奈落の王と嘆きの女王

読了目安時間:16分

エピソード:4 / 149

第004話 M.I.A

『クソが! キリが無ぇ! もう諦めてくれりゃいいのによぅ!』  敵旗艦からの攻撃は止む気配を見せない。絶え間なく響く爆発音や振動と共に、ボギー1のコクピット内にはアバナシー中尉からの無線がひっきりなしに響いていた。アバナシーのMVT-102スティレットとボギー1間の無線通信はレーザー砲のやり取りの辺りから開きっぱなしであり、それからアバナシーは事あるごとに無線に悪態を乗せていたのだ。  アバナシーの悪態と同様、乗機102スティレットが連射しているライフルはほとんど迎撃の役に立っていなかった。その事実と続く悪態に我慢出来なくなった“彼”が思わず声を上げる。 「アバナシー中尉! ここ数分の戦闘記録を軽く見直したが、その機体は何か不具合でも抱えているのか? まるで迎撃出来ちゃいないじゃないか!」 『これは半分退役した機体なんだ! 今はヴェトロニクス(戦闘車輌用電子機器)を外して艦内での運搬とか資材整理作業に使ってる。そもそも火気管制システムが乗ってないんだよ!』 「じゃあ“慈悲剣(スティレット)”の名前は返上しておけ! いますぐ返上しろ!!」  スティレットとは戦場で大怪我をしたまま死に損なって苦しんでいる敵兵に慈悲を与える、(すなわ)(とど)めを刺すナイフ一般の事である。名前の印象とはまったく異なるそのていたらくっぷりに、一瞬“彼”が激昂したのも無理は無い。  さて、ミサイル類が尽きかけたソ連旗艦は攻撃の主を艦砲に切り替えていた。砲弾はミサイルと違ってほぼ直進するが、迎撃目標にするには小さ過ぎすぎたし硬かった。機体AIの補助がなければまず直撃などさせられないし、直撃でなければ軌道を逸らす事すらかなわない。銃弾や榴弾の破片一つで破裂してくれるミサイルほど単純ではないのだ。火気管制を取り外された102スティレットが迎撃の役に立っていないのは当然の事だった。  そんな中、悪態ではないアバナシーの声がボギー1のコクピットに響く。 『ショーン、いま連絡が入った。フランのCIWSの残弾がそろそろ尽きる! そっちの残弾は大丈夫か?』 「バッテリーがもう無い! 右腕の砲は撃ててあと2発だ。それでこっちはカラッ(ケツ)、CIWSも撃てなくなる。そっちの機体は?」 『アサルトライフルの残弾なら三日三晩撃ち続けても()つぐらいの量が艦内ドックにある。ただそれを取りに行くヒマが()え! このままじゃ弾切れと同時に押し込まれるぞ!』 (だから最初に「ライフルごと寄越(よこ)せ」って言ったじゃないか! だいたい、そっちの機体は居ても居なくても変わらないだろ!)  思わず言い掛けた悪態を飲み込む“彼”。  EPTを始めとする陸上兵器の輸送任務を主とするフラン・マクシスと、対艦戦任務を主とするソ連旗艦では積載している弾薬の物量が違い過ぎた。だいいち、フラン・マクシスが積んでいる弾薬のほとんどは搭載したEPTの携行兵器のためのものであって艦自体の防御兵装に向けられたものではない。それに搭載していたEPTはアバナシーの102スティレットを除いて既に()()()()だ。  やがて弾切れをおこしたフラン・マクシスのCIWSが1基ずつ止まり始めると、それを待っていたかの様に対艦ミサイルの量が増え始める。“彼”が迎撃の優先度を対艦ミサイルに切り替えると、撃ち漏らして近海へ落下する砲弾が増え始めた。その散布界は次第に狭まり始め、遂には前方甲板とブリッジを除いた艦の至る所に着弾が続く。 「ダメだ! 排熱が間に合わない!」  この時ボギー1の機体AIはCIWSの異常加熱を伝えていた。実弾の要らないボギー1のビームCIWSは既存の20mm砲弾を使用するCIWSと違って残弾を考えない長時間の連射がきく。しかしこれほどまでの連続使用は想定されておらず完全に仕様外だった。警報を無視して迎撃が続けられていたものの武装冷却システムの熱的負荷が限界を超え、遂には安全装置が働いて頭部パネルが強制開放される。