「何だろう? 初めて見るやつだ。キレイだけど……」 「そう? 汚くない?」  マリーは理沙のほうをちらと見てから、シャボン玉を追い払うかのように扇を横へと動かした。光の風は膜となり、バルコニーを覆う。  ぼごん。 「うぉっ!?」  それに触れた途端、爆発を起こしたシャボン玉に、祥太郎は思わず体を仰け反らせる。  マリーの結界のおかげで何ともないが、まともに食らえばそれなりのダメージがあるだろう。  シャボン玉を転移させるのは、それほど難しくはない。ただ、どうやら転送装置のところに行くまでに消滅してしまうらしく、すぐに手ごたえがなくなってしまう。 「くそっ、邪魔だな! 前が見えない」  その間にも現れるシャボン玉の数は増える一方で、小柄なミリソーニルの住人の姿も覆い隠していく。どうしたものかと迷う祥太郎の隣で、理沙がすっと細い指を伸ばした。  ひやりとして振り向くと、彼女の指先につつかれたシャボン玉は、ぽよりと揺らいだ後、他のシャボン玉にやんわりとぶつかる。それはまた別のシャボン玉にぶつかり――流れが逆転したかのように、異世界人のほうへと戻り始めた。  象っぽい異世界人は、まさか自分たちのもとに戻ってくるとは思わなかったのか、あわててわらわらと逃げ出していく。所々で爆発が起き、ぴーぴーと悲鳴も上がった。 「ショータロー、ぼんやりしてないで仕事して!」  つられてシャボン玉に指先を伸ばしかけていた祥太郎は、マリーの声に我に返る。 「りょ、了解!」  そしてパニックになっている異世界人を、次々と転送装置へと放り込んでいった。  それからは、簡単だった。新兵器が役に立たなかったショックが大きかったのか、しばらくして異世界人の姿は完全に見えなくなる。  しんと静まり返る金平糖の星空の下、『コンダクター』には”Complete!!!”の文字が浮かび上がった。 「よし、やった!」 「お疲れ様でした!」  それを見てハイタッチをする祥太郎と理紗。マリーも渋々といった風に手を合わせる。  こうして祥太郎が辞める辞めないという話は、うやむやになったのだった。

コメント

コメント投稿

スタンプ投稿


このエピソードには、
まだコメントがありません。

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • 浄玻璃の番人

    『善悪は水波の如し』

    0

    0


    2021年6月24日更新

    平穏な学校生活を送っていた高校2年生の山 牡丹(やま ぼたん)は、ある日同じクラスメートと事件に巻き込まれる。それは奇怪な事件だった。身に危険が及ぶなか、牡丹は自分が何者なのかを思い出す。今とそれほど変わらない時代。少し奇怪で、不気味で、あやしくて、得体の知れない、「それ」のお話。 ※一週間に一回のペースで、投稿していきたいと思います。 よろしくお願いします。

    読了目安時間:2分

    この作品を読む

  • 『孤独な――の終着点』

    好評だったら続き書きます

    0

    0


    2021年6月24日更新

    ――否、それは光ではなく斬撃。 ――否、それは救いではなく暗殺。 ――否、それは『主人公』(ヒーロー)でもなく、【最悪の悪役】だった。 好評だったら長編として息抜きで書きます

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり

    読了目安時間:4分

    この作品を読む

読者のおすすめ作品

もっと見る