私立緑工業高校女子eSports部

読了目安時間:23分

カミングアウト

翌日の放課後。 部室に向かった歩夢だったが、そこには居たのは沙織だけだった。 「ごきげんよう。ほむほむさん。それともロサ・ギアンティアとでもお呼びした方がよいかしら?」 「好きに読んでくれていいよ。でもお姉さまとはよんでくれないんだね。」 「そうですわね。もし琴絵お姉さまいなければそう呼んでいたかもしれないですけど。」 「で、今日は君一人かい?」 「ええ。PCの方は届いてますのでまずはセットアップしてゲームのダウンロードをし始めたら、コスプレ部の家庭科室の方へ来てくださいと伝えに。どうやら衣装の採寸をするらしいですわ。今日はみなさんそちらのほうに行ってます。」 「なるほど。わかったよ。でも用件はそれだけじゃないんだろ?」 少しの沈黙の後、思いつめたような表情の沙織だったが、意を決したように言葉を切り出した。 「そうですわね。あなたとは二人きりでお話しておきたかったので。」 「僕が本当のレズビアンかどうか?かい・・」 「いいえ・・・それはまあ見当がつきますわ。あなたはたぶん違う。トランスジェンダー・・つまり中身は男なんでしょ?」 ぎくりとした。 バレたら退部といった顧問との約束以前に、言葉もほとんど交わしていない相手に気が付かれていたこと。 だが、できるだけ平静を装いつつ聞き返した。 「どうしてそう思うんだい?」 「簡単ですわ。ただのレズビアンならそんな男女共用の制服なんか着ない。ならばトランスジェンダーか男嫌いですわ。」 「なるほど。でも僕がただの男嫌いの可能性もあるとは思わないのかな?実際前の部活では男子部員全員にコクられて断ってきたんだから。」 「それなら最初から男子部員のいる部活なんて入らないでしょ?それにゲー研はあなたが他の部員を誘って立ち上げた部活。ならば可能性は一つですわ。」 「なるほど確かにそうだ。だがそれがわかるということは・・・」 歩夢はそういいながらゆっくり詩織に近づいていく。 後ずさる詩織・・・。 後方の壁にぶつかると同時に歩夢は腕を頭の左右に突き出す。 「怖いのかい?この僕が。君の中に入れられるものはもってないよ。」 確かに・・歩夢の腕に挟まれ、影を落としたその表情は恐怖のようなものを感じているのがはっきりと分かった。 「いまはっきりわかったよ。君はレズビアンじゃない・・・正確には男嫌いだ。そしてそのきっかけは・・・」 言おうとしてやめた。 彼女は心の傷を負っている。おそらく誰かにレイプされた・・その後遺症ともいえる状態だ。だからこそ自分の事がわかる。 壁ドン状態で顔を近づけていたが、ぱっと彼女から距離をとると、それまで不敵で怪しげな表情を一変させ笑顔で話を続ける。 「いや、悪い。確かに男嫌いの君に、男みたいな僕は目障りかもしれないな。」 その笑顔が沙織にとっては腹立たしかった。心の中を覗き見られたような。忌まわしい記憶さえも見透かされたようなそんな気持ちになって怒りが湧いた。 「そ・・そうですわ!あなたの中が男で、体は女・・その境遇には同情しますが、私は男が嫌いですの!だからあまりなれなれしくしなように言っておきます!!」 同情・・・そう同情されたのは私のほうだ。だが強がってそういいたくなった。 だがその一言は歩夢を激怒させる禁句でもあった。 「同情?同情されるような事は俺には全くない。ふざけるな!! 」 驚いて振り向く。 沙織にとってはなぜ彼がこんなに怒っているのかわからなかった。 先に同情するような態度をとったのはむしろそっちだ。仮に同情されたことに怒ったのだとしても、むしろこっちのセリフだ。 「なにを・・なにを逆切れしてますの?!怒りたいのはこっちですわ!それに男のくせに女子部に入ってきて!!女の体が目当てですの?!」 「お前の貧乳なんか男と同じだ。むしろうらやましいね!俺のおっぱいと交換するか!?」 「何を!?ふざけて・・・!」 自分でも何を言っているのかわからなかった。 