ゲートキーパーズ・アパート ~異界対策部のお仕事~

読了目安時間:7分

調和の聖女 4

「危険って……(さい)さんも言ってましたけど、祥太郎(しょうたろう)さんは悪い人じゃないですよ?」 「では、これを見てどう思うのです?」  無垢(むく)魔女(まじょ)は、祥太郎に見せたのと同じ映像を再生した。それを見て才は、あわてて何度も手を振る。 「いやいやこれは違くて、その……ちょっと俺が驚かせちまったからっつーか」 「この『調和(ちょうわ)聖女(せいじょ)』の領地で、むやみに人に向かって能力を使うことはゆるされないのです」 「だからー! 悪気があったわけじゃねーし。ダチの悪ふざけみてーなもんじゃんか」 「悪ふざけなら、まだマシというものです」 「は?」 「あなたがたが居たショッピングモールは、簡単に言えば罠なのです」  彼女は大きくため息をつくと、先ほど用意した椅子へちょこんと腰を掛けた。 「あなたがたも通ったと思いますが、ある程度の異能の力を感知すると、特別な道に迷い込むように設計されているのです。使っちゃいけないと言われてるのに、能力を使っちゃうような人は、ダメなのです。そういうダメ能力者を誘い込む罠なのです」 「能力者ホイホイ……」  ぽつりと言った理沙の言葉は無視される。 「そして転送されてきた者を『審判の町』で調査するのです」 「あのアフォがいた街か。しかし何でそんなメンドーなことを……」 「あの町の管理は自動でなされているのですから、面倒ではないのです。ご存知のように『ミュート』もすべての異能者をカバーできるわけではありませんし、能力を悪用しようとする者は、あちこちに潜んでいるのです。一般の人々がたくさんいるところを狙って悪さをするような者もいますから、誘い込んで捕まえるのと、安全の確保と、一緒に出来て効率的なのです」 「ちょっと待って」  そこで、話を聞きながら考えを巡らせていたマリーが声をあげた。 「あの時――ショッピングモールに居た時。わたしたちの誰も、能力を使ってないわ。なら何故、あのループする道に迷い込んでしまったの?」 「祥太郎なのです」  魔女は、再びその名を口にする。 「祥太郎は、()()()()能力を使っているのです。これがどれほど危険なことか、同じ異能者であるあなたがたには、良く分かるはずなのです」  一瞬の沈黙。才は頭のうしろを掻いてうなった。 「けど……そりゃ、最初の頃は暴走もあったが、あいつはちゃんと能力使いこなせてたぜ? 今回のことだって、ちょっとした気のゆるみってだけで」 「あなたがたは、それでも大丈夫なのです」 「だから祥太郎だって――」 「どうやら、理解できてないようなのですね。あなたがたの周囲には、お手本となる異能者がいて、まだ才能が未熟な頃から訓練を受けているのです。ですから、うっかりしちゃっても、無意識のうちにブレーキをかけられます。でも、祥太郎は強い能力を導いてくれる先生もおらず、職場でも特に訓練を受けてきたわけではないのです。子供が感覚だけで車を運転しているようなものです。びっくりしちゃった程度で、大事故になりかねないのです」 「じゃあ、調和の聖女――魔女さん? が、祥太郎さんの訓練をしてくれるってことですか?」 「そんなことあるわけないのです。わたくしは転移能力者でもないですし、祥太郎ひとりにかかりきりになるわけにもいかないのです。しかも、彼の力は未熟な制御能力に比べて大きくなりすぎました。今はもう、ギリギリのバランスと言えるのです」 「それなら、祥太郎くんをどうするつもり?」 「排除します」  今度はやや長い沈黙。  その幼子のような見た目と、意外な話しやすさにすっかり気が緩んでいた一同は、再び冷えた空気に背筋を凍らせた。 「……それは、殺すということ?」  遠子が重ねて尋ねる。無垢の魔女は手を顔の前で合わせ、首を傾けた。 「まだ考え中なのです。今はとりあえず、この中に入ってもらっているのです」  そういって彼女は祭服の胸元で揺れるペンダントを持ち上げてみせる。  金の輪の中に収まるオパールのような石には皆、見覚えがあった。 「渾櫂石(こんかいせき)! なんで魔女さんが持ってるんですか? それは、あたしたちしか――あっ、もしかしたら、あの後アーヴァーに行ったとか?」 