もしもこの世界のすべての猫が転生組だったなら

読了目安時間:6分

吾輩はぬこである

「ほーら、取っておいでーっ」  女の子の投げたボールが俺の顔の前を通り過ぎて明後日の方向へ転がっていった。 『……』 「ねぇ、取っておいでってばー!」  女の子が俺の尻をギューギュー押してくる。  やめてください少佐、セクハラです。 『………』  俺はボールのところまでトコトコと歩き、それを(くわ)えて女の子のところに戻っていく。 「すごいねっ、えらいねっ!」  女の子にされるがままに揉みくちゃにされる俺。 『……にゃー』 ・ ・ ・  吾輩は猫である、名前はマーダーナイフ……じゃなくて、にゃん(オス1歳)。  どこで生まれたかとんと見当は付かないけど、この状況になった原因は分かっている。 ~貴方の使命はただ一つ。御主人様となる女性を守り抜くことです~  そうだね、俺の御主人様の深山桐子(みやまきりこ)ちゃん(5才)はヤンチャ盛りだから、ちゃんと見ててあげないと危なっかしいよね。 ~転生前に比べると格段に五感や身体能力が向上しますので、それを凄い力と言っても良いかもしれません~  そうだね、垂直跳びで塀に一発で登れるのは、生前の俺には無理だったね。  でも良すぎる嗅覚というのも困りモノで、桐子ちゃんが俺の鼻に納豆を押しつけてきた時は正直、再び女神様のお膝元にリターンするかと思いました。 『あの女神(おんな)、ハメやがったな……』  やたら曖昧な言い回しで、しかも慌てた様子で俺をさっさとゲートに向かわせたのも、ボロが出ないうちに転生させるのが目的だったのだろう。  あの世に到着して早々『人生お疲れさまでした、次は可愛いにゃんこさんに転生ですよ♪』とか正直に言われたら、さすがの俺でも躊躇(ためら)うだろうし。 『でもさすがにノーヒントでこの生活はキツいぞ。もう少しアドバイスをくれても良いと思うんだがなぁ……』 『こんなこともあろうかと!』 『っ!?』  突然、ポンっという軽い効果音と共に俺の目の前へ天使が現れた。 『あの、どちら様で?』 『私だけど、声に聞き覚えない?』  そう言いながら首を傾げる天使。 『いや、声色が同じだから分かるけど姿が違いすぎて……女神様……だよね?』 『うんうん、君は察しが良いのが良いね。私が昔一緒に旅してたヤツは鈍感系主人公だったうえ、私に向かってドロップキックするような輩だったしね』  女神様にドロップキックする鈍感系主人公って一体……。 『んで、どうして天使の姿で?』 『あっちの姿だと力が強過ぎてこの世界には不向きなんだよ。神聖な力がバリバリ吹き出すから、人々の目の前に光り輝きながら現れて神降臨!!みたいな感じ。そんな馬鹿げた理由で人類を騒がせたら始末書モノだし』  女神様が不祥事で始末書とか、世知辛い世の中だなぁ。 『んで、わざわざ来てくれたということは何かスーパーパワーを授けてくれるの?』 『その逆。余計なコトやって転生者だとバレないようにしてね、って言いにきたんだよ』  へ? 『バレないようにって、なんかペナルティでもあるの?』 『ありあり、大あり! 例えば言語で意志疎通出来なくたって、身振り手振り、ジェスチャー、モールス信号やタッチパネルのフリック操作などなど、猫の身体でも人類とやり取りする手段はいくらでもあるけど、それをやらかした時点で転生権の剥奪&地獄行きなんだよ』 『怖っ! なんでそんな重要なコトを今更!!?』  俺が転生してから既に1週間経っているのだけど、もしも俺が冗談半分で猫らしからぬ行動をしようものなら、その時点でアウトだったわけだ。 『………』 『………』 『………………てへっ☆』 『てへっ☆じゃねええええっ!! お前、絶対うっかりだろ!! うっかり忘れてただろっ!!!』  俺の怒りMAXの抗議に、さすがにシュンとなる女神様。 