実は女だと言い出せない

読了目安時間:3分

拙い文章ですが、読んで頂けたら幸いです。

男装の少女

 昼下がりの街中、綺麗に舗装され整えられた石畳の広い道。  馬車の行きかう広い大通りは両脇に沢山の洒落た店が立ち並び、様々な目的をもって行きかう人々で賑わい、喧噪に満ちていた。  人波をかき分け、肩で息をして小柄な少女が町中を走り抜ける。人とぶつかりそうになり時折迷惑そうな眼差しを向けられながら、それでも人通りの多い道を選んで少女は走り抜けた。  後ろから自分を追いかけて来ているであろう足音が距離を縮めて近づいてくる。  長いスカートの裾が足に絡みつく。  このままだと追い付かれる。  人混みの中、自分の姿を見失ってくれることを祈りながら、走りながら助けてくれそうな人はいないか、逃げ込めそうなところはないか、探す。  人は沢山いるのに、皆自分の進む方向を見ていて少女に声を掛けるどころか目もくれない。     人通りの途切れて見える大きな建物の角、地面から膝程の高さで小さな小さな白い手がおいでおいでと手招きをする。  小さな手に招かれるまま勢いよくその曲がり、すぐ脇にある路地裏に飛び込んでしばらく走り、一息を着いた。 「はぁっ……、はぁ……っ!」  雑然とした大通りとは打って変わって人影もなく、辺りには少女の荒い息の他に、音はない。  肩で息をしながら少女が腰を折り、膝に両手を付いて恐る恐る後ろを振り返る。  珠のような汗が額から吹き出し、頬を伝った。背まで伸びた緩い癖を持つ淡い亜麻色の髪が頬に張り付くのを掻き上げ、払う。  逃げ切れただろうか。  路地に入り込み建物に反響した足音が、ばたばたと大きく響くように聞こえ、少女が膝に付いていた両手を離すと同時に走り出す。 「いたぞっ! そこだ!」 「捕まえろ!」 (しつこい……!)  足を止めるわけにはいかない。  男たちに捕まったら、娼館に売られる。  町で仕事を探している所を、親切に声を掛けられ、仕事をくれると誘われ付いて行ってしまった。  だが、男たちは人攫い。あちこちで同じように仕事を探す少女たちに声を掛けて騙しては攫い、攫った少女たちを商品のように娼館にいくらで売るだの売っただの、密談しているのを小耳に挟み隙を見て逃げ出したのだ。  男たちの口振りから、自分が人としてではなく商品として扱われることが伺われ、怖かった。  走りながら、細い路地に立ち並ぶ家の裏口に目を走らせる。  大通りと違って、人影はない。 「誰か……!」  少女の口から、縋るようにか細く掠れる声が零れた。  がた、がたん……っ!  後ろから何か大きなものがひっくり返るような騒がしい音がして、男たちの慌てふためく怒声が聞こえ後ろに遠ざかる。だが、振り返って確認する余裕はない。  少女が、今まさに家の扉の中に入ろうとしている一人の老婆を見つけた。  その姿に、少女が亡くなったばかりの祖母の姿を重ねる。 (ばあちゃん) 「待って!」  うっと泣きそうに顔を引き攣らせた少女が、家に入ろうとした老婆に声を掛けて駆け寄った。 「あのっ! すみません。追われているんです! 少しだけ隠してもらえませんか? すぐに、すぐに出ていくので……」  汗だくになり息を切らせ、淡い翠の瞳を涙で潤ませ、今にも泣き出しそうに声を震わせた少女を老婆は驚いたように見つめて、何も言わずにその背を押して家の中へと招き入れた。  老婆の家の裏口から入った少女は、すぐに小さな戸棚の中に体を隠され、息を潜めて男たちをやり過ごした。  やがて、少女を探す男たちの声が遠のくと、老婆は少女を戸棚から出して水と少しの食べ物を振舞った。 「ごめんね、このくらいしかしてあげられないけど。まだ小さいわよね。貴方、いくつなの?」 「ありがとうございます。シルヴィと言います。十三です。助かりました。あの……、助けて頂いた上に図々しいお願いですが、もし男物の服で私が着られるようなものがあったら、今着ている服を交換して頂けないですか? あと……」  明るかった空が赤く夕日に染まる頃。  大きな町の小さな路地裏で、立ち並ぶ一軒の家の裏口から周囲の様子を注意深く窺いながら出て来た小柄な少年が、襟足で短く切りそろえられた亜麻色の髪を隠すように深く帽子を被る。  長かった髪をばっさりと切り落とし男装したシルヴィは、裏口に立ち見送る老婆に、何度も深々と頭を下げて礼を述べた。

