登場人物紹介 中原裕也(ゆうにい)  恋愛をしたことがない大学生。自他ともに認めるロリコン。春川と云う名前でウェブ小説を書いている。才能が溢れるロリコン。誰が何と言おうがロリコン。 藤沢由華(ゆか)  恋愛に全く興味がなかった女子高校生。藤之華と云う名前でウェブ小説を投げている。ネットで「乱歩の人」認定をされつつある。裕也の事を「ゆうにい」と呼ぶ

初逢引は浅草で

 春川さんと付き合う事になってはや1ヶ月。  明日、はじめて逢引(デート)する事になった。  私も彼も夏休みに入り、時間が合うようになったのだ。  私は夏休み入って直ぐに企画されている妖怪作家の講演会に当たった。  彼も偶々(たまたま)その日が空いていて、会おうと言うことになった。 『明日、上野駅に集合ね』 『了解です!』  はぁ……。私はため息を着いた。  何気ない会話かもしれないが、話してみるとまだ駄目なのだ。心臓が破裂する程緊張する。  いくら1ヶ月以上経つとはいえ、いくら前に会ったとはいえどもまだ緊張はするし、この緊張は慣れるものではない。  この前彼にラインで飯テロしたときに食べたいと言っていた水羊羹を買って、袋に詰めバッグに入れる。 「はしゃいで迷惑を掛けない、時間にはちゃんと着く、服は裏と表を間違えない。携帯は充電を100%に……」  明日の注意を心の中で復唱する。 「寝られるのかな。これ」  そう呟きながらも爆睡した。  .。.:*♡.。.:*♡.。.:*♡  上野駅に着く。 『改札口の外に居るよ』と彼。 『私も改札口の外です』 『あれ?私は案内所のところだけれど』 『あ、向かいに居ます、今行きますね』  彼はすぐ目の前に居るそうだ。  ふぁ。心臓が五月蝿(うるさ)い。  太鼓の様に波打つことなどしないで、図書館で過ごす時のようにゆっくり静かに優しく動いて欲しいと何度も願った。  向かい側に居る春川さんを探す。  顔は文フリの時に会ったので覚えてはいる。  眼鏡の優しそうな好男子と目があった。  彼は私を見ると、大きく手を振った。  彼だ。  彼が春川さんだ。 「えっと。その、はじめまして、じゃない。春川こと、中原裕也(なかはらゆうや)です。えっと。ふ、藤之華さんで良いですか」  彼は「とりあえず、身分証明書をば」と言いながら学生証を見せる。 「えっと、あ、はい。藤之華です」と、とりあえず私も学生証を見せる。 「えっと……藤沢由華(ふじさわゆか)さん?」 「よ、宜しくお願いします」  非常にたどたどしいが、心臓が破裂せずになんとか自己紹介が終わる。 「そうだ。これ」  彼は青いビニール袋を手渡してくれた。 「見ても良いですか」 「好きかは解らないけれど、どうかな?」  私はゆっくりと袋を開いた。  本だ。  書店のカバーがかかった2冊の文庫本が入っていた。  すっと丁寧に開いて題名を確認する。 『アステリズムに花束を』だ。  これは私が買おうと思っていた百合SFだった。  ただひたすらに嬉しくて、何も言えずに少しぴょんぴょんと跳ねながら、彼の目を見つめた。  突然の最高のプレゼントに、気分が上がり過ぎてしまう。  そしてもう1冊は『幼年期の終わり』だ。  SFにはあまり詳しくない私でも知っているほどの名作の中の名作。  しかし読もう読もうと思ったままで、まだ読めていないのが正直なところだった。  その為、これを機に読もうと決意した。  先程までの迷惑の無い様に、あまりはしゃぎ過ぎないように、と思っていたのはどこへやら。  既にはしゃぎまくっている。 「えっとなんて呼べば良いのかな」 「何でも良いですよ」 「じゃあ、ゆかちゃんで」 「私はなんて呼べば良いですか」 「私は何でも良いよ」  私は彼が『ロリコン』と皆に呼ばれているので少し悪戯をしてみたくなっていた。 「にいに?」  小さく呟いてみる。彼をちらりと見る。 「にいに呼び堪らん……」  彼がボソリとニヤけていた。