ゲートキーパーズ・アパート ~異界対策部のお仕事~

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迷宮ショッピング 4

「そうと決まったわけじゃねーけどな」 「だけど、サイが言ってるのは、()()()と同じだってことでしょう?」 「ま、そういうことではあるんだが……」  顔を見合わせる三人。また置いてきぼりを食らった形になった祥太郎(しょうたろう)に、マリーは解説を始める。 「『ゲートルーム』にある転送装置は、本来はもっと威力の弱いものだったらしいの。そもそもゲートルーム自体、マスターの捕縛術(ほばくじゅつ)が『アパート』を構成している結界と『ゲート』が保持する異世界の情報を――」  だが、ぽかんとした顔を見て小さく咳ばらいをし、言葉を変えた。 「ええと、とにかく『ゲートルーム』を作り出す術の中に、転送装置も組み込まれているのね。それを改良することで、異世界の住人をより追い返しやすくなったの」 「へぇ……で? その改良後の転送装置だったら、何かおかしいってこと?」 「旧型の方だったら、ジジイが『アパート』の計画始めた当初からのやつだから、割とあちこちで使われてるタイプだ。でも、改良型はそもそも数が少ねぇ。うちのアパートで数年前から試験運用が始まり、副都心エリアでも試してもらって、それから少しずつ運用場所を広げていく予定だった」 「ダメになったってこと? なんで? うちでは普通に使ってて、特に問題なさげじゃん」 「それはまー、ちょっと別の問題が起っちまったっつーか……」 「担当者が消えちゃったからなの」  少し言いにくそうにしている(さい)に代わり、再びマリーが口を出す。 「今の転送装置を作ったのは、エレナ・フォンドラドルード――わたしのママだから」 「転移能力者だったっていう?」 「そう。ママも幼い頃から結界師としての教育を受けているから知識も豊富だし、『アパート』の結界術を書き換えるような案も出せたのだと思う。術者としての才能は花開かなかったせいで、フォンドラドルード家とは折り合いが悪くなってしまったみたいだけれど……」  彼女は少し寂しげに言ってから、大きく息をつく。 「とにかくそういう理由で、わたしたちをここへと送った誰かは、限定されるんじゃないかと思ったわけ」 「まー、確かに簡単に漏れる情報でもねーしな。ただ、改良した転送装置使って、わざわざこんなとこに連れてくる意味はよくわかんねーけど。まずは遠子(とおこ)さんたちを見つけないとだな。――と、『コンダクター』は繋がんねーや。スマホも……ダメか」 「あたしのもダメですね」  それぞれが手持ちを確認してみるが、『コンダクター』は通信を行わず、スマホも圏外になっていた。 「ここマジで海外の可能性もあるぞ。『コンダクター』も基本的には管轄区内で使うものだしな」 「サイの予知には何か引っかからないの?」 「今んとこは特にナシだ。不確定な要素も多いのかもしんねぇ」 「とにかく遠子さんも来てるとしたら、探さないと! ――祥太郎さん、転移で何とか探せないですかね?」 「あ、えと。遠子さんがどこにいるかが分からないと、さすがに……」 「ですよね……じゃあ、ひとまず気配を探りながら歩いてみましょうか。この場所のことも何か分かるかもしれないですし」  そうして四人は、理沙(りさ)を先頭にして移動を始める。  慎重にあたりをうかがいながら、時々窓から家の中を覗いてみたりもするが、家具などは一通りそろっていても、やはり人の気配は全くない。 「この植木も、ちゃんと手入れされてるのよね」 「うーん、人だけが急にいなくなったってことなのかな」 「……おい、祥太郎」  前を行く女子二人の背中を見ながら、才が小声で言う。 「理沙ちゃんと喧嘩でもしたのか?」 「――は? な、なんで」 「なーんかお前の態度がぎこちないっつーかさ。変だし」 「そんなことないって。ただ」 「ただ?」 「消えた才を探す時にさ、あの遠子さんが帰ってきた日。こう――手をつかまれて、ちょっと意識しちゃったっていうか何というか……」 「うへー、俺様が行方不明になったっつーのに、祥太郎君はちゃっかりそんないい思いしちゃってたんすか。つーか何そのピュアな反応!? まさかお前ド――」  言葉を言い切る前に、彼の姿はかき消える。 「うぐへっ!」  そしてすぐ同じ場所に現れ、地面へと顔から落ちた。 「いって! 今日二度目! もう二度目!」 「二人はこんな時に何を遊んでるの?」 「いや、別に……」  振り返ったマリーに睨まれ、祥太郎は首をすくめる。  そしてそこで、あることに気づいた。 「才」 「あんだよ?」 「もう一回飛ばさせて」 「は? なんで――」  抗議もむなしく再び才の姿は消え、同じ場所に現れる。 「いてっ! 今度はケツ打った……何すんだよクソ太郎!」 「ごめん。でも、おかげで分かった。――能力が落ちてる。今はもう少し遠くに飛ばしたつもりだったんだ」  それを聞き、三人の表情が引き締まった。少しの間、沈黙が流れる。 「……本当だわ。結界、一人分張るのがやっとだもの」 「あたしも、()の出方が全然違うみたい」 「全然引っかかる未来がねーなって思ったら、そういうことかー」 「この感覚、どっかであったなと思ったら、あれに似てないか? 『ミュート』着けた時」  だが今度の言葉には、微妙な反応が返ってきた。 「俺は家の関係もあってガキん頃から『ミュート』ってほとんど着けたことねーんだよなぁ。別に周囲に実害出る能力でもねーしな」 「わたしも結界師の修行があったし、いつもフォンドラドルード家の人間の誰かがそばにいたから、着けなくて良かったみたい」 「あたしも師匠が、えっと……『特別地域管理者(とくべつちいきかんりしゃ)』だったかな? 貴重な薬草とかが生える土地を管理したりしなきゃいけないってことで『ミュート』を着けるの免除されてて、あたしも弟子だったので大丈夫でした!」 「――えっ、みんな何かめっちゃエリートっぽい」 「それはともかく、わたしたちの能力は封印されたのではなく、極端に制限されてるって考えて良いのよね。その原因は良く分からないけれど」 「はい! はーい!」  言って考えを巡らせるマリーの視界を遮るように、才が手を何度も挙げる。 「サイ、何なの?」 「俺様の予知! すっげーヤな予感がするぜ!」 「そんなの、わたしでもしてるわ」 「あたしもです!」 「……僕も」  ――ガシャン。  まるで、皆のその言葉を待っていたかのようだった。  誰もいないはずの町へと、大きな物音が響く。

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