悪党たちのエデン

第32話 クリスマス・キャロル

「カルテルはニューヨークから撤退したはずだったのに」 「数人構成員を残しておくだけならいくらでもできるよ。中華マフィアへの恨みか、動機は分からないけど彼らは最後まで青の義勇軍と組むことを選んだんだ」  ニューヨークを追われた千本流斗を匿ったのも彼らだろう。  姑息(こそく)なルートを使って彼を来日させたのもカルテルと見て間違いない。 「でも決行はクリスマスのはずなのに、どうして今日人目につくところで落ち合っていたんでしょう」  クリスマスに備えて、リンゴやシークレットは千本流斗の仕掛けるテロ対策を用意をしていたのだ。  足を組み、女は小さな顔のラインに手を当てる。 「決行が今日に移ったから、姿を見られても問題なかったとか?うん、きっとそうだ。呑気(のんき)に顔を晒して数日間捕まるのを怯えて待つほど彼は馬鹿じゃない」 「ふむ、ではなぜ今日にしたのでしょうね」  栗府の怜悧(れいり)な目が光った。  今度は少年が視線を宙へやって答える。 「こちらの対策を恐れたから前倒しにした、なんらかの理由で今日の方が都合が良かった。理由はこんなところですかね」 「とにかくマズいよ、今日が決行日なら観光客が増える夜には中華街で大規模テロが起きる」 「何でもいい、情報を集めましょう」  頷き合う人。 「栗府さん、今回のお礼はまた後ほど——」 「お待ちください。この騒ぎに私たちも参加させてくれやしませんか」  シークレットの台詞を(さえぎ)った栗府の言葉は意外なものだった。  栗府は寺田組の若頭だ。彼の決定は組の決定になる。 「いいんですか」 「はい。私たちとしてもこの街に新興勢力が入ってくることは避けたいですし、この機に中華マフィアに恩を売っておくのが得策だと判断したんです」 「打算的ですね」  シークレットはくしゃっと顔を歪めて苦笑した。  ◯◯◯  人々が(せわ)しなく歩き回る師走(しわす)の横浜駅。  人混みの隙間を縫って東口に抜け、百貨店に足を踏み入れる。  キラキラ赤く光るオーナメントが巨大なクリスマスツリーを成す入り口。  頭上にも華やかな装飾が取りつけられ、クリスマス商戦に挑む各店舗の従業員が声を張り上げている。  人々も人気店に長蛇の列を作って、年の瀬らしい慌ただしさと活気に満ち溢れた空間だ。 「ええと、何時間前にここに千本流斗がいたんでしたっけ?」  携帯を耳に当ててリンゴは眉間にしわを寄せる。 『時間前ですね。まあ今はいないでしょうが』 「ですよね……。にしてもなんでこんなところに」  寺田組の情報網を元に、リンゴは栗府の指示を受けて千本流斗が目撃された場所をひたすらに周って聞き込みなどを行なっている。  クリスマスに備えていたものが全て崩れ去ってしまったので、地道に生き残りのテロリストを見つけだすしか無くなってしまったのだ。  シークレットは独自の人脈で捜索をしているらしく、別行動を取っている。 『ちなみにケツを持ってる先の店の者から今入ってきた情報によると、昨夜はベイクォーターで買い物をしていたようですね』 「横浜観光でもしているような足取りだな」  焦りを隠しきれずに腕時計へと目をやった。  もう16時だ。外は日も傾いている。  クリスマスシーズンのみなとみらいは、やはりイルミネーションや赤レンガのクリスマスマーケット目当てに観光客が夕暮れから夜にかけて増える。  もう時間がない。 (今日テロを決行するのに、なんでデパートなんて見て回ってるんだ!?) 「とにかくここで聞き込みをしてみます。また何かあったら電話ください」  通話を切ってすぐ、少年が顔を上げた瞬間に再び激しく携帯は鳴く。 「シークレット、どうしました」 『いたよ。いま赤レンガなんだけど、中米系の顔……トラスカラ・カルテルの連中だ』 「赤レンガに?」 『うん。とりあえず彼らの跡を()けてる。これから千本流斗と接触するかは分からないけど、君も来れる?』 「すぐ行きます。くれぐれも単独で危険なことはしないでくださいよ」 『あ、待って今変な荷物を』  シークレットが言いかけた瞬間、電話越しに物凄い轟音が聞こえて通話が切れた。 「シークレット……?」  不快な電子音がスピーカーからこだまする。  震える声でその名を呼んだが、返事はない。  リンゴは走り出した。

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