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  • ミミズクさん

    羽山一明

    ♡1,000pt 〇100pt 2021年5月3日 3時49分

    現代日本においては対岸の火事、異世界でのお話ですが、世界各国ではいまだ普遍的にこういったことが行われていることを考えると、綺麗な女の子に生まれるのも考えものですね。ナイフで顔を自傷することで自衛する例もありますが、この子にはできるだけ平穏に生きて欲しい…!

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    羽山一明

    2021年5月3日 3時49分

    ミミズクさん
  • 女魔法使い

    香菜

    2021年5月3日 18時35分

    羽山一明様、目に留めてくださり、沢山のポイントを有難うございますm(__)m そうですね、日本を一歩外へ出ると仕事を探す若い女の子は格好の的なのでしょうね……。追われているシルヴィに、平穏に生きて欲しいと温かなコメントをいただけてとっても嬉しいです! 

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    香菜

    2021年5月3日 18時35分

    女魔法使い
  • ひよこ剣士

    ますこ

    ♡300pt 〇10pt 2021年5月22日 0時03分

    もう、先が気になります!すっと物語に入れました☺️✨少しずつ読ませていただきます😆🎶楽しみです。

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    ますこ

    2021年5月22日 0時03分

    ひよこ剣士
  • 女魔法使い

    香菜

    2021年5月22日 23時11分

    ますこさん、わぁ! ノベラポイントまで恐縮です! そして貴重なお時間を割いて読んでくださって有難うございますm(__)m 文章も本当に拙く、未熟ですので、先が気になると言っていただけるだけで本当に幸せです( ;∀;) 

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    香菜

    2021年5月22日 23時11分

    女魔法使い
  • 化学部部長

    みらいつりびと

    ♡3,000pt 2021年3月13日 12時38分

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    応援しています

    みらいつりびと

    2021年3月13日 12時38分

    化学部部長
  • 女魔法使い

    香菜

    2021年3月13日 20時17分

    みらいつりびと様、スタンプと沢山の貴重なポイントを有難うございます! 応援のメッセージをいただけて、とても嬉しいです。いただいたお言葉を励みに頑張ります……m(__)m!

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    香菜

    2021年3月13日 20時17分

    女魔法使い
  • 燃え尽き先生

    Xraudia Japan(大和奏時)

    ♡500pt 2021年4月6日 1時28分

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    こういうのを待っていた

    Xraudia Japan(大和奏時)

    2021年4月6日 1時28分

    燃え尽き先生
  • 女魔法使い

    香菜

    2021年4月6日 18時55分

    Xraudia Japan(大和奏時)様、沢山あるお話の中から目に留めてくださり、読んでいただき有難うございます! とても嬉しい応援スタンプに貴重なポイント、ブックマークも有難うございましたm(__)m

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    香菜

    2021年4月6日 18時55分

    女魔法使い
  • 文豪猫

    松本佳純

    ♡500pt 2020年10月27日 7時52分

    きのう焼きおにぎりを読ませていただいたものです! 文章の呼吸が合うので読んでいて楽しいです(o^^o)かなり亀になりますがこちらも読んでいきたいな〜と思いました。この後どうなるのか気になります……!

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    松本佳純

    2020年10月27日 7時52分

    文豪猫
  • 女魔法使い

    香菜

    2020年10月27日 18時52分

    1104! 様、ブックマーク&目に留めて頂いてありがとうございます! 文章の呼吸が合うと言って頂けて光栄です。またそちらにもお邪魔させて頂けたらと思います

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    香菜

    2020年10月27日 18時52分

    女魔法使い

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