ビキニアーマーVSサメ

読了目安時間:6分

エピソード:2 / 2

フライング・シャーク

 サメは海の生き物。常識である。異を唱える者はサメが竜巻に乗る異世界から召喚でもされたのだろう。サメは魚で、魚は水のものだ。  そのサメが、流線型の胴体をくねらせながら見事に滑空していた。よくよく観察すれば、胸びれが以上に細長い。間には透明な翼膜が貼ってある。 「トビウオというか、飛びザメ?そんな頭の悪い……」 「こ、こっちに来ますよ!?」  マリエルの言う通り、フライング・シャークが魚類の分際で猛禽のごとく急降下をかけてくる。目測で体長4m、1トンほどか。大きさこそは平均的だが、それが高空から落下してくるとなれば話は別だ。人間どころか家だって粉みじんになる。 「に、逃げないと!」 「駄目よ。言ったでしょ?このヨット高いのよ」  マリエルはすでに鼻まで水に浸かっていた。だがクーシャは慌てず騒がず、左腕の杭打機に弾を装填する。蛮勇ではない。ひれを持たないクーシャが舟を失えば、どちらにせよ喰われるしかない。  風を切りながら鋸歯の並んだ大口が迫る。平均的なサメの一噛みは、胴体の半分の肉を持っていくという。直撃すれば生き残る術はない。互いの距離5mほど。槍の間合いに入ったところで、クーシャが杭の先をサメの眉間に照準した。  ばきん、と硬い木がへし折れるような音がして、サメの頭が跳ねあがる。腕ほどの太さの杭はサメの頭蓋骨を陥没させ、脊髄を貫通して神経を締めながら空へと抜けた。サメとて生命。中枢を破壊されれば即死は免れない。そのままクーシャの上を飛び越して、海面を切りながら沈んでいった。 「い、一発で倒しちゃった」 「一発じゃなきゃダメなのよ。二回目を許してくれるほど自然は優しくない。墓標は一匹に一つ。それがサメとの戦いの基本」 「じゃあ外しちゃったらどうするんですか?」 「どうもしないわ。この杭が私の墓標になるだけね。さあ、早く行きましょう」  村は凄惨というのも生ぬるい有り様だった。あらゆる場所が血と炎で赤く染まっている。がれきの間を小型の人のようなものが駆けていく。  肌は緑。痩せてはいるが、獣ゆえの俊敏性は十分に発揮されている。頭は体格に比べて不釣り合いに大きい。口はさらに大きく、体を裂かんばかり。というかサメだった。 「ゴブリンシャークってこと?まあ戦力的には大したものじゃない頭をサメにするのは理にかなってるのかしら。知能は似たようなものでしょうし」 「ば、バケモノですよー!のんびりしてる場合じゃ」  サメ頭の小鬼たちがこちらに気づいて飛びかかってくる。棍棒を携えているものもいるが、リーチ的に口とさほど変わらないので、全員噛みつき攻撃だ。やはり知能は高くない。  とはいえ数が数。数十匹のサメゴブリンが襲い掛かってくる様は悪夢そのものだ。そしてクーシャの感想は適当だが的を射たもの。なまくらな剣よりよほど威力のある鮫口(シャークマウス)が群がれば、オーガでも致命傷を負いかねない。  サメの頭が砕けた。クーシャの武骨な剣の一撃だった。 「サメの骨ってね、案外柔らかいのよ。だから切るよりも砕く感じで十分ね」  突進を回避しながら首を落とす。接合部はやはり無理があるのかもろい。筋に切れ目を入れると勝手に崩壊していく。数十匹の頭と胴体が分かれるまで、数分とかからなかった。 「クーシャさん……すっごい強かったんですね……」 「冷静さを保てば大した相手じゃないわ。あなただって魔法使えるんだしこのくらいできるわよ」 「そんな、わたしなんかじゃ。ちょっと浮けるだけだし……」  マリエルはふよふよと空中をただよっていた。人魚が陸上で活動するにはかなりの制約がある。魔法でそれを解決できるなら、サメ狩りの素養がある。クーシャはサメ狩りとしてマリエルの実力を見極めていた。 「物事をよく見なさい。過信も卑下も同じことよ。大事なのは自分を知ること。陸上と海中を行き来できるなら、それはサメとの戦いで大きな力になる。私は足手まといを連れてきた覚えはないわ」  マリエルがはっと顔を上げた。クーシャはからかうような様子ではない。 「サメとの戦いはいつも厳しい。今回は特に大きなものになるでしょう。この商売だもの。死ぬことくらい織り込み済みだけど、このままじゃ何もできずに終わるかもしれない。あなたの力がいるわ」  人を頼るのは何時ぶりか。はっきり思い出せるような最近でないことは確かだった。クーシャも、隣の狩人ですらない子供に頼る自分自身を、少々あきれながら眺めていた。  自分はこんなに素直な性質だったか。クーシャは思う。だが彼女の本能と経験は、戦いも知らない人魚の娘が、これからの死闘に必要になると告げていた。  これまで不安に揺れ続けていたマリエルの表情が張り詰める。彼女も自覚したのだ。母も姉たちもいない今、故郷を救わねばならないのは自分なのだと。 「わたし、戦えるんでしょうか?」 「教えるわ。サメのぶん殴り方はサメ狩りが専門家よ」  森が揺れる。海風の影響でないことは、木の幹が折れるみしみしという音で分かった。  現れたのは巨人。本来は島にいないはずの、トロルと呼ばれる大型の肉食鬼である。その頭蓋は当然のようにサメのそれと入れ替わっていた。  クーシャが左腕に杭を装填する。 「ではとりあえず、腕試しといこうかしら。覚悟はできてるわね?」 「はい!」  密林をやぶのようにかき分けて、その全容が明らかになる。ヤシの木が高いだけの草のようだ。腕を這う血管は蛇のように太い。  待ち構える二人は路傍の石にしか見えないのか、ちらりとも見ずに足を踏み出した。  ずずん、と巨体が倒れる。紛れもない。シャークトロルは何もなさないまま大地に沈んでいた。 「「え?」」  これにはどちらも目を丸くするしかない。だが間違いなく怪物は死んでいた。背骨を唐竹割りにされて生きていられるようなら、もうサメでも鬼でもない。   「おやおや、サメ狩り殿でござるかな?お互い出遅れてしまったようで」    派手派手しい柄の服を羽織った女だった。非常に軽装で、武器も手に持った巨大なノコギリ、機械の動力を用いたいわゆるチェーンソーしか無いように見える。  左目の部分だけを黒く塗った奇妙な丸眼鏡をかけ、見える方の目はこんな修羅場でも飄々として揺らがない。髪を上に立て、馬の尾のように垂らす結い方は、東方の島にある一部の階級に特有のものだ。 「ニャポンだったか、ヤパンだかの、サムライ?だったかしら。なんでこんな場所に」 「おお!物知りでござるなあ。いかにも拙者トヨアシハラミズホノクニにて武士(もののふ)をやっておる柳生十子と申す者。人呼んでアロハ柳生!」  びっ、と人差し指と中指を立てて敬礼。片目なので知るよしもないが、おそらくウインクもしていただろう。サムライってこんな軽い感じだったかしら?とクーシャはいぶかしむ。噂で聞く彼ら彼女らは、もっと謹厳で堅苦しい印象を受けたのだが。 「ヤギュー?」  マリエルが首をかしげてクーシャの方を向く。だが、クーシャにだって理解できないことはいくらでもあるのだ。  これが不幸な邂逅なのか、それとも望外の幸運なのかさえ、今の彼女には知りえないことなのだった。

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