ラルロッザの学園都市

読了目安時間:7分

エピソード:1 / 3

第1話 大魔王の娘

1-1

「西の大魔王の娘が、中途入学してくるらしい」 緊張した声を聞いて、アルヴァロッタ・アークシーは怪訝そうな表情の顔を上げた。 薄緑色の髪。 細いが、所々はち切れそうな豊満な体をしている。 背中には薄い、トンボのような羽が4枚揺れていた。 妖精の娘だ。 年の頃は十五、六くらいだろうか。 彼女は、書斎の本棚に背を預けながら、羊皮紙の資料をめくっている少年に目をやった。 そして、椅子に座って羽ペンで書き物をしていた手を止める。 「西の大魔王って、フェルンクロストの? 娘なんていたの?」 問いかけられた少年は、神経質そうに頭から生えている黒い角を弄っていた。 彼の制服の腰の部分からは、トカゲのような尻尾が飛び出て揺れている。 竜族の少年だ。 少し大人びた顔をしている。 「それがどうも、いたらしいんだな。母親は分からないが、昨日、理事長から話があった」 「何でまたあんたに?」 彼……センシエスタ・ノーランドはアルヴァロッタに問いかけられ、目の前のテーブルに羊皮紙を放ってから腕組みをした。 「同じ大魔王の子供だから、面倒見てやってほしいってよ」 「同じって……あんた、もう東の大魔王とは縁切れてるじゃない」 「ああ。ンなこと言われてもって感じだよな。西の大魔王って、あの大吸血鬼だろ。どうも気が乗らなくてな……」 考え込んだセンシエスタが息をつく。 「まぁ、理事長の頼みだからな。一応迎えには行くけど」 「いつ?」 「今日の午後、夕刻の辺りだってさ。校門のところに馬車がつくらしい。一応これ、お忍びらしいから、生徒で知ってるのは俺とお前だけだ」 どこか拗ねたように窓の外を見たセンシエスタに、アルヴァロッタは立ち上がってから近づき、そっと肩を叩いた。 「そんなしかめっ面しないの。折角の美男子が台無しよ」 「……うん」 「よし、あたしも一緒に行ってあげる」 そう言われ、センシエスタは耳のピアスを鳴らしながら彼女を見た。 「いいの?」 「別にあたしが行っちゃいけないわけでもないんでしょ? それに、西の大魔王の秘蔵っ子なら、どんな子か興味があるし」 「助かる」 「まったく、あんたはあたしがいなきゃダメねえ」 コロコロと笑うアルヴァロッタを見て、センシエスタははにかんだように小さく笑った。 「違いねえ」 「とりあえず、あんたは生徒会長になったばっかりなんだから、しっかりしなさい。あたしはただの副会長なんだから。これから、他の役職の選挙もあるのよ」 「はー……」 それを聞いて、センシエスタはため息をついた。 「めんどくせえ……」 「そんな事言わないの。ほらしっかりして。書類はまとめといたから」 テーブルに戻り、羊皮紙の束を糸でまとめているアルヴァロッタを見て、少年は肩をすくめた。 「なぁ?」 「ん?」 「ホントに生徒会に入って良かったのか? お前まで、俺に付き合うことはなかったんだぞ」 それを聞いて、アルヴァロッタは含み笑いをしてから羊皮紙の束を小脇に抱えて、センシエスタにまた近づいた。 背の高い彼を小柄な体で見上げ、また笑う。 「あんたを野放しに出来ないでしょ。あたしは、あんたの『彼女』なんだから」 「ま……まぁ……」 真正面から鳶色の瞳で見上げられ、センシエスタが僅かに赤くなって目をそらす。 その手を引いて、彼女は歩き出した。 「とりあえず、職員室に行くわよ。ほらしっかりして。あんたは立ってるだけでいいから。話はあたしがするから余計なことはしないでね?」 「それもどうかと思うけど……」 「演説するくらいしか能がないんだから文句言わない」 ズバッと言われ、センシエスタは困ったように鼻を掻いた。 ◇ その馬車が到着したのは、夕刻、太陽が落ちかけた時間のことだった。 秋も半ばになっているので、少し肌寒い。 制服だけでは寒かったのか、少し震えているアルヴァロッタを見て、センシエスタは着ていたセーターを脱いで、彼女の頭から被せた。 「大丈夫、いいよ」 「お前寒さに弱いだろ。着とけよ」 「……うん」 彼氏のぶかぶかなセーターを羽織って、顔を埋める少女を見下ろしてから、センシエスタは巨大な校門を見上げた。 