解放された圧力弁から沸騰した冷却材の蒸気が大量に吹き上がると同時にビームCIWSは完全に停止した。  どうしようもない現状に“彼”がコンソールを殴りながら吠える。 「クッソ! 元から絶たないとジリ貧だ! アバナシー中尉、その機体の制御をこっちに寄越せ! こっちのFCS(火気管制システム)を連動させて迎撃する!」 『そんな今流行(いまはや)りの機能なんて付いてねぇよ! データリンクだけで()()()だ。こっちは3世代前の機体なんだぞ!』  その無線に“彼”が喉の奥から「ン゛ン゛ン゛~~~」とヘンな声を出して(こた)える。  敵旗艦は遠過ぎた。“彼”は無駄になるとはわかっていたものの苦し紛れにプラズマソリッドガンで狙い撃つ。“彼”の予測通り、放たれたプラズマ光弾は波を被ると目標に到達する遥か手前で千々(ちぢ)に乱れて霧散した。そもそも海面付近の湿度が高い上、直線で狙えば荒波の飛沫が砲弾に(かぶ)るのだ。  プラズマ光弾が炸裂した海域で濃霧が発生したかの様な蒸気が海面を覆う。怪我の功名と言うべきか、そのおかげで再び射線が封じられて敵艦からの攻撃が一時止む。  “彼”はバッテリー残量を確認しながら後ろのブリッジを見上げた。 (フラン・マクシスはほぼ足が止まっている固定目標だ。見えなくても非誘導弾を撃たれるし、霧が晴れたらなおさらだ)  この切羽詰まった状況に“彼”は過去の海戦の記憶を思い返していた。しかしすぐに振り切るように頭を左右に振る。 (ダメだ。味方艦艇が居る近くで()()は使えない。発生する津波で味方艦まで横倒しにしてしまう。それにいま装備してるプラズマソリッドガンは既存技術でコピーしたシロモノで、オリジナルの火力には遠く及ばない。実行しても意味があるのか疑問が残る……)  数秒間思案した“彼”はフローターへ指令を出した。 「デルフィナ! ペネトレーターを打ち出せ!」  そのコマンドへの返答が脇のモニターに表示される。その内容をチラ見した“彼”は大声を上げた。 「いいからやれッ! こっちに向けて飛ばしてくれさえすりゃどうにかする!」  その命令に対潜哨戒を中断して浮上したフローターは、高速航行しながらも何故か水中翼を閉じ、フラン・マクシスの後方から大きく旋回を始めた。そして次第に速度を上げると、撃沈されてひっくり返ったまま海流に流されていたミサイル護衛艦クレイグ・アーベンへ向かう。フローターは海面に浮かぶその赤い船底へ加速したままに乗り上げると、激しい金属音を立てて宙へ舞い上がった。そのキャビンから巨大な万年筆状の形をした――全体が螺鈿色(らでんいろ)に輝く物体が分離され、ボギー1の(そば)――フラン・マクシスのブリッジを目掛けて飛んでゆく。  突如(とつじょ)向かってくる異様な物体にフランの観測員達が悲鳴を上げたのと、大きく揺れたブリッジ前方をボギー1が横切ったのは同時だった。  ボギー1は推進剤が残り少なくなった背部ブースターに点火し、フラン・マクシスのブリッジ越しに空中へ飛び上がっていた。全身にある機動モーターの幾つかに点火して姿勢制御を(おこな)うと、飛来する“ペネトレーター”を空中でキャッチする。  第2ブリッジの窓からその様子を見ていた観測員が、海風に飛ばされそうになる軍帽を押さえながら驚愕した。 「フローターに射出用カタパルトが付いてたんじゃ……。ボギー1は単独でもあそこまで飛べるのか!」  ペネトレーターを抱えたボギー1は緩やかに降下し、再びフラン・マクシスの前方甲板に軟着陸すると膝を大きく曲げ込んだ。直後、膝を伸ばして再び跳躍に移行する。ボギー1は脚部パワーのみならず着艦時のフランの揺り戻しまで利用、背部ブースターと下方に向けて配置されている機動モーターの全てに点火すると、フランの真上――単独のEPTでは考えられない高さにまで舞い上がった。  今度は先の跳躍の倍ほどの高度を取ったボギー1に、フラン・マクシスの戦術観測員達はみな言葉を失う。  しかしそのコクピット内ではパイロットの“彼”が悪態をついていた。 