<Infinite Dendrogram>~砂漠の流星~

読了目安時間:9分

西部劇とかで引きずられるヤツ

 一週間ほど前、カタル村の南に突如出現した大流砂。  直径一〇〇メテルに届くほどの巨大なすり鉢状の窪みは、不用意に足を踏み入れる愚か者の到来を今か今かと待ち受けていた。  そこに。 「ヒィイイイイアアアアア――――ッ!!」  歓声とも悲鳴ともつかない叫び声。  中天に差し掛かった太陽の下、凄まじい速度で外縁から飛んだ影が宙を舞う。  その数は二つ。  一つは一〇メテルを超える大きなもの、もう一つは人間サイズの小さなもの。 「おおおおおおおお――――ッ!?」  大小二つの影が、流砂の斜面に着地する。  そのまま、勢いを殺すことなく高速で周回を始めた。その様は、まるでルーレットに投じられた球のようだった。  一周約二秒弱。  時速六〇〇キロメテルに届こうかという速度でグルグル回る。 「ちょっと待、これ、狙、無理――」  小さい影の正体は、ヴェロスだ。  彼は、腰に結わえられたワイヤーで牽引されながら、必死の形相でサーフボードを操りつつ、弓を構えている。  番えた矢が狙うのは流砂の中心――だが。 「あっあっ、だめ……吐きそう」 『ストップ!! レプ君、ストップ、ステイ!! 止まってー!!』  わりと真剣な声色で呟いた彼の耳に、回線を繋ぎっぱなしにしている通信機から慌てた声が聞こえてきた。 ◇◇◇  村の北側に棲み着いた怪物――【ブルーフレーム・スコーピオン】を始めとする亜竜クラスモンスターの群れを掃討し終えた時には、すでに昼前となっていた。  思った以上に遅くなったが、その原因は移動に時間を取られたことにある。  モンスターが、予想以上に広範囲に散らばっていたのだ。  砂漠を徒歩でウロウロするのは辛い。  竜車を借りるべきだったと、ヴェロスはため息をついた。  とはいえ、戦闘自体は楽勝だったと言って良いだろう。  位置取り的に厳しい相手もいたが、概ねアウトレンジから一方的に射貫くだけで事足りている。  【デミドラグワーム】あたりが砂中に潜ることで射撃に対応してきたが、【爆裂の矢】を用いた定石を知っていれば大した脅威ではない。  内容は至って簡単。【爆裂の矢】を砂中に叩き込み、その大音響にパニックを起こして顔を出したところを射貫くという案配だ。 (ほぼ、作業だったな)  そんな感じでようやく終えたスローター行為。  その成果を、ヴェロスとステラは並んで見つめていた。 「結構、集まったな」 「すごい量」  素材に装備、消耗品――……戦利品(ドロップアイテム)で築かれた山。全部売り払えば、それなりの額になるだろう。 「アイテムは、そっちが持って行ってくれると助かる」 「そういうわけには。わたし、何もしてないし」 「こっちに特に欲しいアイテムはないし、ステラもいらないなら捨てることになるけど」 「そんな……」  アイテムボックスを圧迫するし、とのたまうヴェロスに、ステラが「むむ」と小さく唸った。  しばらくの間、アイテムの山とヴェロスの間で視線を行き来させ。 「それなら……いただきます」 「どうぞどうぞ」  渋々といった調子でうなずいたステラに、ヴェロスはほっと息をついた。  元々、今回のクエストで手に入る戦利品は、全て渡すつもりだったのだ。 (売っぱらえば、多少の補填にはなるだろうし)  とはいえ、これが限界だろう。  まだ、村の南側に【サンドホール・ワーム】が残っているが、彼女の反応を見た感じだとこれ以上は拒否されそうだ。 (そっちの戦利品は、山分けにせざるを得ないか)  そんなことを考えていると、アイテム情報(ウィンドウ)を確認していたステラがポツリと呟いた。 「わたしが扱えそうなものは多くないし……レプ君に奉納しようかな」 「奉納って? というか、ステラの<エンブリオ>は全損したんじゃ?」 「ええ。ただ、わたしの<エンブリオ>は、全損状態でも出来ることがあって、それが奉納なの」  ステラの<エンブリオ>である【応奉天鯱 レプンカムイ】は、アイテムを捧げることで復活を早めることが出来るらしい。  十分な量のアイテムを捧げれば、即時復活も可能なのだと彼女は続けた。  その説明にヴェロスの目が丸くなる。 「<エンブリオ>が壊れた時って、<マスター>の死亡よりも融通が効かない印象があったけど、意外とそうでもないのか」 「わたし、最初は皆そうなんだと思ってた」 「その辺は自分の<エンブリオ>が基準になるよな。……多分、アイテムを構成するリソースを使っての修復なんだろうけど、本当に色々あるな」  唸りながら、ヴェロスはレプンカムイの特性を推測する。  実際には、彼女の<エンブリオ>は全損状態ではなく、その一歩手前で休眠状態になっているのかも知れない。  <マスター>からは全損したようにしか見えないが、ギリギリで生きているために時間経過以外の修復手段が機能する、といったところだろうか。  何はともあれ、と彼はアイテムを手に取った。 「それなら、ガンガン奉納しよう!」 「はい!」  差し出したアイテムに、ステラが左手の甲――“宙を舞う鯱”の紋章を触れさせる。  直後。 「おお!」  アイテムが光の塵に分解される。  それが紋章に吸い込まれるのを見て、ヴェロスは感嘆の声を上げた。  手順は非常に単純だ。ならばと彼は、新たなアイテムを手に取った。 「俺が片っ端からアイテムを拾って差し出すから――」 「わたしが、紋章でタッチ」 「それで行こう」  うなずき合う。  何度かアイテムを差し出す角度なんかを調整し……しっくり来たら後は流れ作業だった。  アイテムを差し出す。ステラがタッチ。  アイテムを差し出す。ステラがタッチ。  アイテムを差し出す。ステラがタッチ――……    そうして、一〇分ほどが過ぎ。 