ラルロッザの学園都市

読了目安時間:5分

エピソード:2 / 3

1-2

「仲良くなるとかそういう問題じゃねーぞ」 ゲッソリした顔で、センシエスタが生徒会室のソファーに腰掛けている。 猫背になっている彼の後ろで、アルヴァロッタは苦虫を噛み潰したような顔で羊皮紙の束をめくった。 「西の大魔王、アルデスト・ラインシュタインの娘……って書いてはあって、ちゃんと大魔王のサインまであるけど……その他の情報が何もないわ」 「どう見ても幼児の形をした爆弾だろうが。俺じゃなきゃ死んでたぞ」 「逆によく生きてたわね……」 ため息をついて、センシエスタは頭を振った。 「あのガキは?」 「理事長がいろいろ案内してるわ。ほら」 重低音がして、少し離れた校舎の一角が揺れた。 「…………」 「また転んだみたいね」 「いやおかしいだろ。何で災害級の魔力持ったちびっ子の面倒見ることになるわけ? 俺ら生徒会よ。託児所じゃないよ?」 「ちびっ子って言うけど、あの子の頭、あんたなんか比較にならない程良いわよ。ほら」 羊皮紙を渡され、センシエスタはそれに目を通した。 「統一高等魔術学力試験、全科目満点……?」 「少なくとも、学力はあるみたいね」 「何かの不正じゃないのか」 「確かに全科目満点はちょっと違和感が……」 「こんにちは!」 小さなチャイム音がして、生徒会室の扉が開いた。 そこから元気に、先程のフィルレインが顔を覗かせる。 「ヒィ!」 硬直したセンシエスタの目に、フランツが遅れて入ってくるのが見えた。 「邪魔するのう」 「うわぁ、綺麗なお部屋!」 フィルレインが近づいてきて、センシエスタを見上げた。 「大丈夫ですか? 私、あなたが東の大魔王の息子さんだって聞いていたので……」 「え? ああ……そうだけど……」 「まさかあんなに脆いとは思わなくて」 ニコニコ笑顔でそう言われ、センシエスタは弾かれたようにフランツを見上げた。 「子供の発言じゃねえぞ!」 「ほほほ」 「笑ってんじゃないよ!」 「まぁ落ち着くのじゃ。この子は先程紹介した通り、西の大魔王、アルデスト・ラインシュタインの一人娘じゃ。明日から、君達と同じ高等3課に入学となる」 「無理だろ……」 センシエスタの言葉をスルーして、フランツはアルヴァロッタを見下ろした。 「ところで……頼んでいた手続きは終わったかの?」 「あ……はい。ちゃんと女子寮の部屋に、荷物は搬入してもらってます。でもこれ、何です……?」 彼女がフランツに羊皮紙を見せる。 そこには大量のリストが示されており、全て赤いインクで書かれていた。 「この文字色って特級魔術物を表すんじゃ……」 「気にするでない」 「するよ!」 声を上げたセンシエスタをまたスルーして、フランツは考え込んだ。 「ワシとしては、この子を生徒会の経理に置きたいと思っているんじゃが、どうかの?」 「経理させてもらえるの?」 フィルレインが目をキラキラさせながらフランツを見上げた。 大きな体躯の彼が、膝を曲げて彼女に覆いかぶさるように腰を曲げる。 そして手を伸ばし、頭を撫でた。 「うむ。良いだろう」 「いやいやちょっと待ってくださいよ理事長」 そこでまたセンシエスタが割って入った。 立ち上がり、フランツに詰め寄るように近づく。 「明らかに異常な魔力量ですよ! こんなん、学校に解き放ったらどうなるか……」 「大丈夫じゃ。フィルレインは優しいからの」 「優しい子は初対面の相手を地面に埋め込んだりしねえよ」 「ちょっと力の制御が効かないだけじゃ。それとも、全魔族の平等をあんなに演説で訴えていた生徒会長さんは、受け入れられないというつもりかの?」 そう言われ、センシエスタは口ごもって苦い顔をした。 「いやそとこれとは……」 「センシエスタ・ノーランドさんで良かったですよね?」 フィルレインに声をかけられ、センシエスタは彼女を見下ろした。 「あ? ああ、そうだけど……」 「お父さんから、お話は聞いてます! 禁呪八号の継承者だとか……私も」 「……何でそれを知ってる?」 一瞬、センシエスタの目が昏く怒気をはらんだ。 それを見て、フィルレインがきょとんとして返す。 「私も、禁呪の継承者なので!」 「ああ?」 「仲良くしましょう。手加減しますから、もう一回」 フィルレインがまた手を差し出す。 センシエスタは鼻の脇の筋肉を微妙に動かしながら、足を踏み出した。 「このガキィ……ナメやがって……」 「ちょ、ちょっとセン……」 アルヴァロッタの制止も聞かず、センシエスタはフィルレインの小さな手を強く握り込み。 そしてまた、生徒会室の床がすり鉢状に陥没した。 ◇ 「絶対悪意がある」 またゲッソリした顔で、センシエスタが呟く。 彼らはフランツとフィルレインの後ろを歩いていた。 だいぶ慣れてきたようで、フィルレインはフランツに購買で買ってもらった氷菓を舐めていた。 「大丈夫……? 生徒会室の床、全損みたい……さっき業者に入ってもらったから……」 「俺を殺そうとしてたぞ」 「ちょっと事情がよく飲み込めないんだけど、とりあえずあんたはもう近づかないほうがいいわ……あたしが何とかするから」 「死ぬぞ……?」 「まだ死にたくはないわね……」 小声で話をしている二人に振り返って、フランツが口を開いた。 「食事でもしてから、アルヴァロッタ君に女子寮を案内してもらおうかの」 「レストランが更地にならなければいいですね……」 乾いた笑いを発したアルヴァロッタに小さく笑ってから、フランツは建物のドアをくぐった。 生徒達が談笑している食堂が広がっていた。 仕組みをフィルレインに説明しているフランツに、二人が近づく。 「ところで、お金は持ってきているかの?」 フランツに聞かれて、フィルレインはポケットから小さな財布を取り出した。 「お父さんに、現金を持ち歩くと悪い人に悪いことをされるからって、これもらいました」 「悪い人に悪いこと……?」 反芻したセンシエスタをスルーして、彼女が財布から黒いカードを出す。 何だか紫色の禍々しいオーラを放っていた。 「あれは……!」 センシエスタが小声で呟く。 「え? 何?」 問いかけたアルヴァロッタに、彼は早口で囁いた。 「あらゆるセキュリティを突破して、全ての会計を無効にする、特級魔術がかけられてる」 「は? アレを使えば何でも無料ってこと?」 「話には聞いてたけど実在するとは……」 「大魔王の娘だからってそんな……」 ごにょごにょしている二人を見て、フランツは言った。 「何をしておる? 食券を買ってきなさい」 「何をしているって聞きたいのは俺の方だよ」 「そんなに目くじらを立てることではない。アルデスト卿には多額の寄付を頂戴しておるからの」 笑いながらフランツはフィルレインと、食券を持って歩き出した。

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