ゲートキーパーズ・アパート ~異界対策部のお仕事~

読了目安時間:6分

召喚術師と召渾士 3

「ここが、ナレージャさんのお部屋ですよ」 「わぁ、すてき! ほんとにここ、使わせてもらえるんですか!?」  理沙(りさ)がドアを開けて中へと案内すると、ナレージャは目を輝かせながら周囲を見回した。 「はい。しばらくは居てもらうことになりそうですし」 「そういえば最初はこんなだったわね」  マリーもその後に続きながら、自身が『アパート』の一員となった日を思い出す。  今はそれぞれの好みが反映されているが、元はここのように、白を基調としたシンプルな部屋だった。 「ねー。自分の部屋に慣れてると、逆に新鮮っていうか」 「リサの部屋は、和室とジムが共存してるものね……」 「すごい! 広い! ベッドもふかふかです!」  二人が話している間に、ナレージャの姿は寝室へと消えている。 「でも、私の荷物、これだけしかないんですよね……」  彼女はさみしげに言って、古びたショルダーバッグと杖を、ベッドの上へぽふっと置いた。 「とにかく、明日から本格的に帰る方法を探しましょう! あたしたちも頑張りますから!」  あの後、ナレージャとカリニにも改めて話を聞いたのだが特に情報は増えず、皆の疲労も考え、今日は早めに切り上げることとなった。 「そうそう、わたしたちもある意味、異世界に関するプロフェッショナルだから」 「巻き込まれるって感じが多いけどねー」 「リサ、それは言わない約束でしょ」 「えへへ。でもきっと……ナレージャさん?」 「……寝ちゃったみたいね」  自然と小声になる。理沙がそっと布団をかけてやると、ナレージャは嬉しそうに笑ってから寝返りを打った。 「ナレージャさん、楽しい夢を見てるのかな」  見守る二人も笑顔を浮かべ、それから静かに部屋を出る。  ◇ 「俺もナレージャちゃんを案内する方に行きたかったなー」  頭の後ろで手を組み、つまらなそうに歩きながら、(さい)愚痴(ぐち)った。 「僕も同意見だけど、やっぱり流れ的に無理があると思う」  祥太郎(しょうたろう)はスマホをいじりつつ、やや斜め後方を進む。  そしてその後を、腕を組んだカリニが謎の威圧感(いあつかん)を放ちながらついてきていた。才は唐突(とうとつ)に振り返ると、ぴっと指を突き付ける。 「お前もせめて何かしゃべれよ!」 「ふっ。我の言葉は」 「やっぱいい。内容ねーし」 「仕方ないんじゃないかなぁ。記憶ないみたいだから」 「いや記憶なくてもさ、何かあんじゃん? お世話になりますとか、ナレージャたんごめんとかさ。何でコイツこんな無駄に態度でけーの?」  するとカリニは才をじっと見た後、ふっと目を逸らした。 「……召喚の件に関して、我も責任を感じないではない。これから世話になるが、よろしく頼む」 「急にデレるのもやめろ!」 「才は才でワガママだなぁ」 「祥太郎、お前は前を見て歩け。そっちカベだから」  そんなことをしてる間にも、目的の部屋が見えてくる。 「んじゃ、俺らはこんなとこで。明日は10時にミーティングルームに集合な」 「10時か……」 「何でお前が不安そうなんだよ祥太郎」 「だってさー」 「では、明日だな」  カリニは会話を断ち切るように言って、ドアをパタンと締める。思わず上げた手が行き場をなくし、才は仕方なく頭の後ろをかいた。 「愛想(あいそ)ねーなぁ。記憶なくす前は、もっとにこやかだったとかあんのかね」  肩をすくめ歩き出した彼に、祥太郎もついていく。 「どうなんだろうなぁ。でも何となく、育ちがよさそうな感じはするけど」 「はぁ? どこ見たらそういう感想が出てくんだよ?」 「例えば……ケーキの時とか?」 「ケーキ?」 「くっ、あのモンブランはやっぱ惜しかった――それはともかく、ナレージャを元の世界に帰す方法、何かあんの? 今日の話だけじゃよくわかんないってのは確かにあるけどさ」 「それをこれから考えようってんだろ」 「マジでシミュレーターのせいとかじゃないよね?」 