私立緑工業高校女子eSports部

読了目安時間:22分

仲間

その翌日。 授業が終わるとすぐに友紀は旧実習棟のコンピュータールームの前に来ていた。 まだ誰もいないようで部屋には鍵がかかっている。 この学校は以前は普通の工業高校で、実習をするための実習棟があった。 だがアニメやゲームなどの専門学科が中心になって、ライトテーブルやタブレットコンピューターがあれば通常の教室でほぼ対応できるようになった。 声優科の防音のレッスンスタジオだけは元自動車科のガレージ部分の実習棟が改装されて設置されたが、従来の大部分の実習施設は生徒の部活動に対して開放されるようになったようだ。 (こんな部活だけの部屋があるなんてアニメだけの中の話だと思ってたけど・・・) そんなことを考えながら友紀はぼーっと教室の前で待っていた。 「あら?e-sports部の部員さん?話は聞いてるわ。面白いこと考えるわね~」 背後から声をかけられてびっくりする友紀。 声の主は富永恵だった。 友紀としてはまだ部活に入ると決めたわけじゃないので返答に困ったり、学科が違うので初対面の教師にどう返事をしたらいいのか戸惑ってしまった。 「あれ?違うの?」 戸惑っている友紀をみてとりあえず自己紹介する。 「私は富永恵。CG科の教師よ。一応e-sports部の顧問も請け負っちゃったのでよろしくね?」 「あ、はい。私は森友紀。アニメーター科です。まだ部活に入るって決めたわけじゃなんですけど、一応・・・」 (ふーん。ヤマトのキャラのイメージと随分違うわね。無口ジト目キャラ?) (顧問の先生だったんだ・・・なんか先生っぽくないなぁ・・) お互いこんな失礼なことを考えていると麻衣子と琴絵がやってきた。 「ゴメーン。先生と森サン!マイコの掃除当番終わるの待ってたら遅くなっちゃった」 「ん。今日は鍵を持ってきてあげたケド、次からは職員室に取りに来てね。」 「は~い」 富永が彼女たちに一応注意しておく。 「じゃあ入るわよ」 鍵を開けて中に入ると大きなプロジェクターのスクリーンと、アナログモニターが埋め込まれたコンピューターテーブルが全部で40台、整然と並んでいた。 「おお~」 琴絵たちは感嘆の声を漏らす。 「なんか司令室って感じです!」 「だな!」 確かにそういった雰囲気がある。窓がなくプロジェクターの為に劇場のような照明になっているので、独特な雰囲気がある。少なくとも麻衣子たちにとっては初めて見る雰囲気の部屋だ。 「ココ使っていいんですか?っていうか何でこんなゲームで遊ぶような部活がOKなの?」 「何でって・・・」 この際なので麻衣子は先生に疑問をぶつけてみる。CG科の麻衣子にとっては担任の先生なので、割と話しやすいようだ。 「一つにはゲーム系の学科ではタブレット端末を自分で購入して使うことで、以前のコンピュータールームが使われなくなったことと、こういうアナログモニターやプロジェクターの設置されたこの部屋の改装するだけの予算がないからね~」 実習棟の各教室は実習用の機材やそれらの保管場所もあり一部屋ごとはかなり広い。 各クラブの部屋として解放するにあたって新たに壁を設置して部屋を増やしたわけだが、このコンピュータールームだけは構造上、手つかずのままだった。 「それと校長先生がかなりノリ気みたいでね~」 苦笑いするような表情で富永はポソリとつぶやく。 「校長先生が?」 なんでといったような表情。麻衣子たちにとってはただゲームで遊ぶための部活なのだから。 その表情を察してか、富永は説明を補足する。 「私立なのでできれば甲子園常連の野球部みたいな部活をしてほしいみたいなんだけど・・・」 「運動は苦手な感じだよね・・」 言葉を濁す富永に麻衣子も察した。 確かにこの学校はオタクばかりで体育会系の生徒は本当に少ないって印象はある。