ゲートキーパーズ・アパート ~異界対策部のお仕事~

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迷宮ショッピング 3

「問題は、ここからですね」  走り出した理沙(りさ)に導かれるようにしてたどり着いた先には、今日何度も訪れている分かれ道。 「左の三本は、あのラーメン屋に戻る道だったのよね。空間がつなぎ直されるような仕組みじゃなければ、残る二本のどちらかってことになるけれど……」  マリーは言ってのぞき込むが、狭いトンネルのようになった道の先は暗くて良く見えない。 「二手に分かれるのはどうだろう? どっちかが不正解ならまたすぐラーメン屋のとこに戻るだろうし、そしたら残った道に急いでもらって」 「祥太郎(しょうたろう)くん、もう一本も必ずラーメン屋に戻るとは限らないんじゃない?」 「あ。そっか」 「それに何が起こるか分からないから、出来るだけ別行動は避けたいところね。理沙ちゃん、何か感じない?」 「ちょっと待ってくださいね」  彼女は目を閉じ、意識を研ぎ澄ませる。他の皆も邪魔をしないよう静かにしていたが、わずかな間のことだった。 「――四番目の道から、何かが動く気配がします。一番右はやっぱり、ラーメン屋さんのところに戻るのかも。他の道と似たような雰囲気があるので」 「理沙ちゃんありがとう。決まりね、行きましょう」  長くうねる道を抜けた先には、入口のホールに似た広い空間が待っていた。しかしあちらと違って店などはなく、人の姿もない。 「行き止まりでしょうか。脱出口もないみたいです」 「さっきの悲鳴の主は、どこへ行ったのかしら? わたしたちの聞き間違いってことは……ないわよね」 「見てマリーちゃん! あそこに何か落ちてる」  理沙が指差した先の地面に、白い物が落ちているのが見えた。少し近づくと、帽子であることがわかる。 「やっぱり聞き間違いじゃなく、誰かがここに居たってことなのね」 「みんな待って。もう少し慎重に行きましょう」  もっと詳しく見ようと歩き出す三人に不安を感じ、遠子が声をかけたその時――どこかで、ごとり、と音がした。 「――!?」  皆、一斉にそちらを見る。天井から、今まさに巨大な岩が落ちてくるところだった。  祥太郎は冷静にその岩を睨みつける。この程度を飛ばすくらい、造作もないはずだった。  そして、目の前には真っ白な光が拡がる――。  ◇  ――ヨーロッパの街並みだった。  実際に来た経験があるわけではない。ただ、その絵本の中に出てくるような景色を一言で表現するには、うってつけの言葉だ。 「ぐぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅ」  遠子のぼんやりとした思考は、奇妙なうめき声に破られる。  あわてて周囲を見て、それが自分の体の下から発せられてることに気づくと、急いで立ち上がった。 「あっ――棒人間ちゃん! ごめんなさい」 「だ、大丈夫だっピ。それより、遠子さんさんは大丈夫っピ?」 「ええ、私は」 「なんだか、珍しくぼんやりしてるみたいだっピ」 「……そう言われれば、そうかもしれないわね」  言って頭を振り、手で顔をこする。街並みをもう一度眺めてみるが、なかなか思考がまとまらない。 「棒人間ちゃんは、ここがどこだか分かる?」 「分かんないっピ」 「そうよね。……じゃあ、ここに来るまでのことは覚えてる? ちょっと整理しておきたいの」 「覚えてるっピ。でっかい岩が光って、ここに来たっピ」 「岩が光った原因って見てた?」  棒人間は腕を組み、うんうんと考えるような仕草をした。 「えっと、ゲンインかどうかは分かんないけど、たぶん祥太郎さんが岩を飛ばそうとしてたんだっピ。理沙ちゃんさんも何かしようとしてたけど、祥太郎さんは見るだけでいいから早いっピ」 「じゃあ、祥太郎くんの能力に岩が反応して――もしかしたら転移の力が跳ね返されたか何かで、こんなところに飛ばされたのかしらね」  遠子はもう一度街を見る。今になって気づいたが、レンガ造りの建物に挟まれた石畳の道には、誰の姿もなかった。  ざわざわと、嫌な予感だけが沸き上がる。 「みんなは別の場所に飛ばされてるかもしれない。探しに行きましょう」  ◆ 「――うぅん」  マリーは小さく声をあげ、目を覚ます。目の前がやけに暗い。  鼻先にも腕にも、あたたかさを感じる。――よく見ると、自分がしがみついているのは人の背中だった。 「きゃぁぁっっ!!!」 「どぅぐへぇっ!?」  思わず蹴り飛ばすと、地面に顔面から突っ伏した人物は聞き慣れた声を出す。 「サイ!?」 「ってー! マリーちゃんひどいぜ……」 「ご、ごめんなさい。驚いちゃって」 「あれ? 才さん元に戻れたんですね! ――ところで、ここは? 外国ですか?」  顔を手でさすっていた才は、理沙とマリーを見た後、あわてて周囲を見回した。 「あいつは? 祥太郎」 「えっ? ――あ。あのあたりから人の気配がします!」  理沙の指さした方には、白い花の咲く花壇がある。皆で駆け寄ると、その陰に祥太郎が横たわっていた。 「おい起きろ祥太郎。起きろってば!」 「……ん。うわぁぁ! 才がいる! ほ、本物?」 「本物だよバカ! シャキッとしろ」 「ねぇ、トーコたちはどうしたのかしら?」 「それなんだが……」  才は腕を組み、どう伝えるべきか少し考える。 「俺さ、ぬいぐるみにされてた間、動いたりしゃべったりは出来なかったんだけど、周りも見えてたし、皆の会話も聞こえてたわけ」 「ええっ!? じゃあわたし、ぬいぐるみというよりもサイをずっと抱っこしてたってことなの!? 何故言ってくれなかったのよヘンタイ!」 「だから言えなかったんだって! 落ち着いてくれよマリーちゃん! 残念ながら感触とかそういったものも全く堪能できず……って、そんな話は今はいいんだよ」  彼は大きく咳ばらいをしてから続ける。 「あの時、遠子さんだけ離れた場所にいただろ? だから巻き込まれなかった可能性もあるが――いや、巻き込まれただろうな。そもそもあの場所自体が不自然だった」 「確かに迷路のひとつとして作ったとしても、脱出口がないのはおかしいですよね」 「ああ。だからあそこに居た全員、ここへと飛ばされたはずだ」 「飛ばされたのは、僕が落ちて来た岩を転移させようとしたせいだよな……?」 「そうだろうが、違うとも言える。祥太郎の能力はトリガーになっただけだ。恐らく何の能力だったとしても関係ない」 「サイ。もしかして、ここがどこだか知っているの?」 「いや。――でも、あの岩が何だかは分かった。転送装置だ」 「転送装置って……『アパート』のゲートルームにあるやつみたいな?」 「みたいなじゃなく、同じものだと思う。少なくともベースは」 「ちょっと待って」  マリーはそれを聞き、少しだけ声を震わせた。 「じゃあ、こんなことをしたのは、『アパート』の関係者ってこと?」

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