今話登場怪獣
a. 会議
「では新鷹参謀、あの少女の正体は機械であると?」
「背中を開いてボタンを露出させることが出来て、ミサイル等の兵器を搭載した人間など居ましたか山音長官」
「どうにかしてデータを手に入れられないか」
「恐れ入りますが、あの子を怒らせて敵に回したくはないでしょう?」
「新兵器完成もあり得たのだが、完全な復旧は近い、余計な被害を出すのは避けたいからな」
新鷹参謀は山音長官に呼び出され、猫鈴猫と接触してどう感じたかなどを尋ねられていた。
嘘偽りない出来事と心情を新鷹参謀から伝えられた山音長官は、眉間に皺を寄せる。
「...やはり危険な存在だと思うか? 防衛軍内部でも危険視する声と味方なのだから歓迎するべきだという声もあったが、先のルナチク星人の件で前者の声が大きくなってな」
防衛軍ですら敵わない怪獣を倒した怪獣を撃破、そして昨晩は侵略宇宙人を倒した猫鈴猫。
味方であれば頼もしい事この上ないが、万が一にも敵に回られたら。山音長官はその万が一を恐れているようだった。
「少なくとも市民から見れば変わりませんよ、当初の私達と」
「お前らしくもないセリフだ、上野目参謀の受け売りか?」
「そんなとこですかな、がはははっ」
豪快に笑いながら退室していく旧友の背中、その大きさを見せつけられて、山音長官は溜息を吐いた。
世にも珍しい銀色の雨が、日本全土に小さな悪魔達をプレゼントしたのはその日の夜だった。
b.事件発生
「おい止めろよ林、俺を殺す気か?!」
ヘルメットを被った女性が、何度も転びながら夜の採石場を走っていた。そんな彼女を追いかけているのは、黄色い体に長い首を持つキリンのような掘削機。
「バカ言え森田!私はここにいるぞ!!」
普段ショベルカーを運転している女性の仕事仲間は、砂利や小石が積み重なった山の上に逃げている。
「誰も乗ってないのかよ、じゃあ誰が!?」」
命からがら仕事仲間と同じ場所に逃げた森田は、ヘルメットライトで運転席を照らす。
そこには誰もいないどころか、運転操作レバーなどは動いていない、動いているのはキャタピラのみ。
「まるで生き物だ、シャベルが生きてやがる!」
「あ...おい、嘘だろ...」
ふたりはサーッと青ざめる。暴走掘削機が無人であった事実に加え、さらに、宙高く、ぴょいっ、飛んだのだ。
ショベルカーは腰を抜かして抱き合う女性二名を下敷きにしたことで満足したのか、やっと停止したが、二人の息の根も止まってしまった... ... ...なんてこともなく。
「お話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ブルドーザーがひとりでに暴れ出したんだ、生きてたよあれはよぉ!信じてくれよお姉さん!!」
「そうだそうだ、お陰で酷い目に遭ったんだから」
ショベルカーに襲われたふたりは仲良く入院したものの、一命を取り留めた。その事件についての取材のため、彼女らが運ばれた病院へ香燐は訪れていた。
「ふむふむ、まるで生き物みたいに動いていたと、あんなことは初めて、地縛霊による祟りかも?なるほど、ありがとうございます」
ガタイの良い大人が凄く怯えている様子からして、嘘ではなさそうだが、デマを記事に載せるわけにはいかない。
病院を出て坂を下りながら、香燐はメモを見つめたまま訊ねた。姿こそ見えないが確かに隣を歩く者に対し、あの人は嘘をついてたか?と。
「彼女たちにとっては本当だから精神や体に異常をきたすけど、実際は全く別のことが起きていたって可能性もあるんだよ」
