a. 「おねーさまー!さっさと起きないと襲うよ〜?」 にやにや、機械とは思えないほど下品に笑う猫鈴猫の妖しい動きを見せる手が、机にうつ伏せ眠っている香燐の肩に迫る。 「あと5分...あと5時間で良いから...」 「睡眠欲求半端ないよお姉さま、本当に襲っちゃうぞ〜」 と言いつつ、猫鈴猫が朝食の準備でもしてやろうと立ち上がったとき、○○○!☓☓☓!ずっきゅんばっきゅん!! 機械音声による放送禁止用語が連発された、発信源は香燐のバッグに入っているスマホだ。 「夜目覚める、酔い冷めておらず、電話の着信音を☓☓☓なことに...ってところかあ」 「わたしら電話に出ないら、どうせへリーさんからでしょ、今まで何百件もかかってきたし〜」 「メンタルの強さ、測定不能」 仕方ないので、呆れつつも香燐の代わりに猫鈴猫が電話に出ることになった。 「はいもしもし」 「何だ君は、香燐くんの恋人か?」 電話の向こうから聞こえる声に基づいて計算す、長身美人を思い描く猫鈴猫。実際に相手は美人編集長と知られている女性だが、それ以上に厳しい人物として有名だ。 「御名答です、香燐お姉さまの彼女です、お姉さまなら私の隣で寝てます」 平然と嘘を吐く性悪ロボット猫鈴猫。お姉さまが起きないのが悪いんだからね、べ〜っと内心で舌を出した。 「お姉さまなのに彼女なのか...特殊な趣味など今はどうでも良い、防衛軍は会議の末に数体の宇宙人と友好関係を結ぶことを決定したそうだ、他社はこぞって取材に押しかけているのに何を寝おてんだ、さっさと取材に行かんか香燐くん!!」 いくら美人とはいえ長いしうるさい、これじゃストレスでお姉さまが疲れちゃうわけだ。 なんて本音を口にしたら立場が悪くなるのはお姉さまなので、言わないでおく。 「いや〜さっきから起きなくて」 「忘れていた、こう伝えれば簡単に起きるんだった、げ、ん、き、ゅ、う、く、び」 「いやです減給しないでクビにしないで家賃払えなくなるううううううう」 編集長の呪文は効果バツグン、犬に尻でも噛まれたのかよと思う勢いで香燐は飛び起きた。 かと思えば、バッと猫鈴猫から携帯を奪い取り、すぐ向かいます!とだけ言って電源をオフにした。 「私の知らないお姉さまの情報を知ってるなんて悔しい、記録を更新しなきゃ」 「じゃあ行ってくるから!」 香燐は服をサッと早着替えすると、道具一式を持って玄関へ。猛暑が続いているので、ストッキングもなしにハイヒールを履いた。 「私も一緒に行くよ〜ステルス機能、オン」 瞬く間に猫鈴猫の姿が見えなくなる、もしかしたらこれで心霊と認識された件がいくつかあるんじゃなかろうかと香燐は思った。 「別に来なくても良いってば」 「宇宙人が友好種族を装う敵だった場合、お姉さまだけ向かった場合の死亡率よんじゅうよんぱーせんと」 「半分以下だけど凄まじく死にそうな数字!ご同行お願いします!!」 入院しても4階に行きたがらないんだろうな、かわいい♪ 意味の分からない理由で香燐に萌えて、ご機嫌になる猫鈴猫であった。 b. 香燐と猫鈴猫は、電車に揺られること三時間で、宇宙人と友好関係を結んだという防衛軍西日本基地にやってきた。 基地は大きな山の深くに存在しており、新幹線を降りて歩きで向かう途中だが、既に香燐の脚は何回も虫に刺されて腫れていた。 「ハイヒールはミスだわ、山ん中でこんなん無いわ」 見ているのが猫鈴猫だけだからと、香燐はボリボリはしたなく脚を掻きながら歩く。 「やっぱり早起きはするもんね、判断力低下するし、あんたが予測してくれてもよかったんじゃない?」 「お姉さまがダメダメになっちゃうからダメ、依存は嬉しいけど、されるよりする方向で私は行くから」 「今よりダメになると生きてけないかもなー」 なんて言ってる間に二人は基地に到着するなり、なにやら騒がしい様子に気が付いた。 「宇宙人と仲良しこよしだなんて、取材に応じてください」 「そんなに甘いから先の戦いで不覚を取ったんじゃないのか!!」 「いやはや、いやはや、全くもってその通り!会見の予定はあるんですか!」 既に数百人もの香燐の同業者が詰め掛けていて、基地前は凄まじい騒ぎになっていたのだ。 「うわぁ、だるい、人混みって苦手なのよね」 香燐は思わず口に出してしまったが、騒音の渦中にいては愚痴程度なら誰にも聞こえまい、超高性能のロボットでもない限りは。 逆に基地内は、誰もいないのではないかと疑ってしまうくらい静まりかえっていて何だか気味が悪い。 「苦手なら帰ろう」 「え?運賃馬鹿にならなかったのよ!?」 「いいから!」 ぐえ〜。凄まじいパワーで襟首を引っ張られた香燐は、潰されたカエルみたいな声を漏らす。 