<Infinite Dendrogram>~砂漠の流星~

読了目安時間:9分

【死を告げる一三朱】

 不意打ちの攻撃は(しの)がれて、即座にしっぺ返しが飛んできた。  予想どおりの強烈な反撃に、己の見込みが正しかったことを悟る。  ――戦っても、得られるものはない。  だから、ソレは速やかに次の行動を選んだ。 ◇◇◇  流砂の縁に沿って進むレプンカムイ。  その背で弓を構えていたヴェロスは、【サンドホール・ドラグワーム】が突然背を向けたのに眉をひそめ、直後に目を剥いた。 『GIEEAAAAAA――――ッ!!』 「はぁ!?」  叫び声を置き去りに、物凄い勢いで遠ざかっていく巨大ワーム。  登場と同じくらい唐突に逃走を始めた怪物に、思わず手元が狂う。  明後日の方向に矢が飛んでいった。 『……えぇ』  通信機から聞こえてくる声も、困惑に揺れていた。  然もあらん。  予期せぬ連戦に面食らいながらも何とか態勢を立て直し、さあ反撃だというところでこれである。  だったら最初から出てくるなよと、ヴェロスは一目散に逃げるその背に悪態を吐いた。  だが。 「うん?」  ふと、何か引っかかりを覚える。  訝しむように眉をひそめたは彼は、直後、ひゅっとステラが息を飲む気配を感じた。 『レプ君! 追って!!』  悲鳴に近いステラの声。  その響きが、引っかかりの正体をヴェロスに教えた。  【サンドホール・ドラグワーム】の進路は、北に向いている。  ――それは、カタル村がある方向だった。    ワームの速度は、時速三五〇キロメテル以上四〇〇キロメテル以下といったところか。  目測と、気配が自身の索敵圏内を移動する速度で、ヴェロスは大雑把にアタリをつける。  カタル村までは、二分も掛かるまい。  あの巨体と速度なら、通過するだけで村が崩壊するだろう。 (くっそ。どこまでも面倒な)  ヴェロスは、苛立ちに任せて矢を放つ。 「――――っ!」  外した。いや、防がれた。  《ストラグル・ショット》によって、光の尾を引いて追い掛ける矢。  それに対し、高速で進む巨体が身をくねらせて砂塵を巻き上げる。  砂嵐のような規模で砂塵の壁が立ち上がるが、本来ならそんなものでどうにかなるはずはない。  多少の減速はあれど、問題なく矢は貫いてみせたはずだ。  だが、砂塵の壁に触れた瞬間、矢が明後日の方向に針路を変えた。見当違いの場所で無意味に解放された紅の光を、ヴェロスは渋面で見つめる。 (防御効果を持つ砂塵?)  長距離を見通す眼が、砂塵が高速で横に流れているのを捉えた。  その様子に、彼は竜巻で身を守るモンスターの姿を連想する。 「それくらいなら、対処は出来る」  渦を障壁とするなら、お約束として上方が無防備となっている可能性がある。  その場合、曲射で障壁を越えることが出来るだろう。  もしくは、重めの――貫通力の高い矢で強引に突破を図る。距離が詰まれば、それほど難しくないはずだ。  だが。 (追いつけない)  初動の段階で若干出遅れた分、距離を稼がれていたのは事実だ。  だが、それでも【サンドホール・ドラグワーム】よりもレプンカムイの方がはるかに速い。  翠風魔粧(エアロメイク)状態なら、一〇秒もあれば彼我の距離などゼロにできる。  その距離が、縮まらない。 『ごめんなさい』 「大丈夫だ」  こちら以上に状況を理解しているのだろう。  自責の念が滲むステラの声に、ヴェロスは首を横に振って応じた。  速度が出ない理由は分かっている。  潰れ、ひしゃげ――ほぼ原形をとどめていない船体後部から目を逸らし、ヴェロスは可能性を探ろうと問い掛けた。 「回復魔法で治したりとかは」 『レプ君は、機械のカテゴリーなので』  生物を対象とする回復魔法は効果が無い。  想定どおりだ。ならばと彼はめげることなく続けた。 「奉納で修復とか」 『その、一度紋章に格納しないと――』 「なるほどなー」  うなずく。回復手段はない。 『――ごめんなさい』 「いや。メインブースター壊れてて、この速度を維持してるだけで十分だ」  時速六〇〇キロメテルもの速度は出ないが、それでも補助推進器(スラスター)などをフル稼働させて、時速三〇〇キロメテル以上を維持している。  そのおかげで、距離を縮めることは出来ずとも、離されてもいないのだ。 「大丈夫だ」  推進器(ブースター)を失った原因は、流砂に呑まれた自分を助けようとして、砲撃への対処が遅れたことにある。  つまり、今の状況は自分の失態が原因だ。 「なんとかする」  出来なければ、準<超級>どころか、カンスト組とさえ名乗れなくなる。  とはいえ。 (後、一分くらいで倒すのは無理だな)  それなりにダメージは入っているはずだが、あれだけ元気に逃げる姿を見せられると、残り時間で倒しきれるとは思えない。  ならば、どうするのか。 (鼻先に大火力を叩き込んで、進路を変えさせる)  アイテムボックスから、取り出した矢を番え、弓を引き絞る。  《アロー・インサイト》により射線と同化した視線が、逃げる【サンドホール・ドラグワーム】の頭部を上から捉えた。  砂塵が視界を遮るかとも思ったが、そうでもない。 (やはり上空はがら空きか)  予想以上にクリアな視界に、ようやく好材料が見つかったと彼は笑った。 「欲を言えば、ワームまでの距離とお互いの速度の情報が欲しいが」 『少し待って。……距離八五二、速度三六五で同速』  弓手の嗜みで、ヴェロスも索敵範囲の強化には力を入れている。  そのおかげで、彼は今も標的の位置を感覚的に捉えていた。  とはいえ、もう少し精度が欲しいと無い物ねだりで口にしたのだが、意外とそうでもなかったらしい。  距離の変動をカウントするステラに、ヴェロスは口の端を吊り上げた。  