しばらくそういった思ったことを口走る口論を続けていたが、こんな口論を他人に聞かれたらと思った瞬間にそれは止まった。 気まずい沈黙が流れた後、歩夢は切り出した。 「よし・・君を必ずモノにしてやる。俺にメロメロにさせたあと男の体になってがっかりさせてやる!」 「なにがメロメロです・・・いつの時代の人ですの?やれるもんならやってみなさい!」 怒った口調でそういうと沙織は部屋を出ていった。 その場所に取り残された歩夢は沙織のことを考えていた。 レズビアンを"気取っている"彼女のことは知っていた。だが・・いやだからこそ彼女には近づかないようにしていた。 それは沙織にとっても同様だ。男女共用の特別な制服を彼女だけが着ている。そのことは中身が男であり、自分にとって理想でありながら嫌悪する存在であることをわかっていた。 お互い確認したくなかった。が、いま確認した。 「いいね・・。」 ぼそりとつぶやく。 彼にとってまだ女性は恋愛の対象ではなかった。中学時代はほとんど不登校で自宅で過ごし、高校になってからもなんとなくではあるが女性を好きにならないように心がけていた。すべては男性の体になってから・・・少なくともホルモン注射を受けて男っぽい体になってからだろう。 だが、いま初めて自分を男を認識している"異性"に出会えた。最初から嫌われてしまったし、そもそも自分の中の男が嫌悪されている。 だがこれは彼にとって初めての"ハンデ"だ。 同情という言葉に激怒したのも彼にとってはまだ"生まれていない"認識があった。 自分は金銭的にも環境的にも恵まれている。だがすべては男の体になってから。 そしてその時に親の援助なども失い一人の"普通の人間"になる。 まあいきなり放り出されることはないにしろ、今は一般の人から見て+(プラス)の状態だろう。そして徐々に0(ゼロ)に近づいている。 自分自身にはなにもできないただの高校生だ。ただ将来に不安だけがある。 彼女のマイナスの印象をセロを超えてプラスにまで押し上げてみろ。そういわれた気がした。 たぶん・・・その時にもう好きになっていたのだろう。彼女のことを。 翌日からは期末試験だった。 期末試験中は半日で部活動も禁止のはずだったが、最近は他の活動で部活としてのゲームプレイの時間も少なくなっていたし、時季外れの新入部員もいることなので特別に許可してもらった。 それに職員室はテストの採点前の答案用紙もあって生徒は入りにくいので、麻衣子が富永先生から部室の鍵をあらかじめ受け取っていた。 「久しぶりのゲームプレイだな!」 「でもコトチン・・勉強の方は大丈夫なの?」 二人で部室に向かいながら話していたが、心配そうに琴絵の方を麻衣子がみる。 「お前なぁ・・・まあ工業高校だから赤点取らなきゃ大丈夫だろ。それぐらいの点数なら十分とれる・・・タブンだけどな。」 「確かにね~・・一般教科の単位が少ないから大学進学率は低いって話だからね。」 「それに自宅にゲームできるPCがないから、多少は勉強するかって気にはなるよな。 」 「ん~・・・今にして思えばそれもあって先生は学校にPC持って来るのを条件にしたのかも・・。」 「ありえそうだな。富永先生、何も考えてないようで考えているというか。ほら、マップのポイントごとや、敵布陣や味方がやられたときにどう動くべきか?みたいなアドバイスするじゃん?でも普通にゲームしてるときってあそこまで考えてプレイしてないからな。正直。」 「ん~・・まあ先生は元々ゲーム作ってた人だしね。ミリタリー系のゲームとかも関わったことあるみたいだし、それがきっかけでサバイバルゲームやるようになったとか言ってしな~。」 「そなの?それは初耳~・・・あ、ちょっと言ってたっけ。」 「まあ私は授業のときとかにいろいろ話してくれるからね。なんか先生の中ではゲームはこうあるべき!とかこうしたら楽しめる!みたいな方法論があるっぽいね。」 「それって楽しみ方の押し付けじゃない?」 「そうとも言える。でもさ。確かにゲームって一人で楽しむものになりすぎてる・・って言ってたのは結構賛同できる気はする。