「そっかぁ、じゃあ現場に行ってみましょう」
「危ないじゃん!却下!」
「行かなきゃ飢えて死ぬっつてんのよォ!!」
別の仕事やれば良いじゃんは禁句、事件の起きた採石場に香燐はやってきた。
すると香燐は見知った後姿を見つけた、そしてなにやらキョロキョロ辺りを見回しているようだ。
「麻知子も来てたのか、私の手柄を横取りする気じゃないでしょうね〜?」
「なんだ香燐さんか、驚かさないでよまったく」
「貴方も例の事件について調べてるの?」
「ええ、なにしろ十件も似たような事件が起きてるんですもの。知ってるだけでも先ずここでショベルカーでしょ、大阪で食い倒れ人形、神奈川で無人パトカーが交差点へ!」
「機械の反乱?SF映画じゃあるまいし...なんて、怪獣や宇宙人が普通に現れるこの御時世じゃ言えないか」
なにより宇宙から来た美少女ロボットが身近にいる、すぐに信じるべきでも無いが、もはや胡散臭い話というわけでもない。
「それで何をキョロキョロしてたのよ」
「ショベルカーよ、肝心のショベルカーが無いの」
言われてみれば、香燐も辺りを見渡すが、ショベルカーなんて一台も置いていない、手押し車と取材中に出てきた砂利山くらいしかない。
ただ、キャタピラの跡はくっきりはっきり、採石場全体に残っていた。
「キャタピラの跡があるし、確かについ最近まではあったのよ」
「じゃあ何処に行ったのよ」
「てか警察いなくない?」
「ソッコー来てソッコー調査して帰ったんじゃない、機械の暴走なんてバカバカしいって」
警察が何故いないか。その真相はラジオを聞きながら猫鈴猫と街へ帰る際に流れてきた緊急速報で判明した。
「パトカー複数台が運転手もナシに暴走?!」
「救急車や消防車にバスが、乗り物だけじゃない、粗大ゴミに出されてたエアコンや扇風機が日本各地で人を襲ってる?」
洒落にならない状況だ、どうにかしないといけない、放っておけば香燐も襲われる。
「お姉さまの安全確保...ここには他に機械がない、だから待ってて!」
「わかったわ、気をつけなさいよ!」
「うん、必ず迎えに来るからね」
ボタンを押された猫鈴猫、は自動車を超える猛スピードで街へ走り出す。さっさと終わらせて、早く大好きなお姉さまにただいまって言うために。
c. 暴走機械
「愛車に殺されるなら本望かも!」
「バカ野郎お前愛車を訳アリにする気か、逃げろ!」
「エアコンに殴り殺されるなんて天国で彼女に笑われちまう〜!」
機械たちの襲撃により大パニックに陥る街、あちこちで市民や警官の死体が転がっている。エアコンや扇風機ならともかく、全速力の車から逃れられる者は無い。
人間を襲撃している機械の中に、あのショベルカーもあった、アレはより多くの人間を襲うために街に降りていたのだ。
「こらああああぁああ!同じ機械として貴方たちは許せないぞ〜!!!」
悪夢の街に救世主降臨。純白の巨体は人々を追い詰める機械の群れの上に降り立ち、その殆どを踏み潰した。
「あっ!あの娘は女神様!」
「いや天使だ!!」
「白ロリ巨大っ娘とは、なんとも奇っ怪な属性でござる」
ゴガガッ。残された機械は人間を襲うのを辞めて一箇所に集合していく、そのスピードは尋常ではない、猫鈴猫が対処する前に合体を完了してしまった。
ギガガギィィィィィィッ!!!
生物的な鳴き声と機械音が混ざった、不思議な音が街に響く。合体した機械たちは怪獣へと姿を変えたのだ。
(あの寄生虫怪獣と少し似てる?)