標的の動きは、感覚と数字の双方で確認できる。  射線上に吹く風は、砂塵と空気の揺らぎで読み取れる。 「何だ。行けるじゃないか」  そんな簡単な話ではないし、自信があるわけでもない。  だからこそ、彼は軽口を叩いてみせた。 「――――」  まず未来位置を予測。その上空に到達後、矢を急降下させるため、使用スキルとして《フォールド・ショット》を選択する。  さらに。 「《丘の向こうへ(チャージ)》」  スキル使用の宣言に、手にした朱弓が応えた。  番えた矢の前方に、光の環――加速器が出現する。  第六形態<エンブリオ>たる己の相棒。その三つのスキルの一番目。  効果は、MPを消費して放った矢の加速――つまり射程と攻撃力を引き上げるというもの。  要は《ストラグル・ショット》のMP版なのだが、倍率は大幅に跳ね上がる。  【魔法弓手】や【魔術師】、【生贄】まで取得して稼いだMPを全て注ぎ込めば、超音速の矢を三〇キロメテル先まで届かせることができる。  今回は、そこまでする必要はない。ただ、使用する矢の関係上、必要となる速度を稼ぐために程ほどにMPを消費する。 「まさか、使うことになるとは」  手元に伝わる重みに、ヴェロスは苦笑する。  その矢は、異様な形をしていた。  カテゴリは魔法の矢――【ジェム】が取り付けられている。  ただし、その数が多い。具体的には一三個。  矢羽付近まで【ジェム】が連なっており、そのため矢軸が通常の矢よりもずっと太い。  子どもの腕ほどの太さを持つソレは、一見すると宝石が連なる杭である。  ――【死を告げる一三朱(スカーレット・サーティーン)】  またの名を、【バーベキュー・アロー】という。 『【ジェム】をたくさん引っ付けてぶち込めば、最強なのでは?』  そんな頭の悪い設計思想の下、生産職の友人と深夜テンションで作った狂気の産物だ。  ちなみに矢の数も一三本。  当時の自分は、何を考えていたのだろうか。 「――――」  浸っている暇はない。  歪なその矢を、ヴェロスはスキルによる大加速を以って射ち出した。 ◇  射ち出された矢が、音を置き去りにして虚空を貫く。 「…………」  情報画面(ウィンドウ)に表示された矢の軌跡と【サンドホール・ドラグワーム】の動きを、ステラは祈るように見つめた。  虚空を貫いて走る軌跡は、全部で三つ。  カタル村が助かるかは、ヴェロスが放ったその三矢に懸かっている。  矢が【サンドホール・ドラグワーム】の上空に到達するまで、約三秒。  短いようで長い、その三秒を経て――矢が消失した。 「え?」  レプンカムイは、移動速度ゆえの必要性から、比較的広範囲を《探査》するスキルを有している。  その能力は、自身を中心とする半径一〇キロメテル、上空一キロメテルのドーム状の空間をスキャンし、地形情報の把握や指定条件に合致する生体・動体のリアルタイム追跡を行うという優秀なものだ。    その《探査》スキルが、矢の動きを見失っていた。  三つ全てが、空中でロストしたのだ。 「撃ち、落とされた……?」 『大丈夫だ』  目の前が暗くなりかけるステラを踏みとどまらせたのは、そんなヴェロスの声だった。彼は続ける。 『あれ、空中分解するんだよ』 「…………?」 『それより、【サンドホール・ドラグワーム】はどうなった?』 「どうって、矢が消えたのなら……え? あれ?」  追跡中のモンスターは、その進路を変えていた。  新たな移動先は北東方向――カタル村は、進路上から外れている。 「え? あの、何が――」 『説明する時間がなくて驚かせたな。あの矢、【レシピ】なしの生産品なんだが、結構作りが甘いんだよ』  超音速で射った上に軌道を急角度で曲げるようなことをすると、負荷に耐えきれず空中でバラバラになるのだと、ヴェロスは続けた。  普通の矢であっても分解しそうだが、【レシピ】どおりに作成された矢はその手のトラブルがないらしい。  そのあたりはゲーム的だよなと、彼は苦笑する。 「それで、空中で分解して、どうして――」 『うん。矢としてはバラバラになったんだが、それを構成していた【ジェム】はまだ生きてるわけだ。そして、その【ジェム】は慣性に従って、そのまま超音速で拡散しながら地表に降り注ぐ』  地面に着弾した【ジェム】は、封入されていた《クリムゾン・スフィア》を解放し、【サンドホール・ドラグワーム】のすぐ目の前を紅く染めるという寸法だ。  ヴェロスの解説を聞いて、ステラは「なるほど」と呟いた。 「つまり、クラスター爆弾?」 『よく知ってるな、そんなの。まあ、それを大人しくした感じ』  ステラが口にしたのは、空中で炸裂、子弾を降り注がせる爆弾だ。  実際の物は、数百を超える数をばら撒くこともあるので、それに比べればヴェロスの言うとおり随分と大人しい。 『鼻先に多数の《クリムゾン・スフィア》が炸裂してたら、馬鹿じゃ無ければ進路を変えるだろうさ』  馬鹿じゃ無くて良かったと彼は続けた。  本当に、とステラは同意する。 『さて、それでこれからどうする?』 「どうって……」 『取りあえず当面の脅威は排除されてる。このまま追い掛けても良いけど、一度村に戻るのもありだと思う』  言われて、ステラは口許に手を当てた。  確かにレプンカムイは満身創痍だ。全力航行すら出来ない。 (でも――)  あの怪物の進路上に別の村があったら。  あるいは、自分たちが村にいる時に、あの怪物が戻ってきたらその突進を再び止められるだろうか。 (追い掛けた結果、罠にはめられる可能性もある……けど)  深追いの結果、逆にマズいことになるかも知れない。  それでも、と彼女は思う。 「このまま、決着が宙に浮くのは、ちょっと嫌かな」 『同感』  ヴェロスは、笑って同意してくれた。