架空の世界で何やってもいいよ~・・そこで自己中やりましょう的な。」 「ああ・・確かにゲームってそういうところあるかもな。超能力や何メートルもジャンプしても何もおかしくない的な。でもそれ以外になにかあるの?」 「先生的にはゲームって本来コミュニケーションツールであるべき~~みたいなところはあるみたいよ?」 「コミュニケーションツール?」 「例えばドラクエみたいなオフラインのRPGとかでも、発売日に買ってどこまで進んだ?とかここで詰まってるんだけどどうしたらいい的な?」 「なるほど。確かに・・でもそれって最近のゲームってあんまりなくね?ネットとかで情報集められるし。」 「だよね~・・・そこのところを危惧してるみたい。なので私たちにもコミュニケーションツールとしてのゲームを・・体験させたいっていうのかな?」 「なるほど。確かにチームでプレイすることで別の楽しみ方が出てきてる感じがするよな。最近。」 「まあ‥先生の思惑が気になるというか、このまま普通にゲームやってていいのかな?という気は少ししてるんだけど。」 「そうか?」 「そうよ!というかあんたに誘われていつもの感じで放課後ゲームするだけかと思ってたらいつのまにかアイドルだのネット配信だの始まってるし!」 「いいじゃん!面白いしwww」 にこにこしている琴絵をみて、真剣に考えているのがばかばかしくなった。 むしろ真剣に私たちのことを先生が考えているからこそ、ただの高校生にとって話が大きくなりすぎてると感じるのかもしれない。 工業高校の一般科目の授業数が少なくて、受験に不利で大学に進学しにくい・・というのは高校に入って初めて意識した。 この学校は人気があったので合格するのもそれなりに難しかったが、特に勉強しなくても成績がいい・・というのが取り柄のだけの自分にとって、このままでいいのか悩んでいた。 確かにこの学校で勉強していけばゲームメーカーに入るぐらいの能力は身につくかもしれない。 ただそこまでして入りたいほどゲームが好きか?といわれるとそうでもない気がする。 勉強がちょっとできるという私の長所を生かすなら、今すぐ部活動なんてやめて塾に通って大学進学を目指すべきかもしれない。 だが大学進学してどうするんだろう・・その後は? それに本気で勉強してもいい大学にいけるとは限らない。受験に関して言えばすでに一般教科の単位数で普通高校の子たちからハンデを追っているのだ。 ~~そんなことを考えながら歩いているといつのまにか部室の前まで来ていた。 そこにはほかの4人もすでに集まっている。 「遅いよ!」 その顔をみて思った。 確かに私は普通の子だと思う。ちょっとオタクで友達が少ない。 そしてそんな自分だからこの学校を選んだ。 でも今の自分は"ちょっとだけ特別"だと思う。 アニメのキャラクターのようなベタな性格を演じているような部活の仲間。 今までにないゲームの楽しみ方を教えてくれたりなんだかアイドルにしたりしようとする先生や学校。 本当に異世界に行ったり、チート能力を発揮したりする今どきのラノベほどじゃないけど、十分特別な気がする。 タブンアニメのキャラクターみたいな性格を演じてるみんなも、少しだけ特別になりたいハズだ。 だから私も・・・・ 「ごめん!じゃあプレイしよっか!」 その後、各自持ってきた弁当などで昼食を済ませてから、さっそくDirtybombのプレイ開始ということに。 せっかく6人そろってチームで戦えるようになったが、まだ歩夢が初心者ということもあって、だれか1人がアドバイスしながらプレイすることにした。 それに平日のお昼過ぎでASIAサーバーに少ないというのもあって、オブジェクティブモードを普通の部屋に入ってプレイすることになった。 「じゃあほむほむのアドバイザー役誰が付く?」 「私はお断りですわ!!」 まだ聞いてもいないのに、沙織が拒否する。 彼女が自分から言葉を発するのは珍しい。 一同、少し戸惑いを感じて歩夢の方をみる。 「はは・・・ちょっと彼女とはいろいろあってね。」 苦笑いしながら答える。 