ゲートキーパーズ・アパート ~異界対策部のお仕事~

読了目安時間:6分

悪夢を招く者 4

「さっきちょうど話してて。遠子(とおこ)さんどこに行ったのかなって」 「あら祥太郎(しょうたろう)くん、心配してくれてたの? 嬉しいな」 「心配というか遠子さん、いつも神出鬼没(しんしゅつきぼつ)だから。レーナさんも笑ってたし」 「そうなの。……ところでレーナさん、今日はどんなファッションだった?」  唐突(とうとつ)な質問に皆、目を丸くする。そういう遠子自身は、地味な色のシャツの上に、エプロンと三角巾というスタイルだ。 「どんなって……いつも通りキレイでイケてる感じで。なぁ祥太郎?」 「あ、うん。いつも通りだったと思う」 「すごくステキでしたよ!」 「マリーちゃんは? ファッション興味あるじゃない? もっと細かく見てない?」 「どうだったかしら……どうしてそんなことを聞くの? トーコ」 「ちょっとね、参考にさせてもらおうかと思って」  遠子はふふ、と笑ってから、ショーケースを指さす。 「それはそれとして。何にしますか? お客様」 「俺カキ氷! 今あるのは?」 「オレンジとアンズ、あとは梅ね」 「じゃあオレンジ」 「なになに、限定シロップとかあんの?」 「ここのシロップはね、ツルさんの手作りなのよ。種類はその時々で変わるの」 「マジで!? じゃあ僕もそれにします。えーと、梅で」 「あたしは水まんじゅうください!」 「わたしは、夏ミカンの寒天ゼリーをお願い」 「かしこまりました。みんなここで食べていく?」 「はい、お願いします!」  理沙(りさ)の元気な返事に頷き、遠子はショーケースに出ていた水まんじゅうと寒天ゼリーを手に取り、一旦奥へと姿を消す。  四人が縁台(えんだい)で雑談をしながら待っていると、彼女はお盆を手に戻ってきた。 「お待たせしました」  それぞれに渡された小さな盆の上には、お菓子と冷たい緑茶が載っている。 「いただきまーす! ――うーん、やっぱり水まんじゅう美味しい! お茶も美味しいですねー!」 「でしょう? 京都から取り寄せたって、ツルさんが言ってたわ」 「すげー。カキ氷本格的だなぁ。うめー!」 「まさか祥太郎お前、梅とうめーをかけてるとか」 「いやいやいや違うよ!? 勝手に僕が滑ったみたいにするのやめて!?」 「このゼリーの絶妙な硬さ加減と、甘酸っぱさが最高ね。……ところで、何故今日はトーコが店番なの?」  自らも茶を飲み、店の外を眺めていた遠子は、マリーへと視線を向ける。 「……ツルさん、ちょっと体調を崩したみたいで、奥で休んでるの」 「大丈夫なんすか? あ、でも遠子さんの薬飲ませたらすぐ直るか」 「確かに祥太郎くんの言う通りだけど、あんなマズイもの、人様に飲ませられないじゃない?」 「僕は思いっきり飲まされましたけど!?」 「俺もな」 「あたしも飲みました」 「わたしもね……思い出したくもない味だわ」 「まあとにかく、ここのところの暑さで少し疲れただけだと思うから大丈夫。私が様子を見てるし。ところで、今日は特に仕事入ってないの?」 「ああ、メンテナンスらしいっすよ。管理棟(かんりとう)には近づくなって。管轄区内(かんかつくない)なら、ぶらぶらしていいって言われました」  にこにこした顔で、さらっと話題を変えられる。祥太郎の返答を聞き、遠子は才へと顔を向けた。 「才くんは、何か詳しいこと聞いてない?」 「いや、俺はなんも」 「そう。……私もなにか食ーべよっと」  彼女はショーケースを眺め、少し迷ってから水ようかんを取り出す。 「美味しい」  それからいつもミーティングルームで交わされるような、とりとめのない話が始まる。時間はあっという間に過ぎていった。 「はいこれ、サービスでさっきのお茶っ葉、少し分けてあげる。絶対みんなで飲んでね」 「……ありがとう」  会計を終えると、遠子は言って小さな袋を差し出す。マリーは少しとまどいながらもそれを受け取った。 「そうそう、今かかってる曲って何だか知ってる?」 「曲?」  去り(ぎわ)に声をかけられ、振り返ったが、もう遠子は店の奥へと戻ったのか、姿が見えなくなっていた。 「マリーちゃん、どうしたの? ぼんやりして。