ただ君だけを、守りたいと願う

読了目安時間:6分

4章 おぉ!姫よ!

旅はまだ途中。レミニセンからしばらく離れた山あいの道。 坂道の途中に作った即席舞台の上で、ヴェルは演劇の練習にも励んでいた。 まだ舞台に出れるほどではないが、公演の手伝いをしながら、 時間を見つけては練習し、また時間を見つけては練習を繰り返していた。 「ヴェルー!頑張れー!」 イーラの明るい声が響く。 今はシャンディがヴェルの演技指導をしているところだ。 「ふ…ふむ。」 「違う!もっと感情を指先まで表現するの。にょろっとしない!」 ヴェルは演技が下手であった。 すらっとした体に、まるで織物のように奇麗な黒長髪。整った顔とあふれ出る威厳。 大人の女性が一目で恋に落ちそうなほど格好いい。しかし動きが不自然だ。あまりにも。 体のバランスも何か不自然でいっそ若干気持ち悪い。 「ふ…ふむ!」 「ぜんっぜん違う!」 ひざまずき女性を仰ぐようなポーズをしたヴェルの不自然に上がりすぎた腰をぴしゃっと叩き、自然な位置まで下げる。 こんな変な中腰が苦しくないのか。 ヴェルは絶大な力と魔力がある。いかなる姿勢であろうと疲労を感じることはなく。 過去のヴェルが体を動かす時は敵を屠る場面であり、わざわざ何かを表現することなど無かった。 「何よ、その変な中腰。下げるなら下げる!立つなら立つ!」 「ふ…ふむ。」 そして中途半端にしなだれた腕をグイッと持ち上げられて、 「手足が長いんだから、止めるところでしっかり止めないとタコみたいになっちゃうんだから。」 「…ふむ。私がタコか。」 イーラはそんな二人を見て素直に思った。かっこいい!と。 シャンディは美人だ。女性として憧れるスタイルに、整った顔立ち。 はっきりと聞き取りやすい声で、何より強い語気の中に優しさがこもっていることがわかる。 ヴェルは何でもできると思っていたが、演技は下手だった。 それでも毎日一生懸命に演技の練習をし、お手伝いもして、少しずつ所作に切れが生まれている。 ただ凄い人ではなく努力も惜しまないところに感激する! 「ヴェルかっこいいよー!」 飽きずに練習を見に来てはヴェルの応援をしている。 イーラのために頑張って、苦手なことにも果敢に臨んでいる。とにかく嬉しかった。 「おぉ!?」 と、急に自分の横に一人の男が走り寄ってくる。 「よーしっ俺も!シャンディも可愛いぞー!怒ってる顔も素敵だぜー!キューティーキューティー!」 オレンドだ。 イーラは役者としてのオレンドも見たことがある。 にぎやかな役どころは勿論、物静かな役、時には激しく感情を高ぶらせる役まで、幅広く優雅に立ち振る舞う。"千変万化"そんな言葉が良く似合うほどに。 いつものオレンドも好きだが、たまに見せる演者オレンドの顔も格好良くて大好きだ。 「こうか…おぉ、姫よ!」 ヴェルが大げさに姫に跪く姿勢をとる。 膝をつき、目の前の女性に忠誠を誓うような姿勢。 「ヴェルかっこいー!」 思わずイーラは声を上げる。 「シャンディ素敵ー!」 なぜかそれに続くオレンド。 「…ヴェルさん、ちょっとは良くなったけれどまだ少し硬いわね。もっと感情を込めて、最後の別れの場面なんだから、もっと大げさにできないかしら?」 「…ふむ。…おぉ!姫よ!!」 ヴェルが叫ぶ。 「ヴェルかっこいいよー!」 「シャンディも素敵さー!」 イーラとオレンドも続く。 「はぁ・・・ヴェルさん、ちょっと待っててくださいね。」 「うむ。」 そういうとシャンディはキッとオレンドの方を睨み大きく息を吸いこみ 「あんたたち!今すぐ出ていきなさい!邪魔なのよ!」 怒った。 オレンドが来るといつもこう。あっはっはっは!と当の本人は大笑いし 「怒られちったなぁ!」 とイーラの方を見て舌を出す。 えへへ っとイーラもつられて笑う。 「でもやっぱり怒った顔もかわいいぜえー!ビューティフォー!」 「いいから!すぐ!出ていきなさい!さっさと!!」 オレンドの顔にシャンディの靴が飛んでくる。 うぉっと、と顔の前に飛んできた靴を見事キャッチし、そのままシャンディの近くの岩の上にコトンとおく。 