ゲートキーパーズ・アパート ~異界対策部のお仕事~

読了目安時間:8分

新春の幻 2

「わぁ……古そうな鳥居。もう少し綺麗でも良かったんじゃない?」  マリーはそびえ立つ鳥居を見上げながら言う。巨大な木製のそれに色はなく、所々朽ちたりささくれ立ったりしていた。 「でも歴史を感じる佇まいよね」 「それもわかるけど……何だかちょっと不気味」 「オバケでも出そうってこと?」 「そういうのやめてよ!」  遠子の言葉につい大きな声を出してしまい、彼女は少し顔を赤らめてそっぽを向く。  おせちを全て平らげた後、神社に行ってみようという話になり、皆でここまでやってきた。  歴史を感じるというよりは、打ち捨てられたかのような寂れた空気が漂っている。 「おい、巫女ちゃんはどうなったんだよ」 「おっかしーな、少し調子悪いんかな?」  祥太郎に肘で突かれ、才は首をひねった。しばらく落ち葉を踏みしめながら石畳を進んでも、誰の姿も見当たらない。 「見てください! あの木!」  理沙が急に声を上げ、小走りにそちらへと向かう。 「近くで見ると、本当に大きいですねぇ! きっと御神木なんでしょうね」 「本当。樹齢何年くらいなのかしら」  先ほどの鳥居をしのぐ巨大さに、マリーも圧倒されたように声を漏らした。 「そういうのは適当だからなー。詳しければ細かく入力出来っけど、とにかくでっかい木をイメージすりゃ、後は勝手にやってくれるし」 「まぁ、誰でも使えるということを考えれば、その方が便利よね」 「……楠ね。樹齢は二、三千年ってところかしら」  のんびりと歩いてきた遠子が幹に触れて言う。少しうろうろとしていた祥太郎もようやくやってきた。 「二、三千年!? 木ってすごいんだなぁ。遠子さん、物知りなんですね」 「植物には少しだけ詳しいの」 「ああ、だから薬草とか……」  言っているうちにあのスープの味が思い出され、彼の声は尻すぼみになっていく。  ――その時。  不穏な気配を感じ、遠子は上を見る。そこにはいつの間にか黒い雲に覆われた空があった。 「みんな危ない! 木から離れて!」 「え? どういう――」  ぽかんとして立つ才の腕を、遠子がつかんで引っ張る。  各々がある程度木から距離を取り、振り向いた瞬間――まばゆい閃光が走った。 「うわっ」 「きゃっ!」  漏れた悲鳴は空気を振動させる音にかき消され、誰のものだかわからなくなる。 「みんな無事?」  遠子がまだ少し煙る視界の中、呼びかけると、向こうに小さく見える三人が手を振った。 「遠子さんと才さんも大丈夫でよかった。雷……だったんですよね?」 「それにしては、何ともなってないみたいだけど」  祥太郎が辺りを見回しながら言う。爆発とも呼べる衝撃の後にしては、焦げ跡の一つも見当たらない。  特に危険がなさそうなのを改めて確認しながら、三人は遠子たちのもとへと移動してきた。その間に立つ大木も、変わらぬ姿のまま立っている。 「ちょっとサイ、どういうことなの? これ」  マリーが才へと詰め寄った時のことだった。 「かみ……さま?」  背後で上がった小さな声に皆、急いで振り向く。  そこには知らない少女の姿があった。注目されたせいか、色白の頬は上気し、大きな目が少し泳ぐ。 「おおっ、巫女ちゃんだ!」  祥太郎が近寄ると、少女はぴくりと体を震わせ、少し後ずさった。 「マジだ、可愛い! ――けど何か違くね?」  同じくにじり寄ってきた才を見て、彼女はもう一歩後ろに下がる。その姿は白衣に緋袴ではなく、不思議な模様の入った貫頭衣だ。 「確かに馴染みの巫女装束でイメージしたと思うんだがなぁ。やっぱバグかな? ――いてっ!」  頭から足先まで舐め回すように見る彼の後頭部に、硬い物が命中する。マリーの扇だった。 「怯えてるでしょうが変態!」 「あっ。悪い、つい。――ちょ、ちょっと待ってくれよ!」  才が振り向いた隙に、少女は小さく頭を下げ、急いでその場から走り去ってしまう。 「ああ、お前のせいで逃げちゃったじゃんかー!」  そちらを指差しながら怒る祥太郎にも、何度目かの冷たい視線が向けられた。 「ショータローが近づいた時も迷惑そうな顔だったわよ」 「ぼ、僕は才とは違って友好を深めようと――」 「あら、あなただってずいぶん巫女にご執心だったじゃない」 「あのな、俺様も問題を報告するためにじっくり見てただけだからな!」 「静かに! 誰か来るみたいですよ」  理沙の一言で、三人は言い争いをやめ、彼女の示した方を見る。数人の男女がこちらへと向かってくるところだった。どうやら丘のふもとに集落があるようだ。  やがてたどり着いた一行は、こちらへと深々と頭を下げる。それから先頭にいる年配の男が、少しかすれた声で言った。 「ようこそおいでくださいました。心より歓迎をいたします。どうぞ、こちらへといらしてください」  彼の言葉にあわせて、背後の男女も再び頭を垂れる。 「才くん、どうするの?」 「へ? 俺?」  遠子に尋ねられ、才は目をぱちぱちとした。 「あ、そうか。