実際に生徒会が活動していない初年度は部活申請すればすぐに認められそうだが、そういう部活を作ろうと話し合ってる動きは少ないようだ。 以前先生もSOS団(○○な奉仕団体)とかごらく部とか帰宅部とか手探り部とか申請するのやめろっていってたし。 「だから日本で始めてで来年以降の受験者にアピールできそうな部活に期待してるみたいなのよね~」 なるほど。よくわかった。 確かにこのアニメにしか出てこないような部活用の元実習棟もそうだけど、確かに部活で選ぶってところはあるもんねぇ・・私達。 この学校が受かってなかったら、アニメ同好会とかはこの近辺に学校にはなかったから少なくとも漫画研究部のある学校を選ぼうと思ってたし。 私の場合セーラージャケットの制服が変わってて可愛かったというのもあるけど。 「でももう三人も集まってるのね。わりとハードル高いと思ってたけど。あなた達が3年生になるころには、もしかしたらこの部屋の40席埋まるかしらね?」 なんかすでに森さん、部員にカウントされてるよ。 まあ多分大丈夫だと思うし、私達が彼女のゲームの趣味に合わせれば続けてくれるとは思うけど。 「あと最低2人か・・・大会とか考えると実力重視だけどそもそも大会がないからなぁ」 校長先生の真意はともかく、e-sports部でメジャーになれるのかしら?私達・・そもそも男子にゲームで勝てるようなメンバーが女子だけで集まるとは到底思えないけど。 そんなことを考えているとしらっと富永先生がとんでもないことを言い出した。 「まあ声優科のコをテキトーに誘えばいいんじゃない?面接重視でカワイイ生徒を選んだって言ってたし。校長。」 「え~っ!あのウワサ本当なの?!」 いや・・・それって実力で大会を勝ち進んで名をあげるってわけじゃなく、女の子がゲームで戦うところを重視してるの? いわゆる戦って歌えるラブライブな部活なの?私、そーいうの自信ないんですけど。 ・・・ドユコト? でもまあこれでひとつわかった。 「なるほどね。まあ"バカ"でも入学できるみたいだし。」 「おい!」 コトチンの方を見てぼそりとつぶやく。まあ私立とはいえこういう学校なので初年度なのに意外に受験者は多かった。私は元々そこそこ勉強できたが、おバカでゲームばっかりやってたコトチンが私が受けるからって受験してあっさり受かってたのが腑に落ちない・・というか納得行かなかったんだよなぁ~。 「・・・えっと。いや、女の子はバカでもカワイイほうがいいですよ。」 黙ってみていた森さんが珍しく発言を。 でもそれ・・それあんまりフォローになってないから。というか森さんの中ではコトチンはお馬鹿なコと認識されちゃったみたいだ。まあ事実だけど。 「そりゃどうも。」 複雑な表情をするコトチン。 でも校長の思惑から言うと可愛くてゲームが上手いコトチンがあきらかにエースなんだよね。私達お邪魔なんじゃないかしら? まあそんな贅沢は言ってられないね。これだけ立派な部室があるならまずは部員を増やさなきゃ。 「でもまあ女の子ってFPSにかぎらずゲーム好きなコって意外に少ないよね。ゲーム学科ならもう少し居てもいいと思ったんだけど。 ユキちゃんってゲーム友達居ないの?」 とりあえず期待の新人に話を振ってみる。まあコトチンと出会ったのも元々ゲーセンだしね。彼女のゲーム友達も居るかもしれない。 「私はどっちかというと腐女子ですから」 ゲーム友達が居ないという事だけじゃなく、さらりと言いにくい余計なことを言うなぁ・・このコ。 「そーいえば・・・。友達ってほどじゃないけどコスプレ好きの知り合いがこの学校の声優科に居たっけ。 コミケ帰りにゲーセンで見かけたけど、ガンシューティングもわりと上手かったよ。」 これは有力情報だ。しかし・・・。 「なんかすごく濃そうだね。仲がいいわけじゃないの?」 