暑い?」  理沙の言うように、店の外はさらなる暑さとなっていたが、そのせいではない。 「いえ、今、曲がどうのって言われて」 「曲? ……ほんとだ、聞こえるね」  耳を傾けると、確かに音楽が聞こえる。知っている曲ではなかったが、優しく、心地よい曲だ。 「これも、何か作戦が進行してるってことなのか?」  祥太郎の問いに、才は首を傾げる。 「どのプランの曲でもねーから、メンテナンス用かもしれねーな」 「へー。――とりあえず一旦『アパート』に帰ろうか。結局どこ行っても暑いだろうし」 「ジムはまだ使えるのかな? じゃあ、みんなでプールに行きません?」  理沙の提案に、男二人の表情があからさまに変わる。 「マジっかよ!? ついに水着回、来ちまうのかよ!?」 「じゃあそういう訳で、さっさと戻ろう。みんな準備はいいかなー? えい☆」  ――理沙が『ジム』と呼ぶ自然を()した空間で滝行(たきぎょう)をやらされ、彼らがすぐに音を上げたのは、また別の話である。  ◇  その夜。 「こんばんは、才くん。どうしたんだい? そんなに急いで」 「お、ジュノさん。――ちょっとマリーちゃんに呼ばれちまって。お袋さんから貰ったネックレス失くしたから、一緒に探して欲しいんだってさ」  ジュノはそれを聞き、何かを考えていたようだったが、やがて小さく頷く。 「そうか。無事発見されることを祈ってるよ」 「おう、サンキュー!」  振り向かずに手を上げ、足早に進むと、やがてマリーの部屋が見えてくる。チャイムを鳴らせば、すぐに彼女は出てきた。 「急に呼び出してごめんなさい」 「いやいや、気にすんなって」  中へと迎え入れられリビングへと向かうと、見慣れた姿に出会う。 「――って祥太郎と理沙ちゃんもいんのか」 「なんかムカつく言い方だなー」 「みんな呼び出されたんですね。もしかして、遠子さんも?」  向けられた視線に、マリーは首を横に振った。 「トーコとは連絡が取れなかったから。……こっちに来てくれる?」 「落とした大体の場所は分かってるってことかな?」  今度の問いには答えずに歩みを進める。寝室の扉を開け、ベッドの近くにある壁へと手を触れた。音もなく、床の一部分にぽっかりと穴が開く。現れた地下への階段は、この『アパート』で暮らす者であれば、誰もが知る隠し部屋への入口だった。 「ん? ここって緊急時に使う部屋だよな? 僕は一回覗(のぞ)いたきりだけど」 「俺は機材置いてっぞ」 「あたしのところはお菓子倉庫になってます!」 「マジで? そんな気軽に使っちゃっていいの?」 「別に用途は自由だろ。お前の場合はここに(こも)るよりかは、どっかに転移した方が早そうだけどな」 「……わたしは、結界の練習に使ったりもしてるの」  階段を下りた先、10畳ほどの地下室には、古い本の詰まった棚やデスクなどが置いてあり、『勉強部屋』という言葉がよく似合う。デスクの上にはティーポットと、湯気の立つカップが置かれていた。  マリーはそちらへと近寄ると、伏せられていた三客のカップへと液体を注ぎ、客人へとそれぞれ差し出す。 「どうぞ」 「ありがとう……これ緑茶? もしかしたら、遠子さんにもらったやつかな?」  とまどいながらも受け取った理沙に、マリーは頷く。 「普段飲まないから、急須もなくて。美味しくなかったらごめんなさい」 「ううん、やっぱりこのお茶、美味しいね。ホットなら多分、もうちょっと(ぬる)めのお湯を使えば、もっと美味しいと思う!」 「マリーちゃん大丈夫、十分イケるイケる」 「それよりマリー。ネックレスは、この部屋で失くしたってことか?」 「ショータローも飲んでくれる?」 「……は、はい」  とりあえず話を進めようとした祥太郎だったが、マリーに気圧され、(あわ)ててカップに口をつけた。  それを確認すると、彼女はデスクに置いてあった自分の分を持ってきて、少し飲む。  無言のまま、しばしの時間が流れる。マリーは大きく息をつき、三人の目をそれぞれ見た。 「……さて、これからの話をしましょうか」

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