「あら、ほんとに怒っちゃったかも!あっはっは!いこーぜー!イーラ!」 怒られてもまったく気にしない。そのまま大股で舞台を去っていくオレンド。 「うん!ヴェル、がんばってね!」 と言ってイーラもその場を後にする。 イーラは劇団にすっかりなじんでいた。 何にでも興味を持ち、なんでも知りたがる、そんな様子が劇団の大人たちから大人気だった。 「ねぇ!オレンド、あれは何!?」 「ん?あぁ、あれか。おーい、ニミア!」 イーラが指をさした方へ向けてオレンドは手を振る。 椅子に座り、正面の作業台に向かって作業をするニミアと呼ばれた女性がオレンドとイーラに気づき顔を上げる。 「ん?座長と…あら!イーラちゃん!」 イーラを見つけると、にこやかに手を振ってくれる。 「おうおう、ニミアは何をやってるんだー?」 オレンドがずけずけと近寄っていく。 「ん?…あぁ。」 イーラが後ろにいることから察したのか、ニミアは手元で作業していた舞台模型について説明をする。 「私はね、舞台模型を作っているの。」 「舞台模型?どうして舞台の模型を作るんですか?」 言われたイーラは理由がわからず、ニミアに聞き返す。 「おーっきな舞台にはね、たっくさんの美術があるのよ。どんな舞台にする、とか、どこに何を置く、とか。 本物の舞台では計画出来ないでしょ。だからこうやって小さな模型を使って舞台を表現するのよ。」 「へぇー…」 小さな模型は、本当にこの場で人が今にも動き出しそうなほどよくできている。 「この模型をもとに大道具や小道具が出来上がっていくの」 「ほぇー…」 「ふふん、実はね、最初はこのお仕事を座長がやってたのよ」 「へ?オレンドが?」 このオレンドがこんな細かい仕事ができるの?という目。 これにはオレンドもちょっと頬をかいた後、まぁな、とうなずく。 その後でオレンドが舞台模型に手を伸ばす。 「うーん、ちょっとこの背景が高い位置の方がいい。今度の舞台は魔王と姫の別れが見せ場さ。シリアスなシーンでは奥行きをより感じられる方がいい。」 「ありがとうございます、座長。なるほど…」 「あと、この模型はここをだな…」 と、素人目にはわからない傾きを、びしっとあわせる。確かに格好がついたような気がする。 「おぉ…さすが座長!ありがとうございます!」 とニミアはオレンドに頭を下げる。 「だろ!なんか知らねぇけど俺、得意だからさ!」 「オレンドって細かい作業も出来るのね…へぇ…」 と明らかに意外そうな目を向けるイーラ。 確かにオレンドの雰囲気にこの小さな模型をいじる作業は似合わない。 「あー…まぁな。実は細かい作業が苦手なのはシャンディの方でな…」 「へ?そうなの?」 「ん?にひひ、聞きたいか?シャンディの話」 「うん!」 イーラは元気にうなずいた。 その後イーラはシャンディは絵が下手やら、酒を飲むとすげーんだぜ!やら、 あることないことをオレンドに教えてもらったのだ。 「ヴェルさん、結構良くなってきたじゃない」 「ふむ。堅忍不抜の指導を感謝する」 「へ?いいのよ別…あっ…」 くしゅん! 「ヴェルさんごめんなさい。ん?誰か私の話でもしてるのかしら」 「…そのようだ」 これはお約束。 その日の夕方、シャンディが二人の部屋をのぞくと、イーラが一人で黙々と何かを書いていた。 「あら?イーラちゃん、一人で珍しいわね」 「んー?そうかな?」 手元から顔を上げず、真剣に何かを書いている。ヴェルは近くの宿場まで買い物をお願いしたので一緒にいったものとばかり思っていた。 集中を妨げることに少し罪悪感を感じながら気になって声をかける。 「何か書いてるの?」 「うん、脚本」 シャンディはちょっと目を丸くする。 「へえー。どんなお話を書いてるの?」 「ママのお話」 ママの話? 「ヴェルが教えてくれるの」 「そうなんだ…。ねっ、どんなお話なの?」 シャンディが聞くと、イーラはことりと筆をおく。 そして、照れくさそうに少しもじもじしながら 「うーんとね、えーっとー…」 自分の大好きなママの話を、拙い言葉で紡ぎ始める