「なんでいきなり嫌われてるんだよ?告白でもしたのか?」 特に深い考えもなく琴絵がそう尋ねる。 少しの間の沈黙したが、振り返ってこたえる。 「彼女が好きだって告白したからね。もちろん断られたけど、あきらめるつもりもない。」 「!!!」 一同えっ!と言うような驚きの表情を見せるが、言葉は出なかった。 「そうだよ・・お察しの通り僕はレズビアンだ。でもまあ・・あまり言いふらさないでほしいかな?」 それは嘘だ。 だが高校生でLGBTのLとTの違いをわかっている子供なんてそうそういない。 沙織がレズビアンのフリをしていることはこの際好都合だ。 恋愛感情を持っているのは沙織に対してだけだと公言したほうが、この際はほかの生徒とも友達にはなれそうだ・・・そう考えた。 「そう・・・来ましたか・・。」 ぼそりと沙織がつぶやいた。だが吹っ切れたような顔でその嘘に信憑性を付加した。 「そうですわ。私がレズビアンだからって君しかいないって・・・初対面なのに告白してくるんですから。断るに決まってるでしょ?!」 「まあ・・そうだよな。」 「ん~・・まあ、わかってはいたけどさ。どうせあきらめるつもりはないんだか最初に言っておこうと思ってさ。」 それまで黙っていた友紀が不意に言葉を発する。 「じゃあ・・・彼女目当てでこの部活に入ってきたのですか?」 その表情は嫌悪・・を感じるものだった。 彼女を見たときにギクリとした。 おそらく彼女は沙織の過去を知っている。彼女なりに精一杯気遣っている。 その意図は・・・彼女に迂闊に近づくな~ということだろう。 あくまで勝手な推測ではあるが、それは理解できる。 焦りながらもこう答える。 「・・・いや。女子だけの部活に入りたかったんだよ。前の部活じゃ男子生徒全員に告白されたからな。逃げ込むっていうのかな?」 答えはこれでいいだろうか?嘘ではない。 「それなら・・別にいいのですが。」 一応は納得してくれたようだ。 確かに心に傷を負った彼女に迂闊に近づくべきではない。中身が男の"俺"ならばなおさらだ。 「ん~・・・なんか重い雰囲気だなぁ。とりあえずほむほむには私が付くから!ある程度分かってきたらコトチンとカナリンが交代で実際の戦闘のアドバイスをできる範囲でするって感じでいいかな?」 最初に言葉をかけた麻衣子が話を元に戻そうとそう声をかける。 「そうだな・・・まあ交代しないとマイコがプレイできないしな。」 「一つ質問があるのですが?」 そう声をかけたのは華菜里だった。 「何?」 「その・・カナリンって私のことですか?いつも大尉ってよばれてるので・・。」 「そういえばそうだな。普通にスルーしてたけど。」 「いや・・普段外とかで大尉って呼ばれたら嫌じゃない?私の中では部活内での会話は大尉だけど、普段はカナリンって感じかな?」 「そんな使い分けしなくていいので、カナリンで統一してください。」 少しむくれた顔をして抗議して見せる。 「そんなこと言われてもなぁ・・じゃあ私のことだって好きに読んでいいよ?」 「解決になってません!」 琴絵がそのやり取りを見て調子に乗って声をかける。 「それじゃあ・・・私も一緒になってマイコをほかの名前で呼ぶか?そうだな・・分隊長とか衛生兵で。」 「・・・まあ別にいいけど?」 「ほう・・・?」 にやにやとして琴絵がつぶやく。 麻衣子としては実のところゲーム中にコールサイン的なニックネームで呼ばれないことに少し不満を感じていたので、普段からそれで呼ばれるのもまあいいかな?とか思っていた。 ちなみにその後数日は琴絵は"分隊長"と麻衣子のことを呼んでいたが、普通に反応してたのでつまらないのかいつのもマイコという呼び方に戻ってしまったのだが。 「あの・・・そろそろゲーム始めませんか?」 そう歩夢が声をかけたところで、ハッとする一同だった。 ということでみんなで入る部屋を決めてゲーム開始。 マップは開始時の投票で決まる。今回はbridgeだ。 「このマップの選択キャラは?」 歩夢がついている麻衣子に問いかける。 「そうね。