「やはり高度が取れない! ペネトレーターを持ってるとは言え、水密装甲(シーリング)を施したFT-03はここまで重くなるのか!」  舌打ちをした彼は空中姿勢を制御しながら機体の正面を20km先の敵旗艦へと向ける。一方、動力が接続されたペネトレーターの先端にはいくつもの小さな立方体が出現し、不規則な回転を始めたそれらはギラギラと七色に輝き出していた。それら立方体は異音を上げながら回転速度を上げると次第に凝縮を始め、やがて一つの円錐形(えんすいけい)の砲弾を()した。  照準内に敵艦を捉えた“彼”は、脇のサブモニターに『K-Penetrator ~Ready~』の表示が点滅しているのを横目で確認する。 「本来は海底の岩盤掘削のために用意した()()だ。人に向けちゃいけない(たぐ)いの物だが……。戦って俺が勝つ! それだけだ!」  跳躍の頂点、機体が静止した一瞬の間に“彼”がトリガーを引くと、ペネトレーターの先端から放たれた七色に輝く砲弾は轟音を上げなげら敵旗艦目掛けて一直線に飛んでいった。  直後、空中で動きを止めたボギー1に敵旗艦から投射された砲弾が直撃する。ボギー1が抱えていたペネトレーター本体がガラスの様に砕け散り、機体は煙を吐きながら海面へ向けて墜落していった。  甲板ではなく離れた海面へ堕ちてゆくボギー1を見たアバナシーが悲鳴を上げる。 「ショーン! おい、大丈夫か? ショーン!」  ボギー1は無線を返す事無く着水して大きな水柱を上げた。アバナシーはすぐさま無線先をフラン・マクシスへと切り替える。 「フラン・マクシス、艦長! ボギー1被弾、ボギー1墜落!』  時を同じくして、ボギー1が放った砲弾は何の音も衝撃波も発することもなく敵旗艦の艦首付近を貫通していた。そこから船体装甲へ無数のヒビが走っていき、出来た隙間から奇妙な光が漏れ始める。その後旗艦は何て事の無い波を受けるとあっけなく自壊していった。装甲が粉々に砕け、竜骨が折れ、崩壊を続ける構造と共に何人ものソ連兵が手足をバタつかせながら次々と荒れる海上へと落ちてゆく。  通常では起こり得ない物理現象に見舞われた彼らには何も出来ず、また自らの最期(さいご)に祈りを捧げる時間さえ無かった。        ◇         ◇         ◇  その時フラン・マクシスのブリッジでは、前方海域を双眼鏡や光学機器で監視していた戦術観測班の者達が予想外の光景にただ呆然と立ち尽くしていた。ソ連艦隊旗艦のいた位置から上空へ向けて奇妙な虹色の光が広がっており、観測員達はそれが自然現象なのか旗艦撃沈に伴う人為的なものか判断が出来ていなかったのだ。艦長への報告もままならない状況下で、一部の者達は1943年にフィラデルフィアで起こった悲劇的な事故記録を頭に浮かべては恐怖していた。  やがてしびれを切らした副長に促され、ブリッジクルーの何人かがダンヴァース艦長へ立て続けに報告を(おこな)う。 「艦長、敵艦隊からの攻撃、完全に止みました」 「ボギー1の反応が消えました。着水してから行方(ゆくえ)がわかりません」 「ボギー1消失に伴いデータリンクが切断、レーダー情報を喪失……です」  椅子から立ち上がった艦長はジャケットの乱れを正しながらブリッジ正面窓へ向かい、近くにいる観測員に手を差し伸べると双眼鏡を受け取って前方の海域を覗き見た。そうやってしばらく無言を続ける艦長に、いつの間にか隣に立っていた副長が声を掛ける。 「艦長……」  彼方(かなた)の海上から七色の光が消え、艦長が双眼鏡を降ろす。 「ボギー1からの通信は無いままか?」 「何度か呼びかけましたが……。味方機救助用の潜水艇がある護衛艦は既に沈んでしまいましたし……。パイロットが脱出している可能性はありますので、状況が許す限りは海上の捜索は続けますが。味方であればM.I.A(作戦中行方不明)と記録する事案です」 「ボギー1のフローターは?」 「転覆していたクレイグ・アーベンに衝突して乗り上げたあと行方不明です。