a. 「きゃあああああっ!」 「あうっっっ!」 体を閉じた状態から、勢いよく開いた際の反動により猫鈴猫は吹き飛ばされて山に叩きつけられる。 あんずは太腿に赤色光線を受けて火花を散らした。姿も反応も消してしまった怪獣に、猫鈴猫とあんずは為す術もなく、一方的に攻撃を受けて苦しんでいるのだ。 「”まずいわね...“」 「“このままじゃ猫鈴猫ちゃんとあんずが!“」 MINT隊員らも、防衛軍の戦車部隊も、ターゲットが見えない以上は援護射撃もできない。 猫鈴猫らに誤射する可能性も高まっている、ただ傍観しているのが最善手という最悪な状況である。 「くっそ...場所を捉えられない上に、必ず損傷率二%以上の攻撃を繰り出してくる... ... ...」 「ううっ、いったいどうしたら良いんだろう...」 体のあちこちが剥がれ、泥も付着している二人の姿はとても痛々しい。アステリベルゼは彼女達を完全に機能停止させてから、ゆっくり戴くつもりなのだ。 「踊り食いは好みじゃないみたいだね」 「動けなくなったら食べられちゃうってこと!?」 「そうかも...ね... ... ...」 「ああっ!」 猫鈴猫の体が空高くへ舞い上がり、付近の山頂に叩きつけられる。 山は緑に覆われているとはいえど、今の高さと落下スピードで叩きつけられた猫鈴猫には、侮れない衝撃をもたらす程度の硬さはあった。 「ううっ... ... ...」 蓄積されていたダメージは少なくなかった猫鈴猫に、姿を消したままアステリベルゼはヒトデ状の体を用いてアッパー攻撃をキメた。 加えて山に叩きつけられた衝撃で、猫鈴猫は遂に動けなくなってしまった。 「猫鈴猫っ!」 なにか怪獣撃破のヒントを掴み取れないかとカメラを回していた香燐の顔が青ざめる、もしかしたら怪獣撃破どころか猫鈴猫たちの敗北を収めてしまうかもしれない。 「この〜〜〜来るな〜〜〜っ!!」 動けなくなったら怪獣は食べに来るかもしれない、あんずは猫鈴猫の傍に来ると、パワー全開で両腕を振るった。 「きゃああああああああッ」 アステリベルゼが邪魔だと言わんばかりに、先程よりも威力を増した赤色光線を胸に浴びせたことで、あんずもダウンしてしまった。 「“あんず!”」 「“見て、怪獣が姿を見せた...“」 びびびびっ。食事のためには必要なことなのか、凜憧の言う通り、体を開いて蟲の顔を露出させた状態のアステリベルゼが姿を現していた。 「“攻撃開始!このチャンスを逃してはだめよ!!“」 「“了解”」 イキシア一号は電磁ミサイル、二号はロケット弾、三号はレーザー光線をアステリベルゼの背中に浴びせる。 戦車部隊は猫鈴猫に近づけまいと、アステリベルゼの足元に一斉砲撃を開始する。 だがアステリベルゼは攻撃の嵐をものともせず、猫鈴猫の首を翅で挟んで無理やり立たせる。 「“なんて頑丈なの、先日の個体とはまるで耐久力が桁違いだわ“」 「“金属を食べまくって、自分の体まで金属に近づけた... ... ...いや...金属以上の頑強さにした...“」 「“くそ、いざ姿を見せたからと攻撃したところで無駄だなんて“」 それでも僅かな望みにかけて攻撃は続くが、アステリベルゼは無情にも猫鈴猫の腹部に蝿頭をぴたりとくっつけた状態で、体を閉じた。 「きゃああああああああっ!!」 腹部を根こそぎ抉り取られた猫鈴猫は、膝から崩れ落ちる。相当なダメージを受けた彼女は、虚ろな琥珀色の瞳だけを明滅させ、他はピクリとも動かせなかった。 b. 「猫鈴猫ッ...! 考えなきゃ、怪獣を倒す方法を!!」 香燐は必死に、冷静に、逆転の方法を考える。かつてないレベルで頭を回転させると、ヒントらしきものを見つけた。 「怪獣は姿や反応を消す...猫鈴猫にもステルス機能がある、それは怪獣も猫鈴猫に使われている同じ金属を食べまくっていたから、だとしたら?」 香燐が乗っているのはイキシア2号、前の操縦席に座っている葵に問いかける。 「そうか! 