疑問を抱く猫鈴猫に対して、怪獣マキマイラは頑強な体を活かした体当たりを繰り出した。
「ダイヤモンドリル!くらえ!!」
猫鈴猫の右腕がドリルに変形、マキマイラは渾身の体当たりを食らわす直前に、そのドリルで頭部を貫かれてしまった。
ギガギギギぃ、ギガガガァ、ガァ!! マキマイラは貫かれた頭部から爪先、尻尾の先端まで粉微塵になって吹き飛んだ。
「ありがとう〜!!」
「また助けてね〜!」
「新たな属性に目覚めそうでござる〜!」
人々の感謝の声を背に飛び立ち、猫鈴猫は香燐の元へ急いだ。計算上安全率は98%だが、2%の悪い確率が怖くて仕方ないのだ...それに... ... ...。
猫鈴猫が採石場に戻ってくると、退屈極まった香燐が指で地面に三毛猫を数匹描いていた。
「お姉さま...」
元の大きさに戻った猫鈴猫は、香燐に沈んだ声を投げる。いい歳して何してんだと引いている訳ではない、もっと深刻な理由だ。
「どうしたのよ、生還したならもっと嬉しそうな顔しなさいよ」
「わたし防衛軍に行くから、それでさ、処分してもらおっかなって」
猫鈴猫は明るい表情を浮かべているが、その声は震えていた。声だけじゃない、飼い主に捨てられて怯える子猫みたいに、体が震えている。
「最近よく雨が降るわね、酸の雨に銀色の雨、今度は私の心に悲しみの雨だ」
彼女が言うんだから極めて合理的で正確なことなんだろう、そう考えると、話を聞く前から香もう泣きそうになってしまう。
「お姉さまクサいセリフ!」
「誰が酒臭いだこんにゃろ、水臭いのはてめえだこら、さっさと事情話しなさいよ!」
「最後くらい、会話はしたいもんね」
躊躇う時間も無い、香燐の為にも、自分のためにも、猫鈴猫は事情を話す。そして、最後まで聞いた香燐は膝から崩れ落ちるのだった。
無色透明な雨が、ザーザーと激しい勢いで降ってきて、ふたりの体を容赦なく濡らすのだった。
つづく
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方舟みちる
香燐さんが珍しく深刻な顔をして言ったセリフをくさいセリフ!と即座に切り捨てる猫鈴猫ちゃん平常運転で好き…。そして自身が他の機械のように暴走する可能性を見越して香燐さんから離れようと考える辺り、やっぱりいい子だなってなりますね。
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方舟みちる
2021年6月23日 12時37分
百合豚怪獣キマシラス
2021年6月23日 15時18分
ポイントコメントありがとうございます!! シリアスな雰囲気だったのに〜!ある程度マイペースさが必要なのかもしれません。好き?ありがとうございます! 口と態度は少し悪いけど根は良いやつですのよ〜
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百合豚怪獣キマシラス
2021年6月23日 15時18分
ワタル
チェンジゲッ○ー2!ドリルアームはロマンだ!しかしネリネちゃんも銀の雨に打たれちゃったが大丈夫なのか。防衛軍も不穏だ······続きに期待です!
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ワタル
2021年7月4日 15時21分
百合豚怪獣キマシラス
2021年7月4日 20時18分
あれはトマホークくらいしか知らないんすよね〜 でもドリルはロマンなのわかります 大丈夫かなあ、じゃないかもなあ 不穏ですよね今回、次回をお楽しみにです
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百合豚怪獣キマシラス
2021年7月4日 20時18分
方舟みちる
ビビッと
300pt
2021年6月23日 12時21分
《「バカ野郎お前愛車を訳アリにする気か、逃げろ!」》にビビッとしました!
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方舟みちる
2021年6月23日 12時21分
百合豚怪獣キマシラス
2021年6月23日 15時17分
モブのセリフもなんか考えてしまった
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百合豚怪獣キマシラス
2021年6月23日 15時17分
方舟みちる
ビビッと
200pt
2021年6月23日 12時23分
《「新たな属性に目覚めそうでござる〜!」》にビビッとしました!
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方舟みちる
2021年6月23日 12時23分
百合豚怪獣キマシラス
2021年6月23日 15時17分
俺も目覚めたいと思いますぅ!
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百合豚怪獣キマシラス
2021年6月23日 15時17分
方舟みちる
ビビッと
200pt
2021年6月23日 12時19分
《「行かなきゃ飢えて死ぬっつてんのよォ!!」》にビビッとしました!
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方舟みちる
2021年6月23日 12時19分
百合豚怪獣キマシラス
2021年6月23日 15時16分
美人さんがこうなるの何だか好き
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百合豚怪獣キマシラス
2021年6月23日 15時16分
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