ただ君だけを、守りたいと願う

読了目安時間:9分

エピソード:12 / 23

11章 演劇旅団レオニア、出発!

演劇旅団レオニアの座長オレンドは陽気な男だ。 見た目は20歳を過ぎたこ頃か。明るい翠色の髪に、刺々しい紫の瞳をもつ華奢で細身な男性。 その口角は上がり、ちらちらと白い歯が見えていて、賑やかな人物であることが口元からすぐに伝わる。 なんとなく頼れそうな雰囲気を併せ持つ、華奢な男性を好む女性であれば、言い寄られて悪い気はしないだろう。 オレンドは何かを待っていた。 この小さな街リミニセンの中央広場近くの小劇場の前。 裏手には片づけが終わった演劇旅団の移送車が待機している。 翠色の髪が風になびく。 そこへ 「座長、こんなところにいたんですか。もう出発ですよ。」 とオレンドの背中から演劇旅団員が声をかける。 「そうだなぁ。」 どこか抜けるような返事。 「…?何かあったんですか?」 「いやぁ?何にもないぜ。ただ、ここで待ってくれー!ウェイト!って言われてる気がしてよー。」 どうにも的を射ない返事が返ってくる。 と、くるりと周り呼びに来た演劇旅団員へ向けて白い歯を剝きだして笑う。 「はっはっはー!こりゃ、勘さ。」 勘。 「は…はぁ。座長はたまに不思議なことを言いますよね。」 「そうか?んー、そうなのかもな!」 なおもニコニコと笑いながら、また演劇旅団員に背を向けてうーんっと伸びをする。 「もうちょっとしたら行くからよ!先に準備しててくれ!」 「わかりました。」 人魔終戦記念祭で講演を終えた後、街の人達に混ざり飲めや歌えやの宴会。 そのまま泥のように翌日は休み…今朝から出発の準備をし始めたがやっと準備ができたのは、太陽が南の空を過ぎた頃合い。 太陽の光が目に差し込むと同時に、呆けすぎた頭にチクリと痛みが刺す。 出発の朝を強く感じる。 「いてて…飲みすぎた。バッドだぜ…。んー?街の入り口の方、人だかりが出来てんなぁ。まぁそりゃそうかぁ。」 荷物と人を一緒に積載して走ることのできる大型の移送車が訪れる機会は少ない。 そのため、走行しているところを見ようと街の入り口付近に人だかりが出来ているのだろう。 田舎の街では時折見かける光景だ。 自走機構は魔鉱石に含まれる魔素を使用して動作するが、一般の人が使用するには燃費が悪い。 金持ち、物好き、または、生業で必要な者しか使用せず、オレンドは生業で必要とする者だ。 と、向かいの広場から一人の男が歩いてくる。オレンドはその人影を知っている。 特に要件はないが、その男はオレンドへ向けて歩いてくる。 「すまない、オレンド、といったか。頼みがあるのだが。」 と、少し離れたところから声をかける。 「ゔぇーるーじゃないか!頼み事ってなんだぁい?」 「ふむ。暫く同行させてはくれぬか」 オレンドはにぃっと口元に笑みを浮かべる。 「どこまで行きたいんだい?」 「魔王城を目指しておる」 とんでもないことをサラっと口にする。 「そりゃまたなんでさ?ほわーい?」 「ふむ。この街で…魔王の娘を見つけた。その娘が魔王の城に訪れたいと。」 一瞬言い淀む。 オレンドは驚いて、目をまん丸くしたと思ったら、すぐに大笑いをし始める。 「はっはっはー!ひーっひひ、ははは!なんだそりゃあ!相変わらず面白いゔぇーるーだなぁ!演劇の感想を聞いたら、-死んだのは姫の方だ-なんて、言って、その2日後急に頼み事と思ったら、魔王の娘を見つけた?」 ひらひらと手で天を仰ぎ、自身に訪れた数奇な物語に酔いしれるように口を開く。 「信じぬか?」 「んー?いや、信じるさ」 と、まっすぐにヴェルの目を見つめて。 「ヴェルの言うことは本当のことな気がするのさ」 「…そうか」 オレンドはヴェルから視線を外し、ほんの一瞬どこか遠いところを見るような眼をする。 そして、すぐにヴェルに視線を戻すと、 「面白そうだからなぁ、一緒に行くかぁ!」 