学園都市ザインフロー。 ここは、様々な魔族が暮らす「都市」だ。 中央には魔法学園があり、城下町が囲むように広がっている。 今、自分達がいるのは城下町から少し離れた、魔法学園の校門だった。 関所からの連絡だと、もう少しで馬車が到着するらしい。 少し顔を赤くして自分に寄り添っているアルヴァロッタを手で引き寄せた彼の頭上から、ゆったりとした声が降ってきた。 「ほほほ。今日も仲睦まじいようで良きことだのう」 いつの間にか、彼らの背後にはセンシエスタを遥か見下ろすくらいの巨体が立っていた。 丸みのある身体を、黒いローブで覆っている。 巨人族の男性だ。 「そりゃまぁ、彼女ですから」 フンス、と鼻を鳴らして上を見上げたアルヴァロッタを見下ろし、巨人族の理事長、フランツ・フォークライトは朗らかに笑った。 「さてさて、そろそろご到着な様子じゃの」 遠くの方から馬車が近づいてくるのが見える。 辺りには薄っすらと霧が立ち込めていた。 「理事長、その……」 アルヴァロッタが口を開いて彼を見上げる。 フランツは彼女を見下ろして言った。 「何だね?」 「危険じゃないんですか? 西の大魔王って、今、他の領土と戦争中だって聞きますし……」 「…………」 少しだけ沈黙を返し、彼は静かに言った。 「悪い子ではない。どうか、生徒会で仲良くしてやって欲しい」 「ウチで面倒を見ろと?」 センシエスタが言う。 フランツは軽く首を振った。 「友達になってやってほしいというだけじゃ。君達に、強制ではないがの」 カラン、と鈴が鳴り、三人の目の前で馬車が停止した。 かなりの長旅だったようで、馬達は息が荒い。 御者とやり取りをしているフランツを横目に、センシエスタはモロに嫌そうな顔をして後ずさった。 「どしたの?」 「何か、馬車の中からものすげぇ魔力を感じるんだけど……」 「ものすごいって……どのくらい?」 「さ、災害級の……」 「災害級……?」 馬車のドアが揺れ、控えめにゆっくりと開いた。 そこから顔を覗かせたのは、十歳前後くらいの小さな女の子だった。 小綺麗な、貴族の着るフリルのついたドレスを着ている。 あどけない顔は人形のようだ。 真っ赤な瞳。 それが不安そうに揺れている。 「災害級って……あの子が?」 アルヴァロッタが女の子を指差す。 センシエスタが冷や汗を流しながらまた後ずさった。 フランツは御者と話し込んでいる。 女の子は、馬車の扉を開けると外に足を踏み出した。 しかし高さに驚いたのか、着地に失敗してその場に転がってしまう。 途端。 重低音と共に、地鳴りが起こった。 女の子の周囲の地面が陥没し、校門が揺れる。 唖然としているセンシエスタとアルヴァロッタの前で、フランツは女の子に近づいて抱き上げた。 「ほほほ、元気じゃったかい、フィルレイン」 「足が痛いよぉ……」 「擦りむいたのだな。治してあげよう」 彼女の足の傷に、フランツが手をかざす。 淡い光と共に、傷がみるみるうちに消えていった。 先程の地震で、校門近くを歩いていた生徒達が騒然としている。 「紹介しよう。あちらが生徒会長のセンシエスタ・ノーランド君。あちらが副会長の、アルヴァロッタ・アークシー君だ」 突然矛先を向けられ、二人がビクッとする。 地面に下ろされた、フィルレインと呼ばれた女の子が満面の笑顔になって、二人に近づく。 そしてセンシエスタに手を差し出した。 「こんばんは! 西の大魔王、アルデスト・ラインシュタインの娘の、フィルレイン・ラインシュタインです!」 宝石のように光る目で見上げられ、センシエスタは戸惑いながら手を出した。 「あ……ああ、よろし……」 「よろしくお願いします!」 フィルレインがセンシエスタの手を握って、思い切り縦に振る。 また重低音と共に校門周辺が揺れ、センシエスタを中心とした地面がすり鉢状に陥没した。 白目を剥いて崩れ落ちたセンシエスタから手を離し、フィルレインは唖然としているアルヴァロッタに近づいた。 そして笑顔で手を伸ばす。 「よろし……」 「り、理事長! 理事長ー!」 妖精の少女の悲鳴が、秋の夕焼け空に響き渡った。