「……違うわ、リサ。ザラだって渾櫂石をもらったのよ。異界派遣のことだってアパートの仲間やマスターに報告するはず。あそこにはセリナも居るんだもの。ここと繋がってたっておかしくないわ」 「なかなか察しが良いのです。神楽坂(かぐらざか)だけではなく、三剣(みつるぎ)の者と連絡を取ることだってあるのです。でも、わたくしが表に出たがらないのはみんな知っていることですので、姿を見せることは滅多にないのです。もちろん、そんなことがあっても、みんなが見るのは『聖女様』ですが。魔女は嫌われ者だから、仕方がないのです」 「けど、そうじゃない人たちもいるわ。ここのみんなもそう。……磋和国(さわのくに)の人たちだって、そうだった。私を魔女と知っても良くしてくれた。だから私も、薬を作って恩返しをしたの」 「なるほど。あなたが、『雨蛙(あまがえる)魔女(まじょ)』なのですね」  無垢の魔女は言って、遠子を見る。 「人間と親しくしている魔女がいると聞いて、仲間に入ってもらおうと思っていたのです。いつの間にか姿を消していたようですが」 「私も、無垢の魔女が、争いのない世界にするための礎を作ろうとしていると風のうわさに聞いていたわ。結局、詳しいことを知る前に襲撃にあって、そのまま眠ってしまったのだけれど。――目覚めた時、磋和国は私が滅ぼしたことになっていた。悲しかったし、悔しかった。だから私は今度こそ、大切な人を守りたいの」  遠子は視線を逸らすようにして、声をあげた。 「棒人間ちゃん!」 「アイアイサー! だっピ!」 「あっ」  皆が話している間、こっそり背後へと回っていた棒人間が、ペンダントを引きちぎるようにして奪い去る。  あわてて周囲の力を無効化しても、床に這いつくばる仲間のもとへと、棒人間は難なく戻っていった。 「その謎生物は何なのです? チートなのです。ズルなのです!」 「ぐぎぎ……お前だってチートみたいなもんだろ!?」 「ベーっ、だっピ! チートってよく知らないけど、とにかくししょーの言う通りなんだっピ! ボクのことをすっかり忘れて、ムシするのが悪いんだっピ! 祥太郎さんさんは返してもらったっピ!」 「あなたがたは……どうしようもないのです」  魔女のため息とともに、皆にかかっていた圧がゆるむ。 「祥太郎を取り戻して、どうなるのです。今から特訓をして、急いで能力の使い方を叩き込むのですか? 誰がそんなことをできるのです? 無責任すぎるのです。そもそもあなたがたの力では、渾櫂石から祥太郎を取り出すのだって困難なのです」 「そんなの、やってみなくちゃ分かんないですよ!」 「そうよ。わたしたちだって、それなりに修羅場くぐって来てるもの」 「渾櫂石は結構、調べたからな。また徹夜で研究してやる」 「無垢の魔女。あなたこそ、心当たりがあるんじゃない?」  遠子は棒人間から渾櫂石を受け取ると、目の前へとかざした。天井から差し込む光が石へと反射し、不思議な色合いを見せる。 「あなたの力は強いわ。でも、この石の中へと人を閉じ込めるには、結界の知識と転移の能力が必要なはず。少なくとも、あなたの分野じゃない。『ミュート』や『サイレンサー』にしても、実際に形にしたのは、才くんやマリーちゃんのご先祖でしょう?」 「……確かに、わたくしには様々な協力者がいるのです。でも、そんな都合のいい異能者は用意できないのです。もし居たとしても、それぞれに、それぞれの仕事があるのです。祥太郎一人のために多くの時間はさけないのです」 「だけど多分、その人は手伝ってくれると思うわ」 「だから今、大事な仕事を任せてるからダメだと言ってるのです!」 「ほら、やっぱり心当たりがあるんじゃない」 「ずいぶんと賑やかだな。珍しいこともあるものだ」  その声は、唐突に聞こえた。  先ほどまで誰もいなかった無垢の魔女の斜め後ろ、柱の陰からその人物は静かに現れる。  黒いスリーピースのフロックコートを身にまとい、亜麻色の髪を後ろで束ねた姿は凛々しい。驚く皆の顔を見ると、青みがかった目は、少し愉しげに細められた。 「……ママ」  マリーは絞り出すようにして、その言葉を口にする。

