<Infinite Dendrogram>~砂漠の流星~

読了目安時間:7分

祝☆インフィニット・デンドログラムアニメ化!! というわけで、二次創作に挑戦。

パンをくわえた女の子と衝突するヤツ

 茜色に染まった空。  表彰台で輝く笑顔を見つめる。 「…………」  ギュッと拳を握り、見上げた空の果て。  金色の星が瞬いていた。 ◇◇◇  太陽がギラついている。  真っ青な空の下、地平に広がる砂、砂、砂。  そんな大砂漠の中、光をねじ曲げる灼熱の空気を切り裂いて、一艇のサーフボードが走っていた。  速い。時速三〇〇キロメテル近く出ているだろう。  この地を行き来する標準的な竜車や砂上船。それらを大幅に上回る速度を叩き出すボードの上には、一人の男の姿。  中肉中背。  前方に伸ばした手には、鮮やかな朱色の大弓。  日除けの外套を身にまとっているため、歳の頃は分からない。  ただ、万が一転倒でもすれば大惨事となる速度域にあって、全く緊張の色が見られない様子から、相応に場数を踏んでいることが窺える。  男の名は、ヴェロス。  わりとどこにでもいる、ひと山いくらの<マスター>だ。 「……あっちぃ」  目深に被ったフードの下で、ヴェロスはうんざりと呟いた。  ゴーグル越しに突き刺さる照り返しに目を細め、彼は何度繰り返したか分からない悪態を口にする。 「ったく、誰だよ船代節約できてお得とか言ったヤツ」  答える者はいない。  仕方ないので、「そうです。俺ですぅ」と口を尖らせて呟く。  ――むなしい。  こぼれ落ちたため息を置き去りに、砂漠を高速で西進するボード。  その推進力は、彼が持つ大弓とワイヤーで繋がれた矢が生み出している。  放った矢に引っ張られて進むその姿は、〈マスター〉(彼と同類)ならば「何それ!」と目を輝かせる類のものだ。  現実では絶対にできない。  しかし、この世界ならば出来ること。  その一例であり、きっと極致の一つ。  思いついた時には、「俺は天才か!」と自賛した彼だったが、早くも後悔している。ぶっちゃけるとダルい。 「…………」  砂塵舞う灼熱の大地を、その身一つで踏破する。  格好良い。ハードボイルドというヤツだ。  しかし、現実は厳しかった。  燦々と輝く太陽はうっとうしく、外套の下は暑さで蒸れ蒸れだ。  そして、ワイヤーが繋がっている大弓を、前方に突き出したまま保持するのは、意外と辛かった。  さらに言えば、会話する相手もいない。 「ゲームやってんのに、一人汗だくで移動してるだけとか……」  ないわー、とヴェロスは首を横に振った。  ダイブ型VRMMO<Infinite Dendrogram>は、発売後、瞬く間に一大ムーブメントとなって世界を席巻した仮想現実体験型のゲームだ。  プレイヤーは、それぞれが独自の能力を持ち、進化していく<エンブリオ>の所有者<マスター>となって、七つの大国が勢力を競い合い、強大なモンスターたちが闊歩する世界へと降り立つ。  そうして何をするかといえば、定められたものは特にない。 『出来るならば何をしたっていい』  英雄・魔王、王・奴隷、善人・悪人――いずれになるのも、何かをするのも何もしないのも、全てはプレイヤーの自由だ。  そんな風にゲーム開始時にうそぶいた案内人(チェシャ猫)の言葉どおり、このゲームは桁違いの自由度を誇っている。  曰く、サンドボックス型MMOの極致。  曰く、異世界シミュレーター。  そんな風に評価する声もある仮想世界の片隅――位置的には真ん中――で、一人寂しく砂の海を往くヴェロス。  ふと、その目を瞬かせた。 「あれは」  遠目に砂煙が見える。  自然のものではない。それが、何かの移動によって生じているものと気がついて、彼の表情が明るくなった。  このままであれば、一分と経たずに自分のものと進路が交差するだろう。 「ワームあたりのモンスターか?」  いい加減、退屈していたのだ。  この際、何でも良いとヴェロスは弓を握り直し――特にすることがないので、そのままの姿勢を維持する。  放った矢に引っ張られている関係上、気合いを入れても加速はしないのだった。 「…………」  何かむなしいと、彼はため息をついた。  そうこうしている内に、砂煙の正体が見えてくる。 「船?」  どうやらモンスターではないらしい。  もっとも、見知っている砂上船とも異なる。  サイズは、わりとよく見る一五メテル級。ただし、そのシルエットは随分と独特だった。 「………シャチ?」  優美な曲線が描き出す流線型の輪郭を見て、ヴェロスは首を傾げた。  上部に背ビレ、側面に胸ビレ状の水晶板が付いているせいで、余計にそう見えるのだろうか。  その美しい純白の船体を眺め、彼はうなずいた。  シャチだ。 「新型の砂上船……いや、<エンブリオ>か特典武具の一種か?」  所有者は、<マスター>だろう。  