とりあえず誘いたいけど、ユキちゃんと険悪な関係なら誘えないので、やんわりと確認してみる。 「う~ん。やってるのがサイレントスコープとか警察官とかで協力プレイが出来るゲームじゃないし、一昔前のゲームだから最近はやってるの見たことないしなぁ。」 まあ、仲が悪いわけじゃないんだ。 「じゃあそのコ誘ってみてよ」 「私より石田さんが誘ったほうがいいと思いますよ。岡野ってコです。」 「ん?なんで。たしかにあたしも声優科だけど、初対面で部活に誘うってのもね。」 コトちんはちょこちょこCG科まで来てるぐらいだから、あんまりクラスの子と仲良くなさそう。・・・これは渋ってるな。 「まあ私もそれほど仲がいいわけじゃないし、キャラ的に石田さんの方が効果はあると思います。」 そう答えるユキちゃん。 「キャラ?」 「ええ、できれば私の時と同じ誘い方で。」 「?」 不思議そうな顔をしているコトチン。 その理由がわかったのは翌日のことだ。 部活に姿見せた時、ベッタリと金髪ツインテールの女の子がコトチンに寄り添っていた。 今日一日CG科の教室に姿を見せないと思ったらそういうことか。 「あれ?岡野さん入ってくれるんですか?」 すでに来ていたユキちゃんが話しかける。 「ああ・・・入ってくれるみたいだよ。」 なんかげっそりとしてコトちんが返事する。 「まあ安心していいですよ。 そいつ別に本物のレズとかそーいうのじゃないですから。」 やっぱりといった表情でユキちゃんが話しかける。 「あら?あなたは・・アホ毛のユキさんでしたっけ?」 人差し指をわざわざ彼女に向けて確認する。 ちょっとユキちゃんもカチンと来ているようだ。 「うるさいな。このニャース・・・。」 ボソリとそう答えると、今までコトチンの後ろに居た岡野さんは突然つかつかとユキちゃんに歩み寄って、そのまま彼女を引っ張って部室の外に出ていった。あれ? ~~教室の外では小声でこんな密談が行われていた。 「ちょっと・・なんでそのアダ名をあなたが知ってるんですの!!」 大きな声を出さないようにだが、なんかすごい表情でユキに詰め寄る。 「いやまあ・・・ちょっとね。しかしまあまああんたも大変だよねぇ~。声がポケモンのニャースに似てるからってずっとニャースってアダ名を付けられて・・。」 肩をつかまれていたユキはそのままにやりとした表情を見せたかと思うと下から覗き込むように岡野の顔をみる。 「で、声質が似てるからってコミケのようにレールガンの黒子のようなキャラを作って高校デビューですか?アニメ声ってのも大変なんですねぇ・・」 そのセリフを聞いて思わず後ずさる岡野・・・あきらかに図星といった表情だ。 ニヤニヤしているユキだったが、すっといつものジト目な表情に戻る。 「ま、安心してください。私としてはあなたの呼び名なんてニャースでも黒子でも岡野でもどれでもいいんだし。」 いぶかしむ岡野をよそに、そういって部室に戻ろうとする。が、扉に手をかけたところで立ち止まる。 「でも・・本当に声優でやっていくなら黒子のマネでもいけないんでしょ?素のあなたはどんな声なんですかね~。」 (ホント・・・気に食わないコ・・) 部室に戻ったところで改めて自己紹介をする。 麻衣子、琴絵、友紀につづいて、沙織もまずは"作られたキャラ"でおもいっきり可愛く自己紹介する。 「声優科、岡野沙織です。ゲームはアーケードだけで自宅にゲーム機も持っていない初心者ですが、よろしくおねがいします。」 それは同性から見れば嫌悪感も感じるかもしれない。 確かにココでは素の自分でいられるのかもしれないけど、やはり自分は変わりたいと思う。だからこれもそのための努力なんだと言い聞かせる。 「岡野沙織さん?じゃあサオリンだね。私もマイコでいいよ!よろしく~」 そんなことを考えるまもなく麻衣子がフレンドリーに接してくる。 