数日前に怪獣に襲われたピサンリを襲い、タマ鋼を強奪した怪獣がこいつだとすればあり得る話だ」 「“猫鈴猫ちゃん、今のヒントにならないかしら”」 「“でも...聞こえてるのかな...“」 凜憧が不安げに呟くと、それに答えるかのように猫鈴猫はフラフラと立ち上がった。 「やったわ!猫鈴猫が復活した!!」 香燐は喚起して猫鈴猫を連写すると、ダウンしたままアステリベルゼの脚を掴んで動きを封じているあんずの勇姿もカメラは収めた。 彼女のお陰でまだ食い尽くされずに済んでいるんだ、猫鈴猫はあんずに感謝する。 「ありがとう、あんず... ... ...勝ち目が見えた...確かに私のステルス機能はタマ鋼を応用したもの...怪獣も同じ様に使ってるなら、これでいける... ... ...!」 損傷の激しい体ながらも立ち上がった猫鈴猫は、あんずに動きを封じられているアステリベルゼに自ら近付いていく。 幸いアステリベルゼは食事中の気分が抜けていないので再び姿を消すことはなかったが、これが命取りとなった。 「はぁああああああっ!」 ガシッ!猫鈴猫はアステリベルゼの顔を両手で掴むと、そのまま、あんずには及ばないが怪力を発揮して持ち上げる。 アステリベルゼは慌てて姿も反応も消してしまうが、猫鈴猫は動じない、手に感触があり、掴んだままの状態なのが分かる。 「隠れんぼも命も終わりにしてあげなきゃね!」 猫鈴猫は見えないままのアステリベルゼを激しく上下に揺さぶり始めると、数秒後に怪獣がその姿を現した。 「“対怪獣用ミサイル・イクチ、発射っ... ... ...“」 両肩に隠されていた発射口を開き、そこから複数のミサイルが蛇行しながらアステリベルゼ目掛けて突撃。 イクチを顔面に受けたアステリベルゼは、ぎぃイいいいいいッ、断末魔の叫びをあげる。 「“任務完了...だね...“」 顔から体の隅々まで木っ端微塵に砕け散るアステリベルゼを背に、猫鈴猫は空に浮かぶイキシア3機に向かって手を振る。 そんな猫鈴猫の真似っこをして、あんずは地べたに寝そべった状態のまま戦車部隊に手をふった。 c. 「タマ鋼は体を微小高速振動させることで姿を消すことができるけど、逆にあまりに大きく揺れるとステルス機能を失うんだよ〜」 「なるほどね、メモメモよっと」 極東支部の無機質で薄暗く広い、様々な修理機器が揃った地下施設にて、猫鈴猫はサルビア博士の助手に破損箇所や切断されていたケーブル等を修復してもらっていた。 でも動けないから暇なので、何故あれで怪獣が姿を見せたかを説明中。隣ではあんずが船をこぎながら同じくサルビア博士によって修復作業を受けている。 「よく頑張ってくれたわねあんた達、他の隊員さんらもお礼を言ってたけど、私も同じ気持ちよ」 「えへへ、お姉さまのこと感謝してもし足りないってくらい助けるんだから!」 キラキラした笑顔を浮かべて、相変わらず猫鈴猫は断言してみせた。今が修復作業中でなければ、きっと香燐に抱きついていたことであろう。 「それなら私もだよ、なんなら好感度メーターでも組み込んであげようかい?」 あんずの修復作業を終えたサルビア博士が、猫鈴猫たちの所に来た、かなり距離が縮まった気がする。 「そんなの振り切れてすぐ壊れちゃうから!」 「もう〜〜〜〜っ!お花摘んでくるわ!」 屈託のない笑顔からのべた惚れ甘々なセリフを前に、香燐は顔を真っ赤にしながらも取材用のメモ帳にすらすら何かを書いた。 そしてそのページを引き千切って、猫鈴猫の足元に投げると、そそくさとトイレへ行ってしまった。 「ん〜?おお〜これがデレかぁ!」 猫鈴猫が読むより先にサルビア博士がメモ用紙を拾いあげると、にやけ始めた。 「なっ、ちょっとお姉さまの私へのラブレター取らないでよ〜!!」 「あ、猫鈴猫さん動いたら駄目ですって!」 電動ドリルなど、一歩間違えれば少なからぬ被害を出しうる道具が使用されている。 猫鈴猫はぐぬぬ...と恨めしそうな顔でサルビア博士を睨みながら、修復作業終了の時を待つのだった。 つづく 怪獣図鑑10 暴食宇宙海星 アステリベルゼ 身長:50メートル 体重:6万6千トン 出身地:宇宙 武器:赤色光線、金属捕食、ヒトデ体アッパー 金属を食べるだけ硬くなり、その性質を得ることもできる怪獣。ヒトデのような赤い星型の体に蝿のような顔が備わっている。