当面はアサルトとファイアサポートの追加要員だから・・オフェンスになった時の為のサンダー、あとディフェンスの時のスカイハンマーと、予備兵科にメディックのアウラってところかな?」 それを聞いてキャラを選択していく。 「この辺はオーバーウォッチと違って難しいところですね。」 「そうね。オーバーウォッチはリスポーンの時にすべてのキャラに変更できるからね。メディックやエンジニアが少なすぎて、始まる前に負け確定~みたいなことはないでしょうし。でもチームで戦うときはあらかじめポジションを決めておけるので、キャラが足りないってことは少ないしね。」 選択し終わって待っていると、チーム分けが決定し、試合が始まる。 歩夢はオフェンス側、部活のメンバーでオフェンス側なのは沙織と友紀だ。 歩夢はそれを見て沙織の方を見るとよろしく~といった感じで微笑みかけるが、沙織はそれに気付いてあえて無視をする。 「オープニングは強硬偵察。普段の少人数戦と違ってフルメンバーだとリスポーンタイミングが長いので突っ込んですぐ死んでもリスポーンが早い。 なので敵配置と兵科の分布を突っ込んでみてくるわよ!」 歩夢はLMGのサンダー、沙織はAR&ボムスカッドのレッドアイ、友紀はメイン、サブ共にSMGのプロクシだ。 まずは歩夢に左のトンネル通路からのルートでの指示を指示する。 「次の出口は要注意。3方向からの敵のまちぶせがあるかもしれないのでここで毎回コンカッショングレネードを投げ込むのがセオリーよ。敵のタレットや地雷を一時的に無効化できるから。ただ敵も知ってればコンカッションが来ることをしってるのであまりスタンは食らわないとは思うけど。」 言われたようにコンカッショングレネードを出口付近に投げ込んでから、自分が食らわないタイミングで突入する。 「うぁ!」 そこには3人が待ち構えていた。 右からタレットを置き終わったブッシュハッカーがコンカッションをかわして側面入り口から姿を現す。 正面には琴絵のネーダーと左側に華菜里のキラが待ち受けていた。 3方向からのクロスファイアにはひとたまりもない。 「それは分かってる・・・。」 中央ルートから突入したレッドアイがスモークを焚いて突入し、側面からリロード中の琴絵を倒す。 「しま・・最初はグレネードを使っておけばよかったか。」 通常、このルートからの突入は多い。牽制の意味も含めてグレネードを使うのがセオリーだが、麻衣子のテンプレアドバイスが聞こえてきて来るのがわかっていたのでつい射撃で迎撃してしまった。 そしてスモークから突入してきた友紀のプロクシが、リロードが終わった華菜里のキラを接近戦で倒す。 3点バーストのアサルトライフル相手ならラッキーヒットがない限りプロクシのサブマシンガンの方が有利だ。 傷つきながらもキラを倒した友紀のプロクシはそのままEVの修理を開始する。修理を完了すれば第一エリアはクリアだ。 「お・・おい。」 そのまま修理が進行していく。そこでリスポーンできるようになってすぐに向かうが時すでに遅し。 どうやらディフェンス側はスモーク越しに戦うレッドアイに気をとられている間にそちらでの戦闘が激しくなって、修理が開始されていることに気が付かなかった。 レッドアイのスモーク越しに見るアビリティは敵にマーカーをつける効果もある。 攻撃側のその他の参加プレイヤーは右ルートの橋や建物からの侵攻がほとんどだったので、このマーカーに誘われるように突っ込んで、そこで大規模な戦闘になってしまったようだ。 お互いの数が減ったころにはすでに修理が完了してしまっていた。 「次はEVを進めてゲートを破壊して突破。まずはゲートをそもそも修理させないようにとの戦闘だね。EV進める作業は2人に任せて右の狭い通路からの総力戦に参加するよ!」 その言葉のとおりに他のプレイヤーも含めてゲートの装置がある部屋へ突入するために狭い通路で総力戦となる。 琴絵のグレネードなどはこの通路では有利だが、そこに歩夢のコンカッションが炸裂する。 通路で抵抗を続けていたプレイヤーたちが一気に目の前が真っ白になるスタン状態になり敵の防衛が崩れる。 