砂の上、一メテルほどを浮遊して進む姿を見て、何となくあたりをつける。  速度は、ヴェロスのサーフボードより少し早いくらいだろうか。 「…………うん」  お互いの速度と距離を鑑みて、なるほどと彼はうなずいた。  この移動方法を思いついたのは、ごくごく最近のこと。  実のところを言えば、今乗っているサーフボードにとって、これが処女航海となる。 「色々と課題が見えたな」  具体的には、進路変更とか、急停止の方法とか。  推進装置となっている矢の射線上に、何かが割り込んで来た時の対処法とか。  とりあえず、ヴェロスはおもむろに大弓から手を離した。離脱。  そして、声を上げる。 「フォアー(流れ矢注意)!」  ストン、とシャチ型船に矢が突き立った。  命中箇所は、左舷中央部。  そこを中心に、船体を覆う純白の装甲が震えるようにたわむ。  間髪入れず、まるで蜘蛛の巣のように、放射状に亀裂が走り。 「ひぁああああああ――――ッ!?」  可愛らしい悲鳴とともに、その優美な船が割砕したのは、次の瞬間のことだった。 ◇  悲鳴の主は、ステラという名前の<マスター>だった。  外見上の年齢は、一〇代半ばといったところか。  明るい茶の髪をボブにして、赤い帽子を被った可愛らしい少女だ。  船に乗って移動していたからだろう。  ヴェロスと異なり日除けの外套などは身につけていない。  袖の無い赤いロングジャケットに、これまたノースリーブの白ワンピースと、砂漠に見合わぬ軽装だ。  腰のポーチに小型の杖を提げているあたり、【魔術師(メイジ)】や【司祭(プリースト)】といった魔法を扱うジョブなのだろう。 「…………うぅ」  活動的で快活そうな容姿のステラだが、今はどんよりと陰を背負っていた。  砂漠の強烈な日差しを避けるため、近くで見つけた岩陰に入った彼女は、昏い目をして膝を抱えている。  ポツリ、ポツリと聞こえてくる呟きに、ヴェロスの頬が引きつった。 「……遅めのランチ……急にレプ君が、く、くだ……砕け――」 「本っ当に申し訳ない!!」  うわごとのように呟く少女に対し、ヴェロスはひたすらに平謝りの体勢だ。正座をし、両手を揃え、額を地面につける。  結局、彼女が一時的狂気から回復したのは、それから三〇分ほどが過ぎた後のことだった。 「――ごめんなさい。取り乱してしまって」 「いや。全面的にこちらが悪いので……本当に申し訳ない」 「ううん。接近する相手に気がつかなかったのは、わたしも同じだし」  そちらだけの責任ではないと、力なく笑って首を横に振る。  そんな彼女に対し、ヴェロスの頬に冷や汗が伝う。 (舵もブレーキも何にも付いてない物に乗って、時速三〇〇キロでかっ飛んでた方が絶対悪いよな……)  しかも、こちらは接近に気がついていたのだ。  単に気がついてもどうにもならなかっただけで……。 「ええと……その、船、についてなんだけど」 「大丈夫。レプ君は<エンブリオ>なので」  <エンブリオ>であれば、たとえ全損しても時間経過で復活する。  彼女の言葉に、ヴェロスはほっと安堵の息をついた。 (良かった。いや良くない)  大事にならなくて良かったと考え、即座にそれを否定する。  復活に要する期間は、<エンブリオ>によってまちまちだ。  酷い場合だと、<マスター>のデスペナルティ期間よりも長い、などということもある。 「その……お詫びにもならないとは思うけど」 「はい?」  ヴェロスは、アイテムボックスから日除けの外套を取り出し、ステラに差し出す。  そのまま言葉を続けた。 「あの<エンブリオ>、ええと“レプ君”だったっけ? それが復活するまでは、護衛役をさせてもらえないだろうか」 「…………」  ここは、大陸中央部――カルディナ西部に広がる砂漠地帯<ヴァレイラ大砂漠>。  <エンブリオ>を失った<マスター>が、ソロで踏破するのはさすがに厳しい。さらに言えば、船で移動していた彼女は、砂漠踏破の装備など持っていないだろう。  せめてもの罪滅ぼしと、少しだけ緊張しながら告げた言葉。  それを受けたステラが見せた逡巡は、わずかなものだった。  そっと外套を受け取って、ほにゃっと笑ってうなずいた。 「はい。よろしくお願いします」  かくして、二人は即席のパーティとなったのだった。  極限の自由度を誇るダイブ型VRMMO<Infinite Dendrogram>には、メインクエストといったようなシナリオは用意されていない。  しかし、だからと言って物語が存在していないわけではない。  全世界からログインしているプレイヤーは、常に数十万。  そんな彼らが<マスター>同士、あるいはNPCたる<ティアン>たちと関わりながら、いつだって物語を紡ぎ出している。  これはそんな物語の一幕だ。  旅の途中、期せず道連れとなった二人の<マスター>が、熱砂の海にて織り成す何てことない夜話のひと欠片。