「あ」  ステラが上げた小さな声に、ヴェロスは動きを止めた。  目を向けると、嬉しそうな微笑みが返ってくる。  どうやら、<エンブリオ>が復活したらしい。 「良かった。足りたみたいだな」  残りわずかとなったドロップアイテムを見て、ヴェロスはホッと安堵の息をつく。  復活の対価は、ドロップアイテム五七個。 (……わりと安い)  ヴェロスが抱いた感想は、ステラには内緒だ。 ◇◇◇  TYPE:ガーディアン・ギア【応奉天鯱 レプンカムイ】  ステラの相棒である第四形態<エンブリオ>。  その姿を、端的に表すなら機械仕掛けの白シャチといったところか。  一応、シャチ型の船、ということらしい。  全長約一五メテルの船体は、地面から一メテルほどの高さを浮遊航行する。  巡航速度は、時速三〇〇キロメテル前後。  さらに魔法を取り込むと、性能が強化されるという特性を持っているようだった。 『スキルで風属性魔法を吸収すると、その倍くらいまでは速度を上げられるの。超音速機動も、数秒だけなら何とか』  とは、【翠風術師】であるステラの言だ。  ちなみにヴェロスと衝撃の出会いを果たした時は、ちょうど強化が切れて素の状態だったらしい。 (アイテムを捧げることで復活する特性といい、外部からリソースを得ることで真価を発揮するタイプか)  たった今、その力を体感したヴェロスは、脱出した大流砂を横目に、腰に結ばれたワイヤーの先――レプンカムイを見上げた。  砂上一メテルほどの高さを維持したまま停泊する機械のシャチ。  それが、こちらを見下ろして笑っているように感じるのは、きっとヴェロスの心情によるものだろう。 「大丈夫!?」  その巨大なシャチの背から、慌てた顔のステラが姿を現した。  背ビレの付け根にあるハッチから飛び出した彼女は、あっという間に砂上へと降り立つ。  その慣れた動きは、彼女がこのシャチの主であることを改めて認識させるものだ。 「ごめんなさい! 急に言うことを聞いてくれなくなって」 「ああ、大丈夫。ちょっと面白かったし」  もう一回やったら死にそうだけど、とヴェロスは笑って手を振った。  大流砂を目前にしたレプンカムイの急加速。それが、ステラの意地悪でないことくらい分かっている。  【応奉天鯱 レプンカムイ】は、TYPE:ガーディアン・ギア――ガードナーとチャリオッツの特性を併せ持つハイブリッドタイプだ。  そして、TYPE:ガードナーは、主を守るため独自の考えで動くことが出来る。  今回の急加速は、レプンカムイの独断だろう。 「本当にごめんなさい。……レプ君!!」  ステラが、レプンカムイを見上げる。  そのまなじりが吊り上がっているのを見て、ヴェロスは意外そうに瞬きをした。 (ちゃんと怒るんだな)  ほにゃっとした笑顔の印象が強いせいだろう。  <エンブリオ>を叱る姿に、新鮮な驚きを覚える。  もっとも、巨大なシャチを「駄目でしょう!」と叱るステラの姿には、何とも言い難い微笑ましさがあったが。 「まあまあ、そのくらいで」 「……っ、ごめんなさい」  改めて頭を下げた彼女にうなずいて、ヴェロスは改めてレプンカムイの威容を見上げる。  優美な曲線を描く純白の船体。  ただし、今はその表面に翠色の文様が浮かび上がっている。  現在取り込んでいる魔法は、風属性のもの。  ――気流を制御し、高速移動を実現する翠風魔粧(エアロメイク)という形態らしい。  ふと、彼は目を細めた。 「よく見ると、尾びれが推進器(ブースター)になってるのか」 「え? あ、うん。取り込んだ周囲の空気を放出することで推力を生み出してるの」 「なるほど」  ちなみに、超音速機動時には変形するらしい。それを聞いて、ヴェロスはうなずいた。  浪漫というものをよく分かっている。 「さて――」  気分を変えるように、手を打ち合わせた。 「提案したばかりでアレなんだけど、作戦を変更しよう」 「変更?」 「ああ。“流砂の中を周回しながら矢を打ち込む作戦”は、少々無理があることが分かった」  わざとらしく渋面を浮かべ、ヴェロスは人差し指を立てる。  実際、よく転倒しなかったものだと思う。 「速度を緩めたら……」 「やってみて気がついたんだが、ワイヤーで腰を引っ張られてるとボードの制御がしにくいし、弓を引くのもキツい。それよりは、レプンカムイを主体にした作戦を考えたいと思う」 「レプ君を?」  ヴェロスは、うなずいた。  実のところを言えば、【サンドホール・ワーム】を討伐するのに、あんな危険な方法を採る必要はない。  【ブルーフレーム・スコーピオン】と同様、《アロー・マルチプライ》の物量で上から押し潰せば良いだけだ。  ならばなぜ、西部劇で馬に引きずられる人みたいになる方法を選んだのかと言えば。 (せっかくパーティ組んでるんだから、力を合わせて何とかしたいよな)  そんな理想と。 (とはいえ、みんな仲良くとはいかなかったわけだが)  そんな現実との兼ね合いからだ。  ステラに誘われて乗り込もうとした彼を、この巨大シャチは「絶対にノー」と振り落としている。  然もあらんと、ヴェロスは思う。 「いきなり自分を全損させた相手とか、そりゃ乗せたくないよな」  そして、好機があれば意趣返しくらいするだろう。  もっとも、先ほどの急加速は、それだけが理由というわけではあるまい。  もう一つ、分かりやすい理由を見て取って、ヴェロスは笑った。 「…………」  そっと、レプンカムイの装甲に触れる。  勝手に触れると怒るかとも思ったが、なぜか嫌がる様子はなかった。 「だって、良いところ見せたいもんな?」  一撃全損という失態を演じた後なら、なおのことだろう。  小声で告げたヴェロスの言葉に、レプンカムイがわずかに船体を震わせた。

