a.
「はい、こちらMINT...何ですって、お子さんが?
雪片隊長が会議に出席している間、仮眠時間を終えたMINTのメンバーが待機している司令室に緊急連絡が入った。
「どうしたの涼水隊員...」
「迷子なら警察ですよ?」
「違うよ、昼間に魔女からお菓子を貰って食べた子供達が、ぼ〜っとして生気を抜かれたみたいになったって」
「魔女のコスプレ、パトロール中に見たけど...」
「おかしい点はなかったよっ、それに保護者さんも近くにいたもん」
「はい、昼間特に反応はありませんでしたね」
ハロウィンに魔女とはピッタリすぎる組み合わせ、悪戯を疑いたくもなるが市民を信じない訳にもいかない。
「魔女を捕まえて真相を吐かせるんだ、みんな協力して!」
「了解です、涼水隊員」
人間ならざる者を発見する装置を手に、ハロウィンの夜に魔女の捜索開始。他のメンバーが魔女の目撃者に聞き込みをしてる間に、涼水隊員はといえば...
「ここかあ!」
ゴミ箱の中。
「ならばここかあ!」
壁に空いた穴。
「じゃあここかあ!」
古井戸。
「居ないなぁ」
涼水隊員は変わった所を中心に魔女を探していた、同行していたストックは呆れ顔だ。
「隅々まで探すのは流石の熱心ぶりですが、どう考えたって、そない場所には居ませんわ」
「魔女だしこんな所にも隠れられると思うんだけどなぁ」
「魔法が存在しないとも言い切れませんが、私だって超能力を使える訳ですから?」
「得意気な顔も素敵だよ」
「お上手なこと」
MINTはカボチャの飾られた夜の街を歩き回り、魔女の衣装を着た人物を何回か見かけるもコスプレに過ぎなかった。
「もうやだ、お化けだらけだよぅ」
「やれやれ、忙しい研究を中断してまで来たのは正解だったね」
「ごめんね」
魔女だけでなく、幽霊やゾンビのリアルなコスプレをした人で夜の街は溢れ返っている。
臆病な性格で完成してしまったあんずは怖がるだろうと、サルビア博士は彼女と同行中である。
しかし怖がる必要の無い者に怖がるあんずは可愛らしい、キュッと白衣の裾を摘んで来た時は得した気分にしてくれる。
「謝る必要は無いさ、少なくとも損はしていないからね」
「博士〜!」
「それより魔女を見つけて早く戻りたい、せっかく君たちのコスプレ衣装も完成してるんだから」
「わぁ...楽しみ、頑張って探すっ!」
「よしよし、頑張ろう、夜は長いからね」
MINTのメンバーは引き続き頑張って魔女について調べるも無駄な努力だ、そもそも子供達にお菓子を配った魔女は、街中には居ないのだから。
b.
彼女は中学生時代の担任教師だった、優しくてお茶目で生徒想い、香燐にも親身になって勉強を教えてくれたり、相談にも乗ってくれた。
そのうち恋心が芽生えて、友達と一緒に彼女と遊んでいる時もドキドキ。彼女から白いネリネをプレゼントされた晩に、親が猫を連れ帰ってきたのは未だに色褪せない記憶だ。
だが... ... ...それから一週間後に怪獣が現れた。怪獣は防衛軍に撃破されたものの、結果的に多数の死者が出る大惨事になってしまった。
「ここ...だよね」
「大丈夫だよ香燐、先生が死ぬわけないよ」
「そうそう!しぶとい人だもん、あの人は」
後日、電話をかけても繋がらないのを心配した香燐は、友人達を連れて避難所にやってきていた。
到着してからというもの、ブルーシートを被せられた遺体が次々と安置所へ運ばれていく光景を何度もみせられ、不安は増していく一方だ。
「うん、大丈夫だよね、このリストにも名前は乗って...ない、し?」
現実は残酷だ。香燐が指で昨日現れた怪獣による死亡者リストに表記された名前を追っていくと、後ろの方に先生の名前があった。