あれで沈んだ可能性も」  観測員へ双眼鏡を返した艦長は艦長席に戻ると深く腰掛け、緊張をほぐす様に頭と肩を回した。ヘッドレストに擦れた軍帽の後ろがずり上がり、つばが鼻先に落ちてくる。この時、艦長はボギー1の要請を断った事について少し後悔していた。艦長は軍帽を被り直すとボギー1が墜落した辺りを見つめながら独り言を呟いた。 「“彼”はおそらく生きているだろう。儂らに気を(つか)って()()()のだろうな、ボギー1は」  隣で聞いていた副長が艦長に目を向ける。彼に「どういった意味で?」と問い掛けられた艦長は目を閉じながら答えた。 「手順(プロトコル)は正規だったとは言え所属不明機(ボギー)にデータリンクを許した。それに試作レーザー砲に(かか)る軍事機密の漏洩も明白だ。このまま本国へ帰還すればアバナシー中尉はともかく、儂や貴様の軍法会議は(まぬが)れまい。しかし漏洩先のボギー1は被撃墜、そのパイロットも死亡と記録されていれば、儂らの処分もいくらかマシになるだろう」  副長は納得して静かに(うなず)いた。 「やはりボギー1のパイロットは西側同盟国の軍人でしょうか?」 「ソ連艦隊と事を構えたのだ、西側には違いあるまいが、アバナシー中尉の言っていたイングランド陸軍機というのは本当かどうか……。東西2大勢力とは無関係の()()()()()()が儂らの知らんところで動いている可能性もあるだろうな」  押し黙る副長へ艦長が言葉を続ける。 「しかし、デッキに入れず、ライフルの一丁どころか弾薬すらも渡さなかった。()()()()に『助けられている立場で何を出し惜しみしているのか』などと思われていたとすれば心が痛む」  副長は艦長が言った突然の『しかし』に困惑したたものの、艦長なりの脈絡(みゃくらく)があったのだろうと考える。 「ボギー1はいずれにせよ他国の機体であります。安易にこちらの機密は晒せません」  副長の模範的な答えに艦長が鼻を鳴らした。 「軍規に従ったと言えばそれまでだが、使われているテクノロジーで言えば向こうの機体の方が上回っていた様だ。果たしてこちらに隠して利のある情報などあったのか……」  艦長のその言葉に、副長が部下へ目を向ける。 「戦術観測班、あの機体のデータは採れているか?」 「光学情報(※動画)と一部の音響データしか……」  その報告に艦長が嘆息する。 「こちらも旧型機だけではどうにもならん。MVT-18Aジュエルワスプ(ルリジガバチ)の調達を急がねばならんな」  何やら考え始めた様子の艦長に副長が提言する。 「艦長、ドゥームキャットのフローターの件ですが、船舷への取り付け作業を再開して宜しいでしょうか?」 「敵艦隊は旗艦が失われ大半が沈んだ。攻撃の手が止んだ今しかない。後続が来る前に急いで作業を終わらせろ」  副長は敬礼して「了解」と答えると(きびす)を返し、自ら指揮を()るために作業現場へと向かった。その姿を見送った艦長がもう一度嘆息する。 「ソ連艦隊、こちらを殲滅するつもりであったのは確かだが、外交ルートを通じての横槍も撤退勧告も無かった。彼らがああまで(かたく)なにこちらの殲滅(せんめつ)(こだわ)った理由がわからない。もしやこの海域には我々の知らない何かが隠されているのか?」  そう呟いた艦長の独り言は、今度こそ誰にも聞かれていなかった。        ◇         ◇         ◇  墜落したボギー1は海中でフローターと合流し、フラン・マクシスの視認圏外へ到達してから海面に浮上した。そのコクピット内では、ソ連艦隊とアメリカ艦隊による長距離ジャミング合戦が終わっている事を確認した“彼”が母艦との通信を試みていた。 「ジュノー、聴こえるか? こちらクーガー」  何度かその呼びかけを繰り返すが応答は無い。  母艦である大型潜水艦ジュノーが通信ブイを出してないと判断した“彼”だったが、念のため状況報告を(おこな)う。 「ソ連艦隊との遭遇戦があり作戦は失敗。()()()()()1()1()5()は未回収。