そのスキに一気にプレイヤーが流れ込もうとしたその瞬間・・・入口に光の柱が立ち、数人が巻き込まれた。 華菜里のキラが放ったオービタルレーザーが入り口をふさぐように攻撃したのだ。 「そう簡単には・・・ん?」 このスキにゲートの修理を完了させ、その部屋の防御体制を完成させたかったが、メディックが少なすぎた。いやメディック・・ここではより重要なアウラを使っていた人がゲートの修理を優先させるためにエンジニアに変えたため、一時的にメディックが居なくなっていた。 結果、ゲートの修理を完了させ、その後抵抗は続けたもののゲートルームが攻撃側に占拠され、ゲートの破壊を許すことになる。 第二もクリアして一気にEVを移動させ、残る最終エリアもアウラを使っているメディックが少ないことがますます問題に。 ヒーリングステーションが一本のため歩夢のコンカッショングレネードで動作が停止すると一気にピンチになるのだ。 そのスキにボムスカッドを持った沙織のレッドアイがスモークを焚いてこっそり目標のコンテナを盗み出すことに成功。 追ってきた敵などが部屋の外で戦闘している間、友紀が室内入り口などに地雷を2つ仕掛けておくことで、2個の運搬時も有利に展開して一気に攻撃側が勝利した。 麻衣子が声をかけていったん部屋を出て反省会をすることに。 「う~ん・・負けた!」 「そうね・・・意外にツーマンセルの効果は大きいかもね。」 「!!先生?!いつのまに!」 麻衣子の後ろに富永先生が立っていて試合の様子を眺めていた。 「ん~・・第二のゲートを破壊したあたりだったかな?まあ今日からは採点の手伝いとかもあるし、あまり来れないからそんな感じで進めててね。」 「そういえばツーマンセルって?」 麻衣子がさっきの先生の言葉について聞いてみる。 「2人1組で行動することよ。今まであまり意識してなかったけど、さっきの試合の敗因は石田さんと井上さんのコンビが攻撃に偏りすぎててうまく機能してなかったことね。それに対して森さんと岡野さんのコンビがうまくいってた。まあ攻撃側なのでメディックがあまり必要なかったというのもあるでしょうけど。」 「そうだね。まあ普段は麻衣子がヒルステ立てて回ってるけど、それがないって意外にきつかった。」 「うへへ~」 麻衣子は変な照れ方をしている。 「だから・・そうね。さっきの森さんと岡野さん、それに栗原さんと石田さん、あとは井上さんと左山さんでチームを組むべきかもね。基本はライフル分隊みたいな感じで組んでるつもりだったけど、2人残ってれば厳しい状況でも逆転できる希望があるという状況にしたいかも。」 「なるほど・・・確かにその2人でメディックとエンジニアをそれぞれ予備枠に確実に入れておけば困ることは少ないか?まあ今回みたいな野良プレイだとうまく組み合わせできないことも多いでしょうけど・・。」 そういいながら麻衣子はチームの構成を考え始めているようだった。 チームリーダーや部長などは消去法として彼女に一任されたような感じだったが、それなりに機能しているようだ。 それをみて先生は一つの懸念を伝えておこうと切り出した。 「あと一応・・みんなに言っておきたいことがあるんだけど・・・。」 「何?」 「また校長先生がなにか企んでるらしくて・・・」 「!!!」 一瞬、驚きの表情を見せたが正直またか・・と印象があった。 またアイドルとか私たちを露出させることを考えているのだろうか? 複雑な表情を見せる部員たちに安心させるように声をかける。 「あ・・・タブンあなたたちには関係ない話だから大丈夫。10年後ぐらいの話だし。一応ね!」 「え?なんですかそれ・・。」 少しほっとした表情をしながら内容を聞いてみる。 「ん~・・2026年の夏季アジア競技大会が愛知県と名古屋市で開催されるっての知ってる?」 「え?知らない・・・かな?」 そういいながら麻衣子は周りを見回す。 10年近く後の話だ。私たちには当然関係ない話だしね。 「そのアジア大会の2022年の大会・・・中国での開催なんだけど、これにeSportsが追加されることが決まったらしいのよね・・。」 