【短編版】秋田へようこそ、探偵エルフさん!【日常の謎】

読了目安時間:4分

<夏編3> 秋田涼夏奇譚 泰衡と風穴の謎を追え!【怪談編】

 秋田の夏夜。  真っ暗な世界に、現代文明が光を灯す。  気温が相変わらず下がらず風もない。エアコンをつけないと、蒸し暑さで、身体が壊れてしまいそうだ。  Tシャツと短パン姿のレナが、ダレている猫のように床に転がっている。  いつもなら、布団の上に強制的に運んでおくのだが……今夜の私にそんな余裕はない。  夏用の布団を被って呻いている。  うーあー。  その様が何だか既にジャパニーズゾンビであり、レナはダレ猫状態でツッコミを入れる。 「嫌ならソナタ君、寝ちゃいなよー」 「楽しそうな感じがむかつく~」 「お、方言が消えている。本気で嫌いか、怖い話」 「……」  布団お化けミノムシになっていた私が黙る。レナはその上から両腕で抱き付いてきた。  ひゃああああああああああッ!  一瞬でSAN値大暴落。私は発狂する。  笑いながら、父が障子戸を開ける。 「あっはっは。今晩の夜這いはそこまでな」 「「夜這いじゃない!」」  じゃれただけのレナは一瞬怒ったが、怪談の開始にワクワクした子供の目になった。  一方、私はウンザリしたジト目で怪談と戦うボクサーのような気持ちだった。  どっからでも、かかってこいや!  甚平姿の父はドカリとあぐらをかいて、畳の上に座った。 「じゃ、奥州藤原氏の亡霊話にしようか。掻い摘んで全部やる? それとも後半だけドンとやろうか?」 「お、ロウソクは立てないのか?」 「レーちゃん、108個も怪談すると、ソナの精神が持たんよ」 「ちぇ。探偵は現場を観察して、状況判断しないと、推理にならないんだよ」  怪談を推理も何もないだろう。レナは掻い摘んで全部話を希望した。  推理に情報が必要だから~らしい。いや、だから怪談は推理じゃ……もういいや。  私は諦めて、父がレナに怪談を始めているのを、眺める第3者になることにした。 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻  今から約800年前の東北地方。  岩手県の平泉(ひらいずみ)を拠点に、奥州(オウシュウ)藤原(フジワラ)氏が、秋田の田舎ら辺まで統治していた。  話の開始前だが、(ゲン)氏は(ヘイ)氏を滅ぼした。  その源平の戦いの後、源氏の大将頼朝(ヨリトモ)と、戦いで活躍した頼朝の弟の義経(ヨシツネ)は仲違いしたようだ。  頼朝に追われた、義経は親交のあった、奥州へ逃れて来た。  その当時の奥州は、藤原秀衡(ヒデヒラ)がまとめていた。義経はその彼と仲が良かったのだ。  だが、その秀衡は亡くなる。  彼の息子、泰衡(ヤスヒラ)は、鎌倉(かまくら)にいた頼朝の命令に屈して、義経を追い詰め自害させた。 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻  レナは父の話に相槌を打ちながら熱心に聞いていた。  まるで、探偵。あ、探偵エルフだっけ、レナ。 「平泉、奥州を守るためなら、鎌倉さんの命令を聞くと思うけどねぇ」 「奥州平泉を守るか。そうならねえのが歴史さ」 「ホワイ?」 「続けっぞ。義経を討った泰衡を、頼朝はこう思ったんだ」  不思議に思うレナに、父はまた語る。 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻  泰衡は義経を討った。それで奥州の地は平和になるはずだった。  しかし、頼朝の目的は、鎌倉による奥州の統治であった。  義経を匿っていたとして、奥州藤原氏の滅亡を謀ったのだ。  鎌倉の軍を奥州に送り、防衛する藤原の軍をことごとく破った。  泰衡は平泉の街を焼いて逃げた。  泰衡が逃げた先は、郎党の河田(カワタ)次郎(ジロウ)のいる、比内(ひない)郡 (今の秋田県大館市比内町)であった。  そこで何度目かの助命嘆願を泰衡はしたが、頼朝は拒否した。  さらに河田が泰衡を討ち、その首を頼朝に献上したのだ。  頼朝は河田次郎を『譜代の恩を忘れた者』として処刑したのだ。  すぐ、その2人を討った頼朝自身も数年のうちに亡くなった。 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻  私は恐怖の来襲に備え、布団を被った。  レナは首を傾げた。  父は声音を変えつつ、本番の話を話す。 「亡霊は誰になるんだ?」 「はいはい。ここからが本番! 頼朝が亡くなり未亡人となった妻の北条(ホウジョウ)政子(マサコ)。その息子が頼朝の後の将軍となっていた。政子はある月の3日に亡霊の夢を見た」 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻  甲冑姿の男の亡霊であった。  血走った目で、亡霊は政子に言う。 『平泉も中尊寺も荒れたままにしておくならば、源氏の子孫がどうなるか分かっておろうなァ?』  政子は絶叫して飛び起きた。平泉の、奥州藤原氏の亡霊となった、泰衡が現れたのだ。  その奥州藤原氏の崇りだ。  政子に不幸が押し寄せる。  源氏の将軍、息子たちは暗殺という最期を迎えたのであった。 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻 👻  私は半分気絶しかけていた。  レナは咀嚼しきれずに、声を漏らした。 「ジーザス……。亡霊の泰衡は、政子や源氏を呪っていたわけかぁ。うーん、平安時代によくありそうな話だわ」 「あれ、怖くない?」 「推理要素がいっぱいで興味深い!」 「流石に話が長すぎたかなぁ……」  キラキラした目のままなレナの反応に、父が困惑していた。  いいぞ、レナっこ、もっとやれ!  探偵エルフさん、レナの推理ショーが始まる。  父と歴史知識の論戦が始まった。

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