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿


  • シュウ・スターリング(デンドロ)

    へあしゃんぷー

    ♡1,000pt 2020年1月24日 10時58分

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    応援しています

    へあしゃんぷー

    2020年1月24日 10時58分

    シュウ・スターリング(デンドロ)
  • 真田幸村

    鉢棲金魚

    2020年1月24日 13時00分

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    「また来てネ☆」ステラ

    鉢棲金魚

    2020年1月24日 13時00分

    真田幸村
  • カレーうどん

    九十九清輔

    ♡600pt 2021年2月3日 1時53分

    機械シャチのレプンカムイくん、ステラに凄い懐いてる大型犬みたいで良いですね。そりゃ乗せてくれないわなと思いつつ、男同士なので意志が通じるのか、今後仲良くなれそうな感じもするという。しかしレプンカムイくんは、そこまでレアな乗り物では無いのでしょうか、ドロップアイテムで治せるのはラッ

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    九十九清輔

    2021年2月3日 1時53分

    カレーうどん
  • 真田幸村

    鉢棲金魚

    2021年2月3日 20時26分

    ありがとうございます。レプ君は、プレイヤーのパーソナルを反映して孵化、進化する<エンブリオ>であるため、唯一無二の存在となります。一方で、エンブリオ自体は全てのプレイヤーが有するもののため、レアかというとどうなんでしょう。ドロップアイテムで修復出来るという特性は、多分珍しいはず 

