ゲートキーパーズ・アパート ~異界対策部のお仕事~

読了目安時間:7分

第二十章 ゼロ

ゼロ 1

(さい)はすっかりオジサンになっちゃったね。ハハッ、ひどい顔!」 「俺はまだギリ十代だ! ったく、こんな状態になったのは誰のせいだと思ってやがんだ」 「ま、とにかく人が来る前に移動しよう」  ゼロはトランクから降り、鍵を開けて中を開く。 「カバンの中に階段がありますよ!」 「別の空間につながってるのね」  理沙(りさ)とマリーが興味深げに覗き込んだ。トランクの片側は澄んだ水を張ったようになっている。その中には、下へと続く石の階段が見えた。 「ぼくの家に招待するよ。ついてきて。最後の人はトランクを閉めてね」  言ってゼロは飛びこむようにして中に入る。次に才、それからマリー、理沙、祥太郎(しょうたろう)が続き、最後にエレナが入った。体が一気に沈むのではなく、一度足が地面につくような感触がある。エレナは胸から上が出た状態で周囲を確認してからトランクを閉じた。  もし他に誰かがいたならば、大きなトランクが跡形もなく消えていくのを目撃しただろう。 「お待たせ。言われた通り、きちんと閉じたよ」  ゼロはうなずく。皆がいるところは、階段の踊り場にあたる部分だった。六人が距離をあけて立っていても十分な広さがある。 「じゃあ、こっちに来て。ここからは狭くなるから気をつけて」  移動し始めた背中についていくと、確かに急に狭くなっていた。二人がぎりぎり並べるくらいの幅の階段を、一列になって下りていく。  うす暗くはあったが、ところどころ明かりがともっているおかげで不自由はない。それからほどなくして、目の前が開けた。  最初に降り立ったのと同じくらい広い空間。そこには両開きの扉がある。ゼロが鍵を開けて引くと、中から明るい光が漏れて来た。 「すごーい!」  また一番に口を開いたのは理沙。中は広々として天井が高く、開放感があった。石造りで飾り気のない部屋ではあるが、どこか古城を訪れたような趣がある。  明るい光の出所は大きな窓だった。そこから広がる緑の景色。木々の隙間からは青空が見え、小鳥のさえずりが聞こえて来る。 「ゼロくん。もしかしてこの住宅は、バーティエリの作品じゃないかい?」 「そうみたいだね。家具はなかったから自分でそろえたんだけど」 「やはりか……素晴らしい。細部まで意識が行き届いている」 「住みやすいのは確かだよ。割と普通の家だとは思うけどね」 「そのバーティエリって人は有名なんですか?」  祥太郎が疑問を挟むと、エレナはうなずいた。 「ああ。今は亡き亜空間建築の巨匠だよ。数年前、オークションに出品された椅子の落札価格は、日本円にして5億2300万円だったと記憶している」 「いすがごおく!?」 「だからこの家を譲って欲しいっていう人も多くて。仕事依頼だけでもめんどくさいのに。じゃあぼくはどこに住めばいいのさ」  ゼロはキッチンからグラスの載ったトレイを運んできながら言う。 「水しかないから水でいいよね。あと才はシャワー浴びて来てくれるかな? 汚いから。一応言っとくと、シャワーはあの扉ね」 「前に来た時と同じだから覚えてる。つーか汚ねーってお前なー! お前に会うために俺がどんなに苦労したか! まず山に入って――」 「サイがシャワー浴びるのに賛成。ちなみにわたしも、サイとドクターのおかげでとってもとってもとっても苦労したわ」 「ドクター? そういやさっきから気になってたんだが、マリーちゃんと理沙ちゃんの格好ってもしかしてあまなちゃんの……?」 「君は早急にシャワーを浴びて来たまえ」  エレナが指を鳴らすと才の姿は掻き消える。その後、部屋の奥から大きな物音が聞こえて来た。 「転移能力者っていうのは便利だよねぇ」  感心しているゼロを見て、マリーはそわそわとしている。それから思い切ったように口を開いた。 「ねぇゼロさん。わたしも着替えたいんだけれど、どこか部屋を貸してくださらない?」 「それなら、あっちの奥の扉の部屋をどうぞ。普段使ってないから色々と物が置いてあるけど」 「ありがとう」 「そんなー!? マリーちゃんはそのままで、とってもカワイイよ☆」 「リサはそろそろアイドルの世界から帰って来てくれないかしら。一緒に着替えに行きましょ」 「えー。あたしはもうちょっとこのままでもいいのにー」  マリーに手を引かれ、理沙はぶつぶつ言いながら教えられた部屋まで連行される。  