コメント

コメント投稿

スタンプ投稿


このエピソードには、
まだコメントがありません。

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • 浄玻璃の番人

    『善悪は水波の如し』

    0

    0


    2021年6月24日更新

    平穏な学校生活を送っていた高校2年生の山 牡丹(やま ぼたん)は、ある日同じクラスメートと事件に巻き込まれる。それは奇怪な事件だった。身に危険が及ぶなか、牡丹は自分が何者なのかを思い出す。今とそれほど変わらない時代。少し奇怪で、不気味で、あやしくて、得体の知れない、「それ」のお話。 ※一週間に一回のペースで、投稿していきたいと思います。 よろしくお願いします。

    読了目安時間:2分

    この作品を読む

  • 『孤独な――の終着点』

    好評だったら続き書きます

    0

    0


    2021年6月24日更新

    ――否、それは光ではなく斬撃。 ――否、それは救いではなく暗殺。 ――否、それは『主人公』(ヒーロー)でもなく、【最悪の悪役】だった。 好評だったら長編として息抜きで書きます

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり

    読了目安時間:4分

    この作品を読む

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 【もうエンディングは】三度目の勇者【見たくない】

    奇想天外! ドタバタ亜種ファンタジー!!

    3,600

    0


    2021年6月23日更新

    「やった! やったわ! これで世界は平和になるのね!」 「……お父さん、お母さん……。私、仇を討ったよ……」 「僕達の手で……ついに魔王を倒すことができた……!」 魔法使い、盗賊、僧侶が順々につぶやく。 共に旅した仲間たちだ。感極まって震えているヤツまでいた。 俺は改めて周囲を見渡してみる。 石造りの城はあまりにも無機質だった。ひんやりとした床には魔王が倒れている――俺たちが倒したんだ。最期はあっさりしたものだった。 俺は刀を鞘に納め、心の中でこう言った。 まあこれ二周目なんですけどねえええええ!!

    • 残酷描写あり

    読了目安時間:3分

    この作品を読む

  • Against 〈human〉:『想像/創造』世界の神を墜とす恋色の蝶

    神と戦う人間たちの異世界日ノ本戦記!

    16,600

    50


    2021年6月23日更新

    想像したものが現実となる。その力の源である万能粒子を人々は『テイル』と呼んだ。――人々はそれを力として使い戦争を起こすに至ってしまった。 人々は地獄と化した世界を救う救世主を求め創造した。人間と同じ見た目でありながら、頭脳、身体能力、万能粒子への適合度が高い〈現神人《あらがみひと》〉、通称〈人〉。人間を強大な力で戦争の世界から救ったが、上位存在の知性体として人間を支配、管理するようになった。 日ノ本も戦乱の世。12の〈人〉の一族が島国を十二分し、思想の違いから争いあっていた。 この物語は、1人の少女の恋と旅立ち、絶望と時代の終わりまでの戦いを書く。 ※更新や最新情報はTwitterをチェック!→https://twitter.com/TT_againsthuman Ⅰ 『無知故の白き羽は、戦いと思慕で紅色に染まる』――The girl was left behind―― 13歳になった少女、四十番もまた、その争いの兵士となるように育てられ、成人式を契機にいずれかの〈人〉の下で奉仕をするために売られることになる運命だった。しかし、彼女を買収したのは16歳の旅人。彼らは行方不明となった友人を見つけるための旅をする傭兵。 彼らの弟子となり、『明奈』という名前を与えられた彼女は、主となった2人との生活の中で、自分の生きる意味と希望を見つけていく。 「私、先輩と一緒に生きて、お手伝いがしたいです」 その言葉は、彼女を、少年2人が抱えていた運命との戦いに巻き込み始める。 Ⅱ 『楽園に至る紅き蝶は、邪神の炎に包まれる』 ――The city is full of inferno―― 源家本領の戦いから、2年が経過した。 戦いの舞台は京都。倭の中で人間が唯一比較的自由に暮らすことができる人間にとっての理想郷人間の自治区。人間差別主義の家の襲撃が訪れる最中、明奈の目の前に〈影〉の神が現れ、明奈の戦いが佳境を迎える。そして史上最悪の内戦の1つと呼ばれた、京都会戦が始まる。 ※小説家になろう カクヨム ノベリズム アルファポリスでも掲載中 ※作者Twitterで活動情報等のお知らせをしてます→@TT_againsthuman

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり

    読了目安時間:8時間56分

    この作品を読む