「う...うあ... ... ...あああっ!!」
現実を理解して泣き崩れる香燐、友人たちは掛ける言葉もなく、ただ俯くしかできない。
「あの、この人って...」
香燐の代わりに、友人が横切る救助隊員の人に声をかけ、先生の名前を指差した。
「子供を助けたせいで瓦礫の下敷きになるなんて、世の中救われないものよね」
「そんな...」
それから数年、かつて亡くなった事で悲しみに溺れた人が、いま目の前にいる。この悦びと高揚感には抗えない。
「ハロウィンは日本で言うお盆に似た日だから、帰ってこれたのよ」
「会いたかった、ずっと、ずっと!!」
感情を前面に押し出して子供のように泣き出す香燐を、彼女の初恋の先生は優しく抱きしめる。
猫鈴猫はその光景を見て、ただ胸の辺りにチクチクと痛みを覚えるばかり。
「私といる時はあんなに素直にならないよね、お姉様は...でも良かったね、大好きな人に会えて」
好きという気持ちは強さではどうにもならない、猫鈴猫の今の気持ちは、人間の感情に例えたならば該当するのは敗北感だ。
彼女の後ろにへたれこむ猫鈴猫を、いま抱きしめている教え子越しに見た先生は、ニヤリと笑った。
「ねぇ、コレでそこのロボット壊してよ...邪魔者を消してふたりきりで愛し合いましょう」
何を思ったのか、先生は香燐の胸に小型の銃を押し付ける。香燐はその銃を受け取ると、先生との抱擁を辞め、猫鈴猫に銃口を向ける。
「動かないでね猫鈴猫ちゃん、香燐ちゃんをあの世に連れ帰ってほしくないなら」
先生は香燐の後頭部に、彼女に渡したものと同じ種類の銃を突き付けた。
「なにそれ、随分と俗っぽい幽霊だね...」
お姉様の命は自分の命より大事だ、猫鈴猫は黙って瞳を閉じる。次の瞬間、銃声が森の静寂を破った。
「なんで... ... ...」
先生が苦悶の表情で押さえる、香燐に撃たれた胸を。なんと撃たれたのは猫鈴猫ではなく撃てと頼んだ先生自身だった。
「あの人なら絶対に言う筈の無い台詞を吐いてくれたお陰で、洗脳から解放されたわ!」
涙を流し、声を震わせながら、香燐は放り捨てた、胸の中に飛び込んでくる猫鈴猫を迎え入れる為に邪魔な武器を。
「お姉様!よかったあ〜」
「悪かったわね猫鈴猫、わたし目が覚めたわ」
抱きしめ合う香燐と猫鈴猫の背後から、しわがれた老婆の声で、おのれ...と聞こえた。
香燐から離れ、猫鈴猫が先生を見れば鬼の様な形相になっていた、どう見ても人間ではない。
「私は頼まれなくても貴方を撃つよ、正体を現せ」
ぎゃあああッ。猫鈴猫が指先からガトリンガンを連射して先生の形をした何者かを蜂の巣にすると、それは悲鳴をあげながら姿を変えた。
「黒い帽子に高い鼻、手にはホウキ...まんま魔女じゃん!」
「き〜ッ、作戦は失敗かい。じゃがの、地球はワシのモノになったも同然じゃ!既に怪獣達の魂は我が傀儡と成り果てておる、すぐに奴等は街を廃墟にする事じゃろて!!」
ヒャっはっはっハッ、不気味な笑い声をあげながら魔女は巨大化、本当の姿を現した。
「くっ、もしもし...!」
香燐がMINTに連絡しようとするも、スマホが繋がらない、よく見ると圏外になっていた。
「ダメだよお姉様、この森には妨害電波が!」
「一対一しかない訳ね、お願い猫鈴猫、私の好きだった人の姿を利用したアイツを倒して!」
「うん!!」
魔女の光弾をシールドで弾き、猫鈴猫も香燐に背中のボタンを押されて巨大化し臨戦態勢に入る。
愛するお姉様が嘗て愛した人の姿を勝手に使い、辱めた罪は重い、猫鈴猫は怒りに燃えていた。
c.