少し静かになったリビングのソファーに座り、三人はひとまず水を飲んだ。 「才の周りはにぎやかなんだね。もうあれから十年にもなるのか。前に会った時はぼくより少し背が高いくらいだったのに」  ゼロがぽつりと言う。十年も前だったら赤子でもおかしくない風貌には、祥太郎ですらもう突っ込まない。見た目とは違う老成した雰囲気が、彼にはあった。 「すまなかったね、ゼロくん。突然――でもないのか、君にとっては。でもこうやって大勢で押し掛けてしまって」 「気にしなくていいよ。またここに来られたら相手してやるって言ったのは、ぼくなんだから。だけど仲間の力を借りてぼくの『目』をくらまそうとするなんて考えたね。おかげで予知を何度か修正する羽目になって、その間にたどり着かれちゃった」  そう言いながらも、彼はどこか嬉しそうだ。 「予知の裏をかこうとするのは未来を変えようとする行動でもある。関係者それぞれ無茶な動かし方をしたみたいだし、何か変なこと起こらなかった?」  エレナと祥太郎は顔を見合わせる。 「なるほど。ブロットの出現やトリックホーンも、その影響だったのか」 「僕、そのせいでヒドイ目にあったんですけど……」 「ハハッ、やっぱりね。それにしても、才はずいぶん雰囲気変わったなぁ。チャラくなったというか。初めて会った時は、もっと暗くて、神経質な感じだったのに」 「それは、君に会えたからだと思うよ」 「買いかぶりすぎだよ。もしそうだとしても、それは沢山のきっかけの一つに過ぎない」 「そうだね。だけどサイくんにとって君が大きな存在だったのは確かだ。だから私が会わせて欲しいと言った時、迷っているようだった。君の負担になりたくないと思ったのではないだろうか」 「僕たちにもそんなようなこと、言ってました」 「そう。……ところで、サイはお祖父さんと上手くやってるの?」  居心地が悪くなったのか、ゼロは話題を変える。エレナは少し考えてから、祥太郎の方を向いた。 「ショウタロウくんは最近、ミツルギ氏に会ったんだよね? 私はしばらく居なかったから」 「あ、はい。顔合わせるたびケンカしてましたよ。でもあれって仲悪いのかな? 良くわかんないです。似た者同士ってのはわかります」 「そう。ケンカできるようになったんだ」  ゼロは立ちあがり、再びキッチンに向かう。  本人は独り言のつもりだったかもしれないが、「良かった」というつぶやきは、エレナと祥太郎の耳にも届いた。 「うーし、俺様キレーになって戻ったぜ!」  それからしばらくしてバスローブ姿の才が戻ってくる。髭はそのままだったが、髪や顔はさっぱりとし、血色も良く見えた。 「これ勝手に借りたぞ。服は洗ったから乾くまでカンベンな。――マリーちゃんと理沙ちゃんは?」 「サイくんおかえり。姫たちはお召し替え中だよ」 「お召し替えって……そういえばさ。やっぱあれ、あまなちゃんの衣装じゃね? 俺がいない間どういう流れになってたん?」 「才が作戦に関わってない人がいいっていうからドクターに相談してさ。そのせいで僕は死にかけた」 「マジで?」 「おまたせしましたー!」  話の途中で理沙の声が割って入ってくる。そちらを見ると、彼女はカットソーにジーンズという、いつものシンプルな服装に戻っていた。その背後には、対照的に鮮やかな花柄が見え隠れする。 「お待たせしました。え、サイはバスローブなの?」 「ま、ちょっとの間だけだからさ。汚いよりマシだろ?」 「それはそうだけれど……」 「ワオ! 今日も素敵なドレスだね、我が姫。アイドルのステージから、クラシックの名演奏家のステージに変わったみたいだよ」 「ありがとう、ママ。でも、もうアイドルのことは忘れて欲しいわ……」 「あたしは楽しかったけどなー」 「僕も謎のゲームに付き合わされるより、ステージ見たかったなぁ」 「ステージって? 二人がやったのか?」  ようやく一息つき、いつもの雰囲気になってきた中、ゼロだけが納得の行かない表情を浮かべていた。 「きみ、わざわざ着替えたのにさっきより動きにくそうな服になってない?」 「マリーちゃんはこれがデフォなんだよ。普段着」 「さっきのとそんなに違うかな……? まあいいや」  彼は咳ばらいをし、ソファーへと座り直す。 「ここに来たのは、ぼくに見て欲しい未来があるからなんだろ? そろそろ、仕事の話をしようか」

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