ええと……とりあえず行ってみよう」 「サイ、大丈夫なの? 変な人はどんどん出てくるし、何だか寒くなってきたし」 「一応シミュレーションにも流れってモンがあってさ。今回ならピクニックに行って、のんびり遊んで帰ってくるっていうストーリーな。それが何らかの原因で狂っちまったんだと思う。申し訳ないんだけど、これも点検だから付き合ってくれよ。どうにもなんなくなったら、その時は俺が強制終了させるから」 「……そういうことなら、仕方ないけど。少なくとも家の中に入れば少しはマシよね」  マリーは自身の腕を抱きながら、寒々しい色に変わった空を見る。 「僕も別に構わないよ」 「先が見えないっていうのも、何だかワクワクしますね!」 「では、こちらへ」  意見がまとまったのを見て取り、年配の男は言ってくるりと踵を返すと、丘を下り始める。皆もその後へと続いた。 「……イメージの具現化能力、天候や気温の設定等も問題あり、と」  才は歩きつつ、巾着から取り出した手帳にメモを取っていく。  今回は点検への影響を最小限に抑えるため、電子機器や能力は出来るだけ使用しないということになっていた。 「才って意外に仕事熱心なのな」 「うるせーよ、書き間違えただろ! ――くそっ、手書きめんどくせーな!」 「たまにはそういうのもいいじゃない」  遠子がそれを面白そうに眺めながら言う。 「あまり書かないと、字も下手になっちゃうのよね。私なんかこの前、書庫にあった魔道書整理のお仕事頼まれて書き写してたら、どういうわけか本棚だけが綺麗に消滅しちゃって。うふふ」 「トーコ、それ笑い事じゃないわ……もしかしたら、この前の爆発音もあなた?」 「あっ、マリーちゃんが聞いた音は、あたしだと思う。トレーニング中、勢い余って壁が吹き飛んじゃったから」 「なんという職場でしょう……」 「お前がいうなクソ太郎。どっかに飛ばした俺のPC、さっさと弁償しろよ」 「だから、次の給料入ったら――って誰がクソ太郎だ!?」  騒がしい五人とは対照的に、先導する村人たちは黙々と先を急いでいる。周囲には他の者の姿はなく、点在する 茅葺(かやぶき)の家々もしんと静まり返っていた。 「村の人たちは、お仕事ですか?」 「いえ、皆様をお迎えするために、(おさ)の屋敷で準備しております」  遠子の問いには、近くにいた若い女が静かに答える。  やがてたどり着いたのは、他の住居からは少し離れて立つ建物だった。塀越しに見える屋敷の大きさは、主の権力の大きさを物語っている。 「こちらです」  門を入ってすぐ右へと曲がり、しばらく塀沿いに歩くと、床が高くなった家が建っていた。木でできた簡素な佇まいではあるものの、これまで村の中で見た家と比べれば十分立派だ。 「後ほど呼びに参りますので、しばらく中でお待ちください」 「思ったよりキレイ」  理沙が素直な感想を述べたが、確かに中は壁も床もきちんと磨かれ、冷たい風も入ってこない。 「では、失礼いたします」  全員が中へと入ったことを確認すると男たちは、うやうやしく頭を下げてから扉を閉め、部屋を出て行く。  扉はやけに重そうに閉まり、少ししてごとり、と音がした。 「今のって……鍵、かけた?」  祥太郎の言葉に、皆はっとなる。 「そういえば……」  理沙がすぐに扉へと近づき動かしてみるが、びくともしない。 「開かないです!」 「どういうことだ? 閉じ込められたってこと? 何で?」 「いや、俺に聞かれても……」  困惑した表情でこめかみをかく才に、祥太郎は畳みかける。 「僕がちょっと外見てくる。この状況じゃ能力使用NGって言わないよな?」 「……ま、仕方ないな」 「よし」  答えを聞くが早いか、彼は意識を集中する。――が、その表情はすぐに曇った。 「……あれ?」 「どうした?」 「転移できない」  自身だけではなく、試しに他のものに意識を向けてみても、全く動く気配がない。こんな経験は初めてのことだった。 「あの、あたしも能力使用します!」 「あ、ああ――頼むよ」  理沙も挙手と共に宣言してから、自らの手に意識を集中し、力を込めて扉を叩く。  通常なら、扉どころか家ごと崩れる――はずなのだが。 「全然何ともない……」  何度叩いても、扉だけではなく壁も床も、何の影響も受けていないように思える。顔を向けると、マリーと遠子も首を横に振った。それから視線は自然と一方向へ集まる。  そこには青ざめる才の顔があった。 「……ダメだ。強制終了できねぇ」 「一体これって、どういうことなんだよ!?」 「だから俺に聞かれてもわかんねーって!」 「二人とも、落ち着いて」  遠子の声も、普段よりは幾分硬い。 「考えられる可能性が一つ、あると思わない?」  その言葉で、祥太郎以外の全員が、顔を見合わせた。一人事態が飲み込めない彼は、呆然とそれを眺めている。 「じゃあ、ここってもしかして――」  理沙の言葉を引き継ぐようにして、マリーが言った。 「……異世界」

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