と屈託のない満面の笑みで言う。 「で、俺たちはこれから出発するけど、どうするさ?」 「ふむ。街の入り口でその娘と待ち合わせをしておるので、そこで娘を見つけ、同じ足でそなたらの車へ乗り込むことでもよいか。」 「オーケーオーケー。」 ふむふむと頷いた後、にひひっと悪戯な笑顔を浮かべ走り始めた。 「もう俺たち出発だから、早く合流しないと乗り遅れるぜぇ!」 そのまま、片足でくるくると一回転して楽し気にかけていく。 「街の入り口でなぁ!!」 取り残されたヴェルはふと考える。 …どうやって合流するつもりだろうか。 話はしていない。推測するに、勝手に車に乗り込めと、そういう話…なのだろう。 同じ頃、街の北側の門にイーラ来ていた。 今まで数度見てきた様子とは異なり、賑わいを見せている。この街にこんなに人がいたのか、というほど密集しており、 これでは簡単に探し人を見つけることができない。 「ヴェル?…ヴェル?どこ?」 と心の声が漏れる。周囲では、 「今日は何かあるんですか?」 「お祭りに来てた演劇旅団さんの出発なんですって!」 「あぁ、あの」 「そうそう」 や、 「母ちゃん!でっかい車まだー?」 「そろそろ来るはずよ」 「早く見たいー!」 「あんまり騒がないの」 といった、喧騒であふれている。 いくらヴェルが大男とはいえ、イーラの背が低いためなかなかその姿を見つけることができない。 「ヴェル、どこ?」 人の中を行き来するようにヴェルの姿を探す。あっ背が高い人がいる! 「…あ、あの!」 「はい?…君は?」 「あ、すみません、人違いでした」 背が高く、黒い服装ではあるが、違う人だった。 慣れている人間であれば造作もないことかもしれましが、殆ど外に出ることがなかったイーラにとって、 この人込みで人を探し出すことはひどく困難だった。 「ヴェル…どこ…。」 遅くなったから、もう一人で行っちゃったのかな? それとも、やっぱり私のこと好きじゃないから逃げたのかな? 人込みの中で立ち止まってしまう。周囲の雑踏が遠く感じる。 なんとなく、周りが色めきだした気がしたが、今のイーラにとっては関係のないことに感じる。 ばあばになんて謝ったらいいかな。意地になって出てきちゃったし。 いっそ一人で旅に出た方がいいかなぁ…でも… トン と、背中を押されたような気がした。 「わっとと…あ、ごめんなさい」 無理やり一人の思考から現実に押し戻され、驚いてちょっとだけ前の人の服を掴んでしまった。 「探さなきゃ…」 気を取り直して、ふと雑踏の向こう、通路を挟んで向こう側に背が高い長髪の人が歩いているのを見つける。 「いた!ヴェル!」 やっと見つけた安堵感。そして、先に自分が見つけたというちょっとした優越感を感じた。 確かに、イーラは背が低いので、雑踏の中外から見つけるのは困難だ。 対して通路の向こう側にいるヴェルは背が高く、圧倒的にイーラが有利である。 加えて、その雑踏はみな一律同じ方向に向かって手を振っており、その中で一人移動をしている人物は大いに目立つ。 イーラは駆けだす。 「あっ…すみません!…ヴェル…ヴェル!」 数人のわきを通り通路に出て、視界が開ける。 よし。あとちょっとで! 「あ…女の人…」 よく見るとその人はちょっと背の高い女の人だった。 辛い…けれど、折れちゃいけない。 探していればいつかきっと見つかるはず。 何でかは分からないけれど、この人ごみのそのうち掃ける。 ダメでも絶対に会うことができるはず! と、自分のことをもう一度奮い立たせたところで違和感に気づく。 何で今日は通路の端っこにしか人がいないのだろう? ふっと何か大きな物の影が見え、 イーラは何かとぶつかることを直観的に気づく。 「きゃああー!」 「あぶない!!」 イーラに気づいた人たちが悲鳴を上げる。 