「サオリン・・・」 「ゴメンな。岡野さん。そいつ昔からすぐ勝手にアダ名をつけて呼ぶんだよ。」 中学時代・・・というか、小学校の頃からニャースとしか呼ばれてなかった。コミケ会場ではコスプレ名があったし、そもそも名前で呼ばれることもなかった。 考えてみれば先生以外に名前で呼ばれることなんて初めてだ。それもサオリンなんて。 名前やあだ名で呼ぶなんて友人同士ではアタリマエのことなのだが、彼女にとってはある意味初体験だ。 これはこの呼び方を定着させなければ! 「ぜひ!わたくしめをサオリンとお呼びください!オネーサマ!!」 くるりと振り返ると琴絵の手を握って興奮気味で詰め寄る。 「え?ヤダよ・・・」 その雰囲気に圧倒されて思わず拒否する。 「いーじゃん呼んであげなよ、オネーサマ。」 「いや、同い年じゃん!なんでオネーサマなんだよ!」 無責任に言う麻衣子にもっともな反論をする。 「そうですわ、お姉さまという呼び方をしていいのは私だけですわよね~」 「ねーサオリン」 空気をあえて読まずに友紀が沙織を呼ぶ。 「あなたはサオリンと呼ばないでください!!」 間髪入れずに沙織は拒否。・・・なんだこの状況? とりあえず深く考えるのはよそう。 「これで4人。部活として認められるにはあと一人だったね。」 その時ちょうど先生がやってきた。麻衣子は話題を変えようと、残りの一人の部員の話に切り替えようとする。 まずは沙織に心当たりがないか聞こうとしたが、さっき自宅にゲーム機も持ってないと言ってたからなぁ。 とりあえずゲームの話かな? 「そういえば部費でゲーム買えるんだよね?それって部員が5人集まらないとダメなの?」 確かにゲームって人それぞれ好みがあるし、部活でやるからといって特に興味が有るわけでもないゲームを買うのって結構抵抗があるからなぁ。 「う~ん。一応そうなるかな?形としては生徒会が立ち上がってきたら、来年以降の部活関連の予算は生徒に任せることになるから、生徒会が立ち上がる一学期のうちに揃ってるといいわね。」 「そっか。まずは部員をあと一人何が何でもあつめないとな。せっかく部室もあるのにこのままじゃあ活動もできないまま終わっちゃうよ。」 琴絵のつぶやきに先生が思い出したようにアドバイスする。 「でも別に基本無料のゲームでいいんじゃない?この手のゲームは旦那が詳しいのでオススメのゲームとか訊いてみたんだけど、Blacklight:RetributionってゲームのSIEGEモードとかオススメだって。」 「え?先生結婚してたの?」 別の部分に食いつく麻衣子。彼女にとってはゲームはあくまで友達付き合いのツールなので、そういった部分の方が興味がある。 自分自身ゲーム業界への希望があるが、家庭の幸せとは無縁のような業界なので、元ゲーム業界の富永のプライベートは大いに気になる。 「なによ。日常系部活アニメお約束の、美人顧問の先生は婚期を逃しそうで焦ってるかいうお約束を期待してたの?」 机によりかかりながらジトっとした目で彼女たちを威嚇する。あまり突っ込んで欲しくないらしい。 その雰囲気のせいで"美人顧問"の所にもつっ込めない・・。 「えっと・・・でも基本無料って課金装備買わなきゃダメってイメージあるんだけど。Pay to Winって言われるぐらいの感じで。」 ユキが察して話題を元に戻そうとする。 「一般的にはそうよね。でもそのBL:Rとかいうゲームはちょっと古めで、もうほとんど開発が止まっちゃってるみたい。早期武器アンロックだけできれば、始めたばかりでも長くやってる人とも条件面では変わらないらしいわよ。」 「じゃあその早期アンロックを部費でやるのかな?とりあえず部員が集まるまではガマンして・・・。」 「いや。ゲームの装備ぐらい旦那のゲーム友達に貢がせるわよ。