コメント

コメント投稿

スタンプ投稿


このエピソードには、
まだコメントがありません。

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • 見出された運命の先に

    シスコン超人高校生が帰るために頑張るお話

    31,200

    0


    2021年6月22日更新

    ある日、何の変哲もない日常から、突然異世界に勇者として召喚されてしまう高校生、夜栄刀哉と、そのクラスメイト。 彼らは召喚した国の王族に魔王を倒して欲しいと頼まれ、それを『自分達の身の安全、人権、尊厳』を保証してもらうことを条件に受け入れ、そうして勇者として力をつけるための訓練が始まる。 だが刀哉は、天才的な才能を持っており、すぐにその圧倒的な実力を周囲へとみせていくことになるが、ある日城が強大な力を持つ魔族に襲われ……。 圧倒的な強さと、異常とも言っていい膨大な知識量。 異世界での新たな出会いに、彼が何よりも大切にしていた、家族との再会。 時には支え、時には支えられる、大事な親友達との、強まる絆。 そして顕になる、夜栄刀哉という人間の特異性。 それらが果たして、刀哉にどのような影響を与え、どのような運命を見出させるのか。 ───これは、夜栄刀哉という人間の終着点までを描く、バトルファンタジーである。 ※兄弟恋愛・兄妹姦要素があります。苦手な方はご注意を。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:20時間29分

    この作品を読む

  • 瞬間記憶能力を持つ高校生が、偶然遭遇した美しき死神に心を奪われるが、彼女と結ばれるには神になる必要があった。意を決した彼は、神を目指して異世界へ修行の旅に出る。 スキルを記憶することができる驚異の能力と魔物を描いて使役できるスキルを武器に、瞬く間に最強へと駆け上がるちょっとエッチな冒険ファンタジー。 だが、そこは、とても女性が積極的な世界だった。気付けば、獣人メイド、エルフ、精霊、王女、受付嬢、聖女、女神など出会ったヒロイン全員をお嫁さんにする羽目に!? もふもふ&無双&ハーレムなお話です。※後半になるほどイチャイチャ要素が増えます。ご注意ください。 基本ご都合主義満載の異世界ものです。優しい人や、いい人多めです。優しい世界にハッピーエンドが基調となりますので、安心してお読みください。ヒロイン多いです。限界に挑戦しています。 小説家になろうで先行連載しております。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:38時間15分

    この作品を読む

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 異世界での冒険は愛猫を頭に乗せて!

    猫と一緒に転生した冒険バトルファンタジー

    2,495,396

    122,975


    2021年5月29日更新

    楢崎和仁(ならさき かずひと)は愛猫ソラと暮らしているごく普通の28歳社会人。 大規模な地震に巻き込まれ、そのまま剣と魔法のファンタジー溢れる異世界へ… だが女神ティアがドジ?ったお陰で和仁の能力は異世界でも超ド級! 喋るように進化した愛猫ソラを頭に乗せて一緒に異世界へと踏み出した! 愛猫ソラは自由気まま!喋るし空も飛ぶ! でもそんなソラに和仁も親バカ(猫バカ)デレデレだ! 「カズ?うちは美味しいご飯とカズさえいれば文句ないにゃ」 「僕もソラと世界中を旅して悠々自適に暮らしたいなぁ」 巻き込まれ体質のカズは行く場所で様々なイベントに遭遇する。 若返った2人(?)は世界の果てで何を見るのか!?何も見ないのか!? 笑いあり涙ありの異世界ファンタジーにしたいなぁ……

    • 暴力描写あり

    読了目安時間:30時間17分

    この作品を読む

  • シルク、叛逆の逃亡者(シルクシリーズ第二幕)

    一風変わった異世界ファンタジーになります

    200

    0


    2021年6月22日更新

    かつての友であるイスの残した問いかけを元に、彼の残したメッセージを追いかけるシルク。 しかしそこに待っていたのは、この世界に隠された秘密だった。 -- シルクシリーズの二幕になります。 第三幕: https://novelup.plus/story/194596658 第一幕: https://novelup.plus/story/924213267

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり

    読了目安時間:1時間9分

    この作品を読む