葛城くんは遠くて近い

読了目安時間:5分

エピソード:3 / 6

そのさん

 葛城くんが格好良すぎて、私の脳内妄想だけが進んでいく。  とりあえず思考をクールダウンしよう。  ちょっと話せるようになっただけで、愛だの恋だのと気分が浮ついてしまうのは、私が非モテ女子だからだ。  気分転換すれば、正気に戻るはず。  そう考えて、日曜日に葛城くんが出かけた気配を感じてから、私もショッピングモールへと足を延ばす。  駅前にあるショッピングモールは、近隣では一番大きくて見ているだけで楽しい。  アパレル系の店舗が並ぶ階で、私は存分にウィンドウショッピングを満喫する。  これから夏が始まるのだと、予告するような涼やかな服が並んでいる。  ひらひらと揺れるAラインのオーガンジー・スカートや、襟や袖にレースをあしらったデザインは、雰囲気が大人可愛い。  今年の流行りの服は、シックなのにロマンチックで、とても綺麗だ。  どう頑張っても、座敷童に似ている私には似合いそうにないけど。  後ろ向きな事を考えながら、マネキンの着ている空色のワンピースに見とれていたら、背後から声をかけられた。 「あれ? 藤村さんも買い物?」  この声は! なんて振り向く前に、それが誰かわかってしまうのが悲しい。  嬉しいけれど、なんで!? という驚きのほうが強かった。  葛城くんをストーカーしていたわけではないのに、またしても行き先が被ってしまった。  どんな表情をすれば良いかわからなくて、脱兎のごとく逃げ出したくなったけど、そんなことができるわけがない。  最善の対応として、余所行きの笑顔を作って振り向いた。 「奇遇だねぇ、葛城くんも買い物?」 「うん、仕事用の靴を新調しに来た。藤村さんは?」 「気分転換に、ウィンドウショッピング」  お金を落として経済を回す気がなかったので、ちょっぴり後ろめたいけど。  だけど、葛城くんは「いいね」と笑ってくれた。  そして、私の横に並ぶと、さっきまで私が夢中だったワンピースを見つめる。 「ずいぶん熱心に見ていたけど、着てみないの?」 「あ~試着かぁ……ん~笑わない?」 「笑わない」 「こういうところの店員さんって苦手なんだよね。見るだけですって言っても、アレコレお勧めを持ち出してきて、試着室に誘導されるのとか。似合ってなくても、お似合いですよ~って笑顔でゴリ押しされて、お包みしますよ~って……いらんつってんのに」  残念な経験は、一回や二回ではない。  五回入ると、実に四回はそういう目に合う。  今日は買わないと断固拒否して舌打ちなんてされた日には、泣きたくて胃がキリキリする。  最初に「今日は買いません、リサーチです」と言いきってるのに悲しい。  よっぽど押しに弱い子に見えるのだろう。クスン。 「それは、イヤな体験をしちゃったね」 「葛城くんは、そういうことなさそうだよね」 「あるよ? まぁ、俺なりにお返しはするけど」  ビックリして顔を向けると、葛城くんは悪い笑顔をしていた。  黒いオーラが背後に見える。  わぁ、こんな顔もするんだ。  それにしても、お返しってなんだ?   「ほら、ブランド店って店員もそこの製品を身に着けてるだろ? だからブランドをめちゃくちゃ褒めちぎって、相手を良い気にさせた後で。これだけ素晴らしい店なのに、ここにふさわしい販売員に出会えなくて本当に残念だって、真顔で教えてから帰る」  Oh! ブラック葛城くんが現れたよ。  良い人の面しか見たことなかったけど、嫌味も言えるのか。 「嘘じゃないからね。舌打ちなんて客相手にしちゃダメだろ。まぁ、本社に投書まではしないけど……藤村さんは優しいから、嫌味すら言わないでしょ」  私は言わないのではなく、言えないだけなのだが。  心の中では罵倒しているよ。声には出せないけど。  葛城くんのイメージの中で生きている私は、ずいぶんとホワイトな天使である。 「着てみたら? 押し売りされそうになったら、俺が断ってあげるよ」 「え? 葛城くんにも用事があるのに、悪いよ」 「もう終わったから。無理にとは言わないけど」  でも女性用のお店に付き合ってもらうのは……とうじうじ悩んでいたら、葛城くんは平気だよって朗らかに笑う。  姉と妹が二人もいる女系家族だから、こういう場所にも慣れていると言い出した。  年末年始のバーゲン争奪戦に参加させられた挙句に荷物持ちをさせられる話や、ファッション誌やコスメのお使いまで頼まれる話も聞いて、つられて笑ってしまった。  うん、笑い事ではないんだけど、葛城くんの側が居心地の良い理由がわかった。  それだけ姉妹にもまれたら、当然かもしれない。  けっきょく、私はワンピースを買った。  空みたいに青い色の、透けるオーガンジーが綺麗な、Aラインのロングワンピース。  最初に見ていたマネキンが着ていたモノではなく、葛城くんと一緒にあーだこーだと言いながら見繕い、ファッションショーのごとく着替えた挙句に、彼に最上認定された一品だ。  しかし。とっておきの場所におめかしして出かけるための服で、通勤着や普段着には、絶対にならない。  買ったものの着る機会を見つけるのは非常に困難な気がする。  着ない服を買ってしまった。  誰だ、買わないって言っておきながら、散財したのは。  もちろん、私だ。  そして、葛城くんもだ。  私のコーディネートを考えているうちに、自分も欲しくなったらしい。  メンズ用品も置いてあったから、夏用のネクタイが少ないと思い出したらしく、二人であーだこーだと言いながらとっておきの一本を選んだ。  空の色を思わせる爽やかな青は、私の買ったワンピースによく似た色だった。  気付かないふりをしたけれど、内心ではものすごく照れていた。  デートって今までしたことないけど、こんな感じなのだろうか。  ありがとう、どこかにいる神様。  座敷童系の私でもキラキラ体験ができました。    二人して散財したものだから、ご飯を食べて帰ろうという話になったとき、迷わず牛丼のチェーン店を候補に挙げてしまった。  ショッピングモールにはお洒落なイタ飯屋さんもあるのに、私ときたらなんて残念なチョイスなのか。  幸い葛城くんは嫌がらず、むしろ嬉々として割引券を提供してくれたので、ほっとする。  カウンター席で肩を並べて食べる、チープな牛丼はひたすら美味しかった。  葛城くんが、良い人で良かった。