やっぱりロボットと人間じゃ力が違う、下手に抵抗して怪我をしたくないので、香燐は大人しく引き摺られることにした。 「ここまで来れば、安全率100パーセント」 たった五分で数キロ先の港まで香燐を引きずってくると、猫鈴猫は襟首から手を離す。 「飯の種を摘み取っちゃって、私を飢え死にさせるつもり!?」 「爆死よりは良いよ、死体は残るから」 は?なにを言って...香燐が言いかけたのを、天を裂くような爆発音が遮った。 「まさか爆発したのって、あの基地?」 「静かすぎて怪しかったから調べたら、基地内に生命反応は無かった。あったのは一体の宇宙人反応だけ」 「それじゃあ防衛軍の人たちは殺された? なんで言わなかったのよ、少なくともあそこにいた記者たちは死なずに済んだかもしれないのよ?」 見たわけじゃないから、死んだかは確定していないにしろ、危険な状況だったことには変わりないはずだ。 「お姉さまに伝えてもらっても、彼らが信用する可能性は0%だった。私が現れて伝えても質問責めによるタイムアップで巻き込まれる確率は70%、これでお姉さまを死なせるのは馬鹿馬鹿しくて」 人が死んだのに馬鹿馬鹿しいとは、この価値観の違いは、他の星から来たからなのか機械だからなのか。 「ぐっ...責めてこれ以上の被害者を出さないよう、防衛軍には伝えましょう」 「飽くまでお姉さまを守るために私はいるので、地球人類のためにと回収される可能性が高い」 「協力してくれないと死ぬからね、はい、あなたは私をまもれませんでした!!」 香燐は舌を出して噛み切ろうとする素振りを見せる、産まれたての子牛みたいに震えながら。 「臆病なくせに」 「そうよ臆病よ、怖いから死にたくないわよ!だから死なせないで!!」 「お姉さまが死んだら油の涙で地球沈没は免れないし、それよりは何だってマシだもんね、渋々だけど命令承りました」 「ありがとう猫鈴猫!!」 「そうと決まれば...」 うみゃうみゃうみゃうゃうや。奇怪な音を鳴らしながら、猫鈴猫は防衛軍本部へ電波信号を送信した。 自身が怪鳥を倒した者だと名乗り、西日本基地に保護された宇宙人は侵略者だと伝える内容となっているが、果たして防衛軍は信用するだろうか。 c. 「ははははっ、うまくいったぞ」 三体のルナチク星人は瓦礫と焦げた死体のみが横たわる焼け野原で、体を大きく揺らしていた。 「笑ってられるのも今のうちだよ!」 「まさかこの爆発に耐えられるものがいたとはな、随分幼いが防衛軍の隊員のガキか?ならば親の後を追わせてやろう!!」 勇敢にもルナチク星人達の目の前に飛び出してきたのは猫鈴猫だったが、彼らは彼女が人間でないことには気づいていない様子。 人間と変わらぬ容姿に白いロリィタ服まで着ているので、外見だけでは先ず分からなくても仕方がない。 それななのにルナチク星人のリーダーは、容赦なく黄色く輝く光の弾を猫鈴猫に対して発射した。 「あっぶないな〜!」 猫鈴猫はちょこまかと光の弾を避けつつ、数百メートル先へとジャンプして姿を消した。 「これは一体どうしたことだ、通信の内容は本当だったのか?」 「... 」 新鷹参謀と武装した部下数十名が、この西日本基地にやってきた。その目は完全にルナチク星人を疑っている、これはマズイと思った彼らは弁明を始めた。 「あの爆発は我々に罪を被せた者が、地球にまで攻めてきたのです、ここでも更に濡れ衣を着せようと! わたしたちは怖い、本部なら十分な装備があるはず、そこで保護してほしい!」 「へぇ、次は本部を爆破するつもり?」 「なんだとぉ!?」 翻訳機を通して必死に訴えるルナチク星人のリーダーだったが、それが嘘である証拠を持つ人物が、幼い少女と手を繋いで現れた。 その名は桃井 香燐!新米新聞記者である!! 「さっきの光景はしっかり動画撮影しておいたわ、めっちゃ動くけど動かぬ証拠よ」 「二匹も潜んでいたのか〜」 証拠はおさえられ、隠滅のために破壊したならば、攻撃能力を持つ宇宙人だとバレてしまうし、すぐには上手い理由を考えられない。詰みだ。 「やはり貴様らは侵略者なのか!?」 「夜になっているじゃないか、なあ、夜だ、夜だああああ」 そう言われて初めて、人間たちは夜が来ていたことを意識した。太陽光でエネルギー補充する猫鈴猫も、夜は人と価値のちがう時間ではあるが、日中に補充は済ませていたので、言われるまでは意識しなかった。 「おい、質問に答えろ!」 「夜になったからどうだってのよ...きゃっ!?」 追い詰められているというのに勝ち誇っていた、三体のルナチク星人が激しく発光し始めた。新鷹参謀とその部下、そして香燐はあまりの眩しさに目が開けない。 「お姉さまっ、このぉ...!!」 「夜が訪れた私は無敵なのだ」 猫鈴猫のバルカン連射をも物ともせず、二体のルナチク星人はリーダー格の体に重なり、身長60メートルもの巨大ルナチク星人が誕生したのであった。 つづく