「ほえ?」 4年・・近くなったぞ・・・。やばくない? 「それで・・・2018年のインドネシア大会からでも競技として始まるらしくて・・・。」 さらに4年・・・来年の話?大丈夫?! 「アジア大会ってのはオリンピック委員会が仕切るんだけど、現状eSports選手ってのは匿名の変な名前で活動してる勝てば官軍的なチンピラ賞金稼ぎしかいなくて・・高校生の部活・・特に私たちみたいに本名で活動する"選手"が少ないと・・・」 「ちょっとまって!!!!」 思わず声を出す・・ 「いやいや・・あんたたちがいきなりアジア大会のオリンピック選手に選ばれて大舞台に立つなんて思ってないわよ!ただ校長先生が画策して、高校や大学に部活動を設置するように働きかけ始めてるみたいなのよね。そのモデルケースとしてあんたたちが紹介される可能性はあるってことだけ。」 「それだけでも十分大ごとなんですが・・・先生的にはどうなんです?」 「ん~・・本名で活動するのが当たり前で、スポーツマンシップにのっとって戦う。そして賞金など"金"目当てのゲームプレイではなく、スポーツのようにあくまでゲームを楽しむきっかけとなるなら大いに賛成よ。ただeSportsタイトルに活動が限定されるのは避けたいわよね。」 「というと?」 「ん~・・中国大会からってあたりからあくまで中国主導なんだよね。確か前の中国大会の時にもアジアインドアゲームズとかの方でeSportsが種目になったことがあるような・・・違ったっけ?」 「アジアインドアゲームズ・・・格闘技と合併して別の大会になってるみたいですけど。JeSPAという団体がそっちでの参加を目指してたみたいですが、こっちも匿名ですね。」 友紀がスマホを手にアジア大会のことを調べていたようだ。 「そうね。だから中国主導のeSport大会で勝てるゲームやるとなると今遊んでるDirtybombとかできなくなる。可能性としてはFPSならオーバーウォッチとか可能性高そうだけど、大味でイマイチ好きになれないゲームなのよね・・・指導としても前に出て殺せ。とにかく攻撃当ててウルト貯めればOK的なことしか言えないし。」 「あはは・・・確かにそういうとこありますよね。弱体化や強化も激しいのでトレンドに合わせて戦い方を変える必要もありそう。」 最近までオーバーウォッチをプレイしていた歩夢が発言してみた。 「ここの活動は私が面白いと思うゲームじゃなきゃ許さないところはあるけど、なにかこのタイトルをやれと強制されることになるようなら部活のやり方も考えなきゃいけないかな?とかね。」 「そうなんですか?」 「まあ先の話だけどね。もしそうなったら女子部じゃない・・・普通のeSports部として特定タイトルだけをやる部活を作ることになるかもしれない。」 そう言っている先生は少し寂しそうに見えた。 「・・・」 「まあ・・・そういうことだから可能性としては別の特定タイトルだけをやるeSports部ができる可能性があるし、もしそっちのタイトルのゲームがやりたければ移ってもらってもいいってことだけ覚えといて。・・・ん~とりあえず以上!まあ終わる頃にまた顔を出すからね。じゃあ!」 そういうと富永先生は職員室の方に帰っていった。 アジア大会のメダリストか・・・考えたこともなかった。 だがeSportsを戦略的に指導する先生がいる部活というのはなんか珍しいことの気がする。そしてチームで戦えるこの場所も。 そしてたったいま、野良プレイとクラン戦の違いを知った。チームで連携して戦うことの"強さの差"を感じた。 世界に通用するとは思えないけど、なんとなく日本一ぐらいは目指せそうな気がする。 もっとも先生は乗り気じゃないみたいだけどさ・・・。 ただ校長先生のたくらみを聞かされただけだが、なにかまた一つ普通じゃない自分の可能性を感じることが出来たのだった。

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