合流ポイント喪失に伴い、これより緊急時手順に基づいた帰還準備を開始する」  通信を終えた“彼”がヘルメットを外して床に放ると、年若い日本人の少年がその顔を(あらわ)にした。パイロットスーツの上のボタンを外し、喉元を緩ませて大きく息をついた“彼”は、シート脇から取り出したタオルで顔と首元の汗を(ぬぐ)った。(ぬぐ)いながら、ふと左腕にはめた腕時計を確認した“彼”は躊躇でもしているかのように動きを止める。  やがて“彼”は床に転がるヘルメットの上にタオルを放ると、胸元から青い結晶が輝くペンダントを取り出した。それを見つめながら表面を一撫(ひとな)ですると、首元のチョーカーから引き出したコードの先端を結晶に接触させる。 「ボス、こちらクーガー。応答を」  10秒もしないうちに骨伝導スピーカーを震わせたのは、“彼”より(おさな)げな少年の声だった。 『今は自室で独りきりだ。()()()()()()はしなくていいい。それで、そちらの状況は? 君は無事か?』 「ソ連艦隊に待ち伏せされていて戦闘になった。ブツは未回収、っていうか発掘予定ポイントに辿(たどり)り着けてない」 『待ち伏せだと? こちらの回収ミッションの内容が漏れていたのか? 被害は?』 「カクタ・ペネトレーターを失った。他の被害は機体装甲の一部を破損と左腕に障害が出たくらい。ただ、たまたまそこに居合わせたアメリカ艦隊がとばっちりを受けて、旗艦を残して壊滅した」 『君のせいだとバレていなければ問題無い。しかし同じ西側とは言え目撃者がいるのは厄介だな』  両者の無言が続く。  やがて“彼”が済まなそうに口を開いた。 「すまない。口封じも見捨てる事も出来なかった」 『いや、いい。君の判断を尊重する』  その答えに“彼”は安堵の表情を浮かべる。 「そちらからジュノーへの連絡を頼みたい。事前に設定した合流ポイントは予備も含めて全て破棄。ベーリング海、いやアリューシャン列島には近付かない様に。合流ポイントはジュノー側で再設定後、こちらに連絡を」 『わかった。必ず帰還させるから安心しろ』 「いまそっちは深夜だろ? 起こして悪かった」 『気にするな。ちょうど喉が乾いて目を覚ましたところだった』  “彼”はその言葉を即座にウソだと見抜いた。無線の向こうの少年がおそらく起きたまま連絡を待っていたのだろうと考えた“彼”は、音声通信で見えるはずもない笑顔を浮かべた。 「必ず帰還する。果報は無いから寝て待っていてくれ」  そう言って通信を切り上げた“彼”はセンサー類を再確認し、周りに敵の反応が無い事を確かめたあと機体AIにコンバットクローズを宣言した。  シート前コンソールのモニターにはボギー1の機体AI、デフォルメされたグルアガッハ――ピンク色をした毛むくじゃらの妖精が登場し、処理が終わったサブウインドウを次々にシバいて閉じてゆく。やがて画面の端から擬人化された青いイルカの少女――フローターAIのデルフィナが出てくると、2()()は画面中央でハイタッチを交わしたあと、今回の戦闘で(おこな)った自動行動の再評価と最適化、今後の戦略のすり合わせを始めた。  2人の作業を尻目に“彼”は脇のサブモニターでタスク別のCPU占有率をチェックする。彼女らの対話が処理的にそれほど重くない事、周囲の索敵に充分なリソースが割かれている事を確認した“彼”は、大きく背伸びをしたあと両手で髪を掻き上げた。 「今度乗るアンフィニの機体AIも君らみたいに優秀ならいいんだけどな」  “彼”がふと漏らしたその独り言を()()()()()()と解釈したAIは一瞬ピタリと動作を止める。直後、彼女らが無数のイガグリの様な吹き出しと共に『BOO! BOO!』と悪態をつき始めるとCPU占有率は数%ほど上昇した。“彼”はその悪態を消そうと何度もクローズアイコンに触れるが、吹き出しは消しても消しても一向に減る気配どころかむしろ数を増してゆく。“彼”はその状況に苦笑するほかなかった。  ()()()()となったボギー1はフローターと共に(くら)い海の底へと潜ってゆく。