コメント投稿
スタンプ投稿
方舟みちる
今回の怪獣もなかなか手強いヤツでしたね。前回に引き続き猫鈴猫ちゃんとあんずちゃんの連携、MINTの皆さんの活躍で勝利を収める。猫鈴猫ちゃんの尊み溢れるセリフに、デレる香燐さんも見れて盛りだくさんの内容でした…!相変わらずあんずちゃんもかわいい…
※ 注意!このコメントには
ネタバレが含まれています
タップして表示
方舟みちる
2021年8月27日 13時55分
百合豚怪獣キマシラス
2021年8月27日 20時52分
毎度ポイントコメント、ありがとうございます!! 怪獣は連携無いと勝てないくらい強いぜ! 百合百合も強火で行くぜ!! あんずも可愛目で行くぜ!
※ 注意!この返信には
ネタバレが含まれています
タップして表示
百合豚怪獣キマシラス
2021年8月27日 20時52分
ワタル
今回ネリネちゃんの素材が明かされたのは、そういうことだったのか!?主人公の秘密を明かしつつ、それを利用した敵との戦いに持ち込むのはお見事でした。あんずちゃんも敢えてやられたふりで誘い出し動きを抑える重労働お疲れ!パワーとテクニックで役割分担もいいですね!
※ 注意!このコメントには
ネタバレが含まれています
タップして表示
ワタル
2021年8月14日 23時04分
百合豚怪獣キマシラス
2021年8月15日 15時23分
ポイントコメントありがとうございます! そう仰って下さると、どちらもの設定があってこそ成り立つ回にできたのかな、と思えます。 臆病者には酷な仕事ですが頑張って戴きました! やはりそれぞれに得意な役割を持たせたくなりますね、怪獣との戦闘描写の幅も広がりそうです
※ 注意!この返信には
ネタバレが含まれています
タップして表示
百合豚怪獣キマシラス
2021年8月15日 15時23分
方舟みちる
ビビッと
100pt
2021年8月27日 11時39分
《屈託のない笑顔からのべた惚れ甘々なセリフを前に、香燐は顔を真っ赤にしながらも取材用のメモ帳にすらすら何かを書いた。》にビビッとしました!
※ 注意!このコメントには
ネタバレが含まれています
タップして表示
方舟みちる
2021年8月27日 11時39分
百合豚怪獣キマシラス
2021年8月27日 20時50分
デレられたらデレる
※ 注意!この返信には
ネタバレが含まれています
タップして表示
百合豚怪獣キマシラス
2021年8月27日 20時50分
方舟みちる
ビビッと
100pt
2021年8月27日 11時38分
《「えへへ、お姉さまのこと感謝してもし足りないってくらい助けるんだから!」》にビビッとしました!
※ 注意!このコメントには
ネタバレが含まれています
タップして表示
方舟みちる
2021年8月27日 11時38分
百合豚怪獣キマシラス
2021年8月27日 20時50分
デレデレなのでありますわ!
※ 注意!この返信には
ネタバレが含まれています
タップして表示
百合豚怪獣キマシラス
2021年8月27日 20時50分
方舟みちる
ビビッと
100pt
2021年8月27日 11時31分
《「タマ鋼は体を微小高速振動させることで姿を消すことができるけど、逆にあまりに大きく揺れるとステルス機能を失うんだよ〜」》にビビッとしました!
※ 注意!このコメントには
ネタバレが含まれています
タップして表示
方舟みちる
2021年8月27日 11時31分
百合豚怪獣キマシラス
2021年8月27日 20時50分
この理屈
※ 注意!この返信には
ネタバレが含まれています
タップして表示
百合豚怪獣キマシラス
2021年8月27日 20時50分
すべてのコメントを見る(18件)