JKとFPSゲームで対戦できるとか言えばすぐに集まるだろうし、当面の練習相手にも事欠かないから一石二鳥よ。」 しれっと先生がとんでもないことを言う。 「・・・え~・・いいんですか?それ。援助なんとかみたいな感じで・・。」 「大丈夫よ。うちの旦那のゲーム友達なんかみんな遠距離で子持ちのおっさんばかりなんだから。」 けろっとした表情の先生に、お互い顔を見合わせてやれやれといった表情。 「まあ先生がいいっていうんだったら・・・そういやユキちゃんはいいの?何かプレイしたいゲームがあるんじゃないの?」 麻衣子は友紀のほうを振り返って確認する。 「いえ。大丈夫です。というか大好物です。先生の旦那さんなかなかマニアですね。」 振り返った先には、なぜかニヤニヤした表情で立っている友紀が居た。どういうゲームなんだろう・・・BL:Rって。 「じゃあ当面プレイするゲームは決まりだな。じゃあ部費は?なんに使うの?」 琴絵が先生に問いかける。 お金のことばかり気にしているようだが、実際には顧問の富永から幾つか条件を出されているのがあったからだ。 まずコンシューマーゲーム機などの禁止。これは富永からみれば"家でやればいいじゃん!"ということで、原則部活でのプレイを禁止ということになった。 そしてPCゲームが主体ということになったが、さすがに部員全員分のPCを部費として買うわけにはいかない。吹奏楽部の楽器などは多少高くても部費で購入して、何年も使っていくということもできるだろうが、パソコンは数年で性能が大きく向上するからだ。 だからこそ部員は全員部活用のPCを買うことになってしまった。 なので部費は初年度はだいたい部員一人あたり1万円が目安。それ以上の予算が必要な部活は別途申請と言われていたので、部費はゲーム代金~~ということになっていた。 女の子でPC一台を部活のために用意するのはさすがにハードルが高い。琴絵としては"PCさえ買えば部活でゲームが遊び放題"みたいな謳い文句で部員の募集を考えていたようなので、そこは気になるところだったんだろう。 「やっぱり基本に立ち返って、ティーセットとか?!」 麻衣子としてはそれほどオタク度が高く無いとはいえ、やはり"マンガやアニメのような部活動"をしたいようだ。 というか女子高生が部活でまで閉じこもってゲームしたくない。放課後ゲームタイムとか楽しくないじゃん!! 「でもここには高級なお茶の葉やお菓子を持ってくるお嬢様とかいませんよね。金髪ロリもアテナの方と違って金持ちじゃなかったよね?パソコン大丈夫なの?」 「誰が金髪ロリですの!」 アーケードゲーム以外はそれほどゲームに詳しくはない岡野はここまで黙っていたが、ここはキャラを演じる意味でも突っ込んでみる。 「ワタクシのお父様、PCに関しては自作派ですのでパーツを高性能にしては、おさがりのパーツで作ったものを押し付けてきますの。若干のパワーアップは必要でしょうけど、それで大丈夫だと思いますわ。」 (・・・お父様?いや、自分の演じてるキャラがそういう口調ではあるんだけど・・・) 沙織は自分の父親の顔を思い出しながら、自分自身の発言に違和感を感じていた。 「ふ~ん。そういえばユキちゃんは大丈夫なの?ゲーセンじゃその辺の詳しいことを伝えてなかったけど。」 その会話を聞いて麻衣子も友紀に確認を取る。 「ええ。部活用にPCを持ってくるってことですよね。私もゲーム仕様のパソコンのお下がりをお父さんにもらってますので。まあ部活用に今のPCを持ってくると自宅にもPCは欲しいですけど、そっちはそれほど高性能じゃなくていいですから。」 実は彼女の父親は単身赴任中で、毎晩スカイプで親子の会話をある程度するのが約束になっている。 とはいえ毎日会話してるとネタにも困るので、父親とオンラインゲームを始めるようになったのが彼女がPCゲームに詳しい理由でもあった。 