満洲暗黒譚 暗鬱少女態

読了目安時間:4分

エピソード:1 / 120

鋼・娘娘・牡丹

奇妙なスープと令嬢の愛した骨の肉①

奇妙なスープと令嬢の愛した骨の肉①の挿絵1  和人たちの間で奇妙なラーメンが流行していた。  一般的な市販品よりも濃厚なスープの素が飛ぶように売れていた。  ある和人はそれを「一口飲めばまるで脊髄に野兎が駆け巡るようだ」と形容した。味はもとより滋養強壮に効く類の珍品として持て囃された。  ある日、新京衛生局の浦口局長は部下の山倉課長に「元韓燐蘇(げんかんりんそ)」と呼ばれる当の粉末スープの製造元を監査するよう命じた。週刊大連の広告に「大流行豚骨スープは邪教徒の資金源?」という見出しがあったため、協連の総務庁から名目上の実態調査を衛生局に委任されたのだ。  山倉は、それなら産業室、情報課の仕事ではないかと反論したが、暖簾に腕押しだよ、と浦口はあきらめた風だった。 「彼らは目下、赤風や満共同の工作活動、テロ関与の事案で手一杯なんだ。この程度はうちの局でなんとかこじつけをして対処せよ、そういう話だ」 「しかし予算はうちで持て、と」 「今ある局の予算内で調査費用は賄おう。何、たいした話じゃない。要は工場を視察しておかしなところがないか確認してそのまま報告を上げればいい。局としてはやりましたと片づけてしまえ」  山倉は、最近、パブの女と結婚したばかりの身であり、面倒な仕事ほど後回しにしたくなる性分から、「名目上」と呼ばれた厄介な案件ほど机上にいやらしくたまっていくのを知っていた。なので早速、直属の部下で新人の嶋田に本事案を振り与えた。嶋田は言う。 「え、僕がやるんですか」  山倉は言い返す。 「何も難しい話じゃない。下請け業者に委託してしまえ。資料、目録はここにあるから自分で調べてやってみろ。仕事はやらなきゃ覚えられない。これも君の成長になるんだ」  山倉の巧みな話術というよりも、そもそも下っ端の嶋田に拒否権はなく、引き受けざるを得なかった。 「ええと、たしか探偵、何でも屋の目録があったよな...」  嶋田は下請け一覧ファイルからそれらしい業者をざっと見渡した。目に留まったのは「養碌(ようろく)会」だった。説明欄に「食物栄養に関する食品検査、栄養素の解析、栄養学的観点における現代満洲人の食生活統計調査」とあり、ここに任せて問題ないと判断した。 「ここに丸投げしてしまおう」  電話帳を使って「養碌(ようろく)会」を索引したところ、字体の微妙な差異もあってか一見して判別しがたかったが、和語以外の表記はカタカナ交じりになっていたこともあり、「ヨウロクカイ」と書かれた宛先に電話をかけた。 「・・・你好?」 「こちら、新京の衛生局、嶋田である。その方では調査活動もされていると聞いたが?」 「ん?ええ...やってますとも。で、ご用件は?」 「豚骨スープ「元韓燐蘇(げんかんりんそ)」の製造工場を視察して、原材料に怪しいところがあれば没収して当局に持ってきてくれ。怪しいところがなければその旨を報告したまえ。依頼は以上だ」 「うーん、まぁできなくはないんですがねぇ、具体的に怪しいものがなければそれで終わりですかい?」 「もし先方が不審な対応をとれば、原材料などは強制的に没収してよろしい。少しでも疑わしければ構わない」 「はぁそうですかい。で、結果、シメちまっても構わんのですかい?」  …シメル?  嶋田は一瞬その言葉の意図に不可解さを覚えたが、ああ検査の結果次第で工場が閉まってもいいのかって質問だな、と理解した。 「あくまでもこれは五族協和連盟による公的な調査であり、その結果として閉める閉めないについては、こちらは関知しない」  電話口の男は言う。 「ああ、そうですかい。わかりました。では早速、明日にでも人を派遣しましょう。で、報酬は?」 「報酬?まずは口頭で見積を提示したまえ。承諾次第、郵送で正式な委任状を送付する」 「見積書とか、そういうのはやってませんよ。まぁ事後的に請求書は送りますがね。そうさな、基本料金として、およそ150萌奈(モナ)はいただくことになってんだす」  嶋田はギョッとしたが、そういうものなんだろう、と諦めて納得した。予算内容について事細かく覚えているわけでもなく、且つ適当な性格だった。 「了解した。それでは一週間以内には何らかの報告をすること。以上だ」 「新京衛生局さんヅケですね?毎度どうも」 そういって受話器をおろしたのは「養碌(ようろく)会」とは何の関係もない「陽麓(ようろく)会」の会長、王牛破だった。陽麓会は傭兵組織であり、ついでに敵陣の情報調査も担う集団だった。 「おい!娘娘!」 「はーい」 「仕事だ。ラーメンのスープの工場で、怪しいもんがあったら押収してこい」 「親方、そんな簡単に言うけどさー、素人のあたしにわかるわけないじゃん」 「仕事は直感だ。お前には期待しているよ」 「なんとかなるといいけどなぁ。それで?シメていいの?」 「ああ。シメても問題ない。証拠の物品さえあればな」 「了解ー」  そう言って鋼・娘娘・牡丹は工場の地図と、MG54を携え、敦化へと足を運んだ。

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