次話から本編です押忍。

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  • ミミズクさん

    羽山一明

    ♡1,000pt 〇100pt 2022年4月20日 13時58分

    洋上の相手にこれだけEMA由来の兵装を利用したのは、時系列的な意味では初めてでしょうか。米軍さんがたはこれで一安心だと腰を据えてそうですが、ソのほうは今頃泡食って増援を求めている頃合いでしょうか。邀撃艦隊としては破格の戦力だったんでしょうけど。

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    羽山一明

    2022年4月20日 13時58分

    ミミズクさん
  • メタルひよこ

    うさみしん

    2022年4月21日 7時00分

    時系列で見ればこのエピソードはヘルシンキ沖海戦の後になります。見方にもよりますがハデさは向こうが上かもしれません。フランはこの後、護衛艦から脱出した乗員の救助と舵の修理で大変。洋上の艦隊がわけもわからず全滅させられたソ連側は、母港となる海軍基地を中心にてんやわんやであります。

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    うさみしん

    2022年4月21日 7時00分

    メタルひよこ
  • ミミズクさん

    羽山一明

    ♡1,000pt 〇100pt 2022年1月13日 11時37分

    少年然とした彼の口からこぼれる軽妙な掛け合いから、お堅い国家お抱えの軍人ではなく、いかにも秘密組織といった気配を感じますが、はたして。それにしても、対艦戦を想定した艦隊の旗艦を沈没せしめる掘削機。船よりは頑強な対象が元来の用途なのでしょうけど、一体何を掘削するものなのか。

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    羽山一明

    2022年1月13日 11時37分

    ミミズクさん
  • メタルひよこ

    うさみしん

    2022年1月14日 5時05分

    すみません、普通に岩盤です押忍。

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    うさみしん

    2022年1月14日 5時05分

    メタルひよこ
  • 応援団長

    朝元しぐろ

    ♡100pt 〇1pt 2022年1月11日 0時52分

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    筆文字「これ好き(迫真)」

    朝元しぐろ

    2022年1月11日 0時52分

    応援団長
  • メタルひよこ

    うさみしん

    2022年1月11日 5時04分

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    最高のお言葉です!

    うさみしん

    2022年1月11日 5時04分

    メタルひよこ
  • かえるさん

    J_A

    ♡1,000pt 2022年4月25日 22時01分

    フィラデルフィア実験に言及されるとは! 懐かしい……。 戦況は一段落ついたようですが、次回から本編という事で益々期待が高まります!

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    J_A

    2022年4月25日 22時01分

    かえるさん
  • メタルひよこ

    うさみしん

    2022年4月26日 6時00分

    この小説の根底には現代科学で既に否定されたオカルトや都市伝説があります押忍。そんな雰囲気を出すために単位系も古い様式を使ってたりとか涙ぐましい努力をしてるわけです。ミリバールとか。ええ、たぶんほとんど伝わってません押忍。でも良いのです、自己満足なのです!

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    うさみしん

    2022年4月26日 6時00分

    メタルひよこ
  • れびゅにゃ~

    大澤伝兵衛

    ♡1,000pt 2021年9月26日 9時25分

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    ▼▼

    素敵やん

    大澤伝兵衛

    2021年9月26日 9時25分

    れびゅにゃ~
  • メタルひよこ

    うさみしん

    2021年9月26日 10時21分

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    めっちゃうれしいわあ

    うさみしん

    2021年9月26日 10時21分

    メタルひよこ

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    わちき式魔女集会で会いましょう

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    2022年5月26日更新

    Twitter上で流行った『#魔女集会で会いましょう』の作品達を見て、あたしの中にやる気の炎が燃えてきた。 あたしとマトイを二人の魔女(世界観的に仙女)に仕立て、従弟の明日太を異世界に流れてきた少年として出会う小さな物語。 ーー黒崎真央のアイデアメモより抜粋。 勉強会第三回の題「キャラクター初登場時の描写の仕方」に件の『#魔女集会で会いましょう』を組み合わせて、掌編仕立てにいたしました。 それにしても、久々に文字数制限で苦労するとはwwwwwww。 ※うっわ! 危うくレギュレーション違反になるところだった。 締め切りまでに単話の掌編、完結済みでないとダメでしたわな。

    • 性的表現あり

    読了目安時間:2分

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