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  • シュウ・スターリング(デンドロ)

    へあしゃんぷー

    ♡2,000pt 2020年1月30日 23時57分

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    良き哉 良き哉

    へあしゃんぷー

    2020年1月30日 23時57分

    シュウ・スターリング(デンドロ)
  • 真田幸村

    鉢棲金魚

    2020年1月31日 0時30分

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    「また来てネ☆」ステラ

    鉢棲金魚

    2020年1月31日 0時30分

    真田幸村
  • チェシャ(デンドロ)

    駅のコックs

    ♡2,000pt 2020年1月30日 22時27分

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    いいぞ、もっとやれ!

    駅のコックs

    2020年1月30日 22時27分

    チェシャ(デンドロ)
  • 真田幸村

    鉢棲金魚

    2020年1月30日 22時30分

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    「嬉し涙天の川」ステラ

    鉢棲金魚

    2020年1月30日 22時30分

    真田幸村
  • クトゥルフ

    松脂松明

    ♡1,000pt 2020年2月20日 21時38分

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    松脂松明

    2020年2月20日 21時38分

    クトゥルフ
  • 真田幸村

    鉢棲金魚

    2020年2月20日 23時46分

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    ありがとうございます!

    鉢棲金魚

    2020年2月20日 23時46分

    真田幸村
  • カレーうどん

    九十九清輔

    ♡500pt 2021年3月2日 12時59分

    上空からの威嚇攻撃で相手の行動を誘導するという、追い込み漁的なバトルで良いですね。ドラグワームを仕留めなきゃ依頼達成とは言えん状況だけれど、このまま追い掛けてレプンカムイくんはもつのかどうか、また読みに来ます!!

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    九十九清輔

    2021年3月2日 12時59分

    カレーうどん
  • 真田幸村

    鉢棲金魚

    2021年3月2日 21時38分

    ありがとうございます。レプンカムイは性能半減状態なので、まともな戦闘ができるかというと微妙かも知れません。とはいえ、それでも時速300kmでかっ飛ぶだけの力は残っているので、攻撃をヴェロスに任せて、ドラグワームと素敵なチェイスをしてくれることでしょう…多分

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    鉢棲金魚

    2021年3月2日 21時38分

    真田幸村
  • レイ・スターリング(デンドロ)

    カオス

    ♡500pt 2020年1月31日 13時57分

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    いいぞ、もっとやれ!

    カオス

    2020年1月31日 13時57分

    レイ・スターリング(デンドロ)
  • 真田幸村

    鉢棲金魚

    2020年1月31日 14時37分

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    できらぁ!

    鉢棲金魚

    2020年1月31日 14時37分

    真田幸村

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