グォオオオオオッ! 複数の怪獣の遠吠えが、市民たちを震え上がらせる、佇んでいるだけだった幽霊怪獣たちが、魔女の力で日本各地に現れたのだ。
アステリベルゼは赤色光線で街を焼き払い、アイオロードは突風で民家を吹き飛ばし、アルドムは強酸で車を溶かす。
スケルハイタンの雷撃がビル群を薙ぎ払う、コピュードンが冷気で街全体を氷河期に変貌させる。
「撃てェ!!」
出動した戦車部隊の一斉砲撃が、アイオロードとアルドムを狙うも巨体を通り抜けて民家に着弾、怪獣達の反撃を受けて次々と粉砕されてゆく。
「すり抜けた...!?MINTの報告通りだ!!」
「後退、後退!!」
怪獣に蹂躙される街...この惨劇を食い止めるには、黒幕である魔女を倒すしか方法はない、頑張ってくれ猫鈴猫!!
つづく
コメント投稿
スタンプ投稿
方舟みちる
怖がるあんずちゃんと一緒にお化けの仮装でいっぱいのハロウィンの街を回るサルビア博士、親子のような二人の絡み、やっぱりイイですね…のほほんとします。香燐さんも自力で洗脳から脱して猫鈴猫ちゃんを守る、さすがです。猫鈴猫ちゃんの名前の由来?も明らかになりましたね
※ 注意!このコメントには
ネタバレが含まれています
タップして表示
方舟みちる
2022年1月2日 12時28分
百合豚怪獣キマシラス
2022年1月3日 14時43分
ポイントコメントありがとうございます〜 やはり親子愛に似た感じなんですなあ 記者だけあってメンタル強いやつ 名前の由来最初から考えてたやつ拾いました
※ 注意!この返信には
ネタバレが含まれています
タップして表示
百合豚怪獣キマシラス
2022年1月3日 14時43分
ワタル
香燐お姉様……愛しているからこそ偽物を見抜き、偽物と甘い時を過ごすことを許さない。ストックちゃんが地球に馴染めるような記事書いたことも含めて香燐さんがカッコイイ回!しかし幻影のような怪獣たちは馴染むのを待っていただけで、ついに街を破壊し始めた!?さあ、戦いだ!
※ 注意!このコメントには
ネタバレが含まれています
タップして表示
ワタル
2022年1月4日 0時12分
百合豚怪獣キマシラス
2022年1月7日 23時48分
ポイントコメントありがとうございます 愛は盲目、かつ慧眼に!? 記者らしくできる活躍をさせときました~ 怪獣大進撃だ!!!
※ 注意!この返信には
ネタバレが含まれています
タップして表示
百合豚怪獣キマシラス
2022年1月7日 23時48分
ワタル
ビビッと
500pt
2022年1月3日 23時58分
《「あの人なら絶対に言う筈の無い台詞を吐いてくれたお陰で、洗脳から解放されたわ!」》にビビッとしました!
※ 注意!このコメントには
ネタバレが含まれています
タップして表示
ワタル
2022年1月3日 23時58分
百合豚怪獣キマシラス
2022年1月7日 23時47分
クールッ!!
※ 注意!この返信には
ネタバレが含まれています
タップして表示
百合豚怪獣キマシラス
2022年1月7日 23時47分
方舟みちる
ビビッと
200pt
2022年1月2日 11時57分
《「あの人なら絶対に言う筈の無い台詞を吐いてくれたお陰で、洗脳から解放されたわ!」》にビビッとしました!
※ 注意!このコメントには
ネタバレが含まれています
タップして表示
方舟みちる
2022年1月2日 11時57分
百合豚怪獣キマシラス
2022年1月3日 14時42分
やらかした〜!ミス!!
※ 注意!この返信には
ネタバレが含まれています
タップして表示
百合豚怪獣キマシラス
2022年1月3日 14時42分
方舟みちる
ビビッと
200pt
2022年1月2日 11時51分
《涼水隊員は変わった所を中心に魔女を探していた、同行していたストックは呆れ顔だ。》にビビッとしました!
※ 注意!このコメントには
ネタバレが含まれています
タップして表示
方舟みちる
2022年1月2日 11時51分
百合豚怪獣キマシラス
2022年1月3日 14時42分
※ 注意!この返信には
ネタバレが含まれています
タップして表示
百合豚怪獣キマシラス
2022年1月3日 14時42分
すべてのコメントを見る(18件)