そこにあったのは演劇旅団の魔導移送車。エンジン部、寝台、貨物部2両と合わせて4両も編成して旅をする巨大な車両である。 車輪だけでもイーラの背丈近くあり、速度が遅くとも、踏みつぶされた結果は容易に想像できる。 イーラに気づいた運転手も急ぎブレーキを踏むが、これだけの荷物を積んだ車両が簡単に止まれるはずがない。 急停止をすれば追突事故を起こし、積載物が雑踏に向かって倒れこむ。 あ… と小さな声を漏らし、ぎゅっと目をつむる。目の前に迫る衝撃に備えて。 それとほぼ同時に体が何かに掴まれてふわっと移動させられる感覚。 その直後足元からドゴッ!!と鈍い音が響く。 「あ、あれは!?」 「え?」 次に聞こえたのは、群衆の呆気にとられた声。 「すまない、遅くなった」 と、すぐ足元から聞こえる声。 …ヴェルの声だ。 「ヴェル…!だ、大丈夫!?」 ヴェルは移送車とイーラの間に入り、イーラを移送車の外側に移動させた。 そして自分も避けようとしたところで、間に合わず車輪に踏みつぶされたのだ。 「問題ない」 やはり10年間も魔素を使わず動きもしなければ、体もなまるか。 ふむ。 ヴェルを踏みつけた先頭車両はゴトンと右前輪を軽く浮かせた程度で、問題なく進行する。 通路に集まった人たちもさっそうと一人の男が助けに入ったと思ったら、 その車輪に踏みつけられ、傷一つなさそうな雰囲気で横の娘に声をかけている様子を見て、 呆気に取られている。 そこに… 「この先何かに踏みつぶされて痛い思いをすることがあるかもしれません…バッド。でもね、彼のように頑丈な体、いんやー、そりゃ普通の人には無理だ、はっはっは!心、強い心を持っていれば、また立ち上がってその道を進むことができるのさぁ!なんて思いを込めた旅立ちのサプラーイズさぁ!」 いつの間に移送車の屋根の上に上ったか、オレンドが大声で無茶苦茶な口上をあげる。 オレンドは賢くない、筋が通っているようで、その実はすっからかんだ。 道の周辺にいる人たちも 「なんじゃそりゃ…」 「え?結局なんだったの?」 「どういうこと?」 と、納得したような…良くわからないような…となっている。 「ヴェ、ヴェル、早く立ち上がらないと!」 「そうか…ふッ…む。」 二つ目の車輪に踏みつけられた後、すっと立ち上がる。 身体にも衣服にも傷一つ、汚れ一つない。 「うーし!ゔぇーるー、よく頑張ったぜ!グッドグッド!出発だぁ乗り込め!」 オレンドが車両の屋上から縄を投げる。 ヴェルは投げられた縄を右手でつかみ、もう片腕でイーラを抱きかかえる。 「え?…えぇ!?」 「騒々しくてすまない。イーラよ、門出だ」 そういうと、ヴェルは地から足を離し、縄の導きのまま客車との連結部に二人は吸い込まれていく。 その途中イーラは、二人を見守るエリスを見た気がした。 「おっしゃ!演劇旅団レオニア、出発さー!レミニセンの皆々様、またいつか会いましょう!ごきげんようー!」 と、オレンドが大声とばっちりの笑顔で手を振ると、 道に立つ人たちも雰囲気にのまれ、大きく手を振り始める。 「また会いましょー!」 「いってらっしゃーい!」 「来年も来てねー!」 騒ぐ雑踏の先頭で、イーラを助けようと飛び出したエリスの手は空を切った。 その先でイーラはヴェルの手で助けられた。 空を切った自分の手を見つめたあと、エリスはふっと笑い。 「イーラを、どうかお願いしますね。」 とつぶやいて、周囲の街の人より一足先に、家路についた。 「なんだかあっという間の出来事でしたねえ。寂しいような、懐かしいような。不思議な気持ちです。ロクシーや、あなたの子も、あなたそっくりでしたよ。 はぁ・・・片付けもしないで出ていってしまって。ちょっとイーラの部屋を整理しますかね…うーん。さて、広いお部屋はどこでしたっけ。」 と独り言ちりながら、イーラとその母ロクシーの顔を交互に思い返すのだった。

ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。 ただ君はこの先二つの時間軸で進んでいきます。 ちょっとした問題を、ちょこちょこと解決しながら、 ほっこり暖かく進む今の時間と 戦争の敗北へ向けて進んでいく過去の時間軸と。 この二つを一緒に流すことで「今」の意味を皆様に伝えられたら、と思っています! どうぞ、引き続きよろしくお願いします。

コメント

コメント投稿

スタンプ投稿


このエピソードには、
まだコメントがありません。

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • 超越執事の救い手/最強老執事、弟子をとる

    老執事って素敵じゃないですか?

    39,600

    20


    2023年9月26日更新

    魔術、武術、剣術、医術とあらゆる技術を極めた老執事エヴァルト。 超人的な才覚と能力に恵まれた彼は、自分の後継者を作るために一人の弟子をとる。 ◆小説家になろう、カクヨムにて同タイトルで連載しています。 ◇5分ほどでサクサク読める作品を目指します。 ◆表紙のイラストはStable diffusion Web UI (Automatic1111)で作成したAIイラストになります。 ◇2023年9月18日連載再開しました。 ◆タイトルに「超」がつきました!

    読了目安時間:1時間1分

    この作品を読む

  • 黒曜の聖騎士

    最強魔族転生、本格バトルアクション

    37,050

    820


    2023年9月26日更新

    ■あらすじ 大学生・宮木竜成は、ある日の飲み会でついつい飲み過ぎてしまう。 次に目覚めたとき、そこは異世界で、自身は魔王軍最強の男・四魔神将カヴォロスとなっていた。 時に、アルド王国歴632年。 勇者と魔王の戦いが終わってから500年の時が過ぎていた。カヴォロスもまた、勇者との戦いに敗れて命を落としたはずだったが、こうして竜成の魂と融合して復活していた。 そんな世界に新たに召喚された勇者はなんと、竜成の幼馴染みである天海結花だった。 カヴォロスは彼女とともに、新たな脅威である鬼の軍勢に立ち向かうこととなる。 世界に再び訪れる滅亡の危機を、カヴォロスたちは止めることができるだろうか。 ■登場人物 ・宮木竜成 主人公。大学三年生。ある日の飲み会で泥酔して倒れると、四魔神将カヴォロスとなっていた。 ・四魔神将カヴォロス かつての魔王軍最強の男。武力では魔王すら圧倒する、魔龍族の長。 ・天海結花 竜成の幼馴染み。今世の勇者として召喚された、本好きの少女。 ・吟遊詩人エルク カヴォロスと結花の前に現れた、旅の吟遊詩人。金髪碧眼の美丈夫。 ・村の少年ベルカ 魔王城前の村に住む少年。村長の息子で、狩りが得意。 ・辰真 王国へ侵攻してきた、鬼の軍勢の頭領。自身の身の丈を越える大太刀を振るう。 ・魔王ダルファザルク カヴォロスの仕えたかつての魔王。世界最強の魔力を誇る、魔人族の長。 ・四魔神将デビュルポーン 魔王軍最速の男。隠密活動に優れ、暗殺者として名を馳せた。 ・四魔神将アヴェンシル 四魔神将の紅一点である氷姫。極寒の地に暮らす魔狼族の長。 ・四魔神将グラファムント 四魔神将最凶の男。地獄の業火のような暴君でありながら、魔王に絶対服従の魔人族。 ・勇者ララファエル・オルグラッド 先代勇者。魔王ダルファザルクを討ち倒し、世界に平和をもたらした少女。 ※一話1500~2000字前後 ※文体:硬め

    • 暴力描写あり

    読了目安時間:3時間54分

    この作品を読む

  • 陰陽祓魔師~十字架術師の式神は悪魔で妖~

    平安京に西洋の悪魔!?半妖主従が悪霊退散

    200

    0


    2023年9月26日更新

    時は平安。妖や魔物が多く蔓延るこの日ノ本で二人の異端児が出会った。 転生し、千年以上もの未来の記憶を持って生まれた自称忌み子でフリーの陰陽師の陽光(はるみつ)。 妖狐でありながら人と西洋の悪魔の血が流れている礼羅(ライラ)。 神仏習合されたこの世では日夜穢れや呪いを祓うために潔斎や読経、芥子や護摩を焚く屋敷があったが、それでも祓われることのない魔物が都で現れるようになる。 それはこの時代の日ノ本には存在しないはずの西洋の悪魔だった。 陽光が構えた十字架によって祓われかけた礼羅は自分の実父を、陽光は自分を忌み子にした何者かを探すという約束をし二人は今日も都の悪霊を退散させる。 !注意! ・実在の人物、団体名が出ますが史実と異なる場合があります。 ・転生要素は薄いです。 R-15は保険です。

    • 残酷描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:49分

    この作品を読む

  • 底辺奴隷の逆襲譚

    絶望に次ぐ絶望…ありきたりな展開に飽きた

    31,700

    5


    2023年9月26日更新

    貧しい家庭に生まれ、苛烈ないじめに遭っていた主人公。異世界へ転生するも、待っていたのは、さらに過酷な境遇。社会の最底辺の奴隷として異世界を生きることとなる。剣と魔法の異世界で、特別な恩恵も、魔力も、地位も、人権すらない人間に生きていく術はあるのか。努力は生まれや才能を凌駕できるのか。 ※ただのテンプレ展開に飽きた方にオススメです ※一人の男性がもてますが、女性も嫌悪感抱かないように努力しております (但し、一部ヤンデレ要素、女性同士の血みどろの争いもある……かも)

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:19時間51分

    この作品を読む

読者のおすすめ作品

もっと見る