彼はにやける口元を腕で必死に隠している。  そして私は調子に乗った(わるふざけをした)。 「ゆうにい!」 「は、ひゃい!」  あ、うん。はい、もう何も言うまい(これは完璧なロリコン)。  しかし、私も呼びやすいので彼をこれから『ゆうにい』と呼ぶ事を密かに確定させたのであった。 「そう言えばこれからどうしますか」 「どうしようか」  彼は髪を掻きながら目線をずらす。 「浅草に行ってみようか」 「ええ。是非」  と言う事で浅草に行く事になった。  上野駅から浅草線のホームへ向かう。 「えっと、浅草線の乗り場が……」  彼がスマホとにらめっこをする。 「こっちかな」  そう言って彼は張り切って浅草線のホーム入口を素通りした。 「あの、ゆ、ゆうにい」  私は静かにホーム入口を指差す。 「完全に素通りしてた」  私は彼の可愛さに自然と笑みが溢れる。 「うるさい」  と照れるところも可愛かった。  浅草に着いてやることと言えば、浅草寺への参拝。  私たちも浅草寺に向かった。 「浅草寺の雷門って、パラソニックの社長が腰痛を治してくれって参拝したら本当に治ったので、お礼にと建てたのですよ」  また始まった。私の社寺仏閣蘊蓄(う  ん  ち  く)。  私はお寺に来れたことでテンションが上がっているし話すネタもない。  許して欲しい。 「浅草寺に祭られている観音様。実際は5.5cmくらいなのですよ」 「こんなに大きいのに」 「見てはいけない決まりなので、記録を元にするしかないのですけどね」  仲見世通りを抜け、本堂のに参拝する。  参拝後におみくじを引く流れになった。 「一斉ので結果見よう」 「ええ」 「良いかな。一斉の」  二人しておみくじを開く。 「やった! ゆうにい、大吉です」 「えっと、俺は……」  彼は一瞬固まった。 「は、凶かよ」  そう、彼が引いたのは間違いなく『凶』だった。 「だ、大丈夫です。浅草寺は今では珍しい、凶3割を守っているお寺なので」 「由華ちゃん、それ慰めになってない」 「え、じゃ、じゃあ、何て書いてあるのですか」 「よ、読むよ。旅行やめた方が良いでしょう。結婚、付き合い全て悪いでしょう。待ち人は来ないでしょう。えっ、」 「これは、これは」  私は堪えきれず笑ってしまう。 「おみくじ信じない」  キリッと言い放つ彼を見て、また笑ってしまった。 「凶のおみくじは結ぶのです。悪縁をここに置いていき、良縁を持ち帰る為ですよ。だから良いおみくじは結ばないのです」 「じゃあ、結ぶ」 「あ、そこに結ぶところがありますよ」  私は御籤(おみくじ)を結ぶみくじ掛けの場所を示す。 「全然綺麗に結べてないじゃん。ここは俺が1番綺麗に」  彼はおみくじを結ぼうと格闘していた。  反抗期なのか紙は彼の意に反する動きをする。  ビリッと不穏な音がした。  彼は結んだときに紙を破いてしまったのだ。  どうしても、堪え切れなくてまた笑いが溢れてしまった。 「さっきまで1番綺麗にとか言っていたのに」 「む、結べたから良いの」  参拝を終え本堂を降りる。  しかし、ここは浅草寺。  もう1つ参拝しなければならないところがある。  そう、浅草神社(あさくさじんじゃ)だ。  浅草神社(あさくさじんじゃ)浅草寺(せんそうじ)と深い縁がある。  浅草寺で祭られている観音様は川で漁をしていたとある兄弟に引き上げられた。  その兄弟が毎日観音様を拝んだところ、家業が繁栄した為それにあやかろうとした人々が増えた。  その結果、浅草寺ができた。  浅草神社はその兄弟を祭った神社なのだ。  また夫婦狛犬と云った、恋愛成就、良縁などにご利益あるとされているものがある。  そう言って軽く説明をして参拝する。  参拝をし終えたころにはお昼になっていた。  「隅田公園行こう」そう彼が言ったので、私は彼に着いていく。  すると途中に猫が居た。  そう、猫ちゃんだ。  