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿


同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • コニーなな日記~2匹はトイプードル~

    愛犬2匹の愉快で楽しい日記です。

    2,000

    0


    2022年8月15日更新

    O家にやってきたトイプードルのコニーとなな。 2匹の日々感じたことを少し大げさに書いていきます。 大人しくて聞き分けの良いコニー、明るくて誰にでも懐くお転婆なな。 性格がほぼ正反対の愛犬達の本音が垣間見れるかも!?

    読了目安時間:11分

    この作品を読む

  • 異世界スペースNo1(ランクB)(EX)(完結編)

    この俺の明日のためのスクランブルだ。

    468,950

    0


    2022年8月15日更新

    祝・30周年! リスペクト・ス○○ボ! リスペクト・ウィ○○ー! リスペクト・ダ○○○ン! 剣と魔法、そして巨大ロボ「ケイオス・ウォリアー」が存在する世界。 そこに転移ロードで異世界召喚された俺。 なぜか寝てた。 起こしてくれた娘が着いて来いというし、一緒に寝てた二人と共に行ってみるか? さーて、俺達のロボットは―― 量産型のザコ機だからよ…… 俺らの能力補正系スキル、0~9の10段階評価で2だからよ…… 鉄の城とか白い悪魔とか三つの命が百万パワーな奴とか、メチャ強え味方もいないからよ…… それでも止まるんじゃねぇぞ…… 戦士よ、起ち上がれ! ※この作品は「アルファポリス」に掲載した物を他サイト用に修正した物です。 大好きなゲームシリーズの新作発売記念に書き始めた作品。 他のサイトで2021年の6月から開始し、正直たいした反響は無かったが、それにしてももうちょっと読んでもらえるかもとここにも転載させていただく事にした。 おちこぼれで何が悪い。世の中Aムロ大尉やKIラ准将ばっかりじゃないわい。 第二部完までは一応ストックありますからよ。 「令嬢」タグを見て来られた方は第二次(105話)からどうぞ。 スタンプ・コメント等なにかしら反応くだされば喜びます。 ロボット物を書いてる方、某スパロボが好きな方、等の所には参考にさせていただくために読みに行くかもしれません。

    • 暴力描写あり

    読了目安時間:19時間12分

    この作品を読む

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 第三のローマ ~ テルティウス=ローマ

    アンカラの戦いをめぐる物語

    14,300

    101


    2022年8月15日更新

    時は十五世紀初頭。西ヨーロッパ諸国は東のイスラーム教国であるオスマン帝国の圧迫を受けていた。防波堤であるビザンツ帝国は衰退はなだしく、その対応が求められていた。レコンキスタの途上にあってイベリア半島の雄でもある新興国カスティリヤ王国はさらに東から勃興しつつあったティムール帝国に目をつける。彼の国はかつてユーラシア大陸を席巻したモンゴルの末裔を称し、領土を拡大していた。さらにオスマン帝国の領土も狙い、両国は雌雄を決する対決に向かっていた。この状況を踏まえ、カスティリヤ王国はティムール帝国との同盟によりオスマン帝国の圧迫に対抗することを決意する。派遣された外交団を狙う刺客。その窮地を救う謎の集団。オスマン帝国の『稲妻』とも称されるスルタンバヤジットと、暁のごとき勢いで西に領土を拡大するティムールの対決。アンカラの戦いの中に埋もれた、忘れられた物語を、今綴ろう。

    読了目安時間:9分

    この作品を読む

  • 鬼喰いの浄鬼師〜令和・魍魎ハンターズ〜

    少年よ鬼を喰らい鬼を浄化せよ!

    251,800

    1,422


    2022年8月15日更新

    2021.10/15 現代ファンタジーランキング。 日間1位!! 総合ランキング 日間4位!! 皆様、いつも応援ありがとうございます!! ~近未来技術と陰陽道が融合した現代でのお話~ 怪異現れる時、スマートフォンが勝手に喋りだす。 ――『ヨッキーだよ。 妖気を感知したよ! 助けが必要かい?』 ――『怪伐隊(かいばつたい)に出動依頼を発信したよ。続いてアプリのインストールを開始するよ』 スマホバッテリーを消費し防御結界を展開。 危機回避までをナビゲート。 そして現れる『六壬神課 怪伐隊』 自分達の事を『陰陽師』と名乗る。 様々な怪異に遭遇した者が書き込む掲示板アプリ。 主人公である鬼束 桃眞(おにづか とおま)と愉快な仲間達が、人々のSOSに駆け付け『怪異』を討伐する怪伐隊となり、一人前の陰陽師へと成長してゆく。 不思議がいっぱいの陰陽師の世界で、ドタバタ寮生活を楽しんでみませんか? ジャンルは、ホラーバトルファンタジーです。 週一更新を目指して、執筆してまいります。 作品の雰囲気としては、本筋のストーリ―はありつつも、短編連作形式も混ぜて怪異事件を解決していきます。 イケメン比率が高いですが、その分美少女が多いです。(史実でも陰陽寮は女人禁制だった為) ミステリーサスペンス的な雰囲気もありますが、全体的にはコミカルで明るい雰囲気です。 ※陰陽寮と愉快な仲間達からタイトルを改名致しました。(2022.3.28) (掲載サイト:なろう・ノベプラ・カクヨム・アルファポリス)

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり

    読了目安時間:6時間38分

    この作品を読む