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  • ミノタウロス

    杜右腕【と・うわん】

    ♡100pt 2021年8月20日 1時46分

    懺悔。オーガンジーと聞いて無抵抗主義のインドの偉人を連想しました。勉強になりました!

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    杜右腕【と・うわん】

    2021年8月20日 1時46分

    ミノタウロス
  • アマビエペンギンさん

    真朱マロ

    2021年8月20日 22時49分

    思わず笑ってしまいましたー! 透け感のある生地で、光沢があって滑らかな布です。ドレスによく使われてる気がします(*´ω`*)

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    真朱マロ

    2021年8月20日 22時49分

    アマビエペンギンさん
  • ミノタウロス

    杜右腕【と・うわん】

    ビビッと ♡100pt 2021年8月20日 1時41分

    《ありがとう、どこかにいる神様。》にビビッとしました!

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    杜右腕【と・うわん】

    2021年8月20日 1時41分

    ミノタウロス
  • アマビエペンギンさん

    真朱マロ

    2021年8月20日 22時38分

    紗那ちゃんは良い子なので、疑いを持つこともなく、恋の神様に全力で感謝しています( *´艸`)

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    真朱マロ

    2021年8月20日 22時38分

    アマビエペンギンさん
  • アマビエペンギンさん

    シンカー・ワン

    ビビッと ♡100pt 2021年8月19日 23時05分

    《「ほら、ブランド店って店員もそこの製品を身に着けてるだろ? だからブランドをめちゃくちゃ褒めちぎって、相手を良い気にさせた後で。これだけ素晴らしい店なのに、ここにふさわしい販売員に出会えなくて本当に残…》にビビッとしました!

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    シンカー・ワン

    2021年8月19日 23時05分

    アマビエペンギンさん
  • アマビエペンギンさん

    真朱マロ

    2021年8月20日 22時37分

    ありがとうございます。葛城君の性格エピソードとして入れたい部分でした。普通に罵倒するよりも、相手にダメージがありそうですね( *´艸`)

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    真朱マロ

    2021年8月20日 22時37分

    アマビエペンギンさん
  • メタルひよこ

    伝書梟

    2021年9月17日 18時23分

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    にゃかにゃか良い

    伝書梟

    2021年9月17日 18時23分

    メタルひよこ
  • アマビエペンギンさん

    真朱マロ

    2021年9月18日 16時43分

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    ありがとなの

    真朱マロ

    2021年9月18日 16時43分

    アマビエペンギンさん

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