にゃんこが木の隙間から物珍しそうにこちらを覗いていた。  なんだ、この可愛い生き物は。 「にゃー(この近くの猫かい)」 「にゃー(とーぜんにゃ)」 「にゃにゃー(こっちへおいで)」 「にゃ?(なんでにゃ)」 「にゃーにゃにゃ(私が君を撫でたい)」 「にゃっ(仕方ないにゃ)」 「にゃーにゃーにゃにゃ(もふもふしても)?」 「にゃにゃ(好きにしろ)」  そう言って猫は私に近づくと撫でさせてくれた。  毛並みがもふもふしている。  可愛い。  なでなでしていると、眠そうにあくびをする。  かわいい(かわいい)。  すりすりした後「にゃ(これで満足か人間)」と言ってくる。  カワイイ(萌え死ぬ)。  私は後にも先にも猫より可愛いものを見たことがなかった。  何を隠そう私は猫が大好きなのだ。  彼らほど神に愛されている生き物はいないと思っている。  猫は兎にも角にも可愛いのだ(地上に降り立った天使なのだ)。 「ゆうにい。ごめんなさい。猫が居たのでもふもふしてしまいました」 「あ、うん、大丈夫だよ」  そう言いつつも、全く目を合わせてくれない。  とは言え「目を合わせて下さい」というのも恥ずかしい。  私はじっと彼を見る。  彼はチラリとこちらを見ると、手で口元を覆い、直ぐに目を逸らす。  むむ、何故だ。こっちを見てくれない。  猫を触ったから手が汚れているからか。  そう思い、手をよく洗う。  しかしにやけるばかりで、猫に会ってからと云うものほとんど目を合わせてくれない。  違うところを見ればチラチラ見るのに。どうして?  全く視線が合わないまま隅田公園に着く。  しばらく歩くと『牛嶋神社』が鎮座していた。  境内には狛犬ならぬ狛牛が居る珍しい神社だ。  スカイツリーの氏神様であり、撫で牛も居る。  しかし何より驚いたのは三ツ鳥居があったことだ。  三峯神社の鳥居が三つ並んだ三ツ鳥居は有名だが、東京にこんなにも立派な三ツ鳥居があるとは感無量であった。  参拝を再びする。 「ねぇ、リベンジしてもいい」  ゆうにいはそう言うとおみくじを引く。  何故、恋御籤なのかは置いといて、私も同じおみくじを引く。 「やった」  と彼ははしゃいだ。  大吉だった様だ。  不覚にも可愛いと思ってしまった、が嬉しそうな彼を見ているとこちらまで笑顔になってしまう。  やっと話して下さるようになったので公園のベンチに座る。  他愛のない話でもしたいところだが、如何せん殿方と逢引するのは初めてなのだ。  何を話せば良いのか全く分からない。  男友達とは訳が違う。  チラチラと彼を見るが全く話せない。    時間だけが過ぎる。 「あ、そうだ」  彼が沈黙を破ったと思ったら、手が温かく包まれた。 「ほら、この前手をつなぐって言ったでしょう」  ただでさえ暑い日本の夏なのに、いつもに増して暑い。  きっと、風が止んだからだ。  誰が何と言おうとそう思い込む。  それでも顔が暑くなるのは嫌でも判った。  太鼓の様に(せわ)しく耳障りなほど五月蠅い心臓は、あれほど嫌になるほど耳に入ってくる蝉の命させえかき消した。  何を如何すれば良いか解らず、彼の眼を見つめた。  が、直ぐに目を背けてしまう。  恥ずかしい……  彼がふと時計を見ると講談社へと向かう予定時刻の30分過ぎていた。  講演会の時間が迫ってきている。  今から急いで向かえばギリギリだがどうにかなる。  私たちは急いで電車に乗った。  何とか無事、講談社ビルに着く。 「それじゃあ。また」 「はい、明日もよろしくお願いします」  時間ぎりぎり、別れの挨拶もままならないまま講演会の会場に私は向かった。

こひすれば わが身は陰に なりにけり    さりとて人に 添わぬものゆへ        (恋御籤 詠み人知らず)

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