「ばっ――キミまでそんなこと言うのかなぁ祥太郎君。嫌だなー」 「帰す方法はまだわからないけれど、ナレージャの『魔王』が止まった理由なら、ちょっと思い当たることがあるかも」  突然割って入った声に顔を向けると、そこにはマリーと理沙の姿があった。 「カリニさん、無事に部屋に着きました?」 「ああ着いた着いた。相変わらずくっそふてぶてしーの。んで、マリーちゃん。その理由っつーのは?」 「また明日話すわ。どちみち試してみないとわからないし、今日はもう疲れちゃったから」 「遠子さんを呼び戻す方法を探るつもりが、何でこんなめんどくさいことになっちゃったんだろうなぁ」 「それはアレよ」  ぼやく祥太郎に、マリーは大きなため息をつく。 「わたしたち、巻き込まれるプロフェッショナルだもの」  ◇  翌日。  10時になる少し前には、ミーティングルームにほぼ全員が集まっていた。直接部屋の中へ転移して来た祥太郎が、眠い目をこすりながらあたりを見回す。 「……あれ? マリーは?」  いつものメンバーに加え、カリニもナレージャも(そろ)っているのに、マリーの姿は見当たらない。 「ああ、マリー君ならテストルームにいるよ。朝から準備をしてくれていてね」 「準備、ですか」 「そーそー。ギリギリまで寝てる祥太郎くんとは違うのだよ」 「ぐうっ……」  嫌味たっぷりに言われるが、言い返せない。才自身も、ここに来るまでに色々と仕事をしてきているのが見て取れた。 「まあそう言わずに。適材適所だからね」  マスターはいつものように穏やかに言ってから、祥太郎へと向き直る。 「では祥太郎君にも仕事を頼もうかな。皆をテストルームへ」 「あ、了解です」 「きゃぁぁぁっ! ――え? え? どういうことですか? 移動したんですか?」  気がつけば、目の前にはテストルームの扉。ナレージャは軽いパニックに陥り、カリニは目を丸くしている。 「いきなり転移すんじゃねーよバカ太郎! 慣れててもビビるわ」 「ああごめん。つい」 「マリー君。今テストルームの前だが、大丈夫かな?」  マスターが『コンダクター』で呼びかけると、しばらくして返答があった。 『ええ、どうぞ。お入りになって』  扉を開けると、だだっ広いテストルームには何本もの光の柱が立っていた。床から天井すれすれまで伸びた巨大なそれは、部屋の中央を囲むようにして円形に並んでいる。 「す……すごい! 何ですかこれ?」  またも真っ先に声をあげたのはナレージャ。  続いてリアクションしたのは、理沙だった。 「あれ? 師匠もいる!」 「理沙ー! 元気そうで何より」 「昨日も会ったばっかりですよ師匠。それより、帰ったんじゃなかったんですか?」 「んー。私もそのつもりだったんだけど、今日も手伝って欲しいことがあるからってマスターさんに言われて泊っていったんだ。家のことも心配だから、シロには先に帰ってもらったけどね」 「もしかして僕、外部の人間より仕事してない……?」 「適材適所と言ったろう? あとでちゃんと働いてもらうから、あまり気にしなくていい」  マスターは、ぶつぶつ言う祥太郎の背中を軽く叩くと、マリーへと呼びかける。 「もう結界は、ほぼ完成かな?」 「ええ、9割方。あとは起動させて、マスターに調整してもらえれば」 「大がかりな結界だから、大変だったろう。ご苦労様」 「確かに少し疲れましたけど、ウリョウも手伝ってくださいましたから」 「ううっ……私がこんなに人から必要とされる時が来るなんて……! 生きてて良かった……!」 「そんなことないですよ師匠! あたしには師匠が必要です!」 「理沙ー!」 「師匠ー!」  そうして手を取り合い、涙を流す二人。 「……まぁ暑苦しい師弟はとりあえず放っておくとして、そろそろ始めましょうか」  マリーは呆れたように言ってから、ナレージャへと向き直った。 「ではナレージャ。――こちらへ来て、『魔王』を呼び出してみせて」

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