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    鉢棲金魚

    2021年2月3日 20時26分

    真田幸村
  • クトゥルフ

    松脂松明

    ♡500pt 2020年2月5日 0時30分

    復活がお手軽なのは便利だなぁ! 応援です

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    松脂松明

    2020年2月5日 0時30分

    クトゥルフ
  • 真田幸村

    鉢棲金魚

    2020年2月5日 0時39分

    ありがとうございます。応奉天鯱は、供物を奉じられれば応じるのです。チョロい。

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    鉢棲金魚

    2020年2月5日 0時39分

    真田幸村
  • レイ・スターリング(デンドロ)

    カオス

    ♡500pt 2020年1月23日 13時22分

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    続きを楽しみにしてるよ

    カオス

    2020年1月23日 13時22分

    レイ・スターリング(デンドロ)
  • 真田幸村

    鉢棲金魚

    2020年1月23日 13時56分

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    「嬉し涙天の川」ステラ

    鉢棲金魚

    2020年1月23日 13時56分

    真田幸村

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 蒼空世界のメカ娘~レミエと神とあの空の話

    生意気最強メカ娘と往く空中都市の冒険譚

    693,820

    3,668


    2021年5月9日更新

    機械の四肢で空を駆けるメカ娘『奉姫』が人を支える空中世界『カエルム』 空の底、野盗に捕えられた奉姫商社の一人娘『アリエム・レイラプス』を助けたのは奇妙なAIと奉姫のコンビだった。 『奉姫の神』を名乗るタブレット、カミ。 『第一世代』と呼ばれた戦艦級パワーの奉姫、レミエ。 陰謀により肉体を失ったというカミに『今』を案内する契約から、アリエムの冒険が始まる。 カエルムと奉姫のルーツ、第一世代の奉姫とは? 欲する心が世界の秘密を露わにする、蒼空世界の冒険譚。 ・強いて言えばSFですが、頭にハードはつきません。むしろSF(スカイファンタジー) ・メカ娘を率いて進む冒険バトル、合間に日常もの。味方はチート、敵も大概チート。基本は相性、機転の勝負。 ・基本まったり進行ですが、味方の犠牲も出る時は出ます ・手足武装はよく飛びますが、大体メカ娘だ。メカバレで問題ない。 ※2020.3.14 たのの様(https://twitter.com/tanonosan)に表紙およびキャラクターデザインを依頼・作成いただきました。この場を借りて感謝申し上げます ※2020.8.19 takaegusanta様(https://twitter.com/tkegsanta)にメカニックデザイン(小型飛空艇)を依頼・作成いただきました。この場を借りて感謝申し上げます

    • 暴力描写あり

    読了目安時間:19時間44分

    この作品を読む

  • タキオン・ソードーTachyon Swordー

    R15の限界を目指した恋愛ファンタジー

    413,900

    1,280


    2021年4月14日更新

    「ちょっと運命的かもとか無駄にときめいたこのあたしの感動は見事に粉砕よッ」 琥珀の瞳に涙を浮かべて言い放つ少女の声が、彼の鼓膜を打つ。 彼は剣士であり傭兵だ。名はダーンという。 アテネ王国の傭兵隊に所属し、現在は、国王陛下の勅命を受けて任務中だった。その任務の一つ、『消息を絶った同盟国要人の発見保護』を、ここで達成しようとしているのだが……。 ここに至るまで紆余曲折あって、出発時にいた仲間達と別れてダーンの単独行動となった矢先に、それは起こった。 魔物に襲われているところを咄嗟に助けたと思った対象がまさか、探していた人物とは……というよりも、女とは思わなかった。 後悔と右頬に残るヒリヒリした痛みよりも、重厚な存在感として左手に残るあり得ない程の柔らかな感覚。 目の前には、視線を向けるだけでも気恥ずかしくなる程の美しさ。 ――というか凄く柔らかかった。 女性の機微は全く通じず、いつもどこか冷めているような男、アテネ一の朴念仁と謳われた剣士、ダーン。 世界最大の王国の至宝と謳われるが、その可憐さとは裏腹にどこか素直になれない少女ステフ。 理力文明の最盛期、二人が出会ったその日から、彼らの世界は大きく変化し、あらゆる世界の思惑と絡んで時代の濁流に呑み込まれていく。 時折、ちょっと……いや、かなりエッチな恋愛ファンタジー。 【第二部以降の続編も追加し、一作品として連載再開しました】

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:28時間4分

    この作品を読む

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る