コンテスト期間内に完結するようのんびりペースですが、連載予定です。 長くても3万字にはいかないと思います。

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  • 殻ひよこ

    かも

    ♡1,000pt 2020年1月17日 8時52分

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    良き哉 良き哉

    かも

    2020年1月17日 8時52分

    殻ひよこ
  • 真田幸村

    鉢棲金魚

    2020年1月17日 15時40分

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    ありがてえありがてえ

    鉢棲金魚

    2020年1月17日 15時40分

    真田幸村
  • クトゥルフ

    松脂松明

    ♡1,000pt 2020年1月12日 19時49分

    安いもので高いものを破壊する手段と考えれば無敵! 海や砂漠系の乗り物〈エンブリオ〉は特化感あって良いなぁ 応援です

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    松脂松明

    2020年1月12日 19時49分

    クトゥルフ
  • 真田幸村

    鉢棲金魚

    2020年1月12日 20時03分

    ありがとうございます。TYPE:チャリオッツいいよね… 一矢で砕けたシャチが脆いのか、砕いた矢が強いのか、あるいはその両方か…  衝突から始まった物語、のんびりペースですが、お付き合いいただければ幸いです。

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    鉢棲金魚

    2020年1月12日 20時03分

    真田幸村
  • カレーうどん

    九十九清輔

    ♡500pt 2021年1月6日 22時12分

    僕も以前MMOで遊んでいたので、こういうフルダイブ型のMMO、本当に発売されないかなあと思いながら読む次第です。この桃白白みたいな移動方法、漢なら一度は憧れるから仕方ない><

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    九十九清輔

    2021年1月6日 22時12分

    カレーうどん
  • 真田幸村

    鉢棲金魚

    2021年1月7日 21時21分

    ありがとうございます。 桃白白式移動術は、かめ〇め波と並んで憧れデスネ。 デンドロは設定上、見たくない自分の本質を突きつけられそうなのが、非常に怖いですが、こういうフルダイブMMOが実現したら是非遊んでみたいですね。果たしていつになるかという話ですが…

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    鉢棲金魚

    2021年1月7日 21時21分

    真田幸村
  • シュウ・スターリング(デンドロ)

    折本装置

    ♡500pt 2020年2月29日 0時24分

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    これは期待

    折本装置

    2020年2月29日 0時24分

    シュウ・スターリング(デンドロ)
  • 真田幸村

    鉢棲金魚

    2020年2月29日 9時50分

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    ありがとうございます!

    鉢棲金魚

    2020年2月29日 9時50分

    真田幸村
  • レイ・スターリング(デンドロ)

    カオス

    ♡500pt 2020年1月12日 21時07分

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    所見です よろしくお願いします

    カオス

    2020年1月12日 21時07分

    レイ・スターリング(デンドロ)
  • 真田幸村

    鉢棲金魚

    2020年1月12日 21時07分

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    「また来てネ☆」ステラ

    鉢棲金魚

    2020年1月12日 21時07分

    真田幸村

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