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ワタル
編集長さん、お姉様呼びの意味をご存じでない!?いいんです、これから百合になればいい。ルナチク星人やっぱり敵でしたか。母星を爆破し地球を乗っ取る算段なのか。スーパー○ン2とかD○Zとか、滅んだ星出身の三悪人はお約束ですよね!
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ワタル
2021年6月27日 21時16分
百合豚怪獣キマシラス
2021年6月28日 3時33分
編集長そんなだから... 百合ならざるもの、いつか百合になるもの 友好的な態度の宇宙人実は敵のパターン結構ありますからね、気をつけなきゃ。結構なスケール それらと比べたらさすがにw
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百合豚怪獣キマシラス
2021年6月28日 3時33分
方舟みちる
ルナチク星人やっぱり黒でしたか。猫鈴猫ちゃんと香燐さんの見事な連帯で追い詰めたかと思いきや…。香燐さんが編集長の電話越しの言葉で飛び起きるシーン笑いました。猫鈴猫ちゃんのセリフに対し、編集長がお姉さまなのに彼女なのか…と困惑するところも好きです。
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方舟みちる
2021年6月22日 12時28分
百合豚怪獣キマシラス
2021年6月22日 16時36分
コメントポイントありがとうございます! 真っ黒ですね〜 編集長も怖いですから、しかしそんな人もたじろぐ百合パワー(???)です。ありがとうございます
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百合豚怪獣キマシラス
2021年6月22日 16時36分
方舟みちる
ビビッと
300pt
2021年6月22日 12時20分
《「お姉さまが死んだら油の涙で地球沈没は免れないし、それよりは何だってマシだもんね、渋々だけど命令承りました」》にビビッとしました!
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方舟みちる
2021年6月22日 12時20分
百合豚怪獣キマシラス
2021年6月22日 16時35分
油だと...
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百合豚怪獣キマシラス
2021年6月22日 16時35分
方舟みちる
ビビッと
300pt
2021年6月22日 12時18分
《「お姉さまに伝えてもらっても、彼らが信用する可能性は0%だった。私が現れて伝えても質問責めによるタイムアップで巻き込まれる確率は70%、これでお姉さまを死なせるのは馬鹿馬鹿しくて」》にビビッとしました!
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方舟みちる
2021年6月22日 12時18分
百合豚怪獣キマシラス
2021年6月22日 16時34分
お姉様第一?
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百合豚怪獣キマシラス
2021年6月22日 16時34分
方舟みちる
ビビッと
300pt
2021年6月22日 12時12分
《「御名答です、香燐お姉さまの彼女です、お姉さまなら私の隣で寝てます」》にビビッとしました!
※ 注意!このコメントには
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方舟みちる
2021年6月22日 12時12分
百合豚怪獣キマシラス
2021年6月22日 16時34分
彼女を勝手に名乗るな〜
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百合豚怪獣キマシラス
2021年6月22日 16時34分
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