『ホントごめんね。そのお詫びに出血大サービスで君をしばらくナビゲートするからさ。女神様直々なんて、史上初だよ?』  どちらかというと、うっかりで転生者を地獄に落としそうになった女神の前例が無いだけなのではなかろうか……。 『んでナビゲートの女神様、俺はこれからどうすれば良いの?』  俺の問いかけに答える代わりに、慣れた手つきで俺を頭に乗っけた女神様は、両手で俺の前脚を掴んでパタパタと振る。 『転生前に伝えた通り、桐子ちゃんを最後まで守ることだよ』  されるがままに前脚をパタパタしながら俺はウーム…と唸る。 『守るって言っても四六時中一緒に居るわけでもないし、桐子ちゃんが幼稚園に行ってる時に何かあっても対応できないよ』 『でも、君は自由に外との行き来が出来るにゃんこさんなのだから、基本的には桐子ちゃんを見守っててあげてね』 『はいはい』  まあ、桐子ちゃんを守るために転生した立場上、それをサボって猫生活をエンジョイしちゃうのも気が引けるしな。 『つーか、いつまで俺の前脚をパタパタしてるの』 『いや、猫を見るとついつい頭に乗せたり投げたくなる性分で』  投げるな投げるな。  何とも変な手癖をお持ちな女神様に呆れて溜め息を吐いていると…… 「わー、にゃん太が飛んでるっ。すごいねっ! ぱたぱたーっ!」 『『っ!?!?!?!?』』  後ろから聞こえてきた無邪気な声に俺と女神様はその場に固まった。  やっとのこと首をギギギギ……と動かして俺と女神様が振り向くと、そこには目をキラキラと輝かせて喜ぶ桐子ちゃんの姿。 『……桐子ちゃんに俺の事、どう見えてる?』 『私はステルス有効だから、キミが空中浮遊してる感じかな……』  なんてこったい。 『………』 『………』 「にゃん太?」 『記憶消去ビーーームッ!!!』  女神様の叫び声と同時に放たれた怪光線に直撃を受け、その場にパタリと倒れる桐子ちゃん。 『セーーーフッ』 『アウトだよっ!!!!!』  慌てて女神様の頭から飛び降りて、俺は桐子ちゃん頬を前足でムニムニと押して容態を確認っ。  どうやら命に別条は無さそうだ。 『大丈夫、ヨネスケさん。記憶に残さなきゃセーフだからっ!』 『セーフの条件が大雑把(おおざっぱ)すぎるわっ!! あと、メイスケなっ!!』  しかし、幼女が倒れてる姿を見るととてつもなく不安な気分になるなぁ。  これ本当に大丈夫なのだろうか……。 『心配しないで。次に桐子ちゃんが目覚めた時は綺麗サッパリさっきのコトは忘れて、バッチリ無かったことになってるから』 『だったら、俺がもし身バレした時もそのビームで助けてよ……』 『それはダメだねぇ。さっきのは私の過失だから大丈夫だけども』 『過失って認めたな』  俺のツッコミにギクリとした顔で固まる女神様。 『………デュワッ!!』  そしてそのまま、どこかで見たことあるポーズで窓をすり抜けて飛び去っていった。 『……何これぇ』 ◇◇  この家で猫として過ごしてみて、桐子ちゃん一家の様子が大体分かってきた。  桐子ちゃんはお母さんと二人暮らしで、お父さんはずっと前に亡くなっているらしい。  生活はあまり楽では無いものの、桐子ちゃんが寂しがらないようにと俺……もとい、にゃん太を飼い始めたのだそうだ。 「にゃん太ー! ぎゅーーーっ!!」 『ウニャニャニャアアアアッ!?』  手加減を知らないHP9999固定の無敵の幼稚園児の前には、猫の体力をもってしても全く太刀打ち出来ない。  ……というか苦しいです、ガクッ。 「わあああっ! にゃん太ーーっ! ママーッ、にゃん太がーーっ!!」  ヤンチャ盛りなこの子を……頑張って守……れるのかなぁ。

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