子供の頃は最新ゲームの動くPCを買ってもらう事もできて、それなりに楽しかったのだが、高校生にもなってくるとさすがに毎晩肉親とのゲームで何時間も費やすというのは抵抗があった。 まあスカイプで数分会話する程度で切り上げたいところでもあったので、今回の部活用PCの持ち込みはむしろ自宅でゲームをやらない理由になってちょうどいいと思っていたぐらいだ。 そんな感じでPCに関しての都合を確認しあっていたところで、先生が部費の使い道に関して一つの提案をする。 「そうね~。FPSをやるっていうんだったら左手用コントローラーとかどう?BL:R以外のゲームを買うにしてもセールを待ってポケットマネーで買ってもいいし。というか部費申請とかライセンスの問題とかダウンロード販売のゲームは部活での活動で買うには面倒っぽいし~。」 琴絵は少し考えてそういうのもあるのか~と納得した。ダウンロード販売の方が安いのは確実だけど、領収書出してって言われたら困りそう。よくわからないし。 「うん。そのほうが無難かな?実際FPS初心者はキーボードの扱いがうまく出来ないのがハードルになりそうだし。というか私も使ってみたかった!」 「まあ実際には好みの問題もあるので使わなくてもいいとは思うけどね。ちょうど予算的にも確か1万円ぐらいのものだったからちょうどいいかな?」 「Razerの方ですよね?ロジクールの方は女の子にはおっきすぎるだろうし。」 「確か今はその会社の二種類だけだったわね。まあ私はまだn52te使ってるからそっちの方がオススメではあるけど。まあそれでいいならとりあえず部員が5人以上になったら少し多めにこちらで注文しておくわよ?」 「そうだな。部員が揃うまでに他にいいものが思いつかなければそれでいいよな?」 琴絵は皆の方を見渡して確認をとる。 そもそも左手用コントローラーというものがピンときていない岡野だけはきょとんとした表情だったが、他の2人は異議はないようだった。 「そっか。でもまずは残りの部員集めね。集まったら注文してあげるから、勧誘頑張ってね。実際ゲームをプレイし始めるまでは私もアドバイスしようがないからあまり来ないとは思うけど・・・じゃあね。」 そういうと先生は部室から出て行った。確かに部員を集めてPCを持ってこないことには話にならない。 「んじゃまあ・・部員集めだけど・・マイコかユキさん、ポスター作りよろしく!」 頭をかきながら当然といった顔で琴絵はポスター作りを依頼する。まあ絵を描いてのポスター作りならCG科の麻衣子かアニメーター科の森ということになる。 「まあ確かに普通の高校だったらちょっと下手な絵がついた部員募集は基本だろうけど・・・」 この学校の掲示板にすでに貼られている部員募集のイラストはちょっと異常だった。元々その手の業界を目指している生徒が集まってるだけにかなり上手い。 正直なところオリジナリティの面では弱く、どっかでみた絵柄が多いのではあるが、それでも麻衣子や友紀としてはイラストで勝負したくないって気はしていた。 「な・・なにいってんのよ?この部活はゲームの部活でしょ。絵が必要ってわけじゃないじゃない!」 遠回しに描きたくないと意思表示する。友紀も同意しているのかはっきりと頷いている。 「じゃあどうする~・・」「コスプレしましょう!!」 黙っていた沙織が突然大声で割って入ってきた。 「私とお姉さまでコスプレ!それをポスターにするんですの~・・私達の美貌に引き寄せられて、部室の扉をきっと叩いてくれますわ!」 「いやいや、ここ女子だけの部活だし。同性のコスプレって逆に引くよ。」 これまた遠回しに琴絵もコスプレしたくないと意思表示する。 「でもそれもいいかもしれませんよ。コスプレの写真とゲームのスクリーンショットを合成する感じでいけば部活の内容が伝わりやすいかも。」 