くじ引き婚はじめました。

読了目安時間:4分

エピソード:3 / 7

一般的に一文字則宗という刀剣男士は夜も盛んらしいじゃあないですか。

 ある種の偽装結婚である私たちは、政府管轄のマンションに住んでいる。いわゆる社宅だ。調度品も政府支給のものでまかなったため、ダブルベッドに枕を並べて仲良く寝ている。でも、身体の関係はない。 「則宗さん、もう寝ました?」 「いや。どうかしたか?」  私はもぞもぞと動いて右側に寝ている一文字則宗に身体を向ける。左側の前髪が邪魔なので、彼の顔はよく見えない。 「ふとした疑問なので、答えたくなかったらスルーしていただいて結構なのですが」 「なんだ?」  一文字則宗の顔がこちらを向いた。 「結婚して半年が経ちましたけど、その、一般的に一文字則宗という刀剣男士は夜も盛んらしいじゃあないですか。私はあなたの相手になれないので、そういうときは外に出ていかれてしまうのかなあと」  じっとこちらを見つめる視線を強く感じる。返事はない。 「あ、あの、別に私のことは構わなくていいんですよ。政府命令でクジで決めた結婚ですし、発散したいときもあるのでしょう?」  今日の現場での話を思い出す。一文字則宗は自分の同位体の性質について、否定はしなかった。ずっと我慢させていたのだとしたら、仕事のパートナーとして申し訳なく感じた。  オンもオフもずっと付き合わせているんだもの……この半年。  互いにひとりになる時間はほとんどなかったように思う。出社も退社も一緒、食事も出先になることが多いために一緒。トイレに行くときでさえも同時に行くことが多いので離れているとは言いがたい。  私はこの生活を窮屈だとは思っていないけれど、則宗さんは違うはずですよね。  黙ったままなので、私は彼に背を向けて毛布を被り直した。 「……今の話、忘れてください。もう寝ます」  目を閉じる。  するとごそごそと身じろぎする気配があって、私の背中に熱が伝わった。 「お前さん?」 「…………」  寝たふりをしよう。私の寝つきがいいことは知っているはずなので、対話を諦めて眠ってくれるだろう。 「お前さん。タヌキ寝入りはよくないなあ」  一文字則宗の大きな手が私の腰に回されて引き寄せられた。温かい。 「僕はこの関係を結ぶ前からお前さんひと筋なのに、つれないことを言わないでおくれ」  空いている方の手で頭を撫でられる。くすぐったい。つい身じろぎをしてしまった。 「……ただのくじ引きじゃないですか」  私はボソリとつぶやく。  刀剣男士と人間との婚姻制度が作られて、まずは試しにと政府職員たちの間で契約が交わされることとなった。職場恋愛を楽しんでいた者たちはその間で結婚をして、残った結婚適齢期の職員たちの間ではクジ引きで相手を決めた。強制である。  政府の命令で強制された分、住む場所や給料等に便宜がはかられた。それがこの社宅であったり、倍近くに増えた給料であったり、実際には使う余裕なんてない有給休暇だったりする。 「本気でくじ引きで決まったと、お前さんは思っているのか?」 「え?」  油断した。ぐるりと視界がまわって、私は天井を、そして一文字則宗の私を見下ろす顔を見た。 「あの、だって、私、第一希望、鶴丸さんだったんですよ? 契約結婚をするなら、この仕事についたときから一緒に活動していた彼がいいって指名したんです。鶴丸さんだって、決めた相手がいないって、おっしゃっていたのに」  同じ部署の鶴丸国永は婚姻制度で結婚することはなかった。今もフリーのはずだし、特定の恋人もいないのだと聞いている。  私が明らかにすると、一文字則宗は右目を大きく見開いていた。 「お前さん、鶴丸を好いていたのか?」 「仕事仲間ですよ、今も昔も。信用できる友人です。私、誰かを好きだと――性愛の意味合いで、誰かを意識したことがなかったから、白い結婚でありたい私と約束できそうな相手に鶴丸さんを選んだだけで――」 「僕じゃいけなかったのか?」 「だって、あなたはこの部署に来てから日が浅くて、よく知らなかったもの。一緒に組むことは多かったですし、相性はいいのだろうって感じてはいましたけど、一緒に寝起きすることに抵抗がないかまではわからなかったから。――ああ。鶴丸さんとは仲がいいんですよ、買い物も旅行も二人きりで出かけたりしてますし」 「……むしろ、僕の夜のことを心配するよりも、お前さんが鶴丸と出かけて気分転換をすべきじゃないのか?」  質問されて、私は目を瞬かせる。  確かに、結婚後は一文字則宗の監視下で生活しているような感じなので、鶴丸国永と休日を過ごすことはしていない。 「そ、そういう見方もできますね」 「なるほど。僕とずっと一緒では息がつまるのだな? 寝食をともにして職場でも一緒で……それは気づいてやれなくてすまなかった」  しゅんとして、一文字則宗は彼の定位置に戻っていく。 「え、あの」  彼に遊びに行かなくても平気なのかと聞いたのは、私自身が遊びに行きたかったからではなかったのに、誤解されてしまった気がする。  訂正したくて彼の肩を叩くが、こちらを向いてはくれない。 「別に私、遊びに行く許可がほしくて話題を振ったわけじゃないんですよ。則宗さんのことが気になったから、聞いただけで」 「僕に構うな。……次の休みは別行動にしような」  それきりで、一文字則宗は私に背を向けたまま寝息を立てた。  なんでそうなるのよ?  なぜか不思議と苛立つが、その理由に思い当たることなく私は眠りに落ちた。

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