或る愚か者の話

 語部談一という人間がこういったちんけで、面白味もないモノローグ風思考整理をするようになったのは中学一年の時である。  物語の主人公と言うものは得てしてそういうものであり、主人公というものにまだ憧れを捨てきれていなかった談一少年は、この奇妙奇天烈奇々怪々な思考方法を会得せしめんとして、多くの書物を読み漁った。  書物などと御大層な言い回しをしたが、要するに浴びるように小説を読んだというだけの話だ。  そこから気に入った『京都を舞台にした阿呆狸の物語』やその作品を書いた作家のデビュー作。  コメディテイストが強い文章を書きやたらに全国コンテストを創作するラノベ作家の作品や、やたらと迂遠な言い回しをする音楽好きの作家の作品から、いいところだけを奪って固めたと思い込んだのが、この思考法である。  残念ながら、全くもって良い部分の抽出など出来ていなかった。  それどころか、あろうことにも悪い部分ばかりをコピーアンドペーストしてしまったのである。  結果、大抵楽観的な思考ばかりするという阿呆も阿呆。大阿呆な思考回路が完成した。  しかしながら、このことに調子に乗った談一少年は学校中で八面六臂の大活躍という名の余計なお世話をして回り、その代償として自身を主人公だと思う純真無垢な心を失ったのである。  要するに、良かれと思ってやったことが全部裏目に出て大勢の人に迷惑をかけた。そして、孤立した。  それは真に多大な損失ではあった。だが、後悔はない。  己のことを主人公だというのは思い上がりも猛々しいことだ。それを知れたのは談一少年の人生にとって非常に有益なことであっただろう。  実際、有利に働いたことはあれど不利に働いたことなど今までになかった。  だが、ここに来て非常に由々しき事態が起こっている。それは有栖さんと出会ったことに端を発する一連の出来事だ。  おかげでベッドの中に入り、眠気を待っている中で俺は非常にむかむかしている。  今日一日を通して、二人の主要人物から聞いた話はどちらも正解のようにみえて、その実どちらも間違っているようにも感じた。 「何が? 何が間違っていると俺は感じている」  わからない。わからないから腹の奥底がむかむかとして気持ちが悪い。  クロノさんは言った、「物語をぶっ壊す」と。ぶっ壊してどうする。世界が終わるというなら意地でもそんなことを出来るはずがない。  家守は言った、「物語がズレれば世界が終わる」と。それはそうなのだろう。だからと言って、クロノさんを人柱にして救われた世界に何の意味がある。それに、本当に死ぬのはクロノさんだけなのか。  いや、それを考えたところで主人公ではない俺にどうすることも出来ないだろう。  モブですらないのにこの世界の命運にかかわるなんて出来るわけがない。そして、そんなの俺の知ったことではない。  だが、それでもどうにかできないか。本当に俺にはどうにもできないのか。 「全てを都合よく回す最善手はないのか?」  あるわけがない。画面の外の人間である俺がそれを持っていていいわけがない。  この世界はしょせん一つの物語。モブですらない観客はその物語を見ているしかないのだ。だというのに、俺が出しゃばっていって何になる。  何にもならないことは明白だ。それとも今朝のクロノさんの言葉に影響されているのか。  この物語を壊すための起点になるというその言葉に…… 「……知るか、そんなこと」  布団を深くかぶり、無理矢理目を瞑った。  そのまましばらく悶々としながら、全く関係のない不毛な思考を続けていたら、いつの間にか眠っていて気づけば朝だった。

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