友紀はこういった案を提示する。これならCG科と声優科の3人で作ってくれると判断したからだ。 「う~ん。じゃあ顔だけね。ゲームの画面の登場するキャラはユキが描いて、それをマイコがCGとして合成するってことで。」 ・・・それならって感じで3人が頷く。あれ?結局私の労力が一番大きいんじゃない?シマッタ! 絵と写真を合成するとか簡単に言ってくれてるけど、絶対違和感出るハズ。 そうなると結局私が全部描くハメになる気がする。ロゴとか全部デザインするんだろうし・・。 「さて、勧誘はポスターを作ることを優先するとして、まずはマイコのPCを買いに行かなきゃな。今度の日曜辺りか~」 後悔して頭を抱える麻衣子を尻目に次の予定を考える。まずはPCがなければせっかくこんな部室があるのに活動できない。 「そうね。そういえば二人は?なにか買うものないの?」 麻衣子はまだ困惑した表情だったが、気を取り直して友紀と沙織に聞く。 「さっきもいいましたけど、自宅用のPCですかね。」 「私もグラフィックボードだけでも新しいものにしないとダメだと思いますけど、それぐらいですわね。」 「そっか。お金のコトとかもあるだろうけど、都合がつくようならみんなで買いに行こうぜ!」 琴絵の言葉に少し顔を合わせて頷く。 それからしばらく次の日曜の待ち合わせなどについて雑談したあと、私達は帰ることにした。 (そっか・・。考えてみればこれって私の始めての部活なんだ。) そんなことを考えながら靴を履き替えるために学校の下駄箱まで戻ってみると、階段下の掲示板で一人の女の子がじっとポスターを眺めているのを見かけた。 「なあ、あのコ部活迷ってんじゃない?誘ってみる?」 小声で琴絵が麻衣子に耳打ちする。 「勧誘はポスター作ってからなんでしょ?それに絵に興味があるならゲームする私達の部活に興味ないわよ。」 「う~ん。そうかもな~・・」 「この絵・・上手いと思ったのにほとんど模写だったなんて・・・。」 その時漫画研究部のポスターを眺めてそうつぶやいたのは井上華菜里。 コミック科の生徒で韓国からの帰国子女だ。彼女は漫画研究部に入部したが、たった今辞めてきたところだ。 日本語が話せない母親が育児に悩み、結果的に離婚し母親と一緒に韓国に帰国していたが、いつからか将来は日本での生活をすることを決めていた。 だが反日政策での韓国では日本の事が好きだということは決して許されないタブーだ。その中で唯一日本のゲームやアニメ、そしてマンガなどは好きだと言っても許されるもので、彼女にとっての支えでもあったのだろう。 そのせいか彼女の夢は幼い頃から漫画家になることだった。 だがこの学校に入ってまず同じクラスの生徒や漫画研究部の人達と話して愕然とした。 オリジナル作品をつくろうという意欲が大きく欠けていたからだった。 この間まで中学生だった子供にオリジナル作品を作れというのも確かに無理があるとは思うが、アニメやマンガのキャラクターを真似ては上手いと言われて調子に乗って練習をしてきた他の生徒とは大きな感覚の違いもあったのだろう。 部活が始まってまず最初に話し合ったのが、作品をつくろうという事よりも夏にコミケに行く計画だったのだから・・。 結果的には数日でそういった漫画研究部の体質に嫌気がさして辞めてきたところだった。 (やっぱり自分でコツコツ作品を描くしかないのかな・・・) でも未練があった。 小さい頃から親しんできたマンガやアニメの中の"高校生活"を今自分が体験している。 将来漫画家になるという意味でも、"楽しい部活動"も体験したいのだ。 (そうだよ・・。美南ちゃんだって頑張ってるんだ。絶対に楽しい学校生活を送ってやるんだから!!)

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