パチスロ中毒のロリババァが更生するまで

朝一の抽選に参加するロリババァ

「結構混んでおるな」  新台を打つために朝一で馴染みの店『アンラッキー』に向かった儂は驚いた。  百人近くはおるじゃろうか。  地域の優良店舗とはいえ、平日は比較的空いておるというのに。  平日の朝一からパチ屋に並ぶ顔ぶれは様々じゃが、平日休みの社会人は珍しい。  主な客層はスロットで生計を立てておるスロプロに、暇を持て余した大学生、無職、ニート、フリーター、主婦、年金暮らしの老人。  そしてそういった層の中でも特に質の悪い人種が集う傾向にあるので、偏見な上にこの儂が言うのもなんじゃが、クズの見本市の如き様相を呈しておる。  しかし、その空間が儂にはこの上なく心地よい。同類を見ると安心するのじゃ。 「おはようさん」 「うむ。お早う」  来て早々に儂は常連客の(げん) を見つけた。体格が良いからよく目立つ。  弦は元大工の親方で、引退した今では毎日のようにアンラッキーに入り浸っておる常連じゃ。年老いたとはいえガッチリとした体型の強面ということもあって、近づく者はそうおらぬ。  儂が遊技中に鬱陶しい若者に口説かれそうになった時などは、こやつを呼びつければ一発で片が付く。実に頼もしい存在じゃ。  虎の威を借る狐と笑いたくば笑え。元より狐じゃから何とも思わぬ。 「お主も新台狙いかえ?」 「いや、俺はいつも通りGOATだ」 「くふふ、お主も好きじゃのう」 「昨日GOATで泡吹いてた誰かさんほどじゃないけどな」 「うっ……ちと熱くなりすぎてのぅ」  他愛のない会話をしておると、常連客が続々と集まってきた。 「おう、(すず) ちゃん。おはよう。今日も美人だねえ!」 「うむ。お早う。世辞を言っても何も出ぬぞ?」  儂は外出時には他の人間から二十歳前後の女に見えるように術を使っておる。  普段は幼い姿の儂が平気でパチ屋に入れるのもその術のおかげじゃ。 「ひゃっひゃっひゃ、分かってるって!」  同じ常連客の徳一(とくいち) が、歯の何本か抜けた歯茎を剥き出しにて笑った。  こやつは年金暮らしの年寄りじゃ。いつもニコニコと笑っておる。 「ところでお主ら、近頃見慣れぬ余所者が増えたとは思わぬか?」 「この店の評判が広がり始めたからな。最近は県外から来てる連中も多いみたいだぞ」  気難しそうな顔をして弦が言った。  パチンコ・スロットの遊技人口は年々減少しておる。店は次々と潰れ、どこも生き残りに必死じゃ。  そんな中でも勝てる店というのは遠くに住んでおる人間からしてもありがたいのじゃろう。 「嘆かわしい話じゃな。儂ら地元民に還元せんでどうする。余所者に勝たせても仕方ないじゃろうが」 「全くだ」  弦が同意した。 「ひゃっひゃっひゃ! その通り!」  徳一も同意した。  儂らのような年寄り連中は基本的に保守的で、時代の変化や余所者の干渉を嫌う傾向がある。 「あやつの乗っておる車を見たか? オラついておる」 「何じゃあの派手な服は。全然似合っておらぬぞ」 「あのバカップル。戦場を遊園地とでも思っておるのか?」 「バイクをいじるよりも先に頭をいじった方がよいぞ」 「くかか、あの男、財布が立派でも身なりが貧相ではお里が知れるのう」  抽選が始まるまでの暇潰しに、儂らは余所者の陰口を並び立てた。喋っておったのは主に儂じゃが。   『お待たせいたしました! ただ今より抽選を開始いたします!』  そうこうしているうちに抽選の時間になった。  ゴミのような人間共でもこの時ばかりはきちんと順番を守る。あとは誰かが大量のメダルをこぼした際に周囲の人間が総出で拾ってやる時も無駄に理性が働いておるな。あの妙な連帯感は一体何なのじゃろうな。 「ろ、60番かえ……。のう、もう一度引かせてくれぬか?」 「いけません! ルールですので!」  最終的に100人を超えた並びで儂は60番を引いてしもうた。  これでは10台しか用意されておらぬ新台を確保するのは絶望的じゃろう。 「弦。お主は何番じゃった?」 「72番だ。まぁGOATなら座れるだろう」  GOATは定番の機種ということもあって50台も設置されておる。  スロットではなくパチンコを打つ人間がおることも考えれば問題なく座れるじゃろう。  新台は諦めるしかないか……。  じゃがその時、奇跡が起きた。 「鈴ちゃん鈴ちゃん。おれっち3番だったから交換しようや」  徳一が3番と書かれた抽選券を儂に手渡そうとしてきた。 「なっ!? これはお主の物じゃろうが」 「今日はパチンコを打つつもりだったから大丈夫。ほら、遠慮せずに受け取ってよ」 「本当に良いのかえ? ……すまぬ、恩に着る」 「ひゃっひゃっひゃ! お互い今日も頑張ろうや!」  徳一が豪快に笑った。  地元民の常連と絆を育んでおると、こういう僥倖も起こり得る。  パチ屋で得られる絆なんぞ程度が知れておるのやもしれぬが……。  それでも儂は……。 「うむ! 参ろうではないか!」  この空間が好きじゃ。    開店時間になり、儂らは意気揚々と出陣するのであった。

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